神殴り代行 異世界放浪記 〜俺の拳は神をも砕く〜

文字の大きさ
55 / 70
第3章 魔法大学ザザン

第55話 嘘から始まる出会い

しおりを挟む
 先ほどまで美しかった中庭は、今や見る影もなく荒れ果てていた。
 衝撃波で巻き上げられた砂や小石が散乱し、整備されていた芝生は抉れ、大きなクレーターまでできている。

(……やりすぎたか?)

 俺は周囲を見回しながら、心の中でそう呟いた。
 試験には合格したものの、こんなに荒らしてしまって本当に大丈夫だったのか……?

 そんなことを考えていた矢先、突然、地面が盛り上がり始めた。
 土が小さく波打ち、まるで生き物のように蠢きながら、次々と人型を形作っていく。

(……っ!?)

 一瞬、身構える。敵意を持った魔物か何かか?
 しかし、よく見ると、それらは子供ほどの大きさの土人形だった。
 数は30体ほど。トコトコとおぼつかない足取りで中庭を駆け回ると、まるで整備士のように地面の修復を始めた。

「……へぇ、面白いな。どうやって動いているんだろうか? これも魔法ってやつか」

 俺は土人形たちの動きを眺めながら、興味深そうに呟く。
 彼らの働きぶりを観察していると、崩れた地面がみるみるうちに元に戻り、抉れてしまった芝生からは、新しい草がにょきにょきと生え出していた。

 まるで時間を巻き戻しているような光景に、俺は純粋な驚きを覚えた。

「そうよ。ゴーレムを見るのは初めて?」

 突然、背後から女の声がした。

(!? いつの間に……!?)

 俺は驚きつつ、振り返る。

 そこに立っていたのは、一人の黒髪の少女だった。
 肩口で切り揃えられた髪が、風にそよぐ。
 黒曜石のような瞳が、まっすぐ俺を見つめていた。

(……綺麗な子だな)

 第一印象は、それだった。

 肌は透き通るように白く、均整の取れた顔立ちには、どこか気品のようなものが漂っている。
 しかし、華奢な体躯と相まって、どことなく小動物のような愛らしさも感じさせる。
 そして、何よりも――

(……日本人っぽい?)

 彼女を見つめながら、俺はふと違和感を覚えた。
 この世界の人間にしては、どこか異質な雰囲気だ。

「ゴーレム? へぇ、便利な魔法だね。部屋の掃除とかに使えそうだ。ところで、君は誰かな?」

 俺が問いかけると、彼女は少し微笑みながら答えた。

「掃除にゴーレムを使う人なんて、聞いたことないけどね。
 私の名前は黒鉄遥くろがねはるか。貴方と同じ、一回生よ。よろしくね」

(やっぱり、日本人みたいな名前だ……)

 この世界で、「黒髪」そのものが珍しいことは、さっきのローゼや野次馬たちの反応から分かっていた。
 だとすれば――彼女も、俺と同じ異世界の人間なのか?

「神谷錬……レン君って言うのね。良い名前ね。
 その髪の色……この辺の出身じゃないみたいだけど、レン君はどこから来たの?」

 遥は俺の瞳を覗き込むようにして尋ねてきた。

 彼女の視線は、どこか真剣だった。

(……しまった)

 俺は少し警戒する。

 この世界では、俺が異世界人であることを知られてはいけない。
 それを隠し通すためには、適当な嘘をつくしかない。

「どこからって言われると……難しいな。
 俺の故郷は、今はすごく遠くて、行けない場所にあるから。名前も知らないと思う。
 ……ただ、君と同じ髪の色の人がたくさんいた国だったよ」

 なるべく自然に、当たり障りのない答えを返す。

 すると、遥は一瞬、目を見開いた。

「……やっぱり。レン君も、ジール大陸……魔境の生存者なのね?」

(ジール大陸? 魔境?)

 俺は、初めて聞く単語に戸惑う。

 だが、彼女の瞳に浮かんだ感情を見て――本能的に、これは迂闊に否定してはいけないと悟った。

(……どうする?)

 しばし迷ったが、最終的に俺は、彼女の言葉に合わせることを選んだ。

「そ、そうだよ」

 俺の肯定に、遥の目が潤んだ。

「やっぱり……良かった……私以外にも、生き残った人がいたのね……!」

 次の瞬間――

 遥は俺に飛びつき、そのまま強く抱きしめた。

(……えっ!?)

 いきなりの抱擁に、俺は完全に固まる。

 細い腕が、俺の背中に回される。
 かすかに感じる体温と、耳元で響く彼女の心臓の鼓動。

 ……思った以上に、彼女は必死だった。

(この娘は……どんな地獄を見てきたんだ?)

 俺には分からない。

 だが――彼女の涙だけは、本物だった。

 だから、俺は言う。

「い、いや、俺も……分からないんだ。ごめん」

「そう……ううん、いいの。一人でも、同じ境遇で生き残りがいるって分かっただけで、嬉しいから」

 遥は涙を拭い、俺の顔を見上げた。
 そして――笑った。

 その笑顔が、どうしようもなく眩しくて、俺は少しだけ胸が痛くなった。

(……この嘘、最後まで突き通さなきゃな)

 俺は密かにそう決意する。

「じゃあ、今日一日、私が学内を案内してあげる! いい?」

 遥は、そう言って満面の笑みを浮かべた。

 俺は――
 この世界に来て初めて、誰かに「一緒にいよう」と言われた気がした。

「……ああ、頼むよ」

 俺は、笑って答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...