ねえ、 あなたに伝えたかったこと

マッシー 短編小説家

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ねえ、 あなたに伝えたかったこと

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街を包む冷たい風が、私の髪を少しだけ揺らしている。
駅前の広場はいつもと同じ賑わいを見せているのに、私だけがその景色に取り残されている気がした。

「ごめん、待たせた?」

その声に振り返ると、彼が息を切らしながら立っていた。高校時代からずっと変わらない、少し無防備な笑顔。思わず懐かしい気持ちがこみ上げたけれど、私はそれを隠すように小さく首を振る。

「ううん、今来たところ」

嘘だ。本当は20分も前からここに立っていた。彼に会うのが久しぶりで、どうしても遅れたくなかったから。だけど、その理由を口にするのは恥ずかしくてできなかった。

「行こっか」

彼がそう言って、私の前を歩き出す。昔と同じ優しいペースで、少しだけ振り返りながら。

大学に入ってから、彼とはほとんど会えなくなった。互いに忙しい日々の中で、連絡も減り、距離が空いてしまった。それでも、今日会おうと誘ってくれたのは彼の方だった。

「ここ、覚えてる?」

彼が立ち止まったのは、小さな公園の入り口だった。懐かしい匂いが胸を満たす。あの頃、何度も一緒に座ったベンチ。彼と何時間も話したあの場所。

「覚えてるよ」

私は小さく微笑んで答えた。あの頃の自分が、ここで笑ったり泣いたりしていたことを思い出しながら。

ベンチに座ると、彼がカバンから小さな紙袋を取り出した。中から現れたのは、花の形をした小さなペンダント。

「これ、あのとき渡せなかったやつ」

あのとき――そう、卒業式の日。彼が何かを言いかけて、結局言葉にできなかったあの日。

「ずっと渡したかった。でもタイミング逃しちゃってさ」

彼の顔が少しだけ赤く染まるのを見て、私の心がぎゅっと締めつけられる。

「ありがとう、嬉しい」

声が震えそうになるのを必死で抑えた。あの頃好きだった人が、目の前でこんなにも優しい笑顔を向けてくれるなんて。

「俺さ、また君と会えて本当に良かったと思ってる。これからも……ずっと一緒にいられたらいいなって」

彼の言葉が、冷たい冬の空気に溶けていく。それでも、その温もりは確かに私の心に届いた。

「私も……ずっと、そう思ってた」

自然と涙が溢れて、彼が優しくその涙を拭ってくれた。

冷たい風が吹いているのに、不思議と寒くなかった。隣に彼がいてくれるだけで、世界がこんなにも暖かい場所になるなんて、知らなかった。

「ねえ、ありがとう」

あの時言えなかった言葉を、今、伝えられた気がした。
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