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第3章3部
凛花
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「アシェリナッ!!」
「アシェリナ殿ッ!!」
倒れたアシェリナに向かってインネは急いで治癒魔法を唱える。
しかし――
「くっ・・・!!」
「インネ殿、どうされたっ・・・!?」
「魔法力が、もう・・・」
大幅に魔法力を削られた中で、大怪我をしたオクリタに全力で治癒魔法をかけ続けていたインネに限界が見え始めていた。
「エリスさんっ、菲耶さんっ!!」
「は、はいっ!!」
「アシェリナに治癒魔法をお願いしますっ!魔法は制限されているかもしれませんが・・・彼を、アシェリナを――」
最後は言葉にならなかった。眉を潜め今にも泣き出しそうなミトラは、ただの学生でただの子どものようだった。
エリスと菲耶は顔を見合わせ頷くと、急いでアシェリナに駆け寄った。
「All Element 水精霊!」
「All Element 風精霊!」
2人の手のひらに淡い光が灯る。
「精霊の涙!!」
「音風!!」
血の気を失って動かないアシェリナは蝋人形のようだ。そんな緊迫した空気に嗤笑が響いた。
「最強と謳われる上級魔術士も大したことねーな。」
2人の少女の頭を撫でながら、ファルナは愉快そうに口角を上げた。
そこに鋭い鎌風がいくつも放たれたが、ファルナは虫を払うように魔法を打ち消す。
「はぁ、はぁ、はぁっ・・・!!」
両手を向けきつく睨むミトラも顔色が悪い。
「バカの一つ覚えのように同じエレメントを・・・。あんたら、飽きねーの?」
「飽きるも何も、僕たちは使役した精霊と共に生きるんだ。」
「そうやっていつまでも昔のやり方を引きずっているからこんな結果になるんだ。」
「何だとっ――!!?」
「かつて咎人も、負の意識を植え付けることができるのは1つの精霊だけだった。今じゃあ使役権限が解除されて、そんなもの無いに等しいけどな。でも、お前さんたちはどうだ?魔術師も自分のエレメントと同じ種類の精霊を1つしか使役できない。そんなの、かつての咎人と同じ条件じゃねーのか?」
「・・・!」
「火・水・風・土、どれかの精霊を使役して一生その魔法を使い続ける。それってすげー窮屈で不自由だと思わねーか?
魔法力の器をでかくして、努力して、鍛錬して、そのエレメントを徹底的に追求するのが魔術師だ。その成果を生業として生きることがこの世界のステータスであり自然の形といっていい。」
「そうだ。我らが目指す理想の世界がその先にある。お前たちみたいな無頼漢を駆逐することが魔術師の責任でもあり、使命である。」
ファルナが鼻で笑う。
「何がおかしいっ!!」
「刷り込まれた理想を使命と言っちゃうところだよ。」
「なに・・・!??」
「その思考に疑問を持たないこと事態が魔術師の限界を頭打ちにしてるんだよ。そいつがいい例さ。」
ファルナは倒れているアシェリナを指さした。
「弱い立場の人間は助けなければいけない、という魔術師の責任感が思想を縛り自己欺瞞や偽善を生むんだよ。例えそれを掲げ死んだとしても死んだ者を英雄と持ち上げるこの世界こそが異常だとなぜ気づかない。
そいつだって、文と文を霊魔ではなく、少女として見ていたんだろう。本来女の子というのは守らなければならない対象だからな。
女の子だからといって相手は融合霊魔。見た目に惑わされて無意識に手加減した結果、自分が倒されちゃあ世話ねぇな。」
「っ・・・!!」
ミトラは拳をキツく握った。
「それに比べ咎人は自由だ。エレメントにも魔法力の器にも縛られない。日々進化する科学や魔法技術を一つの方向に掘り進めるんじゃなく、あらゆる可能性に手を広げる咎人こそ、この世界を統べる最強の人種と言っていい!」
「・・・お前たちの目的は何なのだ・・・!」
「・・・お前たちみたいな弱い種類の人間を英雄とうたうこの世界を壊し、一から構築し直すんだよ。」
「なんだとっ・・・?!」
「だから、各魔法域の代表が集まるこの機会は絶好のチャンスだった。
とある奴を魁としてこの学園の結界を無効化し、戦力の要となるお前たちを外部と遮断・隔離する。ここでお前たちが殺されれば魔法域の統制は崩れ、攻めやすくなるってわけだ。計画的だろ?」
「貴様らっ・・・!」
「はは。いい顔するねー。では、さらなる絶望をプレゼントしてあげよう。」
ファルナはそう言うと黄金色に輝く石をピンと弾いて見せた。
「その石は・・・?」
「あんたたちが絶対に発現できない魔法を見せてあげる。格の違いを思い知りな。」
ファルナは手に持っていた石に力を込めると、粉々に砕かれた破片を盛大に頭上にばら撒いた。
砕かれた破片から眩い光が溢れ出せば、大量のプラズマが発生しはじめる。
「こ、これは・・・!」
集まったプラズマは急速に収束すると地上めがけて放電を発現させた。
「雷精霊ッ!?」
「聖霊の魔法だとっ!!」
強烈な光を発した落雷は地上へ容赦なく襲いかかる。
マソインとインネは両手を大きく広げた。
「All Element 水精霊!」
「All Element 火精霊!」
「水膜ッ!」「火盾ッ!!」
ぶつかり合う魔法がバチバチッと弾ける。その勢いにインネとマソインは踏ん張り続けなければならなかった。
「さすが魔法域の代表。でも・・・どこまで持つかな。」
高みの見物と言わんばかりにファルナは愉快そうにふんぞり返った。
「くっ・・・!!」
「ふんっ・・・!」
インネの魔法が弱くなっている。インネの様子を見る余裕は無いが、2つの防御壁は明らかに雷精霊に圧されつつあった。
(いつもならこの程度の魔法、拙者一人でどうとでもなるというのに・・・!もっと魔法力の器が大きければ、いや、火精霊以外の精霊を使役できれば・・・!)
マソインは慌てて首を振った。これでは咎人を認めたことになるではないか。
迫る雷精霊の攻撃に防御壁は少しずつその規模を小さくしている。痛む胸を押さえつつ、言霊を唱え加勢しようとしたミトラの腕が引っ張られた。
「ア、アシェリナッ!?」
「アシェリナ様ッ、気がつかれましたかっ!?」
「・・・だ、めだ、ミ、トラ・・・おまえ、が、こわれち、ま、う・・・」
「ア、アシェリナァ・・・!今は君の方がっ・・・!」
アシェリナの傷はふさがっていない。エリスと菲耶の魔法でギリギリを保っている状態だ。
「それ、でも、ミト、ラ・・・これいじょ、う、器に、負担、をかける、な・・・!」
「でもっ・・・!!」
アシェリナはチラリとマソインたちの防御壁を見た。
「こ、のままだと、2人の魔法は、保たな、い。そしたら、全滅、だ・・・。なんとか、しねぇと・・・」
「でも、君のそのケガじゃあ・・・」
アシェリナは懐からある植物を取り出した。
「それハ・・・?」
「・・・レプトパス花?」
それは5枚の白い花びらで、花弁の中心が青くなっている可愛らしい花だった。特に珍しい植物ではなく、学園でも観賞用として飾られていることもある。
アシェリナの持つレプトパス花には数滴の蜜がわずかに光って見える。
「なんでそれを・・・・?」
「説明して、いる、時間はない・・・。水精霊、のエレメントは・・・」
キョロキョロと探す先にインネが目に止まる。しかし彼女は防御壁を張るのに精一杯の様子だ。
「く、そっ・・・!氷さえ、あれば・・・っ!!」
「え、氷ですかっ!??」
アシェリナはコクコクと頷いて見せた。すでに話すことさえできずにいる。
「もしかして、その花を凍らせることができればいいんですか?!」
アシェリナがわずかに反応する。
「花を凍らせたらこの状況を打破できるかもしれない!?」
アシェリナがゆっくりと顔を上げる。すでに視点が合っていないアシェリナの目を見た時、エリスの考えは確信へと変わった。
「ALL Element 水精霊ッ!!」
「エリスッ!?」
突然治癒魔法を止めたエリスは詠唱に意識を集中させる。
「どうしたの、エリスッ!?」
「氷を・・・」
「え・・・?」
「水精霊の上級属性変化を発現させるっ!」
「!!?」
魔法力の出力は制限されている。ましてや、上級属性変化を扱ったことのないエリスが氷を発現させるなんて到底無理な話であり、幾度の練習に付き合った菲耶がそれをいちばんに理解しているだろう。
それでも、エリスの集中は今までにないほどの気迫を感じさせた。
「・・・つぅっ・・!!!」
光を濃く大きく膨らませるように力を込めるが、それは依然小さいままだ。
「アシェリナサマ、しばしのご辛抱を。」
菲耶がスカートをめくり太ももに嵌めたベルトからある物を取り出した。そしてそれをすぐに口元へ持っていく。
魔法がぶつかり合う中で軽やかに澄んだ音が響き渡る。細い線で花と蔦が彫刻してある曲笛を菲耶は器用に吹きはじめた。
「菲、耶・・・の魔術具・・・!」
「何だ、この耳障りな音は・・・!」
ファルナもピクリと反応する。
なめらかに動く指が奏でるメロディーに菲耶は自分のエレメントを乗せていった。
(エリス、私の魔法を使って・・・! ALL Element 風精霊 音流!!)
音が風に乗り、魔法はゆっくりとエリスに注がれていく。すると水精霊の光がわずかに強くなった。
「菲耶の力が・・・!」
エリスは短く息を吐く。情けない、そしてそう思った。
未だに水精霊の上級属性変化も扱えない。この場だって、お祖父様の力がないと入ることさえできなかった。なに一つ、自分だけで成し遂げられていない。
『七光りってやつか。』
アシェリナの言葉を思い出す。腹が立ったが実力を認められるほどの力を、自分は持っていないじゃないか。
あの子は・・・あの子は一人であんな簡単に水精霊を扱えているのにっ!!
再び水精霊の光が弱くなった時、背中に触れる温かな気配を感じた。
音と共に流れる魔法は菲耶のものであり、安心するいつもの気配だった。
エリスの上級属性変化習得の練習に菲耶はいつも付き合ってくれた。焦って自暴自棄になる自分をいつも傍で見ていてくれた。いつも背中を支えてくれた。
「んん・・・っ!!!」
再び光が濃く強くなる。菲耶の魔法力を糧に詠唱に力を込める。
「それでも、いい・・・!今、私にできることを――!」
「文、文、あの笛を吹いている女を殺せ!」
曲笛を奏でる無防備な菲耶に2人の少女が襲いかかった時、エリスが大声を張り上げた。
「菲耶に触るなっ!! ALL Element 水精霊!!」
大きな爆発音とともに冷気が奔る。吐く吐息に白い霞が溶けた時、透き通る巨大な氷壁がエリスの前に現れた。
「アシェリナ殿ッ!!」
倒れたアシェリナに向かってインネは急いで治癒魔法を唱える。
しかし――
「くっ・・・!!」
「インネ殿、どうされたっ・・・!?」
「魔法力が、もう・・・」
大幅に魔法力を削られた中で、大怪我をしたオクリタに全力で治癒魔法をかけ続けていたインネに限界が見え始めていた。
「エリスさんっ、菲耶さんっ!!」
「は、はいっ!!」
「アシェリナに治癒魔法をお願いしますっ!魔法は制限されているかもしれませんが・・・彼を、アシェリナを――」
最後は言葉にならなかった。眉を潜め今にも泣き出しそうなミトラは、ただの学生でただの子どものようだった。
エリスと菲耶は顔を見合わせ頷くと、急いでアシェリナに駆け寄った。
「All Element 水精霊!」
「All Element 風精霊!」
2人の手のひらに淡い光が灯る。
「精霊の涙!!」
「音風!!」
血の気を失って動かないアシェリナは蝋人形のようだ。そんな緊迫した空気に嗤笑が響いた。
「最強と謳われる上級魔術士も大したことねーな。」
2人の少女の頭を撫でながら、ファルナは愉快そうに口角を上げた。
そこに鋭い鎌風がいくつも放たれたが、ファルナは虫を払うように魔法を打ち消す。
「はぁ、はぁ、はぁっ・・・!!」
両手を向けきつく睨むミトラも顔色が悪い。
「バカの一つ覚えのように同じエレメントを・・・。あんたら、飽きねーの?」
「飽きるも何も、僕たちは使役した精霊と共に生きるんだ。」
「そうやっていつまでも昔のやり方を引きずっているからこんな結果になるんだ。」
「何だとっ――!!?」
「かつて咎人も、負の意識を植え付けることができるのは1つの精霊だけだった。今じゃあ使役権限が解除されて、そんなもの無いに等しいけどな。でも、お前さんたちはどうだ?魔術師も自分のエレメントと同じ種類の精霊を1つしか使役できない。そんなの、かつての咎人と同じ条件じゃねーのか?」
「・・・!」
「火・水・風・土、どれかの精霊を使役して一生その魔法を使い続ける。それってすげー窮屈で不自由だと思わねーか?
魔法力の器をでかくして、努力して、鍛錬して、そのエレメントを徹底的に追求するのが魔術師だ。その成果を生業として生きることがこの世界のステータスであり自然の形といっていい。」
「そうだ。我らが目指す理想の世界がその先にある。お前たちみたいな無頼漢を駆逐することが魔術師の責任でもあり、使命である。」
ファルナが鼻で笑う。
「何がおかしいっ!!」
「刷り込まれた理想を使命と言っちゃうところだよ。」
「なに・・・!??」
「その思考に疑問を持たないこと事態が魔術師の限界を頭打ちにしてるんだよ。そいつがいい例さ。」
ファルナは倒れているアシェリナを指さした。
「弱い立場の人間は助けなければいけない、という魔術師の責任感が思想を縛り自己欺瞞や偽善を生むんだよ。例えそれを掲げ死んだとしても死んだ者を英雄と持ち上げるこの世界こそが異常だとなぜ気づかない。
そいつだって、文と文を霊魔ではなく、少女として見ていたんだろう。本来女の子というのは守らなければならない対象だからな。
女の子だからといって相手は融合霊魔。見た目に惑わされて無意識に手加減した結果、自分が倒されちゃあ世話ねぇな。」
「っ・・・!!」
ミトラは拳をキツく握った。
「それに比べ咎人は自由だ。エレメントにも魔法力の器にも縛られない。日々進化する科学や魔法技術を一つの方向に掘り進めるんじゃなく、あらゆる可能性に手を広げる咎人こそ、この世界を統べる最強の人種と言っていい!」
「・・・お前たちの目的は何なのだ・・・!」
「・・・お前たちみたいな弱い種類の人間を英雄とうたうこの世界を壊し、一から構築し直すんだよ。」
「なんだとっ・・・?!」
「だから、各魔法域の代表が集まるこの機会は絶好のチャンスだった。
とある奴を魁としてこの学園の結界を無効化し、戦力の要となるお前たちを外部と遮断・隔離する。ここでお前たちが殺されれば魔法域の統制は崩れ、攻めやすくなるってわけだ。計画的だろ?」
「貴様らっ・・・!」
「はは。いい顔するねー。では、さらなる絶望をプレゼントしてあげよう。」
ファルナはそう言うと黄金色に輝く石をピンと弾いて見せた。
「その石は・・・?」
「あんたたちが絶対に発現できない魔法を見せてあげる。格の違いを思い知りな。」
ファルナは手に持っていた石に力を込めると、粉々に砕かれた破片を盛大に頭上にばら撒いた。
砕かれた破片から眩い光が溢れ出せば、大量のプラズマが発生しはじめる。
「こ、これは・・・!」
集まったプラズマは急速に収束すると地上めがけて放電を発現させた。
「雷精霊ッ!?」
「聖霊の魔法だとっ!!」
強烈な光を発した落雷は地上へ容赦なく襲いかかる。
マソインとインネは両手を大きく広げた。
「All Element 水精霊!」
「All Element 火精霊!」
「水膜ッ!」「火盾ッ!!」
ぶつかり合う魔法がバチバチッと弾ける。その勢いにインネとマソインは踏ん張り続けなければならなかった。
「さすが魔法域の代表。でも・・・どこまで持つかな。」
高みの見物と言わんばかりにファルナは愉快そうにふんぞり返った。
「くっ・・・!!」
「ふんっ・・・!」
インネの魔法が弱くなっている。インネの様子を見る余裕は無いが、2つの防御壁は明らかに雷精霊に圧されつつあった。
(いつもならこの程度の魔法、拙者一人でどうとでもなるというのに・・・!もっと魔法力の器が大きければ、いや、火精霊以外の精霊を使役できれば・・・!)
マソインは慌てて首を振った。これでは咎人を認めたことになるではないか。
迫る雷精霊の攻撃に防御壁は少しずつその規模を小さくしている。痛む胸を押さえつつ、言霊を唱え加勢しようとしたミトラの腕が引っ張られた。
「ア、アシェリナッ!?」
「アシェリナ様ッ、気がつかれましたかっ!?」
「・・・だ、めだ、ミ、トラ・・・おまえ、が、こわれち、ま、う・・・」
「ア、アシェリナァ・・・!今は君の方がっ・・・!」
アシェリナの傷はふさがっていない。エリスと菲耶の魔法でギリギリを保っている状態だ。
「それ、でも、ミト、ラ・・・これいじょ、う、器に、負担、をかける、な・・・!」
「でもっ・・・!!」
アシェリナはチラリとマソインたちの防御壁を見た。
「こ、のままだと、2人の魔法は、保たな、い。そしたら、全滅、だ・・・。なんとか、しねぇと・・・」
「でも、君のそのケガじゃあ・・・」
アシェリナは懐からある植物を取り出した。
「それハ・・・?」
「・・・レプトパス花?」
それは5枚の白い花びらで、花弁の中心が青くなっている可愛らしい花だった。特に珍しい植物ではなく、学園でも観賞用として飾られていることもある。
アシェリナの持つレプトパス花には数滴の蜜がわずかに光って見える。
「なんでそれを・・・・?」
「説明して、いる、時間はない・・・。水精霊、のエレメントは・・・」
キョロキョロと探す先にインネが目に止まる。しかし彼女は防御壁を張るのに精一杯の様子だ。
「く、そっ・・・!氷さえ、あれば・・・っ!!」
「え、氷ですかっ!??」
アシェリナはコクコクと頷いて見せた。すでに話すことさえできずにいる。
「もしかして、その花を凍らせることができればいいんですか?!」
アシェリナがわずかに反応する。
「花を凍らせたらこの状況を打破できるかもしれない!?」
アシェリナがゆっくりと顔を上げる。すでに視点が合っていないアシェリナの目を見た時、エリスの考えは確信へと変わった。
「ALL Element 水精霊ッ!!」
「エリスッ!?」
突然治癒魔法を止めたエリスは詠唱に意識を集中させる。
「どうしたの、エリスッ!?」
「氷を・・・」
「え・・・?」
「水精霊の上級属性変化を発現させるっ!」
「!!?」
魔法力の出力は制限されている。ましてや、上級属性変化を扱ったことのないエリスが氷を発現させるなんて到底無理な話であり、幾度の練習に付き合った菲耶がそれをいちばんに理解しているだろう。
それでも、エリスの集中は今までにないほどの気迫を感じさせた。
「・・・つぅっ・・!!!」
光を濃く大きく膨らませるように力を込めるが、それは依然小さいままだ。
「アシェリナサマ、しばしのご辛抱を。」
菲耶がスカートをめくり太ももに嵌めたベルトからある物を取り出した。そしてそれをすぐに口元へ持っていく。
魔法がぶつかり合う中で軽やかに澄んだ音が響き渡る。細い線で花と蔦が彫刻してある曲笛を菲耶は器用に吹きはじめた。
「菲、耶・・・の魔術具・・・!」
「何だ、この耳障りな音は・・・!」
ファルナもピクリと反応する。
なめらかに動く指が奏でるメロディーに菲耶は自分のエレメントを乗せていった。
(エリス、私の魔法を使って・・・! ALL Element 風精霊 音流!!)
音が風に乗り、魔法はゆっくりとエリスに注がれていく。すると水精霊の光がわずかに強くなった。
「菲耶の力が・・・!」
エリスは短く息を吐く。情けない、そしてそう思った。
未だに水精霊の上級属性変化も扱えない。この場だって、お祖父様の力がないと入ることさえできなかった。なに一つ、自分だけで成し遂げられていない。
『七光りってやつか。』
アシェリナの言葉を思い出す。腹が立ったが実力を認められるほどの力を、自分は持っていないじゃないか。
あの子は・・・あの子は一人であんな簡単に水精霊を扱えているのにっ!!
再び水精霊の光が弱くなった時、背中に触れる温かな気配を感じた。
音と共に流れる魔法は菲耶のものであり、安心するいつもの気配だった。
エリスの上級属性変化習得の練習に菲耶はいつも付き合ってくれた。焦って自暴自棄になる自分をいつも傍で見ていてくれた。いつも背中を支えてくれた。
「んん・・・っ!!!」
再び光が濃く強くなる。菲耶の魔法力を糧に詠唱に力を込める。
「それでも、いい・・・!今、私にできることを――!」
「文、文、あの笛を吹いている女を殺せ!」
曲笛を奏でる無防備な菲耶に2人の少女が襲いかかった時、エリスが大声を張り上げた。
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