7 / 22
第二話/逃亡者、早見 蓮
第六話/侵入
しおりを挟む
ほどなくして、アリスが目を覚ます。
伸びをして半開きの瞼を何回か擦ると、不敵な笑みを浮かべて蓮を見つめはじめる。
「今度は私の番です」
と言って、交代で見張りをするのかと思うと、ペタンと女の子座りをして手招きをしている。
「なんだ?」
「だから、今度は私がお兄さんを寝かせてあげるんです」
太腿を手のひらでパンパンと叩く。
「いやなに、必要ないが……それに、そんなふしだらなこと……うわっ!」
蓮は逡巡する間もなく、悪魔の膂力で無理矢理に膝に寝かしつけられた。 自分がしてやったように、額を優しく撫でられる。
不本意ではあるが、次第に疲れが溜まっていたのもあり瞼が重くなってくる。 抵抗しようとした手にあまり力が入らない。
もっとも、悪魔であるアリスの力を押し負かすことなど不可能なのだが。
「ふふ……お兄さん、赤ちゃんみたいで可愛いです」
もう蓮はアリスが何を言っているのかも聞き取れこそすれど、言葉の意味を咀嚼できていなかった。 既に片足が夢の世界に入り込んでいる。
実に五時間は思考回路を稼働させていたのだ、仕方ないだろう。
いけない……アリスにこんなことをさせては……
しかし、そんな意思もすぐに疲労に塗り潰され、蓮は完全に眠りに落ちる寸前。 幼児からする独特の優しい香りに、柔らくて暖かい太腿━━驚くべきか、人間だったら十は歳が下の少女の膝枕は想像以上に寝心地が良い様子。
蓮は幼女に膝枕されて眠ることに、満更でもない自分がいるのが悔しい気持ちも程々に、久しぶりの充足感に満たされた眠りに落ちる。
◇
俺はアリスと二人で遠くに雲に山頂が隠された富士山を眺めながら、湖にテントを張って、その外で火を焚きながらコーヒーとココアを飲んでいた。
していたのは他愛ない会話だが、それ以上に至高なものはないと思う。
また、そんな会話の中、文脈を無視して「悪魔に心はあるのか」という質問が飛んできて、回答に困ってしまった。 なので、人間の心だって脳の電気信号が作り出したものなんだ、心の有無なんて、気にすることじゃない。 と、茶を濁した。
彼女が望んでいた回答はそんなものではないのは、分かっていたが、極度の緊張感に当てられて、何か言わないといけない、と急かされた結果なのだ。 仕方ない。
それを聞いたアリスは下手くそな笑いを浮かべて、何かを言っていた。
それを見て、俺は悪魔にも、いやアリスにだけは間違いなく、心があるものなんだと思うことができた。
心のない者に、こんなフォローができるだろうか。 心のない者に、仲間の死を悲しむことができるだろうか。
答えは否だ。 仮に悪魔に心が存在しなくても、これらが俺を何らかの理由で丸め込むための姦策の一部だったとしたら、騙されてしまっていいかとも思った。
俺はそれほどまでにアリスを……大切に思っているのだと思う。
一日でも早く、こんな日々が送れるようになればいいのに。
そう願ったら、夢は覚めてしまった。
◇
蓮が目を覚ましたのはアリスの太腿の上ではなかった。 目を開けて最初に入ってきた情報は、視界いっぱいに広がる金銀財宝━━━━
アリスはどこだろう。 考えて、後ろから音を聞いた。
すぅ、すぅ、という音がする。
振り返ってみると、アリスは蓮にもたれかかる形になって、眠っていた。 スマートフォンを開いて時間を確認すると、朝の十時を過ぎた頃だった。 アリスが目を覚ましたのが五時頃だから、五時間は眠っていた計算になる。
やっぱり、子どもだな。 と、蓮は笑みを浮かべてアリスの額を撫でてやった。
すると、しばらくしてアリスは目を覚ます。
「おはようございます。 お兄さん」
言って、大きく伸びをしたあとに大きな欠伸をする。
「あぁ、おはよう」
「あっ、私……途中で眠ってしまっていたんですね……申し訳ないです」
アリスは心底、申し訳なさそうな顔をして謝罪をした。
その顔は、怒られることを懸念して、というよりは、本当に申し訳ないと思っている顔だった。
「結果的に、何もないんだからいいんだよ。 気にすんな、宝物を詰めたら飯でも食いに行くか」
「はい!」
アリスは満面の笑みを浮かべると、地面に置いていたリュックサックを引ったくり、宝物の山に駆け出す。
蓮も遅れて山に向かって、見るからにグレードの高い武器と、大きな金塊をリュックサックに詰めていく。
作業が始まって三十分くらい。 二人のリュックサックはパンパンになった。
また、その中で蓮は宝物の中でもとびきりグレードの高いであろう武器を見つけていた。 性質(スキル)持ちの、鍔のない脇差だ。 鋼色の刀身に、漆黒の持ち手と鞘をしている。
性質持ちとは、例えば刀であったら切れ味や耐久性以外に"人間の創造物では有り得ない、非科学的な性質を宿しているもの"のことである。 その大半が人の手には余り、質屋に流される性質持ち。
しかし、蓮はその脇差を携帯しておくことにした。 例の店では、やはり大した額にならないだろう、という考えと、なんとなく役に立ちそうな予感からだ。
二人は収穫物を肩に背負って、日が落ちないうちにと、足早にアビスを出ていった。
◇
アビスを出る頃には、夕方になっていた。
二人はそのまま最寄りのファーストフード店でセットメニューとデザートを平らげると、例の身分証明の必要のないグレーの質屋で宝物を売って、カラオケに入った。 スマートフォンの充電を入れるのと、明日に備えて睡眠をとるためだ。
明日は目黒区の後藤邸を特定、侵入し、ここ最近の連絡記録を盗む。 それにはスマートフォンが必須だった。
グレーの質屋の二階に入っていた、ハンターショップで見つけた、何の技術もなしに情報を抜き取る特殊なUSBメモリ。 これを使って、後藤のメインPCから情報を抜いて、図書館のPCを介し、スマートフォンに転送する。
カラオケでは、閉店時間までフリータイムを予約した。 四時間ずつ交代で眠る予定である。
アリスが腹が減ったというので、サバイバルナイフで深めに左腕を何ヶ所か切って、いつもより多めの血を与えた。 明日は彼女に、普段とは違う、気を使うであろう仕事をしてもらわなければならないからだ。
貧血気味で久しぶりの柔らかいソファーにもたれかかると、蓮はすぐに眠りに就くことができた。
◇
アリスを起こすと、会計を済ませ、二人は足早に最寄り駅へと向かった。
満員電車に揺られて、目黒駅に着いた。 なぜ、この時間帯に、わざわざ満員電車に乗る必要があったのかというと、時間に余裕が欲しかったからだ。
目黒駅を出て、青葉台まで向かいブログやSNSの写真の風景から家を特定。 そのあとは後藤の妻「後藤 夏美」がSNSで発言していた、今日の午後からのお茶会で家を空けるタイミングに邸内に侵入しなければならない。 何事に関しても、時間に余裕を持っているに越したことはないだろう。 朝早くに電車に乗ったのは、そのためだった。
目黒駅を出て、マップアプリに従い青葉台に辿り着く。 運が良かったのか、それからほどなくして後藤邸と思しき大きな家の前に辿り着く。
スマートフォンを開いて、時間を確かめる━━十二時三十六分。 まだ、早い。
お茶会は十三時半から、近所の喫茶店で開かれる予定だ。 用もなく家の付近を歩いていて、怪しまれて通報されないように、二人は住宅街を歩いて、時間を潰すことにする。
ラジオを流しながら犬の散歩をしている、酷く痩けた白髪の老年男性が前から歩いてくる。 ラジオでは「少女の姿の悪魔を連れた、逃亡中の殺人犯らしき人物が、都内の監視カメラに映っていた」という旨のニュースが流れていて、頬に冷や汗が伝った。 老年男性は心做しか、こちらに意識を向けているような気がする。
ウィリントンのサングラスの奥の目が緊張でどこを向けばいいのか、老年男性から目を逸らして周辺を舐め回すように見ている。
「こんにちは」
結果、蓮は先手を取ることにした。 アリスの身長は百二十センチ弱、そして今日は土曜日━━若い父親と仲のいい娘が、散歩をしている風に装うと考えた。
「こんにちは。 あまり見ない顔ですが、ここら辺の人ですか?」
老年男性が食い付いてくる。 一見すると、訝しんでいる風には見えないが……
緊張感で蓮の心臓が激しく鼓動を打つ━━
「あっ、あの……」
平生を装うとするあまりに、かえって不審がられるようになってしまう。
「あの……近くでトイレのあるコンビニを知りませんか? お兄さ……お兄ちゃんが漏れちゃいそうだって……」
蓮はよくやった! と思い、すぐさま設定を変えて、アリスの兄になりきる。
「そうなんですよ……ハハ」
アリスの名演技っぷりに比べて、蓮は大根役者のようであった。 自責の念と、羞恥に包まれる。
「あぁ、それでしたら……えーと、あそこを右に曲がって、真っ直ぐ行って、二つ目の信号を曲がったところにありますよ。 お気を付けて」
老年男性は笑顔を浮かべながら、両手を使って道案内をしてくれた。
「あ、ありがとうございます! 行くぞ、アリス」
不審がられていない様子。 蓮はそう言うと早歩きでアリスの手を繋ぎ、コンビニの方へと向かって行った。
「さっきは危なかったな……助かったよ」
さっきの老年男性が見えなくなった辺りでアリスの頭を撫でてやる。
「いえいえ、どういたしまして」
んふふともえへへともつかない笑い声を漏らして、アリスは深々とお辞儀をした。
そのまま時間を潰すために例のコンビニに向かって、アリスに少し高いアイスを買ってやる。 蓮は緑茶を買い、店を出ると一気に半分くらい飲んでしまう。 緊張で喉が痛いくらいに乾いていたのだ。
さっき来た道を戻って、再び後藤邸の前に立つ━━時間は十三時半に満たないくらい。 喫茶店までの距離を考えると、もう後藤妻はここにいないだろう。
蓮はまだ見ぬ仇敵と退治した時のように、後藤邸を睨めつける。 この中に自分達の無実を証明する、何者かの工作の形跡が残っていることを信じて。
伸びをして半開きの瞼を何回か擦ると、不敵な笑みを浮かべて蓮を見つめはじめる。
「今度は私の番です」
と言って、交代で見張りをするのかと思うと、ペタンと女の子座りをして手招きをしている。
「なんだ?」
「だから、今度は私がお兄さんを寝かせてあげるんです」
太腿を手のひらでパンパンと叩く。
「いやなに、必要ないが……それに、そんなふしだらなこと……うわっ!」
蓮は逡巡する間もなく、悪魔の膂力で無理矢理に膝に寝かしつけられた。 自分がしてやったように、額を優しく撫でられる。
不本意ではあるが、次第に疲れが溜まっていたのもあり瞼が重くなってくる。 抵抗しようとした手にあまり力が入らない。
もっとも、悪魔であるアリスの力を押し負かすことなど不可能なのだが。
「ふふ……お兄さん、赤ちゃんみたいで可愛いです」
もう蓮はアリスが何を言っているのかも聞き取れこそすれど、言葉の意味を咀嚼できていなかった。 既に片足が夢の世界に入り込んでいる。
実に五時間は思考回路を稼働させていたのだ、仕方ないだろう。
いけない……アリスにこんなことをさせては……
しかし、そんな意思もすぐに疲労に塗り潰され、蓮は完全に眠りに落ちる寸前。 幼児からする独特の優しい香りに、柔らくて暖かい太腿━━驚くべきか、人間だったら十は歳が下の少女の膝枕は想像以上に寝心地が良い様子。
蓮は幼女に膝枕されて眠ることに、満更でもない自分がいるのが悔しい気持ちも程々に、久しぶりの充足感に満たされた眠りに落ちる。
◇
俺はアリスと二人で遠くに雲に山頂が隠された富士山を眺めながら、湖にテントを張って、その外で火を焚きながらコーヒーとココアを飲んでいた。
していたのは他愛ない会話だが、それ以上に至高なものはないと思う。
また、そんな会話の中、文脈を無視して「悪魔に心はあるのか」という質問が飛んできて、回答に困ってしまった。 なので、人間の心だって脳の電気信号が作り出したものなんだ、心の有無なんて、気にすることじゃない。 と、茶を濁した。
彼女が望んでいた回答はそんなものではないのは、分かっていたが、極度の緊張感に当てられて、何か言わないといけない、と急かされた結果なのだ。 仕方ない。
それを聞いたアリスは下手くそな笑いを浮かべて、何かを言っていた。
それを見て、俺は悪魔にも、いやアリスにだけは間違いなく、心があるものなんだと思うことができた。
心のない者に、こんなフォローができるだろうか。 心のない者に、仲間の死を悲しむことができるだろうか。
答えは否だ。 仮に悪魔に心が存在しなくても、これらが俺を何らかの理由で丸め込むための姦策の一部だったとしたら、騙されてしまっていいかとも思った。
俺はそれほどまでにアリスを……大切に思っているのだと思う。
一日でも早く、こんな日々が送れるようになればいいのに。
そう願ったら、夢は覚めてしまった。
◇
蓮が目を覚ましたのはアリスの太腿の上ではなかった。 目を開けて最初に入ってきた情報は、視界いっぱいに広がる金銀財宝━━━━
アリスはどこだろう。 考えて、後ろから音を聞いた。
すぅ、すぅ、という音がする。
振り返ってみると、アリスは蓮にもたれかかる形になって、眠っていた。 スマートフォンを開いて時間を確認すると、朝の十時を過ぎた頃だった。 アリスが目を覚ましたのが五時頃だから、五時間は眠っていた計算になる。
やっぱり、子どもだな。 と、蓮は笑みを浮かべてアリスの額を撫でてやった。
すると、しばらくしてアリスは目を覚ます。
「おはようございます。 お兄さん」
言って、大きく伸びをしたあとに大きな欠伸をする。
「あぁ、おはよう」
「あっ、私……途中で眠ってしまっていたんですね……申し訳ないです」
アリスは心底、申し訳なさそうな顔をして謝罪をした。
その顔は、怒られることを懸念して、というよりは、本当に申し訳ないと思っている顔だった。
「結果的に、何もないんだからいいんだよ。 気にすんな、宝物を詰めたら飯でも食いに行くか」
「はい!」
アリスは満面の笑みを浮かべると、地面に置いていたリュックサックを引ったくり、宝物の山に駆け出す。
蓮も遅れて山に向かって、見るからにグレードの高い武器と、大きな金塊をリュックサックに詰めていく。
作業が始まって三十分くらい。 二人のリュックサックはパンパンになった。
また、その中で蓮は宝物の中でもとびきりグレードの高いであろう武器を見つけていた。 性質(スキル)持ちの、鍔のない脇差だ。 鋼色の刀身に、漆黒の持ち手と鞘をしている。
性質持ちとは、例えば刀であったら切れ味や耐久性以外に"人間の創造物では有り得ない、非科学的な性質を宿しているもの"のことである。 その大半が人の手には余り、質屋に流される性質持ち。
しかし、蓮はその脇差を携帯しておくことにした。 例の店では、やはり大した額にならないだろう、という考えと、なんとなく役に立ちそうな予感からだ。
二人は収穫物を肩に背負って、日が落ちないうちにと、足早にアビスを出ていった。
◇
アビスを出る頃には、夕方になっていた。
二人はそのまま最寄りのファーストフード店でセットメニューとデザートを平らげると、例の身分証明の必要のないグレーの質屋で宝物を売って、カラオケに入った。 スマートフォンの充電を入れるのと、明日に備えて睡眠をとるためだ。
明日は目黒区の後藤邸を特定、侵入し、ここ最近の連絡記録を盗む。 それにはスマートフォンが必須だった。
グレーの質屋の二階に入っていた、ハンターショップで見つけた、何の技術もなしに情報を抜き取る特殊なUSBメモリ。 これを使って、後藤のメインPCから情報を抜いて、図書館のPCを介し、スマートフォンに転送する。
カラオケでは、閉店時間までフリータイムを予約した。 四時間ずつ交代で眠る予定である。
アリスが腹が減ったというので、サバイバルナイフで深めに左腕を何ヶ所か切って、いつもより多めの血を与えた。 明日は彼女に、普段とは違う、気を使うであろう仕事をしてもらわなければならないからだ。
貧血気味で久しぶりの柔らかいソファーにもたれかかると、蓮はすぐに眠りに就くことができた。
◇
アリスを起こすと、会計を済ませ、二人は足早に最寄り駅へと向かった。
満員電車に揺られて、目黒駅に着いた。 なぜ、この時間帯に、わざわざ満員電車に乗る必要があったのかというと、時間に余裕が欲しかったからだ。
目黒駅を出て、青葉台まで向かいブログやSNSの写真の風景から家を特定。 そのあとは後藤の妻「後藤 夏美」がSNSで発言していた、今日の午後からのお茶会で家を空けるタイミングに邸内に侵入しなければならない。 何事に関しても、時間に余裕を持っているに越したことはないだろう。 朝早くに電車に乗ったのは、そのためだった。
目黒駅を出て、マップアプリに従い青葉台に辿り着く。 運が良かったのか、それからほどなくして後藤邸と思しき大きな家の前に辿り着く。
スマートフォンを開いて、時間を確かめる━━十二時三十六分。 まだ、早い。
お茶会は十三時半から、近所の喫茶店で開かれる予定だ。 用もなく家の付近を歩いていて、怪しまれて通報されないように、二人は住宅街を歩いて、時間を潰すことにする。
ラジオを流しながら犬の散歩をしている、酷く痩けた白髪の老年男性が前から歩いてくる。 ラジオでは「少女の姿の悪魔を連れた、逃亡中の殺人犯らしき人物が、都内の監視カメラに映っていた」という旨のニュースが流れていて、頬に冷や汗が伝った。 老年男性は心做しか、こちらに意識を向けているような気がする。
ウィリントンのサングラスの奥の目が緊張でどこを向けばいいのか、老年男性から目を逸らして周辺を舐め回すように見ている。
「こんにちは」
結果、蓮は先手を取ることにした。 アリスの身長は百二十センチ弱、そして今日は土曜日━━若い父親と仲のいい娘が、散歩をしている風に装うと考えた。
「こんにちは。 あまり見ない顔ですが、ここら辺の人ですか?」
老年男性が食い付いてくる。 一見すると、訝しんでいる風には見えないが……
緊張感で蓮の心臓が激しく鼓動を打つ━━
「あっ、あの……」
平生を装うとするあまりに、かえって不審がられるようになってしまう。
「あの……近くでトイレのあるコンビニを知りませんか? お兄さ……お兄ちゃんが漏れちゃいそうだって……」
蓮はよくやった! と思い、すぐさま設定を変えて、アリスの兄になりきる。
「そうなんですよ……ハハ」
アリスの名演技っぷりに比べて、蓮は大根役者のようであった。 自責の念と、羞恥に包まれる。
「あぁ、それでしたら……えーと、あそこを右に曲がって、真っ直ぐ行って、二つ目の信号を曲がったところにありますよ。 お気を付けて」
老年男性は笑顔を浮かべながら、両手を使って道案内をしてくれた。
「あ、ありがとうございます! 行くぞ、アリス」
不審がられていない様子。 蓮はそう言うと早歩きでアリスの手を繋ぎ、コンビニの方へと向かって行った。
「さっきは危なかったな……助かったよ」
さっきの老年男性が見えなくなった辺りでアリスの頭を撫でてやる。
「いえいえ、どういたしまして」
んふふともえへへともつかない笑い声を漏らして、アリスは深々とお辞儀をした。
そのまま時間を潰すために例のコンビニに向かって、アリスに少し高いアイスを買ってやる。 蓮は緑茶を買い、店を出ると一気に半分くらい飲んでしまう。 緊張で喉が痛いくらいに乾いていたのだ。
さっき来た道を戻って、再び後藤邸の前に立つ━━時間は十三時半に満たないくらい。 喫茶店までの距離を考えると、もう後藤妻はここにいないだろう。
蓮はまだ見ぬ仇敵と退治した時のように、後藤邸を睨めつける。 この中に自分達の無実を証明する、何者かの工作の形跡が残っていることを信じて。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる