呪われた令嬢の辺境スローライフ

文字の大きさ
25 / 29

第25話 暴食のスライム

しおりを挟む
 エニス・ドラグニルは、2千年前に滅んだ帝国の上級貴族だった。
 由緒正しき騎士の家系であったドラグニル家は、悪を許さず、弱者の為に剣を振るう公正公明を信条としていた。

 そんなドラグニル家の娘として生まれたエニスも、正義を貫く一族を誇りに思い、愛していた。

 ある日、ドラグニル家は、邪神を崇拝する邪教徒の集団を領地で発見した。
 彼等は村人を生贄に捧げて、怪しい儀式を執り行っていた。

 ドラグニル家が率いる騎士団は、村人を救う為に、邪教徒を皆殺しにした。

 しかし、その日の夜、悲劇は起こった。

 儀式を邪魔された邪教徒は、生き残った村人達をウェアウルフに変えて、ドラグニル家へと放ったのだ。

 赤い満月が不気味に輝く夜、百を超えるウェアウルフの群れが、ドラグニル家の屋敷を襲った。

 門番の兵士は瞬く間に首を食い千切られ、悲鳴を上げる暇も無く、惨殺された。
 屋敷に侵入したウェアウルフ達は、使用人やドラグニル家の家族に関係無く、目に付く人間を片っ端から襲い始めた。

 平和だったドラグニル家の屋敷は、瞬く間に地獄絵図へと変わった。

 エニスの誇り高き父や兄も、迎え打つ為に剣を手に取ったが、ウェアウルフの群れに呑み込まれると、悲鳴と共に数百の肉片へと姿を変えた。

 優しかった母は、エニスをクローゼットに隠し、自らが囮となった。
 そんな誇り高き母が、目の前でウェアウルフに犯され、喰われるのを目撃し、エニスの中で憎悪が込み上げる。

 最後まで生き残ったエニスも、結局、邪教徒に捕まってしまった。
 邪教徒は、ドラグニル家に邪魔された儀式の続きを執り行った。

 儀式の生贄には、エニスが選ばれた。

 邪教徒は、エニスの手首を切り裂き、血を抜くと、1000人の赤子から集められた純血と悪魔の血を混ぜた呪われた血をエニスに飲ませた。

 ドブの様な腐った血の味が口から注がれ、喉を通り、体の中から汚されていく悍ましい感覚に恐怖した。
 誇り高いドラグニル家の血が抜けて、禍々しい呪われた血が身体を満たして行くと、エニスの美しかった金髪は、月の色を反射した様な銀色に変わり、琥珀色の瞳は血の様な赤に変わった。

 儀式により、不死の吸血鬼であるヴァンパイアロードとして生まれ変わったエニス・ドラグニルは、ウェアウルフへの強い憎しみにより、ギリギリで自我を保っており、復活と共に、その場にいた邪教徒とウェアウルフを皆殺しにした。

 それが、エニス・ドラグニルの人間としての最後であり、魔物としての始まりだった。

 それ故に、エニスは、ウェアウルフを憎み、忌み嫌っていた。

 誇り高き、父と兄を惨殺し、美しく気高い母を汚し、陵辱したウェアウルフを許す事は出来ない。

 2千年経った今も、愛する家族が目の前で殺された光景は、目に焼き付いており、クロエを見た瞬間、不快感と怒りが込み上げた。

 だが、不思議な事に、ウェアウルフの少女に土下座をさせて、頭を踏み付けた瞬間、何とも言えない快感を覚えた。
 傲慢で残虐なウェアウルフが自分の前でひれ伏しており、踏み潰されても文句すら言えずに屈服していると言う事実に高揚感を覚える。

 憎きウェアウルフに鬱憤を晴らしたからだろうか?

 かつて見たウェアウルフとは、見た目は違うが、同族であるなら、このまま頭を踏み砕いてしまおうかとも思った。

 しかし、ピクシーの話では、このウェアウルフの娘は、利用価値が有る。
 地下に封じられた魔王の娘の封印を解除する為には、石板に書かれた古代語を解読しなければならない。

 やっと訪れたチャンスを捨てるわけにはいかない。
 せめて、封印を解除するまでは、このウェアウルフを殺すわけにはいかなかった。

 いや、簡単に殺してしまっては、惨殺された家族の恨みは晴れない。
 生かさず殺さず、このウェアウルフの娘を陵辱し、屈服させ、自分が畜生以下の雌犬だと自覚させてやるべきだろう。

 首輪を付けてペットとして飼うのも悪く無い。
 毎日、跪かせて、踏み付けて、足を舐めさせるのも良いかも知れない。
 踏みつけた時の間抜けな声も耳に心地良い。

 エニスは、クロエを陵辱する光景を想像して、顔を赤らめて興奮していた。

 まさか、目の前の美少女が自分を見て、そんな想像をしているとは、思ってもいなかったクロエは、背筋にゾクッと寒気を感じた。

「・・・オイシソウナニオイ!」

 天井からベチャッと何かが落ちてきた。
 半透明な水色の液体は、ウネウネと蠢いており、クロエの方に近付いて来る。

「す、スライム!?」

 それは、森や草原などに自然発生する魔物であるスライムだった。
 普段見掛けるスライムは、30cmくらいの小型な魔物で、核となる魔石を破壊するか、燃やしたりする事で駆除できるので、危険度はそれほど高くは無い。
 しかし、目の前に迫るスライムのサイズは、3m以上あり、兎に角デカかった。
 グランドスライムと言うスライムが融合して進化した魔物もいるが、それよりも更に大きい。

「タベテイイ?」

「待ちなさいグラトニー!」

 ピクシーの静止を聞かずに、グラトニーと呼ばれた暴食のスライムは、クロエを丸呑みにする勢いで襲い掛かった。

「ひっ!?」

 既に魔力切れで、満身創痍のクロエは、体に力が入らないので、逃げる事も出来ない。
 スライムの体液は普段は水に近い液体だが、攻撃時には、ありとあらゆるモノを溶かして吸収する事ができる酸に変わる。
 小さなスライムですら、触れるだけで火傷の様に爛れる上に、森の中では、木から落ちてきて、顔や頭を狙ってくるので、顔に火傷の痕が残る事で嫌われている。

 まるで、巨大な口の様に全身を広げたスライムがクロエを丸呑みにしようとした瞬間、スライムの体が細切れに斬り裂かれた。

 真っ赤な剣を片手に持つエニスが、クロエの肩を抱き抱えており、スライムから守ってくれたのだ。

「ナニスルノ!?」

 スライムは無事の様で、バラバラになった体をくっ付けて、元に戻りながら、文句を言っていた。

「この雌犬は、私の獲物よ?」

 エニスは、妖艶な笑みを浮かべてクロエを見つめる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―

酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。 でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。 女神に導かれ、空の海を旅する青年。 特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。 絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。 それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。 彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。 ――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。 その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。 これは、ただの俺の旅の物語。 『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...