呪われた令嬢の辺境スローライフ

文字の大きさ
7 / 29

第7話 盗賊

しおりを挟む
 クロエは、馬車に揺られながら、次の町を目指していた。
 王都を出てから2ヶ月以上が経過しており、イステリアへの道程も8割近くまで到達した。

 かなり辺境の土地なので、乗合馬車を利用する人間はかなり少ない。
 今乗っているのも、8歳の少女を連れた親子だけだ。
 
「お姉ちゃんはどこまで行くの?」

 銀髪の少女がクロエに質問した。
 一月前に少女と会話してからクロエは妙に懐かれてしまった。
 この様にちょいちょい話しかけられており、クロエもそれを許容していた。
 この2ヶ月、ずっと馬車で旅をしているので、クロエも孤独を感じていた。
 だから、少女との会話は少しだけ嬉しかった。

「・・・イステリアよ」

 クロエが答えると、少女はルビー色の瞳を大きく開き、輝かせた。

「私達と一緒だね!」

 少女の目的地がクロエと同じと聞いて、クロエは仮面の下で目を見開いて驚いた。
 呪われた姿を見せるわけにいかないクロエは、イステリアに着いてからも人目を避けて隠れて過ごす必要がある。
 だから、余り親しい人間を作る事は避けたかった。
 何より、自分の中の殺人衝動を抑えるため、人間との関わりは最低限にする必要がある。

 この少女とも深く関わるべきでは無かった。 

「・・・そうなんだ」

 クロエは、素っ気なく返事をして、これ以上話をするつもりは無いと意思表示するかの様に腕を組み、眠るふりをした。

「っ!?」

 しかし、その瞬間、クロエの耳に微かだが矢が放たれる音が聴こえた。
 石像に呪われてから、クロエの五感は獣並みに鋭くなっており、微かな風切音を拾ったり、遥か遠くの臭いまで嗅ぎ分けられる様になっていた。

 次の瞬間、ヒヒィーンと馬の叫び声がして、馬車が揺れた。

「ぐわぁっ!?」

 御者のお爺さんの胸や顔に無数の矢が突き刺さり、椅子から転げ落ちる。

「敵襲!?」

 クロエ達が座っている荷台にも、矢の雨が降り注いだ。
 布を張っただけの荷台の屋根は、瞬く間に突き破られて、クロエ達に襲いかかる。

「きゃあああ!?」

 少女を庇った母親の背中には、大量の矢が突き刺さって死んでいた。


「伏せて!」

 クロエは、少女に母親の骸の下から動かない様に指示した。

 当然、クロエにも無数の矢が降り注ぐが、風の魔力を持つクロエは、風の衣を纏い、全ての矢を弾き飛ばした。

「・・・盗賊ね」

 馬車を取り囲む様に現れたのは、20人近い武装した男達だった。
 使い終わった弓矢やボウガンを地面に落とした男達は、剣や斧を抜き、生き残りがいないか警戒している。

 荷台を引く馬と御者は射殺されてしまったので、もう乗合馬車は使えない。
 少女は、母親が殺されたにも関わらず、声を殺して、静かに涙を流していた。

「・・・強い子ね」

 クロエは、自分の母が死んだ日を思い出した。
 泣きじゃくっていた自分とは違い、必死に唇を噛み締めて泣くのを耐えていた父親の姿と少女を重ねて、胸が押し潰されそうになる。

「少しだけ待っててね」

 クロエは、荷台から飛び降りて、盗賊達を眺めた。

「生き残りがいるぞ!」
「1人なら楽勝だろ?」
「さっさと殺して、積荷を奪え!」

 盗賊達は、仮面を付けたフード姿のクロエを見て、明らかに油断していた。
 クロエの周囲には、矢で射られた死体が転がっており、血の臭いが充満していた。

 良い匂い。
 
 血の匂いで、クロエの中にある殺人衝動は既に限界まで達していた。
 目の前にいる人間達を引き裂いて、骨を噛み砕いて、血を啜り、内臓を掻きむしりたい。
 そんな欲求で頭の中が染まっていき、残っていた僅かな理性が無くなっていく。
 
「盗賊なら・・・殺しても良いよね?」

 その瞬間、クロエの欲求が爆発した。

 人間の域を超えた脚力で、地面を蹴ったクロエは、一瞬にして、盗賊達との距離を詰めると、右手で盗賊の心臓を貫いた。

 鋭く伸びたクロエの爪は、鋼の様に硬く、人間の皮膚を豆腐の様に切り裂ける。
 
「・・・美味しそう」

 クロエは、爪に付いた血を見つめて、恍惚とした表情を浮かべた。
 
「ば、化物だ!」
「こいつ危険だぞ!」
「囲んで袋にしろ!」

 慌てた盗賊達は、武器を振るう。
 しかし、その全てがクロエには、スローモーションの様に遅く見えていた。

「そんな攻撃、当たらないよ?」

 クロエが爪を振るえば、盗賊達の柔らかい肉が裂け、血飛沫が舞う。
 全能感とも言える感覚に麻痺したクロエの頭は、考える事をやめていた。

「アハハハ!楽しい!」

 まるで、初めて狩の喜びを知った狼の子供の様にクロエは、返り血に染まりながら、盗賊達を玩具にした。

「こ、コイツ、人間じゃねぇ!」

 圧倒的人外の力を有したクロエを前にして、盗賊達は自分達が狩られる側である事を悟った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―

酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。 でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。 女神に導かれ、空の海を旅する青年。 特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。 絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。 それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。 彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。 ――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。 その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。 これは、ただの俺の旅の物語。 『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...