1 / 1
君がくれた青い春
しおりを挟む
高校三年生の夏、私は校庭の隅にある古びたベンチでよく空を見上げていた。
部活を引退してから、何かが終わったような虚無感だけが胸に広がっていた。
「ここ、座ってもいい?」
ある日、聞き覚えのある声に顔を上げると、クラスメイトの相葉君が立っていた。彼は同じクラスなのにほとんど話したことがない。どこか近寄りがたくて、みんなが憧れる存在だった。
「…どうぞ」
私は声が震えないように答えるのがやっとだった。
彼は私の隣に腰を下ろし、ポケットから一冊の文庫本を取り出す。風がそよいで彼の髪を揺らし、夏の日差しがその横顔をきらめかせているのが目に映る。
「ここ、好きなの?」
不意に彼が聞いた。
「うん。静かだし、風も気持ちいいから…」
「そうなんだ。俺も好きだよ、ここ。なんか落ち着くよな」
相葉君がこんなふうに誰かと会話をするなんて、ちょっと意外だった。
その日から、私たちはよくベンチで顔を合わせるようになった。最初はぎこちなかったけれど、話を重ねるうちに、少しずつお互いのことを知っていった。彼が音楽をやっていること。将来の夢がまだ見つからないこと。好きなアイスがバニラだということ。
そして、私も少しずつ心を開いて、自分のことを話せるようになった。
「お前、ちゃんと笑うとき、めっちゃかわいいな」
ある日、彼が突然そう言った。私は驚いて顔を赤くし、反射的に「からかわないでよ」と返したけれど、彼の表情は真剣そのものだった。
その日から、彼を見るたびに胸が苦しくなった。彼と話すたびに、私の中の何かが変わっていくのを感じていた。
夏が終わり、秋が訪れ、そして冬になった。高校生活最後の季節、私は思い切って相葉君に気持ちを伝えることにした。
放課後、いつものベンチで待ち合わせをした。
「相葉君、私、ずっと…」
言葉を紡ぐ私の目を見つめる彼は、穏やかに微笑んでいた。そして、そっと手を伸ばして私の髪を優しくなでた。
「俺も。ずっと伝えたかった」
その瞬間、冷たい冬の風の中で、私の胸は春のように温かくなった。
私たちの青い春は、あの日、確かに始まったのだ。
部活を引退してから、何かが終わったような虚無感だけが胸に広がっていた。
「ここ、座ってもいい?」
ある日、聞き覚えのある声に顔を上げると、クラスメイトの相葉君が立っていた。彼は同じクラスなのにほとんど話したことがない。どこか近寄りがたくて、みんなが憧れる存在だった。
「…どうぞ」
私は声が震えないように答えるのがやっとだった。
彼は私の隣に腰を下ろし、ポケットから一冊の文庫本を取り出す。風がそよいで彼の髪を揺らし、夏の日差しがその横顔をきらめかせているのが目に映る。
「ここ、好きなの?」
不意に彼が聞いた。
「うん。静かだし、風も気持ちいいから…」
「そうなんだ。俺も好きだよ、ここ。なんか落ち着くよな」
相葉君がこんなふうに誰かと会話をするなんて、ちょっと意外だった。
その日から、私たちはよくベンチで顔を合わせるようになった。最初はぎこちなかったけれど、話を重ねるうちに、少しずつお互いのことを知っていった。彼が音楽をやっていること。将来の夢がまだ見つからないこと。好きなアイスがバニラだということ。
そして、私も少しずつ心を開いて、自分のことを話せるようになった。
「お前、ちゃんと笑うとき、めっちゃかわいいな」
ある日、彼が突然そう言った。私は驚いて顔を赤くし、反射的に「からかわないでよ」と返したけれど、彼の表情は真剣そのものだった。
その日から、彼を見るたびに胸が苦しくなった。彼と話すたびに、私の中の何かが変わっていくのを感じていた。
夏が終わり、秋が訪れ、そして冬になった。高校生活最後の季節、私は思い切って相葉君に気持ちを伝えることにした。
放課後、いつものベンチで待ち合わせをした。
「相葉君、私、ずっと…」
言葉を紡ぐ私の目を見つめる彼は、穏やかに微笑んでいた。そして、そっと手を伸ばして私の髪を優しくなでた。
「俺も。ずっと伝えたかった」
その瞬間、冷たい冬の風の中で、私の胸は春のように温かくなった。
私たちの青い春は、あの日、確かに始まったのだ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる