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第14話 殺意
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夜も更けた頃、クロエは静かにベッドから起き上がった。
隣では、パジャマ姿のユナが、無防備に腹を出して、静かに寝息を立てていた。
ユナの寝ている姿は、可愛らしい少女にしか見えない。
狼の耳と尻尾がフサフサで、思わず触りたくなる欲求に駆られるが、ユナの本性を知っているクロエは、冷静に思い留まった。
隷属の首輪によって奴隷にされたクロエは、ユナの命令には絶対服従を強いられる事になってしまった。
この状況から脱却する為には・・・ユナを殺すしか手段は無い。
クロエは、ユナを起こさない様に慎重にベッドから降りると、隠していたダガーナイフを抜いた。
武器屋で購入した未使用のダガーナイフを握りしめて、クロエはユナを見つめる。
私に・・・人を殺せるの?
公爵令嬢だったクロエは、当然、人を殺した事は無い。
人を殴ったのも路地裏で襲い掛かって来た暴漢が初めてだった。
それ以前は、せいぜい社交界で喧嘩を売って来た令嬢にお茶を掛けたり、平手打ちをする程度で、傷付けた事すら無かった。
自分の手で人を殺めなければいけないと思うと、クロエの手はカタカタと震えていた。
命を断つ事の責任と罪の重さは、クロエの想像を超えていた。
「・・・やらなきゃ」
しかし、今、ユナを殺さなければ、自分は一生奴隷として生きて行かなければならなくなる。
かつて、貴族の最上位である公爵令嬢として生きてきたクロエには、耐え難い屈辱だった。
覚悟を決めたクロエは、ナイフを逆手に持ち、振り上げる。
心臓は、胸骨に守られており、正確に狙うには難しい・・・狙うなら首だ。
気道を潰して、言葉を発せられなくすれば、命令も出来ない。
呼吸を出来なくし、動脈を傷付ければ、出血で死ぬはずだ。
いや・・・ユナはウェアウルフであり、高い自己治癒力を持っている。
首を刺した程度では死なないかも知れない。
クロエは、もう一本のナイフを取り出して、心臓と首の両方を狙う事にした。
「せめて、苦しまずに逝って」
次の瞬間、クロエは思い切りナイフを振り下ろした。
身体強化を発動し、渾身の力を込めて、眠っているユナの首と心臓へ刃を突き刺す。
「・・・何で?」
しかし、振り下ろしたナイフは、ユナに当たる寸前で停止していた。
どんなに力を込めても、壁に当たっているかの様に、それ以上前に進まない。
「もしかして、首輪のせい?」
クロエが自分で首輪を外せない様に、隷属の首輪の効果でご主人様であるユナへの攻撃も禁止されているのかも知れない。
「正解」
「・・・え?」
突然、声を掛けられて、クロエの身体がビクッと跳ねる。
ベッドを見ると、ユナは片目を開けて、クロエを見つめていた。
「起きて・・・いたの?」
ユナが目を覚ましていた事を知って、クロエの顔が見る見る青ざめて行く。
殺そうとしていた事がバレた?
クロエは、直ぐにナイフを後ろに隠して、後ずさった。
「まあね・・・殺気に気付かないとでも思った?」
ユナは、暗い表情で起き上がると、クロエの両腕を掴んだ。
「痛ッ!?」
ユナの万力の様な握力で握られたクロエは、手に力が入らず、ナイフを床に落とした。
「これでも、ちょっとショックを受けてるんだよ?」
ユナは、クロエの顔を覗き込み、怒りと落胆の表情を浮かべていた。
「私のこと・・・殺すの?」
クロエは、ユナの瞳を見て質問した。
奴隷が主人を殺そうとしたのだ。
普通なら、奴隷であるクロエは、その場で殺されてもおかしくは無い。
ナイフを振り下ろす瞬間から、覚悟はしていた。
人を殺そうとしたのだから、殺されても文句は言えないわね。
諦めの表情を浮かべたクロエは、薄く笑みを浮かべた。
「・・・殺して欲しいの?」
その笑みが癇に障ったユナは、クロエの首に手を掛けた。
「カハッ!?」
徐々にユナの手に力が入り、首が絞めつけられて行く。
ユナがその気になれば、クロエの首の骨ごと握り潰す事も容易いだろう。
それも悪く無いか。
このまま惨めに生きるくらいなら・・・死んだ方がマシなのかも知れない。
クロエは、瞳を閉じて、死を受け入れた。
「・・・気に食わないわね」
無様な命乞いを期待していたユナは、クロエの悟った様な態度に苛立ちを覚えて、床に押し倒した。
「ゲホッ!ゲホッ!な、何するのよ!?」
呼吸が止まっていたクロエは、咽せながらユナを睨みつける。
「ニャハハ・・・そんな簡単に死ねると思ったの?」
ユナは、悪意の込められた笑みを浮かべて、クロエを見下ろす。
「どういう意味よ!」
いっそのこと、一思いに殺してくれれば良いのに・・・。
「奴隷の基本は生かさず殺さずが基本ニャ!たっぷり可愛がってやるから覚悟するニャ!」
その瞬間、クロエは床に落ちているナイフを拾い上げると自らの首に向けて突き刺した。
「・・・死ぬ事も許されないの?」
自らの喉元に向けられた刃も先程と同じ様に見えない壁に遮られてしまった。
「ニャハハ!安心するニャ!ウチはアンタを絶対に殺さないから・・・一生可愛がってあげる」
ユナは、クロエに抱きつくと耳元で囁いた。
殺さないという言葉が、呪いの様に重く聴こえた。
隣では、パジャマ姿のユナが、無防備に腹を出して、静かに寝息を立てていた。
ユナの寝ている姿は、可愛らしい少女にしか見えない。
狼の耳と尻尾がフサフサで、思わず触りたくなる欲求に駆られるが、ユナの本性を知っているクロエは、冷静に思い留まった。
隷属の首輪によって奴隷にされたクロエは、ユナの命令には絶対服従を強いられる事になってしまった。
この状況から脱却する為には・・・ユナを殺すしか手段は無い。
クロエは、ユナを起こさない様に慎重にベッドから降りると、隠していたダガーナイフを抜いた。
武器屋で購入した未使用のダガーナイフを握りしめて、クロエはユナを見つめる。
私に・・・人を殺せるの?
公爵令嬢だったクロエは、当然、人を殺した事は無い。
人を殴ったのも路地裏で襲い掛かって来た暴漢が初めてだった。
それ以前は、せいぜい社交界で喧嘩を売って来た令嬢にお茶を掛けたり、平手打ちをする程度で、傷付けた事すら無かった。
自分の手で人を殺めなければいけないと思うと、クロエの手はカタカタと震えていた。
命を断つ事の責任と罪の重さは、クロエの想像を超えていた。
「・・・やらなきゃ」
しかし、今、ユナを殺さなければ、自分は一生奴隷として生きて行かなければならなくなる。
かつて、貴族の最上位である公爵令嬢として生きてきたクロエには、耐え難い屈辱だった。
覚悟を決めたクロエは、ナイフを逆手に持ち、振り上げる。
心臓は、胸骨に守られており、正確に狙うには難しい・・・狙うなら首だ。
気道を潰して、言葉を発せられなくすれば、命令も出来ない。
呼吸を出来なくし、動脈を傷付ければ、出血で死ぬはずだ。
いや・・・ユナはウェアウルフであり、高い自己治癒力を持っている。
首を刺した程度では死なないかも知れない。
クロエは、もう一本のナイフを取り出して、心臓と首の両方を狙う事にした。
「せめて、苦しまずに逝って」
次の瞬間、クロエは思い切りナイフを振り下ろした。
身体強化を発動し、渾身の力を込めて、眠っているユナの首と心臓へ刃を突き刺す。
「・・・何で?」
しかし、振り下ろしたナイフは、ユナに当たる寸前で停止していた。
どんなに力を込めても、壁に当たっているかの様に、それ以上前に進まない。
「もしかして、首輪のせい?」
クロエが自分で首輪を外せない様に、隷属の首輪の効果でご主人様であるユナへの攻撃も禁止されているのかも知れない。
「正解」
「・・・え?」
突然、声を掛けられて、クロエの身体がビクッと跳ねる。
ベッドを見ると、ユナは片目を開けて、クロエを見つめていた。
「起きて・・・いたの?」
ユナが目を覚ましていた事を知って、クロエの顔が見る見る青ざめて行く。
殺そうとしていた事がバレた?
クロエは、直ぐにナイフを後ろに隠して、後ずさった。
「まあね・・・殺気に気付かないとでも思った?」
ユナは、暗い表情で起き上がると、クロエの両腕を掴んだ。
「痛ッ!?」
ユナの万力の様な握力で握られたクロエは、手に力が入らず、ナイフを床に落とした。
「これでも、ちょっとショックを受けてるんだよ?」
ユナは、クロエの顔を覗き込み、怒りと落胆の表情を浮かべていた。
「私のこと・・・殺すの?」
クロエは、ユナの瞳を見て質問した。
奴隷が主人を殺そうとしたのだ。
普通なら、奴隷であるクロエは、その場で殺されてもおかしくは無い。
ナイフを振り下ろす瞬間から、覚悟はしていた。
人を殺そうとしたのだから、殺されても文句は言えないわね。
諦めの表情を浮かべたクロエは、薄く笑みを浮かべた。
「・・・殺して欲しいの?」
その笑みが癇に障ったユナは、クロエの首に手を掛けた。
「カハッ!?」
徐々にユナの手に力が入り、首が絞めつけられて行く。
ユナがその気になれば、クロエの首の骨ごと握り潰す事も容易いだろう。
それも悪く無いか。
このまま惨めに生きるくらいなら・・・死んだ方がマシなのかも知れない。
クロエは、瞳を閉じて、死を受け入れた。
「・・・気に食わないわね」
無様な命乞いを期待していたユナは、クロエの悟った様な態度に苛立ちを覚えて、床に押し倒した。
「ゲホッ!ゲホッ!な、何するのよ!?」
呼吸が止まっていたクロエは、咽せながらユナを睨みつける。
「ニャハハ・・・そんな簡単に死ねると思ったの?」
ユナは、悪意の込められた笑みを浮かべて、クロエを見下ろす。
「どういう意味よ!」
いっそのこと、一思いに殺してくれれば良いのに・・・。
「奴隷の基本は生かさず殺さずが基本ニャ!たっぷり可愛がってやるから覚悟するニャ!」
その瞬間、クロエは床に落ちているナイフを拾い上げると自らの首に向けて突き刺した。
「・・・死ぬ事も許されないの?」
自らの喉元に向けられた刃も先程と同じ様に見えない壁に遮られてしまった。
「ニャハハ!安心するニャ!ウチはアンタを絶対に殺さないから・・・一生可愛がってあげる」
ユナは、クロエに抱きつくと耳元で囁いた。
殺さないという言葉が、呪いの様に重く聴こえた。
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