呪われた令嬢の辺境スローライフ

文字の大きさ
15 / 29

第15話 イステリア

しおりを挟む
 森を抜けると、切り立った崖の向こうに大きな青い海が見えた。
 どこまでも続いている水平線は、青い空と繋がっている様にも見える。

「・・・綺麗」

 生まれて初めて見る海に、クロエは、感動していた。
 この広い大海原を見ると、自分の抱えている悩みなんて、とても小さな事の様に思えてしまう。

 クロエのエメラルドグリーンの瞳には、自然と涙が浮かんでいた。
 それは悲しいからでは無く、嬉しいからでも無かった。
 自分でも分からないが、何故か涙が止まらない。

 暫く、海を眺めたクロエは、大きく深呼吸をした。

「よーし!やるぞー!」

 クロエは、両手を広げて風を感じた。
 新しい風だ。
 ここから、私の新しい生き方が始まる。
 
 クロエは、不安と期待に胸を膨らませて、笑った。
 数歩前に進むと、切り立った崖の下には砂浜が続いているのが見えた。
 そして、右手に目を向けると、岬の方に大きな港街が見えた。

「・・・あれが、イステリアね」

 赤や青のカラフルな屋根が並んでおり、港には沢山の船が往来していた。
 空にはウミネコ達が羽ばたいており、漁船を追いかけながら鳴いている。

 街には活気があり、辺境の地とは思えないくらい人がいっぱいいた。

「今日から、ここが私の住む街になるのね!」

 クロエは、再びカバンから取り出した白い仮面と黒いフードで犬耳と尻尾を隠してイステリアへ入っていた。

 見慣れないクロエの姿に、街の人間は、少し怪訝な目を向けるが、海辺の街の人間らしく、懐が広いのか、直ぐに気にしなくなった。

 ここは、辺境の地だから、犯罪者や逃亡奴隷なんかが逃げてくる事も少なく無い。
 だから、いちいち他人の事を気にする様な事はしない。

 クロエが最初に向かった先は、冒険者ギルドだった。
 冒険者ギルドは、ある程度大きな都市や街ならだいたい在る。
 ここイステリアにも冒険者ギルドの支部があると聞いていた。

 地図を見ながら、街の中心部に在る冒険者ギルドを訪れたクロエは、建物を見上げていた。

「王都ほどじゃないけど、思っていたより立派ね」

 王都の冒険者ギルドは、木造三階建の屋敷の様な造りだったが、イステリアの冒険者ギルドは、石造りで堅牢な建物だった。
 王都と同じく3階建で、1階に受付や酒場、解体場などが設置されており、2階には宿屋や素材買取屋に武器屋やアイテム屋などが入っている。
3階はギルドマスターの部屋や重要な依頼の打ち合わせや会議を行う場所となっているらしい。

「辺境の地だから、もっと廃れているのかと思ってたわ」

 良い意味で想像を裏切られたクロエは、楽しそうに受付窓口に向かった。

「本日はどの様なご用でしょうか?」

 金髪の美人な受付嬢が対応してくれた。

「すみません、冒険者カードの変更手続きをお願いしたいんですが」

 そういうと、クロエはポケットから冒険者カードを取り出してカウンターに置いた。
 冒険者カードは魔鉱石で作られた金属製のプレートで、本人の魔力を判定するので、偽装や不正はできない様になっている。
 身分証としても使えるので、便利だ。

 クロエの冒険者カードには、Cと大きく刻まれており、名前の部分には、クロエとだけ記載されていた。
 王都で冒険者登録をした時に、バレない様に家名は伏せていたから、ここでも問題無く使える。

「王都支部Cランク冒険者のクロエ様ですね、では、本日からイステリア支部の冒険者として登録させて頂きます」

 冒険者カードは、魔力を持つ魔鉱石で作られているので、冒険者ギルドは、魔導具を使用して、冒険者カードの内容を読み取ったり、書き込んだりする事ができる。

 これで、イステリアでも冒険者として仕事を受けられる。

 独りで生きて行く上で、職を持つ事は何より大事だ。
 元々は、世界一の大富豪であるハートフィリア家の令嬢だが、今は唯のクロエだ。
 多少のお金は持ち出して来たが、一生食べていける様な金額では無い。

「じゃあ、次は住む家を探さないといけないわね」

 着いたばかりだが、今夜寝る場所も決まっていない。
 ここ最近は、ずっと森の中で野宿していたので、久しぶりにベッドで熟睡したい。
 それに、美味しいご飯と温かいお風呂も外せない。
 旅の間は身体を洗えるのは、1週間に一度有れば良い方だったし、あっても川で水浴びする程度だ。
 温かいお風呂、出来れば温泉に入ってゆっくりしたい。

「でも、大衆浴場は無理だしなぁ」

 風呂で裸になった瞬間、犬耳と尻尾がバレて大騒ぎになる事は明らかだ。
 
「この際、家を買うのも手かな?」

 宿屋で暮らすのも良いが、コスパは悪いし、宿屋での生活は共同生活の様なものだ。
 いつまでも仮面とフードを付けていたら怪しまれるし、食事や風呂でうっかり見られる可能性もある。

 何より、人間がずっと側に居ると、殺人衝動を抑えられない可能性もある。

「不動産屋に行ってみるか」

 クロエは、家を買うために冒険者ギルドを後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―

酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。 でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。 女神に導かれ、空の海を旅する青年。 特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。 絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。 それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。 彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。 ――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。 その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。 これは、ただの俺の旅の物語。 『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...