MIRAI~美少年な王子様は愛されて当然なんです~『改訂版』

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疑惑

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2013年3月11日
ドラマ撮影の為数日休んでいた未来は、久しぶりの学校に到着し、自身のロッカーに荷物を押し込んでいた。

「おはよぉ~。はい、ノート。休んでた日の分まとめといてやったよ」

1冊のノートを未来に差し出しながら、後ろからぬっと現れた琉空に、未来は少し驚いた表情を浮かべた。

「え?まじ?ありがとうっ。めっちゃ助かるっ」

自分がこれからしなければと思っていた作業を、既に琉空がしてくれていたなんて、気の利く彼の好意に未来は心底ありがたいと思った。

「い~え~。でも勿論ただじゃないよ?ちゃんとお礼してね?」
「え、お礼?」

悪戯な笑顔を浮かべる琉空に、未来は彼の言葉を繰り返した。

「うん、払ってね?体で」

ニヤリと笑い、人差し指でつんと未来の肩を押してくる琉空に、未来の瞳は丸く大きく開かれた。

「っ!!えぇっ!?ちょ、ちょっと待ってっ。僕、琉空の事は大好きだけど、でもだけどっ、だからそういう趣味はないからっ!」

1歩2歩後ずさり、何やら焦った表情で自分と距離を取る未来に、琉空の頭に疑問符が敷き詰められた。

「??はぁ?お前、何言ってんの?」



場所を階段の踊り場へと移動した未来と琉空。
未来の言動の理由を聞いた琉空は、全力で未来の誤解を解いた。

「ちょっと勘弁してよっ。俺はノーマルだし、仮にゲイだとしてもお前には手出さねぇよっ。俺にだって選ぶ権利はあるっ」

声を大にしてきっぱりと言い切る琉空に、未来の眉間に少しの皺が寄る。

「っ、何それっ。失礼っ。僕結構モテると思うんだけどっ。そっち方面の人からもっ」

琉空に言い寄られたいとは微塵も思わないが、それでも自分を否定された事が面白くなく感じた未来が、そう不満の声を上げた。

「あ~そ~…。そりゃ良かったな。でも悪いけど全然羨ましくない」

そう言って、自分に遠い目を向けてくる琉空に、未来も確かにと納得してしまう。
自分で言っといてなんだが、男からモテたとて全然嬉しくないと未来も思った。

「ま、まぁでも良かった。琉空がゲイだったらまじで衝撃だったから…。あ、勿論偏見とかはないけど、でもなんか安心したよ」

ふぅっと、一呼吸した後に未来はそう言うと、琉空の肩にポンと手を置いた。

「いや、俺も別に偏見はないけど…。でも、まぁなんつ~か、斗亜君じゃないけどお前気を付けろよ?見た目だけは良いんだからさ」

自分の右隣に立ち、壁にもたれている未来を見下ろしながら琉空は眉根を下げた。
男に興味は一切ない自分でも、未来の事はやはり可愛いと思ってしまう。
勿論中身を知らなければの話だが。

「あぁ、大丈夫だよ。僕にその気は無いから騙される事もないし、それに相手が男ならこっちも気も使わなくて良いでしょ?女の子相手だと言えない言葉も言えると思うし」 

しれっとした態度でそう言う未来に、琉空は曖昧な表情を浮かべた。
未来にその気が無くたって、騙そうと思えばいくらでも騙せるし、言葉で文句は言えたって、大人の男に力では敵わないだろうと琉空は思うが、何となく今それを言っても仕方がなく感じた。

「…まぁ、そう、かな…。でも一応気はつけろよ?」
「解ってるって。ありがと」

琉空の心配を他所にあしらう様に答えた未来は、当然琉空の思いなど届いておらず、気を付けなければならないのは男より断然女の子と、未来の中の不安要素は百花の事のみとなっていた。
百花の事を思うと無意識にため息が漏れる。
面倒臭い事になる予感満載だったが、それでもならないで欲しいなぁと、未来は切実にそう思った。



※※※



2013年3月12日
未来が不安な気持ちを抱えたまま着いた撮影現場。
用意の出来た未来は、スタジオの隅に簡易待機場として設置されている場所で、台本を手にパイプ椅子に座っていた。
そんな未来に弾むような声がかけられる。

「未來君っ、これ、昨日ママと作ってみたんだけど、クッキー、良かったら食べて?」

可愛らしくラッピングされたそれを未来に渡しながら、百花は綺麗な笑顔を浮かべた。

「え、あ、いいの?」
「勿論。だって未来君の為に作ったんだもん。愛を込めて作ったから美味しいと思うけど、後で感想聞かせてね?」

薄らと頬を染めて、恥じらう百花の様は正しく恋する乙女で、客観的に見れば可愛いと未来は思う。

「…うん、ありがとう」

しかしその気持ちがとても重い。
貰った物はクッキーなのに、手の上にあるそれは凄く重く未来には感じた。
どうしよ。
食べないわけにはいかないが、しかし食べたとしても…。
未来は深いため息を一つ大きく吐いた。
やはりどう考えても厄介なのは、男より女の子だと、そう思わざるを得なかった。



簡易待機場にて、百花に貰ったクッキーを食べていた未来。
味はとても美味しい。
美味しいのだが美味しくなく感じてしまうくらい、未来は百花の事を既に煩わしく思っていた。
もそもそとクッキーを頬張る未来の横に、どかりと座ったのは寛也で。

「まじで積極的だなぁ~、百花ちゃん。全部ハート型だし。やるなぁ~、未來。ってかど~すんのっ?いや、どうなってんの?まさかもう付き合ってるとか?」

ニシニシと嫌な笑みを浮かべながらそう聞いてくる寛也に、未来は思わず腰を上げた。

「っはぁっ?!いや、付き合ってなんかないですよっ。告白とかもされてないしっ」

されなくとも百花の気持ちは十分解るのだが、しかしまだされていない事が未来にとって唯一の砦だった。

「告白っ。なんか良いなぁ~っ、いい響きっ!お前、付き合うとかになったらちゃんと教えろよ?兄ちゃんが色々アドバイスしてやるからなっ」

小中学生の恋愛に告白はとても重要だった事を思い出し、寛也はその響きも行為もなんだかとても新鮮に思えて、少し興奮気味にそう未来に迫った。

「は?アドバイス?いや、だからなりませんから絶対にっ」
「何で?そんなの解んねぇじゃん?あ、つか取り敢えず、告白されたりしたら教えてな?解った?」

がばりと未来の肩を抱き、寛也はそう念を押して未来に言い聞かせると、軽快な足取りで未来の元を去って行った。
未来はそんな寛也の後ろ姿をジト目で見つめながら、何でそんなプライベートな事をわざわざ寛也に話さなければならないのか。
それに話してもどうせからかわれるだけなのは分かりきっている。
そんなのはごめんだと、未来が寛也には何があっても絶対に話さない事を心に誓っていると。

「あ、未來く~ん。クッキーどうだった?」

ひょこりと現れた百花に、未来は少し驚いた表情を浮かべながらもその問に答えた。

「え、あ、あぁ、美味しかったよ」

ふわりと柔らかい笑顔を意識的に作りながら未来がそう言うと、百花も綺麗に笑って弾む声を出した。

「本当?嬉しいっ。未來君甘いもの好きって聞いたから、私頑張ったんだ。良かった。喜んでもらえてっ」
「はは、そうなんだ。ありがとう」

とりあえずのお礼を口にしながらも、内心は頑張られても困ると思う未来のそんな本心など露知らず、百花は相変わらず嬉しそうに未来の隣に腰を下ろした。

「どういたしましてっ。また作ってくるねっ。あ、そういえばさ、もうすぐだね。あのシーンの撮影」
「?え?あのシーンって?」

何故か少し恥ずかしそうに自分に視線を送ってくる百花に、未来は頭の中に疑問符を浮かべた。

「え~、そんなの決まってるでしょ?私と未來君のキスシーンに」

ピンクに染まった頬を両の手で包み、百花はそう言って未来を上目遣いで見つめた。

「あ~、キスシーン…。っても本当にする訳じゃないじゃん。振りでしょ?」

それなのにそこまでテンションを上げられるものなのかと、変わった子だなと思いながら未来がそう言うと。

「未来君、遠山さんからまだ聞いてないの?振りじゃなくて本当にする事になったんだよ?」
「え?」

百花の台詞に未来は思わず言葉を詰まらせた。
振りじゃなくて本当にする?
と、未来の頭の中でその言葉が繰り返される。

「だからその、えっと、私は凄く嬉しいんだけど、あの、初めてだから、宜しくね?」

もじもじとやはり恥ずかしそうに、再び自分を上目遣いに見つめてくる百花に、未来はしばし固まった。

 
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