「君がくれた青い春」

マッシー 短編小説家

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君がくれた青い春

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高校三年生の夏、私は校庭の隅にある古びたベンチでよく空を見上げていた。
部活を引退してから、何かが終わったような虚無感だけが胸に広がっていた。

「ここ、座ってもいい?」

ある日、聞き覚えのある声に顔を上げると、クラスメイトの相葉君が立っていた。彼は同じクラスなのにほとんど話したことがない。どこか近寄りがたくて、みんなが憧れる存在だった。

「…どうぞ」

私は声が震えないように答えるのがやっとだった。

彼は私の隣に腰を下ろし、ポケットから一冊の文庫本を取り出す。風がそよいで彼の髪を揺らし、夏の日差しがその横顔をきらめかせているのが目に映る。

「ここ、好きなの?」

不意に彼が聞いた。

「うん。静かだし、風も気持ちいいから…」

「そうなんだ。俺も好きだよ、ここ。なんか落ち着くよな」

相葉君がこんなふうに誰かと会話をするなんて、ちょっと意外だった。

その日から、私たちはよくベンチで顔を合わせるようになった。最初はぎこちなかったけれど、話を重ねるうちに、少しずつお互いのことを知っていった。彼が音楽をやっていること。将来の夢がまだ見つからないこと。好きなアイスがバニラだということ。

そして、私も少しずつ心を開いて、自分のことを話せるようになった。

「お前、ちゃんと笑うとき、めっちゃかわいいな」

ある日、彼が突然そう言った。私は驚いて顔を赤くし、反射的に「からかわないでよ」と返したけれど、彼の表情は真剣そのものだった。

その日から、彼を見るたびに胸が苦しくなった。彼と話すたびに、私の中の何かが変わっていくのを感じていた。

夏が終わり、秋が訪れ、そして冬になった。高校生活最後の季節、私は思い切って相葉君に気持ちを伝えることにした。

放課後、いつものベンチで待ち合わせをした。

「相葉君、私、ずっと…」

言葉を紡ぐ私の目を見つめる彼は、穏やかに微笑んでいた。そして、そっと手を伸ばして私の髪を優しくなでた。

「俺も。ずっと伝えたかった」

その瞬間、冷たい冬の風の中で、私の胸は春のように温かくなった。

私たちの青い春は、あの日、確かに始まったのだ。
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