夕焼けのあとに

マッシー 短編小説家

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夕焼けのあとに

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 あの日の夕焼けが、今でも忘れられない。
 夏の終わり、部活帰りのグラウンドは赤く染まっていて、私たちはその空の下、ただ歩いていた。隣には幼なじみの蓮(れん)。幼稚園からずっと一緒だった彼は、背も高くなり、声も低くなって、少しずつ遠くに感じるようになっていた。

「なぁ、桜子(さくらこ)。お前、なんか最近避けてない?」
 突然、立ち止まった蓮が私をじっと見つめる。その視線に、心臓がドキッと跳ねた。
「べ、別に。そんなことないよ」
 必死に笑顔を作るけど、蓮の眉がわずかに寄る。こういうところ、本当に鋭いんだから。

 最近、蓮のことを意識しすぎて、うまく話せなくなっていた。ずっと友達だと思っていたのに、気がつけば彼の些細な仕草や声に胸が締めつけられるようになっていた。こんな気持ち、彼には絶対に知られたくない。

「嘘つけ。前みたいに目を見て話してくれないじゃん」
「そ、そんなことないってば」
 また笑おうとしたけど、蓮はさらに一歩近づいてきた。顔の距離が近すぎて、思わず後ずさる。

「じゃあさ、なんで最近、俺から目をそらすんだよ」
「……それは……」
 夕焼けの赤が、蓮の顔を強調するように照らしている。その表情が真剣で、逃げられなくなった。

「お前が避ける理由、俺に分かるよ」
「えっ……?」
 息が止まりそうになる。分かる? どういうこと? 心の中で必死に考えるけど、答えは見つからない。

「だって、俺もお前のこと避けたくなるぐらい好きだからさ」
 さらっと言われたその言葉に、頭が真っ白になる。風が頬をなでたけど、熱くなった顔は冷めない。

「え、ええええ!?」
 ようやく出た声が情けないほど裏返る。でも、蓮はおかしそうに笑いながら、私をじっと見つめている。

「俺たち、もうただの幼なじみじゃいられないんだよ。気づいてたんだろ?」
 その声は低くて、でもどこか優しい。私の胸の奥が、彼の言葉で満たされていくのが分かった。

「……分かんないよ。そんなの……急に言われても……」
「じゃあ、ゆっくりでいいから考えてくれ。俺、答え待ってるから」
 そう言って、蓮はまた歩き出す。その背中を見つめながら、私は胸に手を当てた。彼が触れた私の気持ちは、きっともう隠せない。

 夕焼けの空の下、風が私たちの間をすり抜けていく。心の中で何度も「好きだ」と叫びながら、私は少しずつ蓮の背中を追いかけていった。

(おしまい)
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