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こちら付与魔術師でございます
こちら付与魔術師でございます Ⅶ ディセプションサークレットを作成しましょう
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う~ん、商売って難しいですねぇ。
今回は売れ筋を捕らえきれなかった私の完全な失敗です。
ギルドに下ろさないのか?
そうですねぇ、それをやったら楽なんでしょうが、大型店にはなれないですよね。
確かに下ろすだけの業者もいますが、買ってもらうために接待したりするのは御免です。
ルールウに聞いてみたら?
あ~、それは最後の手段ですかねぇ。
聞くのは簡単ですが、なんかプライドが・・・・・・。
それに・・・・・・、あそこ売れてませんよ。
(今のはルールウには内緒にしておいてください)
魔法具を売る。これは売り方を変える必要はあると思うんですよ。
商品を見てみたら、冒険者向けの商品とアクセサリーしかないんですねぇ。
もっと一般市民に使ってもらえるような物、それでいて安い物を考えないといけませんかね。
例えば切れ味を上げた包丁とか。先日買った玉鋼も丸々残っていますから、そちらの活用方法も考えないと行けないですし。
何かいいものないですかねぇ
話は変わって、定食屋ハズキ・・・・・・。ルーミィから聞いてはいたのですが・・・・・・頭抱えました。なんかね、破産寸前だったんですよ。今、営業できているのが不思議なくらいです。
特に圧迫しているのが肉類ですね。
ここ一年ほど単価がえらく上がっているんですよ。
市場調査してみたら?
ん~、そうですね。古代エルフのフォルテの依頼が明日きますから、その間をぬって調べるしかないでしょうね。
それと肉に関してはやはり、保存できる環境ですね。
バッグの為に創った冷蔵室、今のところ問題なく使えているのですが、ハズキの改装をするとお金が足りないし、現状の保存庫だけでは量的には入れられないし、1ヶ月に1回魔法をかけ直すという非効率的なことはしたくないし・・・・・・。
ねぇ。
二つのことはさておき(ほんとは置いちゃあいけないんだけど、特に前者)、今日はフォルテとそのお姉さんの問題について詳しい話を聞かないと聞けないんで、とりあえず待ち合わせ場所である自分の店に向かいま~す。
私は、店を開けずに自分の店の前に立っていた。現れない。仕方がないので今後の商売のやり方を考える。
ふと目を上げるとフードを深くかぶった二人の人物が目の前に立っていた。
「カーソンさん・・・・・・」
声の主はフォルテだった。フードの奥から深紅の瞳がこちらを覗いている。もう一人はフードを深くかぶったままだ。
「やぁ、フォルテ。なんだい、その格好は・・・・・・」
全身をローブで覆った二人に私はあきれてしまった。確かにフォルテの髪と瞳は目立つ。しかし、そこまですると逆に目立つというものだ。通りを歩く人々もちらちらとこちらを見ていた。
「と、とりあえず場所を移そう。私の家がいいかい?それとも二人のどちらかの家がいいかい?」
私の問いにフォルテは私の家がいいと言った。やはり、まだ警戒されているようだ。まぁ、常識的に言って、そんなに親しくない男を自分の家に招くことはしないだろう。
それから、もう1人のローブの人物は自分の姉だと紹介してくれた。姉の方は少しだけ頭を下げる。
私は二人についてくるように言って歩き出した。途中で昼食を買い込む。2人も何か食べ物を買っていた。
「ところで、変装用のアイテムって言ってたけど、フォルテの姿は変装してるの?」
歩きながらフォルテに話しかける。2人は顔を見合わせた。
姉の方が首を横に振る。
「ごめんなさい、カーソンさん。すべてはあなたのお家に着いてから・・・・・・」
そう言ってフォルテは黙り込んだ。姉の方は口をきかない。
それ以降、3人は私の家まで一言も話すことはなかった。
-----カーソン宅-----
私の家にはスキュラとゴーレムが2体いる。出かけている間、スキュラは炊事場で料理をしている。実は結構器用な娘だった。
あの3mある巨体と10本の足?で器用に掃除し、洗濯をし、料理を作ってくれる。最初は身体が慣れていなかったようだが、今は生き物そのものだ。
ちなみに2体のアイアンゴーレムは裏の作業場で待機している。
「さあ、どうぞ、お入りください」
私は2人のために玄関を開けた。当然、玄関には封印が施してある。四方の壁には結界も張ってある。
2人が玄関をくぐった瞬間・・・・・・
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
2人の悲鳴がハモっていた。あっ、もしかして・・・・・・
私が2人の後について玄関をくぐると、そこにはスキュラが立っていた。2人は腰を抜かしたらしく、女の子座りでへたり込んでいる。
2人のフードは取れていた。じっとスキュラの巨体を見上げて震えている。
(あらあら、参ったな。忘れてたよ・・・・・・。でもこのお姉さん、どっかで見たなぁ)
私はとりあえず2人をリビングまで運んであげるようにスキュラに紙を見せた。スキュラの足?が2人を抱え上げる。
と、同時に2人は気を失い くたり となった。
「あ~、まずいなぁ・・・・・・」
スキュラはカチャリカチャリと音を立てながら2人とその荷物を抱えてリビングへと歩いて行った。
半刻後、2人は目を覚ました。2人はリビングのソファーの上に寝かしておいた。スキュラには裏の作業場で待機するように紙に書いて渡した。
残念そうに去って行くスキュラの後ろ姿が印象に残る。
「ぁあ、う~ん」
可愛らしい声を出しながら、フォルテが目を覚ました。がばりと勢いよく起き上がり、周りを見渡した後、私と目を合わせる。
2人のローブはスキュラが脱がせて、ローブ掛けに掛けていた。
フォルテはハッとして全身を確かめている。
(いやいや、何もしてないって・・・・・・)
「大丈夫?」
私はフォルテに話しかけた。姉の方はまだ眠っている。
「ぁあ、あの、何もしてませんよね?」
「してません!」(きっぱり)
私は、最初の一言がスキュラのことではなく、そっちのことだったので笑いをこらえていた。
フォルテはホッとした表情をしてすぐに、スキュラのことを思い出したようだった。
「あれ、あれは?」
「あれ」 以上の表現は出来ないようだ。口がパクパクと動いている。
「あぁ、あれはうちのゴーレムだよ。一応、フォルテが勤めている冒険者ギルドから買ったやつなんだけど・・・・・・、この前今日のことを依頼された日だよ」
フォルテは少し考え込んで あぁ と 唸った。
「そういえば、うちの在庫にありました。売れないで困っていたところ急に売れたって売り場の子がうれしがってました」
あ~、やっぱり不良在庫だったんだ。ま、私としては良い買い物だったけど。
そうこう話しているうちに姉の方も目を覚ました。そしてやっぱりフォルテと同じ反応をした・・・・・・。
とりあえず、姉にもスキュラのことを話して落ち着いてもらった。フォルテは自分の勤め先の在庫だったから話は早かったが、姉の方は取り乱していた。
あのような存在を見たのは初めてだったようで、なだめるのに相当な時間を費やしてしまった。
しかし・・・・・・、姉はフォルテとは似ていなかった。似ているのは深紅の髪と瞳だけだった。胸と腰回りは圧倒的な戦力差だ。
じっと見ている私をフォルテがジト目で見ている。
あ~、いかんいかん。
とりあえず、依頼内容の確認を始める。
「あ~、フォルテ。依頼内容のことなんだが、その髪と瞳の色をごまかせればいいのかな?」
私はごまかすようにフォルテに問いかけた。同時に姉の髪と瞳を見る。2人は当時に頷いた。そして2人はひそひそと話をする。話が一段落したようでフォルテと姉がこちらを見る。
(ん~、お姉さんの方どっかで見たんだよなぁ・・・・・・)
私が姉の方を見ているとフォルテが咳払いをした。あ~、いかんいかん。
「そうです、まずはこの瞳と髪の色を金色に変えていただきたいのです。それにはまず古代エルフのことを少しお話しいたします」
私は古代エルフの話と聞いて思わず身を乗り出した。フォルテが少し身を引く。姉は微動だにしない。
「あっと、古代エルフと呼ばれる私たちのことなのですが・・・・・・」
フォルテは古代エルフにことについて話し始めた。古代エルフは遙か昔から暗に囲まれた次元の狭間で生きていた。
そこはこの世界とは違う場所で、時間の流れ自体が根本的に違っているらしい。しかも、今のフォルテの身体も本質は全く違う物(存在)だという。そしてそれは自分たちでも理解できていないそうだ。
あるとき強烈な力が狭間に降りかかり、それはフォルテ達のいた次元自体を歪めてしまうほどだったという。その時はじき出されたのがフォルテとその姉の一族。それ以来、ずっと生きてきており、ある者は永遠の眠りにつき、ある者は争いで命を落としたという。
フォルテと姉は一族と考え方が合わず、暮らしていた土地を離れ世界中を旅した。それがどれくらいの刻だったのかはあまり憶えていないという。
私は、自分、いや、世界で言われている古代エルフの知識が根本的にずれていたことを認識した。
「じ、じゃぁ、今いるエルフとかは・・・・・・?」
今いるエルフやハーフエルフ達は自分たちとは全く関係がないという。ただしハイエルフに関してはどちらかというと古代エルフに近いらしい。ただ近くてもまったくの別物と言うことだ。
私はソファーに背をもたれ掛け、天井を見上げた。今入った知識だけで数十年分の研究が進んだのと同じなのだ。
「は~、驚いた、というより・・・・・・、言葉にならないな」
私は率直に感想を述べた。
「で、なぜ今になって髪の色と瞳の色を隠す必要が?」
フォルテは姉とうなずき合うと話し始めた。
元々は金髪、金眼だったらしい、それが2~3年前に髪が赤くなり始め、1年くらいで瞳まで赤く染まったという。それとともに身体に変調をきしたらしい。
瞳が赤くなったことでヴァンパイアなどの死霊や人狼などと疑われ、迫害を受け始めた。
そもそも2人はこの辺りに住んでいなかったそうで、もっと北の方に住んでいたらしい。そこで、長年住んでいた土地を離れ、最近このルイスの街に引っ越してきたという。その時は自分たちの魔術で髪の色と瞳の色を金色に変えたそうだ。
しかし、ちょうど半月くらい前、いきなりフォルテに掛かった魔術が解けた。もう一度かけ直そうとしたが元に戻らなかったらしい。
(ん~? まてよ、ちょうど私がこの街に帰ってきた頃か・・・・・・)
私はその頃この街、またはこの周辺でなにかが起きなかったか聞いてみた。しかし、2人とも知らないという。
「でも、赤い髪と瞳ってやっぱり迫害だけの問題?それとも身体の変調も関係あるの?」
ただの迫害だけでそこまで神経質になるものかどうか分からない。確かに珍しくはあるが、髪の赤いやつなんて、それこそざらにいる。
意地悪かもしれないが本当にそれだけが原因かを敢えて聞いてみた。
「それが・・・・・・」
2人は戸惑うというかなんというか、困った顔をしていた。フォルテは少し頬を赤らめている。
「あの、その・・・・・・」
フォルテが言い澱んでいると姉の方が口を開いた。
「極端に強くなるのですよ、性欲が。それと食欲も」
・・・・・・・・・・・・はあ。それは・・・・・・困るわなぁ。ま、どのくらい強くなるのかは敢えて聞かない。ただ、言い淀むくらいの強さなのだろう。
これ以上は突っ込むまい。うん。
フォルテは顔から湯気が出ているように見えるからなぁ。
それに古代エルフ(便宜上こう呼ぶ)とはいえ女性である。食べる量が増えるのは大問題だろう。
「あ~、なんか深刻そうなので分かりました。フォルテ1人分でいいの?それともお姉さんのも必要?それ以前に色を変えるだけで収るの?」
私の問いに姉の方が答えた。
「私の分も欲しいですね。それと効果はあります。ほんの半月前までは魔術で変えただけで十分だったのですから。私のもつい最近までは大丈夫だったのです」
どうやら、姉の方が本来の魔術の力が強く、それで押さえ込んでいたらしい。それが限界を突破したということだ。
私は頷きながら少し引っかかりを憶えていた。
1つは時期的なものだ。なぜ急に変化したのか。そこが分からない。
もう1つは、1度掛けた魔術が魔道具に掛けた魔術で押さえ込めるのかも不明だ。
で、それとは全く違い、もう1つ、お姉さんのことが気になっていた。会ったことは無いはずなのだが、どこかで聞いたような声だった。思い出せない。
「わかりました。私の魔術で押さえ込めるかどうかは分かりませんが作ってみましょう」
私は取りあえず仕事を受けることにした。術を施すのはそう難しいことではない。後は形と料金の問題だ。
「では、ご希望の形などはございますか?」
まだ茹だっているフォルテを放置してお姉さんの方と話を始める。希望はサークレットということだった。材質は任せると言うことだ。
「う~ん、材質を任せるといわれましても、それによって料金が根本的に変わるのですが・・・・・・」
私の答えに考え込んでいる。私は、材質の持つ特性を説明した。じっくりと聞いていたお姉さんは答えを出した。
「ミスリルで2つお願いしたいと思います」
私もさすがに驚いた。フォルテも一気に正気に戻った。フォルテは口をパクパクと動かしている。
「あの、金額が相当掛かりますが・・・・・・宜しいのでしょうか?」
私も一応商人の端くれだ。(まだ全然売れてないけど・・・・・・ね)
料金を取りはぐれるわけにはいかない。ミスリルのサークレット2つとなると金貨で5000枚はもらわなくては元が取れない。
お姉さんは何の仕事をしているのかは知らないが、フォルテはただの冒険者ギルドの受付だ。払える額ではない。
「大丈夫・・・・・・だと思います。たぶん。フォルテから聞きました。私たちのことが知りたいということですが?」
お姉さんは表情を変えずに言った。
あぁ、そういうことか。納得。
「それと、金貨30枚と私の部屋の中から金目になりそうな物と欲しい物を持って行ってください。厭とは絶対に言いませんので」
う~ん、剛毅だなぁ。しかも女性の部屋から何でも持っていって良いなんて普通は言わないぞ。
男として見られていないのかなぁ? まぁ良いけど。
「分かりました。じゃあそれでお受けいたしましょう。そうですね。今お昼ちょっと過ぎたくらいですので夕方くらいにはお渡しできると思います」
私は2人にサークレットのデザイン画を見せ、好きな物を選んでもらった。
選んでもらった後、私はちょっと待ってもらうように言って、2階へ上がった。そこで、黄色の魔方陣の部屋を開け、ミスリル貨を3枚取り出し、物置に移動する。ここでは魔石と宝石を用意する。魔石は小粒だが強力なものを12個とアメシストを2つ用意しそれを持って裏の作業場に行く。
サンダーゴーレムとヒートゴーレムを呼び、2人が選んだサークレットの図面とミスリル貨を渡した。2人?は槌の方へ歩いて行く。
持って来た石を取りあえず作業台に置き、スキュラに食事の用意をするように言ってリビングへ戻った。
「お待たせしました。折角ですので今、お茶を入れさせます。お昼食べませんか?色々とお聞きしたいですし」
私がリビングに行くと2人の顔が妙に上気しているように見えた。暑いのかな?
直ぐ後からスキュラが入って来てキッチンへと向かってゆく。2人の古代エルフは抱き合って通り過ぎるのを見守っていた。
(う~ん、お客が来たときこれでは困るな。少しスキュラのことを考えるかな?)
スキュラが通り過ぎると2人は元の位置に戻った。顔色も前に近い。
「ところで、お姉さん。お名前伺っていませんでしたね。フォルテさんからお聞きとは思いますが私はカーソン・デロクロワと申します。今更ですが初めまして、よろしくお願いします」
そう言って手を差し出した。お姉さんの方も手を握り返してきた。
「バスティエンヌ・エル・ゴチックです。バスティと呼んでください。どうぞよろしく。でも初めてではないですよ。お名前も存じております。フォルテより前にね」
今まで表情を崩さなかったバスティがやんわりとした笑顔を浮かべた。冷静な大人の女性という印象ががらりと変わる。
しかし、フォルテより前・・・・・・ねぇ。
・・・・・・?
私が頭ではてなマークを出していると、バスティが突然真顔に戻った。表情も消えている。
「税金は、住民税と所得税に分かれます。まず、住民税ですがこれは年一回、年末に徴収されます。金額はボイド銀貨3枚です」
バスティはそこまで言って表情を崩した。私と眼を合わせるとにこりと笑う。
ぁぁぁぁぁあああああ!思い出した。でも、いや違うぞ。きっと違う・・・・・・。
私の頭はパニックになっていた。
まさか、まさか・・・・・・この このナイスバディの、優しい微笑みの女性が・・・・・・あの中央役所の陰気な受付?
「中央役所で受け付けをやっています。どうぞよろしく」
私は言葉が出なかった。出せなかった。あまりのショックとギャップの差に・・・・・・
「お姉ちゃん、仕事の時と普段が全然違うもんね」
フォルテが私の言いたいことをそのまま代弁してくれる。
「それはそうですよ。公私混同は良くないですから」
いや、違いすぎますけん。
そこへ突然ヌッとスキュラの足?が現れた。器用に紅茶を3つ持って、同時に机の上に置いている。4つ目にはちょっとしたサンドゥィッチなどが作られていた。それを置いてスキュラはキッチンへと戻ってゆく。
やはり2人は固まっていた。まぁ、そうかな。いきなり骨が紅茶とサンドゥィッチを持ってくるんだから。しかも器用に置いていくし。驚くなという方がおかしいのかなぁ。
「とりあえずどうぞ。お食べください」
私がサンドゥィッチを勧めると2人は紅茶で少し喉を潤した後、サンドゥィッチを頬張った。
「おいしい」
「あら、おいしいですね」
2人とも同じ意見のようだ。良かった良かった。
「これ、カーソンさんが作ったんですか?」
フォルテが二つ目を頬張りながら聞き、バスティは紅茶を飲もうとしている。
「いやぁ、違いますよ。スキュラちゃんです」
ぼふ ぶふっ
2人が当時に吹いた。固形と液体が同時に飛んでくる。私の前に防御結界が現れ、飛んできた物をその場で止める。力の向きを止められた固形物と液体はそのまま私の足下に落ちた。
直ぐにスキュラが掃除をしに来る。掃除が終わるまで2人は固まったままだった。
暫くして、2人は黙って帰っていった。
品物は夕方、私の店で引き渡すこととなった。報酬は金貨30枚を今日払って、残りはまた後日にバスティの家に伺うという話になった。
2人が帰ってから直ぐに私は工房へと向かう。
サンダーゴーレムとヒートゴーレムがすでにサークレットの原型を作り上げていた。そこに私が魔術を流し、サークレットの図面を小型の立体魔方陣として描く。
すぐにミスリルのサークレットはシンプルで美しい形状へと形成されてゆく。中央にアメシストを配置し、両側へ3つずつ魔石を埋め込んでゆく。
もう一つのサークレットも同じ作業をした。
それから、床に直径3m程度の魔方陣を描き魔法を詠唱し始めた。使う魔法は魔法を逸らす魔法と幻影を見せる魔法、それと自分の容姿を変化させる擬態の魔法をアメシストを対称に二つずつの魔石に掛けてゆく。ミスリル自体がもつ魔力と私の術が融合し、さらに絶妙な石の配置が強力な力を生み出した。
そこにもう一つある魔法を付与しておく。
こうして一つのサークレットが出来上がった。ここまでで1刻近くが過ぎている。約束の時間まで2刻しかないのですぐにもう片方に取りかかった。ほぼ同じ時間でサークレットはできあがり、シンプルな輝きを放っている。決して自分を主張しない。
「はぁ、できた。さて、これを渡しにいかなきゃな」
私はスキュラに夕食を作っておいてくれと紙に書いて渡し、店の方へと向かった。
-----カーソン店舗前-----
店の前にはすでに2人が来ていた。2人ともローブを着てフードを深くかぶっている。私は2人に近づくと、店の鍵を解除した。大人3人くらいは入れるので問題はない。2人とも細いし。
袋の中から出来上がったばかりのサークレットを2人に渡した。ふたりともかなり満足しているようだ。撫でたり頬ずりしたりしている。
「そういえば、頭のサイズ計られませんでしたけど大丈夫でしょうか?」
サークレットを撫でていたバスティが聞いてきた。フォルテも頬ずりを止めてこちらを見る。
「まあ、試しに頭の上にのせてみたら良いですよ」
私は自慢げに言った。2人は恐る恐る頭に上にサークレットを乗せる。淡い光りが2人の頭を包んだ。サークレットは2人のおでこの辺りに付けられていた。
「はゃ?これどうなってるんです?」
フォルテが額をつんつんしながら質問してくる。バスティも同じようにサークレットを弄っている。
「ん、それはね。ひ・み・つです。ただ場所が気に入らないときは少し魔力をサークレットに流すつもりで自分の付けたい場所をイメージすれば良いよ」
私が言うと2人は直ぐに試し始めた。2人の頭の上をサークレットが行き来している。
これはこれで面白い。まあ、ずっと見ているわけにもいかないのである程度の所でストップを掛けた。
「お気にいりましたか?」
私の問いに2人はコクコクと頷いた。バスティが懐から金貨30枚を取りだした。
「取りあえず、金貨30枚です。お納めください。残りは後日、また1週間後に2人でお伺いいたします」
私は了解と告げ、2人と別れた。
店を閉めて、途中で食料品店に何店か寄り、肉類の値段を調べてから買い物を済ませ、スキュラの料理を食べるために家路についた。
今回は売れ筋を捕らえきれなかった私の完全な失敗です。
ギルドに下ろさないのか?
そうですねぇ、それをやったら楽なんでしょうが、大型店にはなれないですよね。
確かに下ろすだけの業者もいますが、買ってもらうために接待したりするのは御免です。
ルールウに聞いてみたら?
あ~、それは最後の手段ですかねぇ。
聞くのは簡単ですが、なんかプライドが・・・・・・。
それに・・・・・・、あそこ売れてませんよ。
(今のはルールウには内緒にしておいてください)
魔法具を売る。これは売り方を変える必要はあると思うんですよ。
商品を見てみたら、冒険者向けの商品とアクセサリーしかないんですねぇ。
もっと一般市民に使ってもらえるような物、それでいて安い物を考えないといけませんかね。
例えば切れ味を上げた包丁とか。先日買った玉鋼も丸々残っていますから、そちらの活用方法も考えないと行けないですし。
何かいいものないですかねぇ
話は変わって、定食屋ハズキ・・・・・・。ルーミィから聞いてはいたのですが・・・・・・頭抱えました。なんかね、破産寸前だったんですよ。今、営業できているのが不思議なくらいです。
特に圧迫しているのが肉類ですね。
ここ一年ほど単価がえらく上がっているんですよ。
市場調査してみたら?
ん~、そうですね。古代エルフのフォルテの依頼が明日きますから、その間をぬって調べるしかないでしょうね。
それと肉に関してはやはり、保存できる環境ですね。
バッグの為に創った冷蔵室、今のところ問題なく使えているのですが、ハズキの改装をするとお金が足りないし、現状の保存庫だけでは量的には入れられないし、1ヶ月に1回魔法をかけ直すという非効率的なことはしたくないし・・・・・・。
ねぇ。
二つのことはさておき(ほんとは置いちゃあいけないんだけど、特に前者)、今日はフォルテとそのお姉さんの問題について詳しい話を聞かないと聞けないんで、とりあえず待ち合わせ場所である自分の店に向かいま~す。
私は、店を開けずに自分の店の前に立っていた。現れない。仕方がないので今後の商売のやり方を考える。
ふと目を上げるとフードを深くかぶった二人の人物が目の前に立っていた。
「カーソンさん・・・・・・」
声の主はフォルテだった。フードの奥から深紅の瞳がこちらを覗いている。もう一人はフードを深くかぶったままだ。
「やぁ、フォルテ。なんだい、その格好は・・・・・・」
全身をローブで覆った二人に私はあきれてしまった。確かにフォルテの髪と瞳は目立つ。しかし、そこまですると逆に目立つというものだ。通りを歩く人々もちらちらとこちらを見ていた。
「と、とりあえず場所を移そう。私の家がいいかい?それとも二人のどちらかの家がいいかい?」
私の問いにフォルテは私の家がいいと言った。やはり、まだ警戒されているようだ。まぁ、常識的に言って、そんなに親しくない男を自分の家に招くことはしないだろう。
それから、もう1人のローブの人物は自分の姉だと紹介してくれた。姉の方は少しだけ頭を下げる。
私は二人についてくるように言って歩き出した。途中で昼食を買い込む。2人も何か食べ物を買っていた。
「ところで、変装用のアイテムって言ってたけど、フォルテの姿は変装してるの?」
歩きながらフォルテに話しかける。2人は顔を見合わせた。
姉の方が首を横に振る。
「ごめんなさい、カーソンさん。すべてはあなたのお家に着いてから・・・・・・」
そう言ってフォルテは黙り込んだ。姉の方は口をきかない。
それ以降、3人は私の家まで一言も話すことはなかった。
-----カーソン宅-----
私の家にはスキュラとゴーレムが2体いる。出かけている間、スキュラは炊事場で料理をしている。実は結構器用な娘だった。
あの3mある巨体と10本の足?で器用に掃除し、洗濯をし、料理を作ってくれる。最初は身体が慣れていなかったようだが、今は生き物そのものだ。
ちなみに2体のアイアンゴーレムは裏の作業場で待機している。
「さあ、どうぞ、お入りください」
私は2人のために玄関を開けた。当然、玄関には封印が施してある。四方の壁には結界も張ってある。
2人が玄関をくぐった瞬間・・・・・・
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
2人の悲鳴がハモっていた。あっ、もしかして・・・・・・
私が2人の後について玄関をくぐると、そこにはスキュラが立っていた。2人は腰を抜かしたらしく、女の子座りでへたり込んでいる。
2人のフードは取れていた。じっとスキュラの巨体を見上げて震えている。
(あらあら、参ったな。忘れてたよ・・・・・・。でもこのお姉さん、どっかで見たなぁ)
私はとりあえず2人をリビングまで運んであげるようにスキュラに紙を見せた。スキュラの足?が2人を抱え上げる。
と、同時に2人は気を失い くたり となった。
「あ~、まずいなぁ・・・・・・」
スキュラはカチャリカチャリと音を立てながら2人とその荷物を抱えてリビングへと歩いて行った。
半刻後、2人は目を覚ました。2人はリビングのソファーの上に寝かしておいた。スキュラには裏の作業場で待機するように紙に書いて渡した。
残念そうに去って行くスキュラの後ろ姿が印象に残る。
「ぁあ、う~ん」
可愛らしい声を出しながら、フォルテが目を覚ました。がばりと勢いよく起き上がり、周りを見渡した後、私と目を合わせる。
2人のローブはスキュラが脱がせて、ローブ掛けに掛けていた。
フォルテはハッとして全身を確かめている。
(いやいや、何もしてないって・・・・・・)
「大丈夫?」
私はフォルテに話しかけた。姉の方はまだ眠っている。
「ぁあ、あの、何もしてませんよね?」
「してません!」(きっぱり)
私は、最初の一言がスキュラのことではなく、そっちのことだったので笑いをこらえていた。
フォルテはホッとした表情をしてすぐに、スキュラのことを思い出したようだった。
「あれ、あれは?」
「あれ」 以上の表現は出来ないようだ。口がパクパクと動いている。
「あぁ、あれはうちのゴーレムだよ。一応、フォルテが勤めている冒険者ギルドから買ったやつなんだけど・・・・・・、この前今日のことを依頼された日だよ」
フォルテは少し考え込んで あぁ と 唸った。
「そういえば、うちの在庫にありました。売れないで困っていたところ急に売れたって売り場の子がうれしがってました」
あ~、やっぱり不良在庫だったんだ。ま、私としては良い買い物だったけど。
そうこう話しているうちに姉の方も目を覚ました。そしてやっぱりフォルテと同じ反応をした・・・・・・。
とりあえず、姉にもスキュラのことを話して落ち着いてもらった。フォルテは自分の勤め先の在庫だったから話は早かったが、姉の方は取り乱していた。
あのような存在を見たのは初めてだったようで、なだめるのに相当な時間を費やしてしまった。
しかし・・・・・・、姉はフォルテとは似ていなかった。似ているのは深紅の髪と瞳だけだった。胸と腰回りは圧倒的な戦力差だ。
じっと見ている私をフォルテがジト目で見ている。
あ~、いかんいかん。
とりあえず、依頼内容の確認を始める。
「あ~、フォルテ。依頼内容のことなんだが、その髪と瞳の色をごまかせればいいのかな?」
私はごまかすようにフォルテに問いかけた。同時に姉の髪と瞳を見る。2人は当時に頷いた。そして2人はひそひそと話をする。話が一段落したようでフォルテと姉がこちらを見る。
(ん~、お姉さんの方どっかで見たんだよなぁ・・・・・・)
私が姉の方を見ているとフォルテが咳払いをした。あ~、いかんいかん。
「そうです、まずはこの瞳と髪の色を金色に変えていただきたいのです。それにはまず古代エルフのことを少しお話しいたします」
私は古代エルフの話と聞いて思わず身を乗り出した。フォルテが少し身を引く。姉は微動だにしない。
「あっと、古代エルフと呼ばれる私たちのことなのですが・・・・・・」
フォルテは古代エルフにことについて話し始めた。古代エルフは遙か昔から暗に囲まれた次元の狭間で生きていた。
そこはこの世界とは違う場所で、時間の流れ自体が根本的に違っているらしい。しかも、今のフォルテの身体も本質は全く違う物(存在)だという。そしてそれは自分たちでも理解できていないそうだ。
あるとき強烈な力が狭間に降りかかり、それはフォルテ達のいた次元自体を歪めてしまうほどだったという。その時はじき出されたのがフォルテとその姉の一族。それ以来、ずっと生きてきており、ある者は永遠の眠りにつき、ある者は争いで命を落としたという。
フォルテと姉は一族と考え方が合わず、暮らしていた土地を離れ世界中を旅した。それがどれくらいの刻だったのかはあまり憶えていないという。
私は、自分、いや、世界で言われている古代エルフの知識が根本的にずれていたことを認識した。
「じ、じゃぁ、今いるエルフとかは・・・・・・?」
今いるエルフやハーフエルフ達は自分たちとは全く関係がないという。ただしハイエルフに関してはどちらかというと古代エルフに近いらしい。ただ近くてもまったくの別物と言うことだ。
私はソファーに背をもたれ掛け、天井を見上げた。今入った知識だけで数十年分の研究が進んだのと同じなのだ。
「は~、驚いた、というより・・・・・・、言葉にならないな」
私は率直に感想を述べた。
「で、なぜ今になって髪の色と瞳の色を隠す必要が?」
フォルテは姉とうなずき合うと話し始めた。
元々は金髪、金眼だったらしい、それが2~3年前に髪が赤くなり始め、1年くらいで瞳まで赤く染まったという。それとともに身体に変調をきしたらしい。
瞳が赤くなったことでヴァンパイアなどの死霊や人狼などと疑われ、迫害を受け始めた。
そもそも2人はこの辺りに住んでいなかったそうで、もっと北の方に住んでいたらしい。そこで、長年住んでいた土地を離れ、最近このルイスの街に引っ越してきたという。その時は自分たちの魔術で髪の色と瞳の色を金色に変えたそうだ。
しかし、ちょうど半月くらい前、いきなりフォルテに掛かった魔術が解けた。もう一度かけ直そうとしたが元に戻らなかったらしい。
(ん~? まてよ、ちょうど私がこの街に帰ってきた頃か・・・・・・)
私はその頃この街、またはこの周辺でなにかが起きなかったか聞いてみた。しかし、2人とも知らないという。
「でも、赤い髪と瞳ってやっぱり迫害だけの問題?それとも身体の変調も関係あるの?」
ただの迫害だけでそこまで神経質になるものかどうか分からない。確かに珍しくはあるが、髪の赤いやつなんて、それこそざらにいる。
意地悪かもしれないが本当にそれだけが原因かを敢えて聞いてみた。
「それが・・・・・・」
2人は戸惑うというかなんというか、困った顔をしていた。フォルテは少し頬を赤らめている。
「あの、その・・・・・・」
フォルテが言い澱んでいると姉の方が口を開いた。
「極端に強くなるのですよ、性欲が。それと食欲も」
・・・・・・・・・・・・はあ。それは・・・・・・困るわなぁ。ま、どのくらい強くなるのかは敢えて聞かない。ただ、言い淀むくらいの強さなのだろう。
これ以上は突っ込むまい。うん。
フォルテは顔から湯気が出ているように見えるからなぁ。
それに古代エルフ(便宜上こう呼ぶ)とはいえ女性である。食べる量が増えるのは大問題だろう。
「あ~、なんか深刻そうなので分かりました。フォルテ1人分でいいの?それともお姉さんのも必要?それ以前に色を変えるだけで収るの?」
私の問いに姉の方が答えた。
「私の分も欲しいですね。それと効果はあります。ほんの半月前までは魔術で変えただけで十分だったのですから。私のもつい最近までは大丈夫だったのです」
どうやら、姉の方が本来の魔術の力が強く、それで押さえ込んでいたらしい。それが限界を突破したということだ。
私は頷きながら少し引っかかりを憶えていた。
1つは時期的なものだ。なぜ急に変化したのか。そこが分からない。
もう1つは、1度掛けた魔術が魔道具に掛けた魔術で押さえ込めるのかも不明だ。
で、それとは全く違い、もう1つ、お姉さんのことが気になっていた。会ったことは無いはずなのだが、どこかで聞いたような声だった。思い出せない。
「わかりました。私の魔術で押さえ込めるかどうかは分かりませんが作ってみましょう」
私は取りあえず仕事を受けることにした。術を施すのはそう難しいことではない。後は形と料金の問題だ。
「では、ご希望の形などはございますか?」
まだ茹だっているフォルテを放置してお姉さんの方と話を始める。希望はサークレットということだった。材質は任せると言うことだ。
「う~ん、材質を任せるといわれましても、それによって料金が根本的に変わるのですが・・・・・・」
私の答えに考え込んでいる。私は、材質の持つ特性を説明した。じっくりと聞いていたお姉さんは答えを出した。
「ミスリルで2つお願いしたいと思います」
私もさすがに驚いた。フォルテも一気に正気に戻った。フォルテは口をパクパクと動かしている。
「あの、金額が相当掛かりますが・・・・・・宜しいのでしょうか?」
私も一応商人の端くれだ。(まだ全然売れてないけど・・・・・・ね)
料金を取りはぐれるわけにはいかない。ミスリルのサークレット2つとなると金貨で5000枚はもらわなくては元が取れない。
お姉さんは何の仕事をしているのかは知らないが、フォルテはただの冒険者ギルドの受付だ。払える額ではない。
「大丈夫・・・・・・だと思います。たぶん。フォルテから聞きました。私たちのことが知りたいということですが?」
お姉さんは表情を変えずに言った。
あぁ、そういうことか。納得。
「それと、金貨30枚と私の部屋の中から金目になりそうな物と欲しい物を持って行ってください。厭とは絶対に言いませんので」
う~ん、剛毅だなぁ。しかも女性の部屋から何でも持っていって良いなんて普通は言わないぞ。
男として見られていないのかなぁ? まぁ良いけど。
「分かりました。じゃあそれでお受けいたしましょう。そうですね。今お昼ちょっと過ぎたくらいですので夕方くらいにはお渡しできると思います」
私は2人にサークレットのデザイン画を見せ、好きな物を選んでもらった。
選んでもらった後、私はちょっと待ってもらうように言って、2階へ上がった。そこで、黄色の魔方陣の部屋を開け、ミスリル貨を3枚取り出し、物置に移動する。ここでは魔石と宝石を用意する。魔石は小粒だが強力なものを12個とアメシストを2つ用意しそれを持って裏の作業場に行く。
サンダーゴーレムとヒートゴーレムを呼び、2人が選んだサークレットの図面とミスリル貨を渡した。2人?は槌の方へ歩いて行く。
持って来た石を取りあえず作業台に置き、スキュラに食事の用意をするように言ってリビングへ戻った。
「お待たせしました。折角ですので今、お茶を入れさせます。お昼食べませんか?色々とお聞きしたいですし」
私がリビングに行くと2人の顔が妙に上気しているように見えた。暑いのかな?
直ぐ後からスキュラが入って来てキッチンへと向かってゆく。2人の古代エルフは抱き合って通り過ぎるのを見守っていた。
(う~ん、お客が来たときこれでは困るな。少しスキュラのことを考えるかな?)
スキュラが通り過ぎると2人は元の位置に戻った。顔色も前に近い。
「ところで、お姉さん。お名前伺っていませんでしたね。フォルテさんからお聞きとは思いますが私はカーソン・デロクロワと申します。今更ですが初めまして、よろしくお願いします」
そう言って手を差し出した。お姉さんの方も手を握り返してきた。
「バスティエンヌ・エル・ゴチックです。バスティと呼んでください。どうぞよろしく。でも初めてではないですよ。お名前も存じております。フォルテより前にね」
今まで表情を崩さなかったバスティがやんわりとした笑顔を浮かべた。冷静な大人の女性という印象ががらりと変わる。
しかし、フォルテより前・・・・・・ねぇ。
・・・・・・?
私が頭ではてなマークを出していると、バスティが突然真顔に戻った。表情も消えている。
「税金は、住民税と所得税に分かれます。まず、住民税ですがこれは年一回、年末に徴収されます。金額はボイド銀貨3枚です」
バスティはそこまで言って表情を崩した。私と眼を合わせるとにこりと笑う。
ぁぁぁぁぁあああああ!思い出した。でも、いや違うぞ。きっと違う・・・・・・。
私の頭はパニックになっていた。
まさか、まさか・・・・・・この このナイスバディの、優しい微笑みの女性が・・・・・・あの中央役所の陰気な受付?
「中央役所で受け付けをやっています。どうぞよろしく」
私は言葉が出なかった。出せなかった。あまりのショックとギャップの差に・・・・・・
「お姉ちゃん、仕事の時と普段が全然違うもんね」
フォルテが私の言いたいことをそのまま代弁してくれる。
「それはそうですよ。公私混同は良くないですから」
いや、違いすぎますけん。
そこへ突然ヌッとスキュラの足?が現れた。器用に紅茶を3つ持って、同時に机の上に置いている。4つ目にはちょっとしたサンドゥィッチなどが作られていた。それを置いてスキュラはキッチンへと戻ってゆく。
やはり2人は固まっていた。まぁ、そうかな。いきなり骨が紅茶とサンドゥィッチを持ってくるんだから。しかも器用に置いていくし。驚くなという方がおかしいのかなぁ。
「とりあえずどうぞ。お食べください」
私がサンドゥィッチを勧めると2人は紅茶で少し喉を潤した後、サンドゥィッチを頬張った。
「おいしい」
「あら、おいしいですね」
2人とも同じ意見のようだ。良かった良かった。
「これ、カーソンさんが作ったんですか?」
フォルテが二つ目を頬張りながら聞き、バスティは紅茶を飲もうとしている。
「いやぁ、違いますよ。スキュラちゃんです」
ぼふ ぶふっ
2人が当時に吹いた。固形と液体が同時に飛んでくる。私の前に防御結界が現れ、飛んできた物をその場で止める。力の向きを止められた固形物と液体はそのまま私の足下に落ちた。
直ぐにスキュラが掃除をしに来る。掃除が終わるまで2人は固まったままだった。
暫くして、2人は黙って帰っていった。
品物は夕方、私の店で引き渡すこととなった。報酬は金貨30枚を今日払って、残りはまた後日にバスティの家に伺うという話になった。
2人が帰ってから直ぐに私は工房へと向かう。
サンダーゴーレムとヒートゴーレムがすでにサークレットの原型を作り上げていた。そこに私が魔術を流し、サークレットの図面を小型の立体魔方陣として描く。
すぐにミスリルのサークレットはシンプルで美しい形状へと形成されてゆく。中央にアメシストを配置し、両側へ3つずつ魔石を埋め込んでゆく。
もう一つのサークレットも同じ作業をした。
それから、床に直径3m程度の魔方陣を描き魔法を詠唱し始めた。使う魔法は魔法を逸らす魔法と幻影を見せる魔法、それと自分の容姿を変化させる擬態の魔法をアメシストを対称に二つずつの魔石に掛けてゆく。ミスリル自体がもつ魔力と私の術が融合し、さらに絶妙な石の配置が強力な力を生み出した。
そこにもう一つある魔法を付与しておく。
こうして一つのサークレットが出来上がった。ここまでで1刻近くが過ぎている。約束の時間まで2刻しかないのですぐにもう片方に取りかかった。ほぼ同じ時間でサークレットはできあがり、シンプルな輝きを放っている。決して自分を主張しない。
「はぁ、できた。さて、これを渡しにいかなきゃな」
私はスキュラに夕食を作っておいてくれと紙に書いて渡し、店の方へと向かった。
-----カーソン店舗前-----
店の前にはすでに2人が来ていた。2人ともローブを着てフードを深くかぶっている。私は2人に近づくと、店の鍵を解除した。大人3人くらいは入れるので問題はない。2人とも細いし。
袋の中から出来上がったばかりのサークレットを2人に渡した。ふたりともかなり満足しているようだ。撫でたり頬ずりしたりしている。
「そういえば、頭のサイズ計られませんでしたけど大丈夫でしょうか?」
サークレットを撫でていたバスティが聞いてきた。フォルテも頬ずりを止めてこちらを見る。
「まあ、試しに頭の上にのせてみたら良いですよ」
私は自慢げに言った。2人は恐る恐る頭に上にサークレットを乗せる。淡い光りが2人の頭を包んだ。サークレットは2人のおでこの辺りに付けられていた。
「はゃ?これどうなってるんです?」
フォルテが額をつんつんしながら質問してくる。バスティも同じようにサークレットを弄っている。
「ん、それはね。ひ・み・つです。ただ場所が気に入らないときは少し魔力をサークレットに流すつもりで自分の付けたい場所をイメージすれば良いよ」
私が言うと2人は直ぐに試し始めた。2人の頭の上をサークレットが行き来している。
これはこれで面白い。まあ、ずっと見ているわけにもいかないのである程度の所でストップを掛けた。
「お気にいりましたか?」
私の問いに2人はコクコクと頷いた。バスティが懐から金貨30枚を取りだした。
「取りあえず、金貨30枚です。お納めください。残りは後日、また1週間後に2人でお伺いいたします」
私は了解と告げ、2人と別れた。
店を閉めて、途中で食料品店に何店か寄り、肉類の値段を調べてから買い物を済ませ、スキュラの料理を食べるために家路についた。
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