タイトルのない小説

TKG涙

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タイトルのない小説

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キャラクター紹介


「優菜ー!ご飯よー!」
「はーい」
私の名前は真城 優菜(ましろ ゆうな)
城宮中学の2年生
最近小説を読むのにハマっていて
家にある書斎の本を片っ端から読んでいっている。
「お父さん、また書斎から本借りていい?」
「ああ、もちろんいいよ」
「優菜、最近よく本を読むわね~」
「えへへ♪最近ハマっちゃって」
「本を読むことはいい事だぞ~」
「(読んでいるのは小説なんだけどね)」
夕飯を終え私は書斎へ向かった
「えーと、これとこれとこれ……とりあえず3冊ぐらい借りよう」
「今回の本はどんな話か楽しみだな~」
書斎を後にし自分の部屋に戻った
「ふんふん……ほー………へー」
「ふむふむ………ふーん…はー…」
「…ふむ……ん……」
「……眠たくなってきちゃった…」
「いつもだったら1冊は読んでから眠たくなるのに…」
「……んー……寝ちゃおう…。」
そうして私は眠りについた

「んー…」
「えっ?」
「……あれ!?」
私は、家のベッドではなく見知らぬベッドで目が覚めた
部屋を見渡してみると西洋の御屋敷のようなだった
「ここ…どこ…?なんで…こんなところに?」
「お目覚めですか?」
「きゃ!?!」
気がつくと黒いスーツを着た
使用人?みたいな人が傍に立っていた
「あなた…誰ですか?」
「ワタクシは『シツジ』と申します」
「えっと……名前は?…」
「名前が『シツジ』でございます」
「………。」
名前がシツジなんて…ちょっと変わった人だな…なんて思っている暇もなく
「あの!ここはどこなんですか!?
なんで私ここにいるんですか!?」
「ここはレーヴの館と言うところです
何故アナタ様がここにいるかは…
『運命』…というものですかね」
クスクスとシツジは笑いながら話す
「ふざけないでください!私帰りたいんです!」
「フフフ…それは出来ません そういう『運命』なので」
運命 運命……この人が言っていることが
私には理解が出来なかった
「じゃあ…どうすれば帰れるんですか…」
「どうすれば……それは簡単なことです」
「アナタ様にはこの館にいる方全員の名前を当てていただきたいのです」
「名前…?」
「ちなみにワタクシの『シツジ』と言うのは仮の名前です なのでワタクシの名前もちゃんと当ててくださいね♪」
「そ、そんなこと…いきなり言われても…」
「時間は沢山ありますので焦らずとも大丈夫ですよ」
「衣食住には困らないようにコチラでサポートさせていただきますのでご安心を」
「はぁ……。」
突然の事に頭が追いつかない…
ボッーとしている私を見てシツジは
「では、ワタクシはこれで失礼します
なにかお困りのことがあればお声掛けください」
と、言い残し部屋を出ていった
「………。」
「うそ……だよね?」
「夢……だよね?」
私はそうであってほしい気持ちを吐き出すように呟いた
「夢……夢なら…もう一度…眠れば」
そうして私はまた眠りに落ちた

「……い」
「……おい……」
「おい!!!そろそろ起きろ!!」
「うわぁぁぁ!?!」
突然の大声に飛び起きた私の前には
片目を閉じた2人の少年がいた
「アッチ…うるさい……。」
「だってよコッチ~、こいつ全然起きねぇんだもん」
私が驚いてるのを余所に少年2人は話し始める
「新人が来たから見に来たのに寝てるし…これでも俺はちゃんと待ってたんだからな!」
「まぁ、10分程度だけどな」
「それでも俺にしては充分待った!」
「はいはい」
「あ、あの……」
突然の来訪者に驚きつつも私は…
「あなた達は……ここの住人?」
「あぁ、そうだ!
俺は『アッチ』!こっちにいるのが『コッチ』!」
「…勝手に自己紹介されたんだが…
まぁ……俺は『コッチ』だ」
名前を聞く限りこの人たちも仮の名前を名乗っているんだろう…
「……夢じゃなかったんだ…」
ボソリと呟き俯いていると
「で?あんたの名前は?」
「え?」
「自己紹介したんだからあんたも名乗れよ」
「え、えと…私は…真城優菜」
「ふーん……なるほどなぁ…」
「そういうことだな……」
2人はお互いの顔を見合わせクスクスと笑っている

「あんた帰るには俺達の名前を当てなきゃいけないんだろ?」
「楽しみにしているな♪」
そうしてクスクスと笑いながら2人は部屋を出ていった
「………。」
「帰るためには名前を当てなきゃいけない……」
非現実的な状況に絶望をしそうになる…
……でも
「帰りたい…」
私はその気持ちで自分を奮い立たせここの住人の名前を探し始めることにした
「とりあえずこの館に何人の住人がいるか確認しないと…」
その言葉を呟き私は部屋を出た
部屋を出ると長い廊下が続いていた
とりあえず右に進んでみることにした
奥の方まで行くと階段があった
「上に登る階段がないから私の部屋は最上階にあるってことか…」
そんなことを考え周りを見ていると
廊下の壁に館の地図が貼ってあった
「まるでゲームみたいに親切に地図があるのね」
「えっと……一階には 玄関 食堂 キッチン 書庫 ホール 応接室 お風呂 … 
2階には 私や他の人の客室  倉庫  シツジの部屋… 」
「とりあえず何がどこにあるかは大体分かった」
「あと、客室の数を見る限りまだ、一人だけ会ってない人がいる」
「まずはその人を探さないと…」
私は階段を降りホールへに向かった

ホールは広々とした空間で奥には玄関がある
当然のごとく開いたりはしない
よく見ると鍵穴がないことに気がついた
「ここから出る事は無理って事ね…」
そうガックリと肩を落としていると
「おねえちゃんなにしてるの~?」
突然の声にビクッとする
「え?あっ…き、綺麗なドアだな~…って思って……」
咄嗟に私は誤魔化すように言葉を並べた
「きれい?ドアきれいなの?」
「う、うん!装飾品とかがキラキラしてるな~って!」
「そうしょくひん?マナにはわかんなーい」
と小さな少女は呟く
「(自分のことマナって呼んでいるけどこの子も仮の名前なのかな?)」
「おねえちゃんだれー?はじめましてー?」
「あ、えと…私の名前は真城優菜
あなたのお名前は?」
「マナ?マナはね~マナって言うんだよ~♪」
「そっかマナちゃんか」
「おねえちゃんよろしくね~♪」
「うん、よろしく」
「あ、そういえばそろそろごはんのじかんだ~!」
そう少女が呟くとボーンボーン…と時計がなった
「おねえちゃんもいっしょにいこう!」
「あ…う、うん」
少女に手を引かれ私は食堂に向かった
食堂につくと、シツジ、アッチ、コッチが既に来ていた
「おや、マナ様…優菜様も一緒に連れてきてくれたんですね」
「うん!マナえらいでしょ~?」
「はい、偉いですね」
「えへへ~♪」
「おい、さっさと飯出してくれよ」
「アッチ、行儀が悪いぞ」

「そうですね…では、マナ様、優菜様
空いている席に着いていてください
お食事を持ってきますので」
「はーい!」
「は、はい」
そう言い残すとシツジはキッチンの方に入っていった
私は空いている真ん中の席へ着いた
「みんなでごはん♪うれしいな~」
「飯なんて1人でも何人でも味は変わんねぇだろ」
「こら、アッチ空気を壊すな」
「皆様お待たせ致しました」
シツジは全員分の食事を持ってきた
「今日のメニューはビーフシチュー、サラダ、パン、ハンバーグとオレンジジュースでございます」
「わぁ……!」
出された食事は見た目から食欲をそそるぐらい綺麗で見とれてしまった
「いただきまーす♪」
手を合わせマナが食事を食べていく
隣のアッチとコッチも食事に手をつけていく
「い、いただきます…」
そう言って1口食べてみると
「…!お、美味しい!」
「フフっ、お口に合って良かったです♪」
「シツジのごはんはいつもおいしいよー♪」
「ありがとうございます」
「このくらい執事なんだから当然だろ」
「作ってもらっているんだぞアッチ」
そんな会話をしている中
私はふと、気になったことを口にしてしまった
「あの……アッチさん、右側に零れてますよ?」
アッチの机の上は他の人と比べて零したりして汚れていた
「なっ!?…んだよ!!なんか文句あるか!!!」
「ご、ごめんなさい!」
「アッチ……食事のマナーが悪いのはさすがにダメだぞ……」
「ぐっ……」
「全く……何度も教えているのに…」
コッチは肩を落としため息を吐く
「まぁまぁ、お二人共その辺に…」
「……っ……ごちそうさま」
アッチは突然立ち上がりドアの方に歩き出した
が、
「イデッ!?」
机に右足を引っ掛けコケてしまった
「あ、あの…大丈夫ですか?」
アッチは顔を真っ赤にさせ
「うるせぇぇぇーー!!!!!」
と、ものすごい勢いで走って出ていってしまった
「皆様、アッチ様はワタクシの方でどうにか致しますので、どうぞお食事の続きを楽しんでください」
そういうと、シツジはアッチが走っていった方へ行ってしまった

私は食事を終え館を探索してみることにした
1度ホールに戻ると
1台の黒電話がありその隣に朱色の髪の少年がいた
「あれ…?」
「あ、こんにちは僕はセーブ係だよ
だから僕の名前は探さなくていいからね?」
彼は私の考えていることを察したように話しかけてきた
「セーブする?」
「せ、セーブ?」
「セーブって言うのはもし君が死んでしまってもここからやり直すことが出来るんだよ」
「…私が……死ぬ?」
死んでもセーブしていれば同じ場所からやり直すことが出来る…
そんなゲームみたいな事が本当に起こるのだろうか?
「どうする?今セーブする?」
「……じゃあ…一応」
「うん、分かった」
彼は黒電話を取り
「はい、セーブ完了だよ」
と、ニコッと笑顔を向けてきた
「さ、ここから出るために頑張ってね」
そう手を振って私を見送った
 
「とりあえずなにか手がかりになるものを探さなくちゃ……」
私はまず、何かがありそうな書庫へと向かった


書庫には沢山の本があった
「あ、この小説私の家にあったのと同じやつだ!」
「これも…これも!……私が読んだことあるものばかり!」
少し興奮気味に本棚を探っていると
「ん?」
本の表紙にマナちゃんそっくりの子が描かれた本を見つけた
「これって……」
私はパラパラと本をめくっていった

『とあるお家に可愛いものが大好きな女の子がいました
女の子の名前は  ▼▼▼▼▼▼▼▼▼
今日もいつも通り可愛いものに囲まれています
ぬいぐるみ、ハート、ケーキ、リボン、ふわふわのクッション、ピンクのお洋服
どれも▼▼▼のお気に入りです。』
と、名前の部分が上から塗りつぶされてたりいくつかの続きのページが破られていた
「これだと名前がわからない…破られているページもあるし…」
「あれ?でも本の10分の9は全部白紙?」
少し疑問を感じながらも私は破られたベージを探すことにした
「他の本棚には無いかな…」
別の本棚を探していると1枚の紙切れが落ちてきた
「あっ、破れたページかな?」
その紙切れを拾うと
『ここにいる方が幸せなのか、帰る方が幸せなのか、わからない』
と謎のメモが書いてあった
「なに?これ…」
メモに書いてあった事を考えていると
ガチャ
突然書庫の部屋の扉が開いた
(誰か来たのかな?)
そう思い本棚の隙間から扉の方を見てみると
そこには…  

包丁を持った黒いフードを被った人が立っていた
「ひっ!?」

咄嗟に悲鳴をあげそうになった口を両手で塞ぐ
黒いフードの人物はキョロキョロと何かを探しているらしい
(に、逃げなきゃ!)
私は声を潜めゆっくり、ゆっくりと
隠れながらドアの方に向かっていった
黒いフードの人物はドアから離れた所にいる
今だ!!!
私は一気にドアから書庫を出て自分の部屋に逃げ込んだ
「はぁはぁはぁ……」
緊張が一気に解け私は床にへたり込む
「し、死ぬかと思った…」
私が息を整えていると
コンコン
と小さな扉をノックする音が聞こえた
「おねえちゃーん、あけてー!
おねがいがあるのー。」
声はマナちゃんなようだ
さっきの黒いフードの人物でないとわかった私はドアを開けた
「マナ…ちゃん?どうしたの?」
「あのね、マナのだいじなゆびわがどこかにいっちゃったの
だからいっしょにさがしてほしいの」
「指輪?」
「うん、あかいハートのほうせきがついたゆびわなの」
「そ、そっか…」
「みつけてくれたらアッチおにいちゃんとコッチおにいちゃんのおなまえのヒントあげるからおねがい…」
「えっ!ほんと!?」
「うん!ほんとうだよ」
「…わかったさがしてみるね」
「わーい!おねえちゃんありがとー!」
マナちゃんは嬉しそうにどこかに行ってしまった
「指輪を探しつつページも探すとして…書庫は危ないから今は行かない方がいいし……」
「マナちゃんの部屋を探してみようかな…
今だったら指輪を探してるのを理由に入れそうかも!」
私はそう思い直ぐに部屋を出た
すると…
「おや、優菜様どうされました?」
「あっ……」
廊下にシツジが立っていた
「えと…マナちゃんの指輪を探しに…」
「優菜様も頼まれたのですね」
「え?シツジさんも?」
「はい、ワタクシもマナ様からお願いされました」
「そうなのですか…」
「ですが、これで5回目……遊ぶのはいいですけど…ちゃんとお片付けしないと…。」
「また、花の茎に引っ掛けたまま置いてしまっているんでしょうね…」
シツジはため息混じりに呟いた
「あの…」
「はい?どうされました?」
私は思い切って聞いてみることにした
「書庫に……包丁を持った人が…いたんです」
「あぁ…それは書庫に住み着いている幽霊ですね」
「幽霊?」
「はい、ですが書庫にしか現れませんので、ご安心を」
(いや、全然安心できない…)
「では、ワタクシはこれで失礼致します」
そういうとシツジはどこかへ行ってしまった

とりあえず書庫にしかいないことが分かってよかった
「それにしても花の茎か……」
私はシツジさんが呟いて言葉をヒントに
館に飾ってある花を調べてみることにした
廊下の花を調べてみると白いユリがあった
「このユリには……うーん…ない…」
次に
応接室に行くと机の上にピンク色の薔薇があった

「この花は……あっ…あった!」
茎の部分に指輪が引っかかっていた
「イタッ!?」
指輪をとる時に薔薇の茎の棘で指を少し切ってしまった
「どうしよう…血が出ちゃった…」
「シツジさんに絆創膏を貰いに行こうかな…」
そう思いつつ応接室から出ると
アッチとコッチがこちらに歩いてきた
「あ?優菜じゃねーか」
「ど、どうも…」
「指をおさえて…どうしたんだ?」
「あの…ちょっと花で指を切ってしまって…」
「はんっ!お前もどんくさいんだな!」
「こら、アッチ……」
「あはは……」
このやり取りも何度目かと私は苦笑いを零した
「はい、絆創膏…予備があるから分けてやる」
「コッチさんありがとうございます」
「別に…アッチがよく転んで怪我をするから持っていただけだ」
「おい!それは言わなくてもいいだろ!」

そう言い合いながら2人はどこかに行ってしまった
「なんだったんだろう…」
「とりあえず指輪は手に入れたから
マナちゃんの部屋にでも行こうかな…」
そうして私はマナちゃんの部屋に向かった

コンコンとマナちゃんの部屋をノックする
だが、返事が帰ってくることはなかった
「マナちゃん?」
そっとドアノブに触れるとカチャと扉が開いた
私はそのまま部屋の中へ入り
探索をし始めた…
部屋を調べてみてわかったことは
一般的に可愛いに分類されるような物が沢山あることと
ぬいぐるみの種類やリボンの色々…全て全く同じものが多いこと
「ピンクで可愛い部屋…でも、同じものばかりありすぎて少し不気味かも……ん?」
ふと人形の方を見ると手紙が置いてあることに気がついた
「手紙?」
私は手紙を拾い中のものを読んでみた
『マナ・カルベラトラちゃんへ
きょうはたくさんあそんでくれてありがとうまた、おままごとしてね
また、いっしょにあそぼうね
つぎはプリンもよういしておくね
クマ・パムパより』
手紙は小さな子が書いたであろう文字で書かれていた
「これって……」
見間違えではない確かに名前にマナがついていた…
「マナちゃんの名前?」
私は直感的にそうだと思った
「マナちゃんを探しに行かないと…」
私は部屋を飛び出しホールへと向かった「あれ?優菜さん、そんなに急いでどうしたのかな?」
「あ、セーブ係さんマナちゃん見てませんか?」
「僕は見てないかな…」
「そうですか…」
「セーブしていく?」
「…あ…えぇ…まぁ…」
私は流れ的にセーブをし今度は食堂へと向かった
食堂につくとマナちゃんがプリンを食べていた
「マナちゃん」
「あ、おねえちゃん どうしたの?」
「指輪見つかったよ」
「わーい!ありがとう!おねえちゃん」
マナちゃんは嬉しそうにこちらに走ってくる
「どういたしまして」
「みつかってよかったね~『クマ・パムパ』♪」
とクマのぬいぐるみに話しかける
「(これは…!)」
私の直感は確信へと変わる
「マナちゃん……あなたの名前って…」
私が名前を言おうとした瞬間
突然目の前に画面が映し出された
「入力画面?」
「おねえちゃん、もうマナのおなまえわかったんだー!すごいねー!」
「それにね、マナのおなまえをいれたらいいみたいだよ」
マナちゃんはウキウキしたような目で私を見てくる
私は迷わず手紙で確認した『マナ・カルベラトラ』と入力した

すると……

「………それ、マナのおなまえじゃない」
「え?」
マナちゃんの方を見ると黒く濁った目でこちらを見ていた

「そのおなまえ…マナのぬいぐるみのおなまえ…」
「え、でもぬいぐるみの名前はクマ・パムパじゃ……」
「マナのおへやのぬいぐるみのおなまえ……」
「あっ……」
安直すぎたそう思ってももう遅い
「おねえちゃん…さよなら…」
その直後お腹に鋭い痛みが走った
ナイフが……刺さっている
私の意識はそこで途絶えた


ハッと目を覚ますとそこには黒電話があるホールに私は立っていた
「え?あれ……私…」
「セーブしていて良かったね」
振り返るとセーブ係の彼が少し眉を下げぎこちない笑みで立っていた
「コンティニュー回数はあと、3回だよ」
「ど、どういうこと…」
「簡単に言うとこの世界はやり直すことが出来るんだよ……あと3回だけど」
「やり直せる?」
時間が戻ってやり直せるなんてありえない…でも、今の現状がそれを可能だと決定ずけていることに気がついた
「………。」
「次はもっと慎重にね?」
「……はい」
「一応説明しておくとセーブしたのがマナちゃんに指輪を渡す前だから
そこまで戻っていると思って」
指輪を渡す前……
ということはこれから指輪をまた、渡しに行くことになる
「今度は焦らずにちゃんと確実に分かるまで調べないと…」
私はまた、マナちゃんのもとに向かった
食堂につくと同じ場所にマナちゃんがいた。
「マナちゃん」
「あ、おねえちゃん どうしたの?」
「指輪見つかったよ」
「わーい!ありがとう!おねえちゃん」
マナちゃんは嬉しそうにこちらに走ってくる。
「どういたしまして」
「みつかってよかったね~『クマ・パムパ』♪」
とクマのぬいぐるみに話しかける
「その子可愛いね」
「でしょ~?あ、おねえちゃん!
おれいにマナのおへやにしょうたいしてあげる♪」
「え、あ、ありがとう」
(さっき入っちゃったんだよな…)
私は入ったことを悟られないように
笑みを浮かべそのままマナちゃんの部屋までついて行った。 
「ここがマナのおへやだよ!かわいいでしょ~♪」
「うん、とっても可愛いよ」
マナちゃんは嬉しそうに私の手を引き
たくさんぬいぐるみが置いてある所まで連れてきた。
「マナちゃんって同じぬいぐるみを沢山持っているんだね」
「うん!でもねおなまえはみんなちがうんだよ」
「そうなの?」
「えっと…このこはミミ・ピリン
で、こっちのこはマナ・カルベラトラ
あと、このこはシュミレ・ルーカ!」
やはりぬいぐるみ名前にマナとつく名前があった。
私が見つけた手紙はたぶんおままごとで使っているのだろう。
「おねえちゃんはかわいいものすき?」
「私?うん、好きだよ」
「おねえちゃんがかわいいとおもうものってなあに?」
「うーん…そうだなぁ…」
今どきの女の子が好きそうな可愛いものとは?……と少し悩んだが
「えっと…フリルがついたカバンとか靴が可愛いと思うかな」
これは最近私の街で流行っているものだ
「へー!どんなふうにかわいいの?」
「え?えっと…ヒラヒラ~っとしてて…色も可愛くて…」
「………。」
「…えと、ほら、…リュックサックにリボンとか、フリルが沢山着いているんだよ、可愛いでしょ?」
「リュックサックってなに?」
「え?」
私は疑問を抱いた
マナちゃんの姿を見る限りリュックサックを知らない歳ではないようにしか見えないからだ
「あ、あと、応接室にあったピンクの薔薇も可愛いと思うよ!」
話をそらすように話題を変える
「ピンクの薔薇ってなに?」
「えぇ!?」
おかしい…ピンクの薔薇には確かにマナちゃんが探していた指輪が着いていた
だから見たことないわけなんてないのに…
「………。」
私が何も言えず黙っていると
「マナね、かわいいものすきだけど
あたらしいかわいいものわからないの」
マナちゃんが突然話し始めた
「マナね、マナのおへやにあるものいがいよくみえないの」
「とくにね、かわいいものはぜんぜんわからないの」
「まっくろにみえるの」
「目が…見えないの?」
「ううん、ぜんぶみえないわけじゃないの、でもマナのおへやのものいがいはあんまりみえないの」
「………。」
「おねえちゃんもとってもかわいいんだろうね」
マナちゃんは無邪気な顔で私の方を見る
「まっくろでよくみえないけど」
私はマナちゃんの言葉に呆然とするしかなかった
するとマナちゃんはゴソゴソと机をあさり
1冊のノートを差し出してきた
「はい、おねえちゃん」
「これ…は?」
「いいからみてみてー」
言われた通りにノートを開く
そこには……
『:タイトルなし
名前:マアナ・レフリーヌ  性別:女の子 歳:6才
目が見えなくなる
可愛いものが好き  
題材:可愛い物の見つけ方』ら
と書いてあった
「これって……」
「マナのほんとうのおなまえだよ」
「どうして教えてくれるの?」
「おねえちゃんがマナにかわいいものおしえてくれたから」
「マナ、うそつきじゃないよ」
と、言った瞬間 入力画面が映し出された
「………」
また、名前を間違えたら死んでしまう
その恐怖に手が震え立ちすくんでいると
マナちゃんがそっと私の手を握り
「おねえちゃん…マナをしんじて…」
その真っ直ぐな瞳に直感ではあるが
大丈夫だと思ってしまった。
また、安直な考えだと言われてしまうかもしれない…でも、この子が嘘をつくようにも見えないし、裏切りたくない…。
そう思い私は『マアナ・レフリーヌ』と
画面に入力した。
すると、画面に正解と言う文字が表記された
「…正解……した…。」
「よかったね!おねえちゃん」
「うん!ありがとうマナちゃん!」
嬉しさに心が踊りながら振り向くと
そこには…

マナちゃんが光に包まれていた
「マナ…ちゃん?」
私は状況が飲み込めず立ち尽くしてしまう
「マナね、おなまえあててもらったからさきにねマナのほんのなかにね、かえるの」
「どういうこと?」
「いまのおねえちゃんにはわからないとおもうけど…マナ、まってるからね!
おねえちゃんこのあともがんばってね!」
そう言い終えるとマナちゃんは光と一緒に消えてしまった。






私は無意識のうちにホールの黒電話がある場所まで行っていた
「セーブする?」
「……セーブしてしまったら…マナちゃんはいなくなってしまうの?」
「……さぁ……どうだろうね?でも、これだけは言えるよ」
彼は真剣な目で
「この館から出たいならセーブは絶対必須だよ」
私の目的は家に帰ること…
その目的を達成するには…
「セーブ…します」


「はぁ……」
私はセーブした後少し体を休めるベッドへ寝転んだ
「私は…どうしてここに連れてこられたんだろう…」
なにか悪いことをした訳でも、飛び抜けて何かをして目立った訳でもない…
疑問は膨らんでいくばかり
そんな思いを抱いたまま私は眠りについた

次の日

コンコンとドアをノックする音で目が覚めた
「はぁい…」
あくび混じりに返事をし目を擦りながらドアを開ける
するとそこにはコッチがいた
「もう朝だぞ…」
「あ、起こしに来てくれたんですか?」
「そうと言えばそうだが……1番はアッチがうるさいからだ」
アッチがうるさいとはどういうことだろうか?
私は頭に?を浮かべながらも
コッチについて行った
そして食堂に着くと…
「おい!おっせぇぞ!朝飯が冷めんだろうが!!」
「ご、ごめんなさい…」
「アッチ、怒りすぎだ」
「まぁまぁ、皆様落ち着いてください
ちゃんと朝食は暖かいですよ」
そう言いながらシツジは
トースト、サラダ、ウィンナー、オムレツ、紅茶の朝食を持ってきた
「紅茶にミルクや砂糖がいる方はワタクシにお申し付けください」
シツジは一礼すると机から少し離れた場所に立つ
朝食の席にマナちゃんの姿はない
「あの…シツジさん…」
「はい、どうされました?
ミルクですか?それとも砂糖3つですか?」
「いや…そうじゃなくて…マナちゃんは…」
「マナ様は先にお帰りになりました」
「どこに?」
「本の中です」
「………」
たぶん、これ以上聞いても何か分かることはないだろう
私は複雑な気持ちで朝食を食べた。

朝食をすませた後、アッチとコッチに呼び止められた
「お前…マナの名前当てたんだってな」
「見た目の割に中々やるじゃねーか」
「おい、失礼だぞ」
「コッチだってそう思ってるだろ?」
「………」
無言ということはたぶんそう思っているんだろう。
「えっと…話はそれだけ?」
「さすがにそれだけで呼び止めたりしねーよ」
「この屋敷の暗黙の了解を教えてやろうと思って呼び止めたんだ」
「暗黙の了解?」
「ルール…って訳でもないけど守らねぇとやべぇこと」
暗黙の了解…これはなにかの手がかりになるかもしれない
「1つ目、シツジの了解無しに厨房に入らない」
「2つ目、書庫に長時間入らない」
「3つ目、お風呂は覗かない」
「……3つ目は当たり前じゃ…。」
「最後のは冗談だ」
コッチの冗談は冗談に聞こえない…
苦笑いしながらも暗黙の了解をしっかり頭に入れた
「じゃあ引き続き俺達の名前、探してこいよな~」
そう言い残すとアッチとコッチは食堂を出ていった
探そうにもなにか手がかりがある訳でもない
「2人の部屋を調べればなにか出てきそうだけど…見つかったら言い訳とかも通じなさそうだし…」
2人の部屋は危険だと判断した私は
まだ、言っていない場所に行くことにした
まずは2階にある倉庫

倉庫の扉には鍵穴があったが鍵はかけられていなかった
中を見てみると真っ暗だった
私は壁伝いに電気のスイッチを探した
カチッと音が鳴ると部屋全体の様子がわかった
沢山色々な物が置いてある棚やダンボールなどがあり生活用品や食品には困らなさそうだと思った
しかし、なにか手がかりになるようなものはなく少し肩を落とし部屋を後にした
次に私は大浴場へと向かった
するとシャワーの音が聞こえ誰かが入っていることに気がついた
「(アッチとコッチかな?)」
脱衣所に置いてある服を見ると
シツジの服だった
私はこの時ピン!と思いついた
(今なら…許可を取らずに厨房に入れるかもしれない!)
厨房は許可を取らないと入れないので、何かしらあるかもと思ったからだ
私は急いで厨房へ向かった
厨房に向かう途中にセーブもついでにしていった
厨房の中に入ると綺麗で清潔な厨房だった
私は棚や引き出しを調べた
が、何も手がかりになるようなものは見つからなかった
(ここにもないか…)
と思っていると
ふと、包丁が置いてある場所に目がいく
包丁は綺麗に揃って置いてある
「(そういえば、書庫に入ってきた幽霊…包丁を持っていたな…)」
そんなことを考えていると
背後から……

ドン!

後ろから押され私は倒れ込んだ
そして、上から押さえつけられ……

首を刺された



目が覚めるとセーブしていたホールにいた
「暗黙の了解は……破っちゃダメなんだね…」
「そうみたいだね」
セーブ係の彼が眉を下げながら呟く
「あと2回だよ」
「うん」
「気をつけてね」

私は彼に一礼してまた手がかりを探しにホールを後にした
「…そういえば応接室はまだ、ちゃんと調べてなかったな…」
応接室はマナちゃんの指輪を探す時に入ったけれど机に置いてあったピンクの薔薇に引っかかってあった指輪を見つけて直ぐに出ていってしまったからだ
「もう一度ちゃんと調べてみよう…」
私は応接室に向かった
応接室を調べてみると本棚が1つあり
その本棚から1枚の紙切れを見つけた
そこには
『あの子はどこまで記憶があるのだろう』
また、謎のメモがあった
「これは手がかりなのかな?」
頭を捻るも何もピンと来ない
他になにかないか探していると
「あっ…」
引き出しに倉庫の中スペアキーを見つけた
「(何かの役に立つかもしれない)」
私はその鍵を持っていくことにした
あと、気になるものはなく応接室を出ると
書庫に入っていくアッチとコッチを見つけた
「(今なら2人もいるし…あの、包丁を持っていた幽霊も簡単に入って来れないかも…)」
チャンスだと思い私も書庫に入っていく
「ん?なんだ優菜も本取りに来たのか?」
「あ、うんそうだよ」
「本なんて字ばっかりでつまんね~」
「だったらアッチはあっちに行ってろ」
「それは暇だからヤダ」
そんな2人のやり取りを余所に私は本棚を調べていく
するとアッチとコッチの絵が描かれた本を見つけた
「(あった!)」
私は心の中でガッツポーズをした

「そういえばさ~、なんで書庫に長時間いたらダメなんだろうな~」
「さぁ?なんでかまでは知らないな」
「え?幽霊が出るからじゃないんですか?」
私は無意識に聞いてしまった
「幽霊?オイオイ、さすがにそんな子供だましマナでも信じねぇぞ?」
「え?でも…シツジさんがいるって…」
「俺たち、ずっとここで暮らしているが1度も見たことがないし
この館には俺とアッチ、マナ、シツジ、優菜、以外に誰もいないと言われたぞ」
「えと…セーブ係さんは?」
「んなやつ知らない」
なにか色々と矛盾している
ぐるぐると知っている情報と違っていることに頭を悩ませていると
「そろそろ飽きた~俺もう出るな~」
とアッチが書庫から出ていった
「俺も目当ての本が見つかったから出るな」
コッチも出ていこうとしたので慌てて私も書庫から出た
そして自分の部屋に戻り
書庫から取ってきた本を読んだ

『とある所に仲のいい双子がいました。
双子の名前は吉田 湊 と吉田 直斗

2人は毎日色んなところに遊びに行ったり、勉強したり、色々なことをしました。
しかしある日突然
直斗が事故にあい両目が見えなくなってしまいました
直斗は目が見えないのでずっとベッドの上での生活になりました
直斗は「暗い…怖い…助けて…」と
時々泣いていました
湊はそんな直斗をほっとけなくて…

自分の目を直斗にあげることにしました。』
ここで文章は終わっていた
「(自分の目をあげた……だからあの2人は片目ずつ閉じて…)」
そういえば彼らが両目を開けたところを見たことないことに気がついた
「それにしても…これだけだとどっちがどっちの名前なのかわからない…」
他のページも確認したが何も書いていなかった
「当てずっぽで…名前を当てるのは危ないよね…」
私はどうにかどっちがどっちの名前か確信出来ないか考えもう一度本を読む
そしてあることに気がついた
「(もし、この本の通りならばどちらかは暗闇が苦手でその苦手な方が直斗と断定できるかも!)」
そうだとするならばまず、どうやって2人を暗闇の中に入れるかなどを考えながら
なにか使えるものはないかと部屋を出ると
アッチと鉢合わせた
「あっ…」
「よう優菜」
アッチは応接室にあったピンクの薔薇が入った花瓶を持っていた
「なんでそんなものを持っているの?」
「ん?なんか暇だったから」
「マナちゃんが指輪をつけるお花だから元の場所に戻してあげた方がいいと思うよ?」
「え?アイツそんなことしたことあったっけ?」
アッチは首を傾げながら
ユリが飾ってある台にその花瓶を置いた
「だから、ちゃんと元の場所に…」
「細かいことはいいだろ~?それよりさ」
ニヤニヤと笑いながらアッチが

ナイフを取り出した

「え、…な、なに!?」
「俺暇なんだよ、だからさ…
…オニゴッコ  やろうぜ♪」
そういうとアッチはナイフを私に目掛けて振りかぶってきた
「キャッ!?」
私は間一髪のところで避けたが
「ほらほら~逃げないとほんとに当たるぞ~?」
とアッチはまた近づいてくる
私は全速力で逃げた
それからはオニゴッコが始まった
体力的にも私は勝てない
どうしようかと考えながら走る
「同じ廊下ばっかでオニゴッコは飽きちまうって~
ま、でも部屋に入ったらそれこそ袋のネズミでおしまいか」
その言葉を聞き私はあることを思いついた
向かう先は倉庫
倉庫に入った瞬間ドアを閉め電気を消し
ダンボールの陰に隠れた
数秒後アッチが扉を開け中に入ってきた
「おーい、部屋に入るなんて袋のネズミだぞ~」
余裕そうに部屋の中を探すアッチ
私はアッチが扉から離れた隙を見計らい
ダッと駆け出し倉庫の外に出てドアを閉め鍵をかけた
「なっ!?おい!コノヤロウ!何閉めてやがんだ!!開けろ!許さねぇぞ!」
ドンドンドンドンとドアを叩く音が響く私は必死にドアが壊れないように押す
「開けろ!開けろ!開けろ!…頼む…開けて…」
アッチの声はだんだん弱々しくなっていく
「開けて……お願い……助けて……。」



「湊……。」



アッチは確かに湊と名前を呼んだ
つまりアッチが直斗!
私はそれがわかると1度体勢を立て直すために
倉庫から離れた
そして、ホームに1度セーブしに行き
アッチの名前を入力しようと倉庫に戻ると
「あれ?倉庫が開いてる?」
ドアは壊された様子ではないが開いていた
アッチはどこいったのだろうと倉庫の中を見ようとした瞬間
「おい……」
振り向くとそこにはコッチがいた
「な、なに?」
「お前か…」
「な、何が?」
「アッチを……泣かせたのは…」
そういうコッチの目は怒りで溢れている
「それは……」
「よくもアッチを泣かせたな…」
「でもこれはアッチが…」
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!!!」

と、ものすごい形相でナイフを振りかぶってきた
「…っ!」
何とか避けれたが次はないだろう
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!!!」
勢いに圧倒されそうになるが
私は冷静に 
「(アッチの名前が直斗とわかったんだから必然的にコッチが湊と言うことになる…だからあとは入力さえしてしまえば…)」
と私はコッチに近づく
すると入力画面が出てきた
私は素早く名前を入れようとした…が、
コッチのナイフが私の胸を突き刺した


目が覚めるとホールにいた
「……入力する時間がいるなんて…」
「あと1回だよ」
また彼は眉を下げならが言う
「とりあえず…話せる状態じゃない……逃げて隙を突くしか……でも、どうやって…」
力では確実に勝てない、しかも相手は凶器持ちだ…
「どうにか…入力時間さえ稼げれば…」
私は必死に考えた
やっと名前がわかったのにあとは入力するだけなのに…
解決策がでない今にイライラしてしまう
すると彼が
「双子ってすごいよね…」
「え?」
「似たような運命をたどるんだもの…」
「どういうこと?」
「僕からは感想しか言えないよ」
彼が何を言っているのか分からなかったが呆気に取られたせいか少し冷静になれた
そしてもう一度よく考え何かいい作戦はないかと考えた
「あっ……」
私は少し危ないがある作戦を思いついた
もう一度コッチがいた場所に行く
案の定そこに行くと怒ったコッチがやって来た
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
(来た……!)
私はとりあえず走り出した
コッチはナイフを振り回しながら追いかけてくる
館をぐるりと周りまた、倉庫の中へ私は入ったそして棚の後ろに隠れ…
「どこだ!?どこいった!?!出てこい!!殺してやる!!!」
部屋の棚の近くに来たあたりで
「えい!」
私は棚を押した
ガラガラガラ!!!
と言う音を立ててコッチに棚がのしかかった
「ぐあっ!?!」
棚の下敷きになったコッチは動けずにもがいている
「今なら…!」
私はコッチに近づき入力画面に『吉田湊』と入力した
「ぐっ、ああぁぁぁぁ!」
コッチの体が光り始める
「くそっ!…こんな…ところでぇぇ!!」
コッチの叫びも虚しく光に包まれ消えていった
「やった……」
私はその場にへたり込み安堵し息を吸った
コッチが残したナイフは一応持っておくことにし倉庫を後にした
「(あとはアッチだけど…素直に名前を入力させてもらえる気がしないな…)」
私はまた、何かいい作戦はないかと考えながらホールへ行こうとすると
「あっ……」
廊下でアッチにあった
私は身構えるようにナイフを構えた
しかし、アッチは何かするようにも見えず…というより弱々しくなっているようにも見えた

「えと……コッチは……もう、いなくなったのか?」
いつもの彼とは違う弱々しい声で聞いてきた
「…そう…だけど…」
「…そうか…」
彼は何か考えるように俯き少し経つと私の方に振り返り
「なぁ……もうナイフ向けたりしないから……話…聞いてくれないか?」
彼の提案に少し警戒するも
弱々しくなった彼をほっておくことは出来なかった
「…わかった、聞くよ」

アッチと私はアッチの部屋に移動した

「そこの椅子にでも腰掛けていいぜ」
「えと…失礼します」
少し気まずい雰囲気の中
アッチが話し始める
「もう、俺の名前分かってんだよな」
「うん」
「だったら俺がコッチ……いや、湊から目をもらった事は分かっているか?」
「……うん」
「そのことについて俺はお前の意見を聞きたい」
「私に……」
「湊の選択は正解だったと思うか?」
「え?」
「俺達は…双子だったこともあって目の移植は可能だと医者から言われ湊は俺に目をくれた……この行動は正解だと思うか?」
「……それは…わからないよ…」
「……俺は……間違いだったと思う」
「どうして?」
「だって俺……目…全然見えてないもん」
「え?」
私は衝撃的な告白に目を見開いた
「確かに真っ暗ではなくなった…でもほとんどぼけて見えてないんだ…。」
「移植はできた…でもそれは外見だけで中身は上手くいかなかった」
「たがら……ご飯をこぼしたり、よく転けてたりしたんだね……」
「あぁ……」
「湊に助けてもらえば良かったんじゃないの?」
「………それは出来ない…」
「どうして?」
「…湊の希望を…裏切れない…。」
そう彼は俯きながら呟いた
「湊から目をもらった俺は…目がほとんど見えていなかった…それを湊に伝えたら
湊は泣き叫んだ
そんな湊に耐えられなくなった俺は
次の日に嘘をついた…
『昨日より見えるようになっている
時間が経てば見えるようになっていくんだ!』と…」
「でも…現実は変わらない…見えないままだ……慣れてきた分のものは判断できるがそれでも……」
「だから、俺は乱暴で雑な性格になって誤魔化した……
1度、湊に本当のことを言おうとした…でも、嘘をついていた分、本当のことを話したら今度こそ湊は壊れてしまうそう思ってしまって言えなかった…」
「………。」
私はなんとも言えない心境になった
「なぁ…優菜」
「俺は……どうすれば良かったんだと思う?」
「……もしこれからの話があるなら…俺は…どうすればいい?」
助けを求めるような瞳に私は…
「わからない…」
静かに呟いた

「そう…だよな……」
「こんな相談初めてした……迷惑だよな…ごめん…」
「わからない……今は…ね?」
「え?」
「今はわからない…でも…考えたらいつか…分かるんじゃないかな?」
「って私は思う…」
「そうか……いつか…」
彼はなにか思うようにこちらを見て
「じゃあいつか……優菜が教えてくれ…」
「…私が?」
「あぁ、今は分からないけどいつかは分かるかもって言っただろ?
だから、いつか教えてくれ」
と言って私に近づいてくる
入力画面が表れる
「…わかった…いつか…ね?」
私は入力画面に『吉田 直斗』と入力した
するとアッチの体は光りだした
「俺の部屋にも来たんだからコッチの部屋にも行ってやってくれ」
最後に一言言い終えると光に包まれ消えていった


光に包まれ消えたアッチを見送ってから私はコッチの部屋に向かった
コッチの部屋の机の上にノートがあった
そのノートには…
『:タイトルなし
名前:吉田湊と吉田直斗
歳:14才
とても仲良し
題材:誰かのためにしたことが必ずしもいい方向に行く訳では無い』
と、書かれていた

私はそのノートを取り部屋を後にした

「あとは…シツジさんだけか……」

あともう少しで家に帰れる…嬉しい気持ちもあるが、少し複雑な気持ちもある
一体…どうしてだろう…


その日は部屋に戻り直ぐに就寝した

次の日の朝

コンコンコン

というノックで目が覚めた
ドアを開けるとそこにはシツジがいた
「おはようございます優菜様」
「…おはようございます」
「朝食の準備が出来ましたのでお迎えにまいりました」
そう一礼すると道を開けるようにさがる
そして、私達は食堂へと向かった
「今日の朝食はクロワッサン、目玉焼き、ウィンナー、サラダ、コンソメスープとなっております」
「わぁ…美味しそう…」
「目玉焼きは半熟にしております、
あと、お飲み物は紅茶で良かったでしょうか?」
「あ、はい…」
「ミルクと砂糖はもう既に入れてありますので」
一礼してまたいつもの位置に立つ

「シツジさん…」
「はい、なんでしょう?」
「シツジさんは嘘ついたことある?」
「アッチ様のような嘘はついたことはありませんよ」
ニコッと目は見えないがこちらに微笑みかけていることがわかる

それから、
朝食終えた私は車庫に向かっていた
なぜかというとマナちゃんも、アッチも、コッチも、
皆、名前の手がかりはここにあったから
私は書庫の本棚を漁りシツジの本を探した
しかし、シツジの本だと思われるもは見つからなかった
「ない…ない……全然ない…」
「どうしよう…全部の棚を探したいけど……長時間探したら……」
焦る気持ちを落ち着かせるためにも私は深呼吸をし
「……ふぅ……とりあえず一旦出よう…」
1度諦めて出ることにした
あと、調べていないところといえば
執事の部屋…だけかな…?
そういえばシツジはお風呂に入っている時間帯があったな……
その時間を狙えば!
私は急いでお風呂場を見に行った
すると案の定シツジがお風呂入っているシルエットが見えた
「(よし!今なら!)」
私はついでの道でセーブをし
シツジの部屋に向かった
執事の部屋は予想とは違い物が散乱していた
大体が紙やノートだがそれにしても
あのキッチリとしたイメージとは全然違った
私はその紙やノートをみて手がかりになりそうなものをいくつか見つけた
「(ここで読んでたら帰ってきちゃうよね)」
これだけ散乱した部屋であればいくつか持っていってもバレないであろうと思い私はいくつかのノートや紙を持ち帰った

部屋に戻りベッドに腰掛けノートをめくっていく
ノートの中身は日記だった

『お嬢様の目が見えなくなった
多分治ることの無い病気らしい
いつも元気だったお嬢様は
最近ずっと心を閉ざしてしまっている
また、元気なお嬢様に戻って貰えるようにワタクシも頑張らなければ…


お嬢様は最近小説にハマっているみたいです
オーディオブック、カセット文庫?というものでそれ聞き初めてからはお嬢様は笑顔になっていきました
嬉しいかぎりです


突然お嬢様が小説を書きたいと言い出しました今では音声で文字を書いてくれる機械もあるのですね、便利です。


今日、お嬢様の結婚式がありました
政略結婚ではありますが、お嬢様を幸せにしてくださる方なら安心です。



ワタクシは新郎様に嫌われているようです…もうすぐ解雇にされるでしょう
今までありがとうございました。
お嬢様』

ここで日記は終わっている

ノート裏を見てみると『山本 健二』と書かれてあった


「これが…シツジさんの名前?」

私は日記の内容にしんみりしつつも
コピー用紙に印刷された日記のようなものも読んでいった

『突然、目が見えなくなりました。
お医者様にはもう、見えることはないと言われました
真っ暗で何をするにも危なく怖いです
しかし、私は小説に出会い
真っ暗な世界でも楽しみを見つけられたのです
今の機械の技術では声だけで文字をパソコンに打つことができるようで、私は小説を書き始めました


初めは短いものから…そしてどんどん長いものも…

これだけが私の生きがいでした

山本もいなくなり
結婚をした彼も私に無関心でした
娘も息子も私に無関心でした
私の書いた小説にも…


けれど、私は小説を書くことをやめませんでした
すると私の小説は書斎を埋める程になした

そんなある日、私に孫が出来ました
孫は私の小説を読んでおもしろいと言ってくれました
だから、私は孫のためにもまた、色々な話を書きました
しかし、私の体は限界でした
もう、口を動かすのもほとんど出来ません、
なので私が書きれなかった
タイトルのない小説を孫に…託したい



でも、叶わなかった。
タイトルのない小説が完成することはなかった』

最後の紙の裏には……


私は読み終えると
ホールに向かっていた
「セーブしに来たの?」
「うん、もう全部わかったから」
「そっか頑張ってね」


私は、全てを終わらすためにシツジを探した
部屋に戻っているかと思いシツジの部屋のドアをノックする
しかし返事が帰ってくることは無かった
「今は厨房にでもいるのかな?」
私は厨房に向かおうと振り返ると


書庫に入ってきた黒いフードを被り包丁を持った人が…

立っていた

包丁を持った人は私に向かって走ってくる

「くっ……!」
私は全速力で逃げる

しかし、どこまでも追いかけてくる
部屋に隠れようとも鍵のある倉庫は棚を前に倒してしまってせいで足場が悪くなってしまっていて逆に不利になる
「(どうすれば!)」
そう考えている間に…


私は…捕まった



目を開けるとホールにいた

「もう、コンティニュー出来ないよ?」
「………」
冷や汗が頬を伝うのを感じる
もう、間違うことは出来ない

隠れることも逃げることも出来ないなら…

戦うしかない、
私はナイフを握りしめた



また、シツジの部屋の前に行きあの人を待った
するとあの人はやって来た
あの人はさっきと同じように包丁を向けてくる
私も負けじとナイフを向ける
「あなたはどうして私を襲うの?」
「……」
相手は答えない

「ねぇ、どうして?」

私の問いかけに答えないまま包丁を振り下ろしてくる、私はそれをナイフで防ぎ

「ねぇ!どうしてよ!」









「おばあちゃん!!!」




私の声に動きを止める


「おばちゃん…いや、今は『シツジ』さんか…」

「どうして……わかったの?」
「だってマナちゃんや、アッチやコッチはナイフしか持っていなかったし
包丁は他の部屋にはなくて…
あるなら厨房ぐらいにしかない…でも、厨房はあなたしか、もしくはあなたに伝えないと入れない
だから持ち出せる人といえばあなたぐらいしか居ない」

「シツジは幽霊だと言っていたけど?」

「ずっとここに住んでいたアッチとコッチが1度も見た事なかったのに、いきなり出てくるなんて不自然すぎると思ったから」

「あと、私…子供じゃないから騙されない…。」


「フフっ………フフフ……」

笑いながらフードの上着を脱ぎ、綺麗に畳む


シツジの姿を現した彼女は
目を隠していた赤い布も取り





私と同じ、
青緑色の瞳で私を見つめ
「……貴方はまだまだ子供よ」
そう、クスクス笑いながら呟いた
「凄いわね、まさかこの時点でおばあちゃんとまでバレるなんて思ってなかったわ」
「分かるよ、あれだけの手がかりがあったんだもの」
「じゃあ、なぜわかったのか教えてもらおうかしら」
「うん、
まず、シツジ…いや、山本さんの方の日記は、おばあちゃんが結婚してからいなくなったって書いてあった
そしておばあちゃんの方にも山本さんがいなくなったことが書いてあったし
その時に孫がいることなんかは書いていなかった」

「でも……孫の…私の好きな物をあなたは知っていた…
目玉焼きの半熟が好きなことも
紅茶に入れるミルクや砂糖の量も……わかってた口調でいってたしね」
「ふぅん……」
「あと、マナちゃん行動やアッチにしか知らない事も知っていたから…
…作者なら設定とか分かってるもんね?」
「…正解…」
「あと、日記に書いてあった名前でピンときた」
「でも、1つ分からないことがあるとしたら…なんで変装して包丁まで持って私を襲ったの?」
「それにはちゃんと理由があるの1度目の書庫の方は……」
「方は?」
「……あそこにある小説は…全部私が書いたものなの…」
「うん」
「だから……その…まじまじと見られるのが恥ずかしくて…」
「………。」
「目的のものは見つけやすくしてるし、早く出ていってもらおうと思ってちょっと強引にね」
「………。」
「で、2回目の今は…本当に貴方が私の小説の跡継ぎに値するかどうかを見定めようと思ってね」
「……とりあえず…私はおばあちゃんに振り回されたって事だね」
「ごめんなさいね」
「許さない…って言いたいところだけど
なんか、おばあちゃんって分かったらどうでもよくなっちゃった…」
「ふふふ…、孫の貴方にまた会えて良かったわ」
「私は全然おばあちゃんの記憶ないんだけどね」
「まぁ、貴方がまだ小さい時に私はいなくなってしまったからね」
「本当は貴方にもっと小説を書いてあげたかったのだけれど…」
「ここの書庫にあった小説…全部おばあちゃんのなのんだよね?」
「えぇ」
「書庫にあった本、私の家の書斎にあったのとほとんど同じだった」
「私は今も昔もおばあちゃんの小説をずっと読んでいたんだね」
私は手を自分の胸に当てる
「おばあちゃん……私、小説書くよ」
「……!」
「今の私があるのはおばあちゃんの書いた小説のおかげな気がするし、
なりより…マナちゃん、アッチ、コッチ……みんなと会って…」
「私、色々思いついちゃったから!」
「それに…マナちゃんは待ってるって言うし……アッチとは約束しちゃったから…」
「私…書くよ!あの子たちの小説!」
それを聞いていた祖母は驚いた顔をしたあとゆっくりと微笑み
「そう……それなら…安心だわ」
と、安堵の声を零した


それから、私達は少しの穏やかな雑談をした


「あの、話のENDにはびっくりしたよ!」
「でしょう?あれは私の中でも3番目によく出来た話だから」
「そういえばマナちゃんの話って…」
「あれは、私が体感したことに少し関係があって
私、小さい頃に目が見えなくなって
記憶にある可愛いものしか可愛いって判断出来なかったの
でも、どうにか分からないかなって…
考えたけれど…思いつかなかったの」
「そっか、だから……」
「アッチとコッチの方は支え合う存在なんだけどそれがかみ合わなくてすれ違ってしまうけど、ちゃんと最後は支え合う存在になるって所までは…出来ているんだけど…」
「ふんふん、」

こんな感じで私とおばあちゃんは読んだ小説の話や、設定の話をした


たぶん、結構な時間話していたけれど私にとってはとても短い時間だった

「そろそろ、お別れの時間ね」
「え?そうなの?」
「貴方に伝えられるだけのことは伝えてしまったから…この世界はもうすぐ終わる」
「そっか……」
俯く私の頭を優しく撫でる祖母
「…もう、会うことはないけれど…私は貴方を……ずっと見ているわ」
「うん、私もおばあちゃんのこと絶対に忘れない…そしておばあちゃんの小説を完成させてみせる!」
「…楽しみにしているわ…優菜」
すると、私の目の前に入力画面が表示される
私はその画面に


『真城優子』と入力した


気がつくと、私は自分の家のベッドで目を覚ました隣には読みかけていた小説が落ちてあった
「優菜ー!そろそろ起きなさいよー!」
母の声で帰ってこられたのだと実感する
私は落ちていた小説を広い
リビングに向かう
「おはよう、優菜」
「お父さん、おはよう」
「今日はあなたの好きな半熟目玉焼きよ」
リビングの椅子に座り
「お父さん、お母さん…」
「どうした?」
「どうしたの?」
「私…小説が書きたい」


それから、私は小説を書き始めた
初めはおばあちゃんの本を参考に書き方を学び 短いものから、長いもの……
色々書いていった





数年後、


「もしもし」
「真城先生!『見えない可愛い旅日記』がベストセラーに選ばれました!」
「そう、それは良かった」
「あと、『アッチコッチの分岐点』が50万部突破しましたよ!」
「ふふふ、嬉しい報告ばかりですね」


私は真城 優菜  26歳  
今 絶賛売れっ子の小説家です

「真城先生!次の作品も期待しております!」
「プレッシャー与えないでくださいよ~」
軽く話したあと電話を切る
「…おばあちゃん……私、『タイトルのない小説』……完成させたよ」
私は優しくおばあちゃんの小説を抱きしめる

「さて、今日はクリスマス…特別な日だからおばあちゃんの小説が読める!」

私は帰ったあの日から書斎のおばあちゃんの小説を特別な日だけ見ることにした
理由としては少しずつおばあちゃんの小説の世界感を楽しみたかったからだ
「えーと、前はこの棚のここから取ったから今日は……よし!これにしよう」
本をとった時に1枚の紙切れが落ちた
それを拾い上げ読んでみると

『彼女の夢は何も叶わなかった』

「ふふっ、叶わないと思ってたかもしれないけど叶ったよ、おばあちゃん。」
私はその紙切れをみてクスクス笑う
「さてと…今回はどんな話なんだろう♪」
鼻歌交じりに書斎の椅子に腰かけ本を開く


私は小説を読んでいく…


読んでいく

読んでいく

読んでいくにつれ

私は

冷や汗が止まらなかった

「なに……これ…」

カタカタと体が震える、息も上手くできない
なぜなら…

その小説の話が……

私がこれまでした行動、出来事、が全部書いてあったから


「どういう…こと?」

「気づいちゃったんだね」
振り返るとセーブ係の彼がいた
「え?」
「まぁ、その気づくのも話の通りなんだけどね」
「ど、どういう……」
「僕が教えなくても…君は気づくはず…」
「………」
「だって、そういう設定だから」
「…設定……」
私は小説を読み進める
私が大人になることも、本のタイトルの名前も、それがベストセラーに選ばれることも……今、私がこの小説を読んでいることも全部全部…書いてあった

「私は…この本通りに…動いていた…?」
「いや、動くようにされていた?」
私はパラパラとベージをめくっていく
すると直ぐに後のページが白紙になっていた

「あれ?この本…未完成なの?」
「そうだよ」
「私…これからどうなっちゃうの?」
「続きがないからもうすぐ、君もこの世界も終わるだろうね」
「え…?」
私自身も小説の中のキャラクターだったとするなら…
この本が未完成だとするなら…
途中で…終わる

つまり…消えてしまうということ?

「嘘……」
私は本を床に落とした

「私…消えちゃうの?」
「そうなるね…」
「どうして教えてくれなかったの?」
「そこまでは干渉出来ないから」
「でも、ヒントは出していたんだよ」
「ヒント?」
「時々、紙切れ…見つけたでしょ?」
「…あ、」

『ここにいる方が幸せなのか、帰る方が幸せなのか、わからない』
『彼女はどこまで記憶があるのだろう?』
『彼女の夢は何も叶わなかった』

「あのまま、あの世界で真実を分からないまま過ごすか…、真実を知ってこの物語を終わらせるかどっちが君にとって良かったか」

「記憶を思い出そうとすれば違和感に気づくかな?って」

「だから、この物語が作られたんだよって伝えたかった」
淡々と話す彼を見つめながら
私は絶句した

確かに記憶がないのだ、
小さい頃の記憶、高校生の記憶
ないとおかしい記憶がなかった
なぜ、記憶が無いか…それは

「設定で…作られてないから…」
「つまり…私は作られた存在…」
「おばあちゃんに孫なんて存在しなかった」
「だからこの物語を…」
嫌だと理解したくなくても理解してしまう

そして次に思ったことは

「いやだ…」

「いやだ…いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!!!」

私は叫んでいた

「消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない!!!!!」
そんな私を彼は悲しそうな目で見つめ目を伏せる
取り乱した私を止められる人はもういない
「どうしたら……私は…私は…消えたくない……戻りたい……」
私は書斎の机にドン!手を付いた
すると、机の上のナイフが落ちた

「あ…」
私はそのナイフを見つめあることを思いついた
「そうだ、…死ねば…また、セーブしたところから……やり直せる…!」
私はナイフを拾い自分の首に当てる

最後に彼が何か言っていたが私の耳には届かない
私の視界は真っ赤になった



彼女の物語はこれでおしまい

「もう、コンティニュー出来ないって言ったはずだよ」

僕は、
真っ赤に染まった書斎に倒れた真城 優菜を見つめ
「この物語があったから君は生み出され存在することできた……」
「でも、結末がこんなことになるなんて…」
「生まれなかった方が良かったのだろうか…」

僕は彼女が読んでいた本を拾い
「『タイトルのない小説』……これで完成なのかな?」


この小説のタイトルは





『               』





END『存在しなかった存在』
 





































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