こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます ⅩⅦ マジックアイテムを量産しましょう

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 いやぁ、えらい目に遭いました。

しかし、高音言語魔法がゴチック姉妹にあれだけ影響を与えているとなると・・・・・・。

少し研究が必要ですねぇ。

あの魔法が使えないと困るんですが。

ミュールの本体、あれはデカいです。

早めに帰したのは良いのですが家が壊れていないか非常に心配ですな。

そう。それと家にいるユーリカの事、完全に忘れていました。

てへ。

今頃、どうなっているのでしょうね。

ちょっとだけ楽し・・・・・・、ゴホン!

話題は変わりますが、魔石! 魔石ですよ!

あれは凄い。あれだけの魔石があれば、付与魔術もかなり楽になります。

あそこはもう一度掘り起こす必要がありますね。

魔術師ギルドと揉めたデーモン軍団を使って何とかOKでしょう。

領主にしても、魔術師ギルドにしても少し人を馬鹿にしすぎです。

止めてくれ?知ったことか! というところですねぇ。

追い出されたらどうするのか?

う~ん、特段ここに愛着は無いので王都にでも移住しますかね。

それか・・・・・・反乱?

いやいや、物騒なことは止めましょう。

シマセンヨ、ソンナコトハ。

さぁ、ルイスの街も近くなりました。

惨状を見極めましょう!




 1週間ぶりに帰ってきたルイスの街。そこは今、大混乱になっていた。騎士団が6人体制で動き回り、騎乗している者もいる始末だ。治安部隊も街角の至る所に立っている。私たちも街の入り口で散々質問攻めに遭った。夕方近いので早くして欲しいものだ。
  
  「で、なんでこのように混乱しているのでしょうか?」
  
  私の質問に街の入り口の警備に当たってる警備員が答えた。
  
  「いや、それがよく分からないのだ。先日、王都から使者が来て国家非常事態宣言、臨戦態勢の号令がかかった。そこでうちの領主さまも市民に動員令を出されたんだ。何しろ何故、国家非常事態宣言まで出されたのかが分からないから、街に入る者全てを厳しく取り締まる必要があってね・・・・・・。すまんね、中途半端な答えで」
  
 私は、それだけ教えてくれて助かると答え馬車を走らせた。行き先は家ではなくルールウの店だ。家のことも気になったが取りあえず情報収集の方が先だと判断した。
  
  「ルールウ、どうなっている?」
  
 私は馬車を飛び降り、バスティに魔術師ギルドへ私が帰ったことを伝えに行かせ、ルールウの店についた。
  
  「よぅ、カーソンお帰り。どうだった?」
  
 相変わらず飄々とした答えだ。私は今の街の現状と何が起きたのかを聞いてみた。
  
  「あー、これね。ほら、あんたが出かける前に国王軍の一個軍団が北へ向かったのは知っているよね」
  
  そう言えばそんなこともあった。そのせいで市場の原材料が消え、私は土地や建物を買うことになったのだ。
  
  「あぁ、遠征が始まったのですか?でも軍団が動いているならばこの地には問題ないのでは?それにあの時点ではルイスは緊迫していなかったはずですよね」
  
私の問いにルールウは少し顔をしかめる。天を仰ぎながら言葉を選んでいるようだ。
  
  「まぁ、いいか。近く触れも出るはずだし・・・・・・」
  
 ルールウの話によると私が出立して直ぐに軍団は動いたらしい。そして・・・・・・連絡が取れなくなったということだ。原因は不明。丸ごと連絡が取れなくなったという。それは先陣、指揮陣、後詰めすべてで、様子を見に走らせた早馬や小隊も全て駄目だという。
  
  「は? なんですかそれは・・・・・・」
  
 私は間抜けな声を上げてしまった。出陣した兵は5万近い。それが一斉に連絡を絶つなどあり得ない話だ。ルールウも今回に関しては不明な点が多すぎるという。
  
  「それでこの国家非常事態宣言なのさ。王国全体の貴族、傭兵、各ギルドに募兵がかかったということだ。まだ強制徴用ではないけどね」
  
 ちなみにルールウは高い装備が売れてほくほくらしい。私達が話し込んでいるとバスティが戻ってきた。
 私はそこでルールウをとっちめなければならないことを思い出した。懐から1枚の紙を取り出す。
  
  「なぁ、ルールウ? これはな・ん・だ?」
  
 私は意地悪そうに笑いながらルールウの目の前に1枚の紙を見せた。ルールウはジッと内容を見ている。
  
  「あぁ、これか。そのままだが何か問題でも?」
  
 私は固まってしまった。ルールウの顔はごまかしでも何でも無く本当にどうした?という顔をしている。
  
  「別に良いだろ? 前から誘っていたじゃん。 あんたが袖にしていただけ。どうせ詳細はバスティから聞いてるんだろ?」
  
 ルールウはこれでもかと胸の谷間を強調して見せてくる。私は逆に返答に困ってしまった。ルールウはにやにやと笑っている。バスティはおろおろとみているだけだ。
  
  「なぁ、カーソン。その紙の内容だがなぁ、3人だけじゃぁ無いからな・・・・・・。せいぜい逃げ切って見せなよ」
  
 小さなウィンクをして私の手を取り、無理矢理自分の胸に手を当てさせる。柔らかな感触と暖かさが手の平に伝わってきた。
  
  「ルールウ~、抜け駆けは許しませんわよ」
  
 横を見るとバスティがブロードソードに手を掛けている。ルールウはお構いなしに私の手を動かす。
  
  「主様も主様です! 早く手をお放しください!」
  
 バスティの言葉に私は手を放そうとする・・・・・・。
離れないんだなぁ、これが・・・・・・。そう、私はルールウの胸に手を持って行かれた瞬間から抵抗はしていた。しかし手どころか身体が全く動かないのだ。正直言葉すら出せなくて困っている。
  
  「・・・・・・ルールウ、あんた術使ってますね」
  
 バスティのブロードソードがルールウの腕を一閃した、ように見えた。ルールウは私の手を放しその一撃を軽く躱したようだ。ルールウが胸を乗せていた台をブロードソードが切り裂いていた。5cm以上ある台を・・・・・・。
  
  「こっ、こらバスティ、本気に近かっただろ今の・・・・・・」
  
 私はあきれるというか複雑な表情をするしか無かった。剣筋は見えないわ、それを簡単に躱すわこの連中はどうなってるんだ?
私を無視してバスティがルールウに喰ってかかっている。
あ、バスティが掴まれた。

  「しかし、バスティの鎧、とんでもないことになっているなぁ。ミュールだったっけ?そんなに強かったの?もしかして退治してしまった?」
  
 バスティは完全に動きを封じ込まれていた。どうせルールウに聞いても教えてくれないだろうから、後でバスティに聞いてやろう。ちなみにバスティの鎧を半分潰したのは私なのだが、これは内緒にしておこう。バスティにも口止めはしてある。
 私はミュールのことについてはある程度の話をした。もちろん施設の詳細や魔石のこと、古代語の本や器具のことは黙っている。
  
  「そうか~、そんなに強力なヤツだったのか。で、今どこに?」
  
 そう言えば忘れていた。私はまた来ると言ってルールウの店を後にする。バスティも何とか解放されたみたいで、直ぐに私の後をついてきた。去り際にルールウから声がかかる。
  
  「今回の遠征で大量の武器や防具が失われたから少し創っておいた方が良いよ~」
  
私はありがとうと言って馬車に乗り込んだ。とりあえず一度家に戻る必要があった。
その時、ルールウからもう一言付け加えられた。

「少し嫌なことがあるかも知れないが、あんまり怒るなよ~。なんだったらお姉さんが全身で癒やしてあげるから~」

まったく、何だというのだ・・・・・・。


 家に着くとサンダーゴーレムが門の前に立っていた。とりあえず、ただいまと紙に書く。お帰りなさいませと返筆があり、最後に一言付け加えられていた。

 「半日ほど前に屋敷の中で叫び声が聞こえました。それと本日はユーリカ様がお店に出かけておられません」

と。・・・・・・不味い。非常にまずい。

 私とバスティは顔を見合わせ一目散に屋敷の中に駆け込んだ。部屋の中からは良い匂いが漂っている。リビングに入るとミュールの尻尾?がキッチンの方から伸びていた。天井は・・・・・・壊れていない。ぎりぎり何とかなったようだ。
  
  「ミュール、ユーリカはどこだ?」
  
 私はミュールに声を掛けた。ミュールが上半身を捻り顔を出す。
  
  「ゴシュジンサマ、オカエリナサイ~。ユーリカヒドインデス~、ワタシヲミテヒメイヲアゲテタオレルンデスヨ~」
  
 まぁ、ごく当たり前の反応だろうなぁ。とりあえずユーリカの部屋に向かう。後ろからもうすぐ晩ご飯だよミュールから声がかかる。
私とバスティは装備も外さないままユーリカの部屋に飛び込んだ。ユーリカは布団をかぶり、カタカタと震えていた。
私はゆっくりとベッドの横に座り、布団越しにユ-リカの背中を撫でる。

 「ただいま、ユーリカ? 怖かったか? ごめんな、配慮が足りなかった」
  
 私の声に気がついたのかガバッと布団を跳ね上げユーリカはしがみついて来た。顔色は真っ青だ。
  
  「あ、お、狼が・・・、蛇が・・・・・・、地下から上がって来たんです」
  
 ユーリカはガタガタと震えている。私はユーリカの背中をそっと撫でてやる。
  
  「落ち着いて、ユーリカ。あれはミュールだよ。あの骨だけだったミュールが肉体を取り戻してああなったんだよ」
  
 愚図っているユーリカは涙と鼻水まみれになり顔を上げた。
  
  「あれが・・・・・・、ミュール、なのですか・・・・・・?」
  
 まだ信じられないという顔をしている。バスティがユーリカの顔を布で拭いている。心なしか力が入っているように見えるが・・・・・・。
  
  「さぁ、離れなさい。あなた、自分の主人に抱きつくの?」
  
 バスティ眼がきつい。・・・・・・必死すぎるぞ。脅してどうする。
ユーリカは取りあえず私から身体を離した。心なしかバスティを睨んでいる、ような気がする。

 「とりあえず着替えてリビングへおいで、説明するから」
  
 私とバスティはユーリカの部屋を出てリビングへと向かった。
  
  「ところでバスティ、フォルテは良いのか?一度帰らなくても?」
  
 バスティは取りあえず話が終わるまでは帰らないという。どのみちアクゥィバスアーマーを脱いでもらう必要もある。修理しないといけないし。
 私は魔術師ギルドの反応をバスティに聞いた。詳細を尋ねられたらしいが話せないと言って帰ってきたらしい。バスティはネタヴィアやサルファとも交流があるようで、今の自分の立場も説明してきたという。そして魔術師ギルドの方から一度伺うと伝えておいてくれという事を伝言として受け取ってきていた。
 そこまで聞いた時、ユーリカが服を着替えてリビングへ入って来た。天井ギリギリまで身を屈めたミュールを見てユーリカはビクついている。
  
  「ユーリカチャン、シンセイミュールデス、ヨロシクデス~」
  
 美しい鈴のような声がミュールの口から響く。
のだが何かおっとりとした話し方と語尾で魅力が半減しているような気がする。上体を屈め、ユーリカの方へ手を伸ばす。かなり広いリビングなのだが上半身と手を伸ばすだけで届いてしまう。目の前に釣り鐘状の乳房が揺れている。
  
  「・・・・・・ユーリカ、今日は店を開けないで良いから、ミュールの胸を隠す服を創ってくれないか?」
  
 私の言葉にユーリカはコクコクと頷いていた。まだ目に涙が溜まっている。
さて、ミュールの部屋をどうにかしないといけないのだが・・・・・・。
どうにもならない。空き部屋が2つしか無いのだ。地下だと広いのは広いが高さが厳しい。かといって2階の部屋(客室)ではミュールが重すぎていつ家が崩壊するか分からない。となると1階のユーリカを2階へ移し、1階の部屋をミュールに使ってもらうことになるのだが・・・・・・正直狭すぎる。
  
  「はぁ、やはり増築するしか無いか・・・・・・」
  
 私は溜息を1つついた。しかし、庭の空きは無い。スロープを作って地下に部屋を張り巡らせるしかないか・・・・・・。また金がかかる。
  
 とりあえず、今日は休んで明日からまた商売のことを考えるとしよう。私たちはミュールの用意した夕食を食べて久しぶりの布団の感触を楽しむことにした。


  -----刀の量産-----
  
 私たちは惰眠を貪った後、日が高くなって目を覚ました。ミュールが用意する朝食を食べて一息つく。ユーリカはまだミュールにビビっているが、まぁ徐々に慣れてもらおう。因みにバスティはあの後帰らず、客間に泊ってもらった。
  
  「ちょっと冒険者ギルドへ出かけてくる。バスティはとりあえず家に帰っておいで。ミュールはサンダーゴーレムと一緒に玉鋼を500kg工房へ移動させること。骨格が30体分届くからその場所を空けておいて。ユーリカは店の方を頼む。今回から売れ筋のハサミとは別に、武器と防具を中心に作成してゆくのでそのつもりで・・・・・・」
  
 私の方針を聞くと全員がその通りに動き出した。私も外出の用意をする。
  
  「あ、バスティ。アクゥィバスアーマーをミュールに預けておいて。後で修理するから」
  
 それだけを言って私は家の外に出た。バスティも一度家に帰り着替えとかを持ってくるという。
?ん 持ってくる? 
もしかしてここに住むつもりだろうか? まぁ、後で問いただそう。みんなが出かけた後、私は冒険者ギルドへと向かった。


-----冒険者ギルド-----

 「ミルトはいるかい?」
  
 私は冒険者ギルドのアイテム売り場で、店員の1人に声を掛けた。少し待って欲しいと言われ、並んでいる商品のチョックをする。やはり武器や防具はほとんど無く、防御系統のアイテムもかなり減っていた。今はモンスターの素材や薬草などの商品に取って代わっている。
  
  「こんにちは、カーソンさん」
  
 暫く商品を眺めていると私の後ろから声がかかる。振り返るとそこにはミルトが立っていた。手には水晶球と紙の束を持っている。若干、元気が無い。
  
  「やぁ、ミルト。今日は先日購入したデーモン達の骨格を受け取りに来たのだけど・・・・・・」
  
 ミルトの表情に複雑なものが浮かんだ。次にミルトの口から出た言葉は私を怒らせる事に十分な言葉だった。
  
  「その件なんですけど・・・・・・、倉庫が全焼してしまいまして、その、・・・・・・あの」
  
 言いにくそうな顔をしてこちらを見たミルトは少しだけ後ずさりをした。顔が相当強ばっている。私は呼吸を整えてミルトに話しかけた。
  
  「全焼して・・・・・・、商品が無くなったとでも?」
  
 私も意外と冷徹な声が出るものだ。思わず自分で感心してしまった。しかし、それはどうでも良い。問題は30体のデーモンの骨格だ。あれが無いと正直今後の砂鉄収集作業に支障が出る。また大型のデーモンは知識を引き出すことが出来たはずなのでなおさら悔やまれた。
  
  「で、倉庫が燃えたくらいの火力では骨格は壊れないだろう?」
  
 そう、骨を燃やして使えなくするには、かなりの火力で長時間燃えない限り十分に使える。それが引き渡せないほどの損傷を受けているということは・・・・・・。
ミルトは顔を伏せたまま黙っていた。私はミルトの顎を掴み、無理矢理顔を上げさせ目を見つめる。
  
  「詳しく話していただこうか?」
  
 ミルトが言うには、私たちが街を出た3日後くらいに火災が起きたそうだ。その炎はかなりの勢いで、冒険者ギルドの倉庫2つを全焼させてしまったらしい。出火後の在庫確認で、商品がいくつか消えていることが判明したそうだ。騎士団も入り調査した結果、放火の疑いが大きいらしい。 魔術師ギルドに調査を依頼して、魔法の炎が使われた可能性が大きいと言うことだった。その時にルイスの街の冒険者ギルドが所有していた骨格の全てが失われたという。

 私は天井を見ながら溜息をついた。

 (これ・・・・・・か、ルールウの言ってた嫌なことというのは・・・・・・)

 どうせこの街の魔術師ギルドの連中がやったのだろう。根拠は無いが。
私はふと、ミルトの顎を掴んだままにしていることに気がついて慌てて手を放した。すでに半泣き状態だ。ミルトは震える手で紙の束を出してくる。
  
  「カーソ・・・・・・ンさん、こち・・・・・・らの不手際で申し・・・・・・訳ありません。他の街から緊急に取り寄せた骨格・・・・・・の在庫資料です。これで何と・・・・・・かなりませんでしょうか?」
  
 少しだけ愚図りながら、こちらに座るようにとソファーへと案内してくれる。そして、暫くそれを眺めていて欲しいと言って、裏の方へ消えていった。
 私は差し出されたリストに目を落とす。かなり色々と集めたようだが食指が動きそうなものは無い。こちらが求める労働力として考えられる物はゴブリンの50体やリザードマンの20体といったところか。面白みには欠けるがここら辺で妥協するしか無いのかもしれない。魔術師ギルドを潰そうかとも思ったが、証拠が無いので潰しようが無い。 
 暫くすると、ミルトと共に1人の男が現れた。60歳近いのではないだろうか?
単純に考えるとギルドマスターか副ギルドマスターだろう。

 「カーソン様ですね。私、このギルドの事務長を遣っております、ドラーガ・マイデンと申します。このたびはお買い上げいただいた商品を破損してしまいまして誠に申し訳ございませんでした」
  
 完全に事務的な対応だ。しかもマスタークラスではなく事務長ときた。ミルトはドラーガと名乗った男の後ろでびくびくとしている。
  
  「あぁ、カーソンだ。やってくれたではないか? 保証はしてくれるのだろうな?」
  
 ドラーガという男が何かを言っているが言い訳にしか過ぎない。正直私もどうでも良い。ただ、余のことに呆れかえっているだけだ。特にこの街の上級職の方には利己主義の人間が多いようだ。この冒険者ギルドといい、魔術師ギルド、鍛冶ギルド、最悪なことばかりしてくれる。私は、全てのギルドとの連携を絶つことも視野に入れ始めた。
  
  「・・・・・・でありますので、一度いただいたお金をお返ししまして、現在庫を格安でご提供させていただきましょうかと・・・・・・」
  
 在庫の格安提供?
 もしかしてリストの中に目立った商品が無いのはそのせいか?
 客への詫びではなく単純に損をしないようにしているだけか?
 各ギルドから大したものではない物を集めたのか?
私は疑心暗鬼になっているのかもしれない。しかし、対応やリストの内容を見ているとそうとしか捉えられなかった。
どうでもいいと思っていたがやはりふつふつと怒りがこみ上げてきた。

溜息が漏れる。
やはり最近、溜息が漏れることが多い。

 「ドラーガ・・・・・・さんだったかな? この辺りで群れになっているモンスターはいるか? ランクはどれでも構わない」
  
 私の急な問いと低い声に直ぐに確認してくるといって席を立った。
どうやら自分の意識外で相当な殺気が漏れているようだ。後には私とミルトしか残っていない。その場には静寂しか無かった。ミルトの顔色は真っ青になっている。
静寂がその場に漂い続けた。暫くしてばたばたと走る音がしてドラーガが戻ってくる。急いできたのかかなり息を切らしている。
  
  「ランク関係無しで探しましたら、1件ございました」
  
 ドラーガが差し出した紙を黙って受け取ると、依頼内容を確認する。
  
  『アラクネの群れの退治。ルイスの街から北へ10kmの地点にアラクネの巣が出来た。至急退治を依頼する。成功報酬金貨15枚』
  
 普通に受けるとAクラスの仕事になる。アラクネかぁ・・・・・・いろいろな意味で器用ではあるが、骨格にしても糸が出せるのだろうか?
私は少しだけ疑問に思ったがまあいいと思い、依頼を受けることにした。
急ぎではあるようだが今日明日の仕事ではないようだったので、2~3日後に討伐に行くと日付をドラーガに伝える。ドラーガもそれには応じ、村には連絡しておくと言っていた。
 私はミルトが持って来ていた水晶球でデーモンの支払いの逆処理をして払ったお金を返してもらった。そして、渡されたリストを返し、冒険者ギルドを後にした。後ろからミルトの悲しい視線が私の背を見つめているのが分かる。しかし私はそれにどうこうする義理は無いと思い、振り返らなかった。
受付でフォルテを見かけたが、フォルテも顔を伏せ、眼を合わせないようにしているのが感じられたので私は声を掛けずに冒険者ギルドを出た。

今日はどこにも寄る気がしなかったので、そのまま帰宅した。
  
  
  -----カーソン宅-----
  
 冒険者ギルドから帰った私は、そのまま作業場に直行した。サンダーゴーレムとミュールがプラチナを商品に加工していた。ブローチにペンダント、イヤリングと様々な形を作ってゆく。私はある程度出来た段階で、ミュールには100kgを使ってハサミの形成を、サンダーゴーレムにはロングソードを200kg分作成させることにした。400本のハサミと25本のロングソードが次々と作成されてゆく。
 私は先に形成されていたプラチナの装飾品に防御系統の魔法を掛け、最終的な装飾と形成をする。

 その作業をしているときにバスティは戻ってきた。さすがにバスティは作業に参加できないのでアラクネについて調べてもらうようにお願いをした。
  
  「デーモンの骨格という物を見てみたいのですが・・・・・・」

 バスティの問いに、私はこれまでの経緯を説明した。バスティはフォルテのところへ行くと言ったが私がそれを止めた。済んだものは仕方がないのだ。私の怒りもほとんど消え去っていた。これ以上責めてもこちらには何の利益も無い。
取りあえず先程依頼したアラクネを最優先にと伝え、くれぐれもデーモンの件は蒸し返すなと釘を刺して外出させた。
 それを見届けると、私は刀の生産に入った。200kgの玉鋼は資材置き場に積まれているので、残りは200kg程度だ。それを刀の形に形成する。大体半日ほどで20振りの刀が出来た。それに鞘を作成する。ハサミを作成し終わったミュールと鞘作りの作業を交代し、ハサミに少しの魔力を注ぎ込む。
単純に斬れ味増加の魔法を掛けるのだが400本の数だ。かなりの魔力を消費した。

 正直これ以上は出来ないというところまで作成して、今日の作業は終了とした。サンダーゴーレムには明日の作業の準備を頼み、ミュールには夕食の準備を頼む。夕方を過ぎたので、ユーリカも露店から戻ってきた。今日は普段よりもよく売れ、金貨15枚ほどの収入になった。
 夕飯が出来る前にバスティが帰ってきて、アラクネのことについてあれこれと説明してくれる。正直骨格になってしまえば糸は出せないらしい。
  
  (生け捕りして、精神をうまく弄って・・・・・・、あぁこれじゃあ付与魔術師兼鍛冶屋として働けてないなぁ)
  
 そう思いながらサンダーゴーレムを覗く家族全員で食事を取ることにした。ちなみにバスティは客間に泊ると言いだし、そのまま居着いてしまった。

明日からはアラクネ討伐の準備と同時に、魔法剣の作成を最優先でやることにした。
  
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