宦官情話

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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19) 二つの花

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私はこれからシャワーを浴びて
スーパーに惣菜を買いに行きます

私自身、占うことに危険を感じて
占い師を辞めようと思っているの

ザカリアンガードはまあまあ当たる
当たるように言っているだけですが
でも、悪魔的な力が
働いているのかもしれない

今はとても苦しくて
逃げるしかありません

あなたは今をもっと大切に生きて

ご主人はあなたと別れることを
望んでいないみたいですよ

ご主人があなたの安住の地だと
カードには出でいるのですが
定かではないカードなどを信じて
自分の人生を懸けないでください
もっと大切に生きて


占い師は溜め息の合間にカードを開いたり伏せたりしていたが、一枚のカードが床に落ちているのに気づいた。


あら、これは片目のカード

罪を犯す、罪を見逃す、罪に更ける
道に迷う、処罰を受ける

何か他のカードと組み合わせなければ
本当の意味はわからないけど

もしもこの契約結婚で
隠れた恋愛を諦めることができるのなら
片目をつぶって応援しますよ


占い師はカードを伏せた。



★★★★★★★★★★



清正の旅荷物の中に不思議な手鏡がある。日に掲げると歌が読める。清正は、恵遼天皇からその手鏡を拝領してから、もう何度も日に掲げて眺めた。



我が道に
えうずべきなりし
汝ねをこそ
天理の慈雨と
思い為すなり



清正の妹祝淑シュクシュクは、この手鏡を持つ清正の姿を見て訝った。



「何をしているの。ふふ、兄貴ったら、自分の美しさに惚れ惚れしているの」



顔色を変えた清正に、祝淑はぺろりと舌をだしてから「帝姫様」と言い直す。



「私は自分を見ていたのではない。これは天皇から頂いた鏡なのだ。ここに来て、一緒に見てみるか」



清正は、手鏡の文字を祝淑にも見えるように向ける。



「以前に即興で歌舞を楽しんでおった。よもや天皇が隠れてご覧くださるとは思わずに、あの日も林の奥で。これは、返歌の手鏡だよ」



わたつうみは うらうらとして
満目まんもくに静まりたり

真砂の浜にも
けざやかに
御代の寧安

見しや 
砂一粒も
奇しきものなれば

さしも尊き理に
触れたることの
いかばかりかは 
むがしき

いとはしきやし  
この時ぞ



これが、即興で作った歌だ。清正は、その歌がサナゼン高級祇廊の出し物になっているとは知らずに微笑む。


祝淑シュクシュクは、以前世話になっていたサナゼンを思い出した。



「私が兄貴と同じように歌と舞が好きであったなら、サナゼンでも上手くやれたかもしれない。あそこは芸術には厳しいのだ」



長く使っていると蛇琴じゃきんの弦は切れることもある。一流の祇援になると、その弦が痩せるのを見極める指先を持つようになる。



「サナゼンの芸術を演って、私にこっそり見せてくれまいか」



紅殻色の地紋に肩から藤の花の流れる打ち掛けが清正で、黒地の矢絣に花車と白鳥の打ち掛けが祝淑だ。



「そうだな。私は若衆として世話になっていたから表にはなかなか。練習してるのを見たことがあるだけだ」

「そうか。覚えていないのか」

「私が覚えていたとて、やめたほうが良い。兄貴の尊い歌とちがい、あそこは男女の睦事などを歌にしたものが多いから」



清正は赤くなった。



「そのような歌もあるのか……ど、どのような感じなのか」

「ははは。もう忘れたからサナゼンに使いを遣ろうか」

「天皇に知られたら」

「では、天皇に相談してみようか。兄貴は言いにくいだろうから私から願い出でてみよう。まさか愛しい清正にこんなにそっくりな妹を殺しはしまい」



打ち掛け姿の美しい双子は、二卵性とは言え、遠目には天皇でさえ見分けが付かない。きっぱりとした言動が妹の祝淑で、清正はどちらかと言うと儚げである。



「殺すなどと。お前を殺しても意味なきこと」



楽しげな二人の笑い声が、帝姫宮の爽やかな空気となる。この時、二人の行く手に死の匂いなど微塵もなかった。



「ところで、旅の準備はできたのか。その手鏡も……」



遠くから宦官の声が聞こえる。



「天皇の御成おなりぃぃ」



二人の顔が輝く。



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