冬の星屑

マッシー 短編小説家

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冬の星屑

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夜空は澄み切っていた。空気が刺すように冷たい冬の夜、北国の小さな町では、明かりの少ない山道に立つと無数の星が降るように見えた。その美しさを知っているのは、町に住む人々の中でもごくわずかだった。

18歳の陽菜(ひな)は、そんな星空を見上げながらため息をついた。冬休みの帰省中、家族との時間を楽しむはずだったが、都会での受験生活の重圧が心を覆っていた。志望校の結果も不安で、思い切り息を吸うことすら忘れてしまいそうだった。

「陽菜!」

背後から声をかけられ、振り返ると幼なじみの悠馬(ゆうま)が立っていた。彼は地元の高校に通いながら、家業のスキー場を手伝っている陽気な青年だ。

「どうしたの?こんな寒い夜に一人で」
「別に。ただ、息抜きがしたかっただけ」

陽菜は顔を伏せたが、悠馬は笑顔で首を傾げた。

「ちょうどいい。星を見に行こう」

そう言うと、彼は自分のポケットから手袋を出して陽菜に渡し、黙って彼女を山の高台へと連れて行った。

高台に着くと、冷たい風が吹き抜けたが、その代わりに目の前には広がる星空が一面に輝いていた。陽菜は言葉を失った。都会では見ることのできない無数の光が、宇宙の広さを感じさせた。

「きれい…」

しばらくの沈黙の後、陽菜が小さくつぶやくと、悠馬がぽつりと口を開いた。

「不安になることってたくさんあるよな。でも、星ってすごいと思わないか?こうして何千年も前から同じ場所で輝いてる。俺たちなんて、その中のほんの一瞬に生きてるだけなんだ」

「一瞬…」

「そうさ。だからさ、その一瞬を精一杯楽しめばいいんだよ。結果がどうだって、星空の下にいる俺たちは自由なんだから」

悠馬の言葉はまっすぐで、暖かかった。その言葉を聞きながら、陽菜は肩の力がふっと抜けていくのを感じた。

彼女はそっと目を閉じ、寒い夜空の中で深く息を吸い込んだ。吐き出した白い息が星空に溶けるように消えていく。

「ありがとう、悠馬」

陽菜が笑顔でつぶやくと、悠馬は満足そうに頷いた。そして二人はしばらく星空を見つめていた。何も言葉は必要なかった。ただ、静かな冬の夜と無数の星屑が彼らを包み込んでいた。

その夜、陽菜の心にはひとつの小さな星が輝いたようだった。それは、不安の闇を照らす希望の光。冬の冷たさを忘れるような、その輝きは彼女の胸の中で静かに燃え続けた。
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