デビル・サモン・リベンジャー〜家族を殺され、国家指名手配犯になった俺が国家に復讐〜

白木 犀

文字の大きさ
1 / 22

第二十話/ありがとう

しおりを挟む
それから蓮は様々な方法で「早見 蓮」の倫理のトリガーである絢音に殺され続けた。 その回数、千に及ぶ。

理性が摩耗するほどの激痛を伴う殺害をされては、意識と体の状態が戻って、また殺されてを千回近く繰り返されて、蓮はもう痛みを乗り越えるだけで精一杯で、何か打開策を考えるということは、とてもできなかった。

その間、色々な真実が絢音の口から打ち明けられた。

蓮の見ている世界は集合的無意識にあるという知識の泉(イデア)から成り立っている、あったかもしれない世界であること。
それはつまり、現実世界にもアビスや悪魔の類が存在していることを意味している。

ちなみに絢音は現実世界のアビスのとある悪魔か人間の形を借りている存在らしい。

蓮の意識の中という限定的な空間でのみ、絢音の持つ「改編能力」が作用しており、様々な人間や機関を洗脳し、蓮を指名手配にしたてあげたこと。

W.O.Uを影から支配していた人物A.Hとは「早見 絢音」であること。

などが告白された。

もっとも、痛みに耐えるのが手一杯というのと、それらは全て夢の話で、それらに情緒を突き動かされる、驚きに目を剥くということはなかったのだが。

千五回目の殺害の時に、絢音はチェンソーの電源を入れるのに手こずっていて、少しだけ考える時間ができた。 こんな時に考えるべきことは「なにをするべきか」なのだろうけど、蓮は「なんでこうなってしまったのか」について考えた。

現実世界の早見 蓮は植物状態になっている。 と聞かされているが、その記憶はない。
物心ついた時から、今に至るまで記憶は一直線に繋がっていて、いつから夢の世界に入門していたのか、想像もつかない。

かくして、そんなことを考えるのは無駄だと悟る。
しかし、蓮には少女の膂力を押し返す力もないし、仮に絢音を退けられても、公安ハンターなんかを派遣されたら勝ち目は皆無、何をどう考えても、この状況から逃れるのは不可能に思える。

だったので、アリスとの辛くも楽しかった逃亡劇について思いを馳せることにした。三人の悪魔やアリスに出会うまでは、辛いことしかなかったからだ。 

先の辛いことを考えるよりも、楽しいことを考えた方がいいという単純な考え方であったが、それは思ったよりも良い効果を発揮した。

アリスは死んでしまった。 なんなら、実在しない存在なのかもしれない。
しかし、彼女との思い出は、確実に蓮の中に残っている。

そう考えたら、虚無感から抜け出すことができた。
もっとも、それは絶えず与えられている激しい痛みが忘れさせただけのことなのかもしれないが。

アリスの笑顔を鮮明に思い出した辺りで、首を黄色を基調とした、アメリカのB級ゾンビ映画に出てくるようなチェンソーで切断されて頭と体が離れ離れに、そうして蓮は千六回目の死を迎えた。



耳から長い錐のようなものを突き刺されて、脳を掻き回されて殺されるという、非常に狂った殺害の次、千六百七回目の殺害の時に、蓮は一つの疑問に突き当たる。

逆に今までなんで、気付けなかったのか。
蓮は気付いていないが、答えは明白であった。

アリスの死を乗り越えたことで、自然、生きようと考えられるようになったのである。

千数百回と殺されれば、流石に痛みも多少は飼い慣らせる。 突き当たった疑問について、ひたすら考える。

ただ、無念にその思考だけを加速させていく。

「なぜ、絢音は自分とアリスを引き合わせたのか」

絢音の話を聞く限りでは、アリスの心臓に「早見 蓮の意識を統率する役割」があり、それを内面化している絢音はこの夢の世界を自由に作り替えられているということらしい。

なら、なぜ蓮よりも先にアリスを捕獲しに行かなかったのか。

公安の人間に任務を遂行させれば、確実であっただろうに。

アリスと自分を引き合せる、その行為に必然性がないことに気付いた蓮は、そこから思考を広げていく。

あくまで何の論拠もない、想像ではあるがアリスの心臓は最初は何の意味も持たなかったのではなかろうか。

自分と旅を続け、彼女が自分にとってかけがえのない存在になることで「早見 蓮」という人間の意識を統率させるくらい重要な存在になったのではないか。

アリスとの仲が深まったことで、初めて彼女の心臓は「意識を統率する」という役割を課せられたのではないか。

そして、なぜあのタイミングでなければいけなかったのか。
公安ハンター第二課という強力な駒があれば、アリスが蓮にとってかけがえのないものになった時に奪えばいい。

W.O.Uの計画を阻止するその日に、蓮の中のアリスの重要度が及第点に達しているという保証はあったのだろうか。

違うだろう。

もしかしたら、アリスが意識を統率する役割を持ったのは━━━━

思考がそこまで加速したところで、洋式トイレに頭を沈められ、そこに尻を乗せられる形で脱出不可にされた後に窒息死した。



殺害回数が二千回に近くなる頃には、蓮は痛みをある程度、飼い慣らすを超えて、「痛みに悶絶すること」と「思考すること」を分けて行えるようになっていた。

時間にして初めての殺害から四時間ほどが経過、風呂場の窓から見える空はどどめ色と赤黒い血の色をお互いの色を殺さない程度に混ぜたような、ありえない色彩に染まり、外からは絶えず人間の高低様々の悲鳴に混じって、悪魔の出すような甲高い笑い声の混じった奇声が聞こえてくる。 絢音の言った通り、彼女が意識の統率権を獲たことで、世界が狂ったものに変えられてしまった様子。

眼前に大振りの斧が迫る幕間、蓮は一つの仮説に辿り着く。

「自分を絶望させることに、なんらかの意味があったのではないか?」

アックスは蓮の壁に思いっきり沈み込み、割れた頭蓋から潰れた脳がはみ出し、風呂場の四割ほどが血色に染まる。

再び意識が戻ると、今度は最初は白く、汚れ一つなかったが、殺害を重ねるうちに己の血と潰れた贓物に塗れている、世界で一番狂っているであろうベッドの上に寝転んでいた。

ぎぃ、とベッドの軋む音がして、首を動かして音のした方を見ると、不思議なことに、狂気と血液と贓物に染まって、より一層美しくなった絢音の姿があった。

どくん、と心臓の跳ねる音がする。

そうか、俺は━━━━

そうなると、絢音の存在意義は━━━━

それは、半ば半狂乱の考えであったのかもしれない。

蓮はほとんど考えなしに半ば欲望の成すままに、こちらに銃身を構えている絢音に抱きついた。

一秒、二秒と無言の時が続く━━━━

刹那の静寂が蓮には無限にも思えた。

明らかに一分以上が経過する━━━━

ふふ、と実に幸せそうな絢音の笑い声が漏れる。

「やっと、気付いてくれたんだ」

その一言で、蓮は全てを理解する。

時は遡ること、十年前。

家庭内暴力が原因で父と別れた母が新しく、チンピラのような男を連れてくる。
半年ほどの交際を経て蓮の義父になったその男は、自分は家庭内暴力や反社会行為を繰り返しているくせして、蓮には誠実で、勤勉であることを強制した。

当時の蓮は、彼の圧政に対抗する術はなく、殴られるのが嫌で、ただ黙って、誠実であることが正しいのだと言い聞かせて生きていた。

そして、いつか、気付けば、それが自分の本質へと変わっていた。

蓮は、常識や倫理を信仰するあまりに、自分の中の好奇心、欲望を無理やりに押し殺し、否定していたのだ。 欲望が、欲望に忠実な絢音がこんなに好きであるにも関わらず。

絢音は、否、自分の中の欲望は必死に、植物状態の自分にそれに気付かせようとしてくれていた。

「……ありがとう」

するすると、絢音が蓮の腕の中から抜けていくのかと思ったが、違う。

絢音が百二十センチほどに縮んでいたのだった。

「いいよ。 けど、あっちでは優しくしてね」

幼くなった声色で、しかし少女の姿の時から変わらない、子どもを安心させるような優しい話し方で蓮にそう言ってくれる。

「あぁ、じゃあな……また、会おう」

「うん……じゃあね」

ちゅ、と蓮はいきなり絢音に唇を奪われて、殺されていた時よりも驚く。 そして、そんな自分を可笑しいと思う。

蓮の中の矮躯の温もりは、意識がブラックアウトしてもしばらくは残っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート魔力のせいで世界の管理者に目を付けられましたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる―― そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。 交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。 だがその力は、本来存在してはいけないものだった。 知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。 その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在―― 「世界を束ねる管理者」 神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。 巻き込まれたくない。 戦いたくもない。 知里が望むのはただ一つ。 金を稼いで楽して生きること。 しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。 守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。 金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる 巻き込まれ系異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...