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さよならの先で、君を想う
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初夏の匂いが広がる風が、教室の窓を揺らしていた。
高校三年生の夏。これが最後の部活だと思うと、胸がざわついた。
「七海、そろそろ帰ろうか」
部活帰りの夕焼け道。隣には幼なじみで同じバスケ部の悠斗がいる。いつも通りの彼の笑顔に、少しだけ胸が痛む。
「うん。なんか今日、風が気持ちいいね」
話しながらも、心の中ではある言葉が引っかかっていた。
大学受験が終われば、私と悠斗は別々の道を歩む。
彼は県外の強豪大学のバスケ推薦が決まり、私は地元で看護師を目指す。
それが分かっていても、何も言えなかった。
いつも側にいてくれた悠斗。笑い合った日々、たくさんの思い出が、この道を歩くたびに胸を締めつける。
「七海、どうかした?」
不意に悠斗が立ち止まり、私をじっと見つめる。
「え? あ、いや、なんでもないよ」
慌てて目をそらすけど、その視線は変わらない。
「ほんとに? 最近、なんか元気ない気がして」
どうしてこんなに優しいんだろう。このまま何も言わずにいられたら、どれだけ楽だろうと思う。
でも――。
「悠斗……」
勇気を振り絞って名前を呼ぶ。胸の中に押し込めていた言葉を、どうにか吐き出したかった。
「私、ずっと悠斗のこと……好きだった」
一瞬、風が止まったみたいに静まり返った。悠斗の表情が読めなくて、胸が苦しくなる。
けれど、彼は静かに微笑んだ。
「知ってたよ」
その言葉に、全てを見透かされていたことを悟る。
「俺も、七海のこと好きだった。でも……」
悠斗の目が少しだけ伏せられた。
「でも、俺は夢を叶えたい。七海のこと置いていく形になるけど、それでもいいって言える自信がないんだ」
そうだ、彼はいつも正直だった。だからこそ、私もここまで彼を好きになった。
「うん、分かってた。でも言いたかっただけ」
笑顔でそう言うと、悠斗は困ったように眉を下げた。
それでも、私は後悔していない。
「夢、叶えてね。遠くても、私は悠斗を応援してるから」
その言葉に、悠斗はゆっくりと頷いた。
別れ道に差し掛かると、彼は「またな」と手を振りながら去っていった。
夕日が沈む空の下、その背中が小さくなるまで見送った。
涙が溢れるけれど、不思議と清々しい気持ちだった。
「さよなら、悠斗」
その言葉を風に乗せて、私は前を向いた。
別れの先には、新しい未来がある。彼と出会えたこと、その記憶だけで、私はきっと強くなれる。
高校三年生の夏。これが最後の部活だと思うと、胸がざわついた。
「七海、そろそろ帰ろうか」
部活帰りの夕焼け道。隣には幼なじみで同じバスケ部の悠斗がいる。いつも通りの彼の笑顔に、少しだけ胸が痛む。
「うん。なんか今日、風が気持ちいいね」
話しながらも、心の中ではある言葉が引っかかっていた。
大学受験が終われば、私と悠斗は別々の道を歩む。
彼は県外の強豪大学のバスケ推薦が決まり、私は地元で看護師を目指す。
それが分かっていても、何も言えなかった。
いつも側にいてくれた悠斗。笑い合った日々、たくさんの思い出が、この道を歩くたびに胸を締めつける。
「七海、どうかした?」
不意に悠斗が立ち止まり、私をじっと見つめる。
「え? あ、いや、なんでもないよ」
慌てて目をそらすけど、その視線は変わらない。
「ほんとに? 最近、なんか元気ない気がして」
どうしてこんなに優しいんだろう。このまま何も言わずにいられたら、どれだけ楽だろうと思う。
でも――。
「悠斗……」
勇気を振り絞って名前を呼ぶ。胸の中に押し込めていた言葉を、どうにか吐き出したかった。
「私、ずっと悠斗のこと……好きだった」
一瞬、風が止まったみたいに静まり返った。悠斗の表情が読めなくて、胸が苦しくなる。
けれど、彼は静かに微笑んだ。
「知ってたよ」
その言葉に、全てを見透かされていたことを悟る。
「俺も、七海のこと好きだった。でも……」
悠斗の目が少しだけ伏せられた。
「でも、俺は夢を叶えたい。七海のこと置いていく形になるけど、それでもいいって言える自信がないんだ」
そうだ、彼はいつも正直だった。だからこそ、私もここまで彼を好きになった。
「うん、分かってた。でも言いたかっただけ」
笑顔でそう言うと、悠斗は困ったように眉を下げた。
それでも、私は後悔していない。
「夢、叶えてね。遠くても、私は悠斗を応援してるから」
その言葉に、悠斗はゆっくりと頷いた。
別れ道に差し掛かると、彼は「またな」と手を振りながら去っていった。
夕日が沈む空の下、その背中が小さくなるまで見送った。
涙が溢れるけれど、不思議と清々しい気持ちだった。
「さよなら、悠斗」
その言葉を風に乗せて、私は前を向いた。
別れの先には、新しい未来がある。彼と出会えたこと、その記憶だけで、私はきっと強くなれる。
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