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節穴

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2013年4月5日
木々が生い茂る境内。
地元では中々に有名な神社。大きな杉の木の下。
本日の撮影はそこで行われていた。

「ちょっと神社探検してきていいですか?」

撮影準備中。
斗亜は打合せをしていたディレクターの遠山とADの笹本にそう声をかけた。

「あぁ、いいよ。でもいたずらとかしちゃ駄目だよ?後30分くらいで戻ってきてね?」
「は~い、解りましたぁ。いってきま~す」

にかりと笑って許可を出した笹本に、斗亜の隣にいた未来は何とも愛らしい笑顔で手を振り、斗亜と共にその場を離れていった。

「すっかり仲良しですね、あの二人。美少年同士気が合うんですかね?」

何やら談笑しながら歩く二人の後ろ姿。
笹本は微笑ましいなと思いながら、遠山にそう投げかけた。
 
「あぁ、まぁ年も近いしな」

笹本の言葉に遠山は、今まで台本に視線を落としていた目線を上げ、彼もまた遠のいていく未来と斗亜の後ろ姿を見つめた。
 
「演技力もあの二人はやっぱり他の子役達より頭一個も二個も抜けてますし、ってか未來に関してはレベルが違いますよね」

うんうんと頷きながら、そう感心する笹本に、遠山は少しばかり目を見開いた。
 
「おいおい、なんだよお前。最初はあの程度のレベルなんて、とか言ってなかったっけ?」

撮影当初、確かに笹本はあまり未来の事を評価していなかった。
未来の演技は、当たり障りのない所謂普通の子役のそれにしか笹本の目には映らず、期待はずれだなとも感じていた。
がしかし撮影をしていくにつれ、徐々に未来の本質が現れていった。
彼のアドリブはとてもナチュラルで、それなのにとても良く場が活かされ、役作りに関しては素晴らしいの一言しかないと笹本は思わされてしまった。
 
「っ、そうっすね。じゃぁ訂正します。あの子は天才ですよ。遠山さんが目をつけただけの事のある子です。僕の目は節穴でした」
「はははっ。素直でよろしい。だけどまだまだあの子達はこれからだ。いっても天才子役止まり。けどこれから色んな経験と場数をこなせば、きっともっといい役者に、天才役者になれるだろう。それは未來だけじゃなく斗亜もな」

本当に将来が楽しみな子達だと、遠山は澄み渡る綺麗な青空を少し眩く感じ、瞳を顰めながらそう遠くないであろう未来を思った。



本宮から少し奥まったひとけのない場所にある社。
そこの傍らにあるベンチに腰を降ろし、雑談していた未来と斗亜。
不意に斗亜が未来の手をとった。

「色白いね、未來」

未来の小さな手に、自分の指を絡めながら斗亜は言った。
 
「そう?ってか斗亜君も同じくらい白いじゃん」
「いや、未來の方が白いよ。ってか肌が綺麗」
「そうかな?変わらないと思うけど?」

重なりあった二人の手を見比べても、大きさは違えど大差ないように未来には思うが
 
「全然違うよ。綺麗で可愛いね、未來は…」

繋いでいた未来の手を自分の方へ引き寄せた斗亜は、もう片方の手で小さな未来の顔を包み込み、ふわりと掠めるようなキスをした。
 
「ん…、ふっ、ありがとう。でもそれなら斗亜君だって綺麗で可愛いじゃん?よく言われるでしょ?」
「まぁそうだね。ぶっちゃけ聞き飽きるくらい言われてる台詞だけど、でも未來に言われると凄く嬉しいな。ありがとう」

クスクスと笑いながら、お互いの温もりを感じるように寄り添っていたのだが、徐に未来がその身を少し離した。
 
「じゃぁもっと言ってあげるよ。綺麗だよ、斗亜君」

にこりと綺麗な笑顔を斗亜に向けた後、未来はそっと斗亜の口に自分のそれを重ねた。
そして小首を傾げ、嬉しい?としてやったりと笑う未来に、斗亜は思わず言葉を詰まらせた。
初めての未来からのキス。

「っ…、嬉しい、けどそれは反則だよ。30分なんかで、戻りたくなくなっちゃうじゃん」

そう言って切なく瞳を細めながら、斗亜は未来の細い体を少しきつく抱きしめた。



撮影場所の片隅に設置してある役者待機所。
キョロキョロと視線を動かしながら、百花がひょこりとそこに顔をだした。

「あれ~?ねぇ護君。未來君知らない?」

ロケバスの中にも撮影場所にも居なかった未來。
ここならばと来てみたがその姿はなくて、どこに行ってしまったのだろうと、百花は小首を傾げた。

「未來ならさっき斗亜君とどっか行ったけど?」
「斗亜君と?」
「うん。あ、でもどこにいるかは解んないかな」

ごめんね、と少し眉根を下げて言う護に、百花は大丈夫と答え待機場所を出ていった。
斗亜と一緒にいるのは分かったが、何処にいるのかは分からない以上、この広い境内を探すのは難しい。
仕方なく未来探しを諦めた百花は、待機場所の近くのベンチに腰を降ろし未来の事を思った。
最近未來はいつも斗亜と一緒にいるのを百花も見かけていた。
撮影が始まったばかりの頃は、一人でいるのが常だったのに、斗亜が傍にいるせいで中々話しかけるタイミングがないではないかと、百花は軽く唇を噛んだ。
折角キスシーンの撮影で距離が縮められたのに、それから今ひとつ先へ進めないでいるのは、斗亜のせいだと百花は思う。
しかし未来と共演しているこのチャンスを絶対逃してなるものか。
絶対に未來の彼女になってやるんだとメラメラと闘志を燃やしていた。
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