こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます ⅩⅩⅠ 下準備をしましょう

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あ~、とりあえずアラクネ達は移動させました。

結構つかれるものですねぇ。

自分でやったことでしょ? はい、その通りです。

後先考えずに行動しています。

でも、色々と素材手に入りましたよ。

これって凄いことだと思いませんか?

使い道が分からないから思わない?

ん~、反論の余地がない・・・・・・。

後はルイスの街のことが丸ごと残っていますね。

こちらは今のところ私の思い通りに動いているので問題ないです。

これから2日は儲けの下準備とこちらの商売の下準備に入ります。

でわ!

 私は久方ぶりの家で惰眠を貪っていた。まだまだ問題は山積みだがとりあえず昼までだらだらする。
 冒険者ギルドへの報酬の受け取りはバスティに任せてある。ミルトは真夜中に自分の今現在住んでいる所へ戻っていった。朝から引っ越しの準備をするそうだ。ユーリカは朝一で見世の方へ出かけたようだ。サンダーゴーレムには鉄鉱石3.5トンを、10個の塊に分ける作業をしてもらっている。これはプレートメイルを引き受けてくれた業者に届ける分だ。予定通りならば明日の昼にでも全ての青銅が他の鍛冶屋へ届くだろう。
  
 私は昼過ぎまで惰眠を貪って1階へと降りてゆく。そこにはミュールがキッチンに立っていた。
  
  「おはようミュール」
  「オハヨウジャァナイデスヨ、イマナンジダトオモッテイルノデスカ!」
  
 ミュールが珍しく本当に怒っている・・・・・・ように見える。手にボウルを持ったままではあまり迫力は無い。しかし、たがが外れたときのミュールは正直相手にはしたくない。それほど強力な相手だからだ。
私がリビングの椅子に座ってバスティから譲ってもらった本を読んでいるとバスティが帰ってきた。何故かミルトも一緒だ。
 ミュールは2人が帰ってきたのを確認するとリビングに昼食を並べてくれる。私たちはそれを貪るように食べた。それほどミュールの料理の腕は上がっている。
 因みに私は夜からリザードマンの骨格を砂鉄の採集場所へと持ってゆき、動くようにするつもりだ。
 
 「で、報酬は完全に受け取れたかい?」
  
 私の突然の問いにバスティは食事を口の中に入れる寸前で止まっていた。
  
 (すまん!邪魔しないからそのまま食べてくれ・・・・・・)
  
 私はバスティの[食事中は仕事の話はしないようにしましょう]目線に軽く睨まれてしまった。これは私が食事をするときに本を読んだり、作業をしながら食事をするときがあったので折角作ってくれるミュールのためにと決めたルールだ。
暫くは無言の時間が続き(普段は和気藹々と話をしながら食べています)食事が終わると仕事の話に戻った。
  
 「報酬は全額受け取りました。ただ、村の方が金貨10枚に負けるように言ってきたらしいのですがそれはきちんと説得して回収して参りました」
  
 バスティの眼が結構据わっているのでかなり揉めたなと思った。あれだけ壊滅的な状況の村を救ったのに報酬を負けろとは酷い話だ。多分、実質的な被害がなかったのとミルトを無理矢理帰らせたのが原因だろう。もっともこれ以上関わり合うつもりはなかったのでそれはそれでよい。
 私はバスティとミュール、ミルトがこの場にいたので今後の方針を説明した。
  
 「まず、ミュールとサンダーゴーレムはロングソードの作成に全力を注いで欲しい。ただし200本のみ鉄鉱石で作ること。残りは青銅でつくって欲しい」
  
 バスティとミルトは不思議そうな顔をした。何か言いたそうだったが後で説明すると言って他のことを説明する。
  
 「今日、明日はバスティはミルトの引っ越しの手伝い。ミルトはすぐに今の家を引き払い、こちらの用意した住居に移動すること。とりあえず、今夜から新しいところに寝泊まりして欲しい。今夜にはヒートゴーレムをこちらに移動させたい」
  
 ミルトは少し困ったような表情を浮かべていた。私はミルトの表情が気になったので原因を聞いてみた。
  
  「部屋を出るのが月末なので今月分の家賃が勿体ないなぁと思って・・・・・・」
  
 私はミルトの答えに思わず机に突っ伏してしまった。差額についてはこちらからお金を出すと言って納得してもらう。ミルトは結構お金に執着するタイプのようだ。
とりあえず納得させたので私の行動をみんなに伝えた。
 
 「私は旧邸の改装の段取りと荷馬車を数台手配する。それとルールウと少し話をしてくる」
  
 荷馬車は10台用意する。先に3台手配しリザードマンの骨格を砂鉄を採取した場所に運ぶのに使う。その後、残りの荷馬車にプレートメイル100個分の鉄鉱石を乗せて各鍛冶屋に配るつもりだ。
 それからこの屋敷を改装してくれた業者に旧邸の改装の依頼をする。これは部屋の一室を風呂に改装することと、軍馬と馬車を置く場所の確保をするためだ。
 私はこの2日間の作業を指示すると直ぐに取りかかるようにいう。当然、私も直ぐに動き出した。まずは荷馬車の手配だ。これは前回のようにはいかない。前回は鍛冶ギルド経由で手配したが今回は自分で手配をする。ルイスの街には輸送を専門にする業者がいくつかある。私はその最大手に話をつけに行った。


-----荷馬車屋-----
  
 「こんにちは。荷馬車の手配をお願いしたいのですけど」
  
 私が運送屋の受付に行くと40を少し過ぎたくらいのおじさんが対応してくれた。
  
 「こんにちは。荷馬車はどのようなタイプが何台必要でしょうか?」
  
 中々丁寧な言葉遣いだ。大体このようなところは荒っぽいのが多いのだが、さすがは大手といったところか。受付のおじさんは荷馬車のリストを出してくる。こうしてみると様々な荷馬車がある。また荷台の大きさ運ぶ量によってロバか馬か牛かと様々あり、さらに1頭から4頭まで選べる。当然荷台が大きく、引く動物が多くなるだけ費用は高くなり、幌付きとなると更に値段は上がる。
 私の目的とする物は2頭引きの幌馬車10台だ。ただし鉄鉱石を積むのは350kgの重さに耐えきれないといけない。どのみちルイスの街の中にしか運ばないので大きさも速さも要らない。
リザードマンの骨格は場所を取るだけで重くはない。ただ向こうで作業を早くしたいので速度の出るものが欲しい。
 私は受付のおじさんにそのような申し出をしてみた。自分であれこれ悩むよりもその道のプロに任せる方が適切な物を選んでくれると判断したからだ。
  
 「そうですね。7台の幌馬車は牛に引かせた方が良いでしょう。重さもありますがどのみち街の中では速度は出せません。郊外に走る分は2頭引きの馬の方が良いでしょう。急がれるのでしたら2頭引きで軍馬と農耕馬を掛け合わせた体力と速度を兼ね備えた物があります」
  
 おじさんが見せてくれた料金表は微妙な料金だった。7台の幌馬車が1日1台銀貨2枚、馬の方が1日1台銀貨5枚という値段だ。これに御者の日当が1日銀貨1枚。街の外に出る人は追加で銅貨50枚。全て10日借りるとしたら銀貨で390枚と銅貨で1500枚になる。
  
  「え~っと、全てで銀貨405枚だから、金貨40枚と銀貨5枚ですね」
  
 私が金貨換算するとおじさんは黙って頷いた。正直高いのか安いのかは分からないが、料金を払うと手配は直ぐにできるそうなのでスピードを求めているこちらとしては楽だ。しかし、問題が1つある。
私はその事を受付のおじさんに確認した。
  
 「荷物の秘密は完全に守れますか?」
  
 私の問いにおじさんは少し考え込む。御者はここが雇っている者だけではなく委託している者もいる。ここの信用度が高いからといって完全に秘密が守れるとは私は思っていない。
  
 「そうですね。完全に・・・・・・となると非常に難しいと思います。努力は致しますが・・・・・・」
  
 確かに人の口に戸は立てられない。かといって一仕事終わるごとに消す訳にもいかない。おっと妄想が。
馬車だけ借りてこちらの人間だけで運ぶと最悪2日かかる。せめて口の堅い人物が2人いたら問題は無いのだが・・・・・・。
とりあえず交渉してみよう。

 「あの、街の中に運ぶ御者ですが口の硬い方を2人手配してもらえませんか。その2人に7人分の料金を折半でという条件で」
  
 私の提案におじさんの顔が明るくなった。
  
 「あぁ、それならできます。街の外に出る者はうちの専属で口の堅い者を、街の中の御者2人は私が責任を持って手配致します。それで宜しいですか?」
  
 少々高くつくし、家の者に働いてもらわないといけないが仕方が無い。なにしろ金貨10000枚と大量の鉄鉱石を手に入れるためだ。多少の投資は必要だろう。
  
 「では、それでお願い致します。くれぐれも街の中を走る人は、見ない、聞かない、話さない人をお願い致します」
  
 私はバッグの中から金貨を41・・枚と銀貨5枚を取り出した。受付のおじさんは全て数え終わって金貨を1枚返そうとしたが私の表情を見て黙って山の中に戻した。
  
 「それでは郊外へ行く馬車は夕方にはお宅へ着くように手配致します。7台の荷馬車どういたしましょうか?」
  
 私は3日後に届けて欲しいと伝えて運送屋を後にした。少し日付がずれるが確実に馬車を確保したかったから余分な金を払った。
 そのままルールウの見世に向かう。ルールウの見世は相変わらず客がいなかった。


-----ルイス中央広場-----
  
 「やぁルールウ、景気はどうだい?」
  
 私は常套句になった嫌みを一言投げかけた。ルールウはいつも通り頬を膨らませ軽く睨み付けてくる。
  
「カーソン・・・・・・、あんた私がアラクネの件でどれくらい動いているか知ってる?」
  
 ? 聞いてないぞ? 鉄鉱石の件では動いてもらっていたが、アラクネの件は知らないはずだ。私は初めて耳にする言葉に耳を疑った。確か街で動いていたのはバスティのはずだが、まさか・・・・・・ルールウを完全に巻き込んでいたのか。
私の愕然とする表情を見てルールウの顔が[勝った!]という表情になる。

 「んふ、なにをたくらんでいるのかは知らないけれど、分け前は頂戴ね~」
  
 ルールウはにやっと笑い私に手招きをする。私が近づくとルールウは私の手を握った。
  
 (このパターンは不味い)
  
 しかし時すでに遅し。私の身体は自分では動かせなくなっていた。ルールウに掴まれた手が大きく開いたルールウの胸元へ入ってゆく。それは凄く柔らかいものだった。ナマの感触は久しぶりだったので私は思わず緊張してしまった。
  
 「で、今日は何の用? 嫌み言うために来たわけではないでしょう?」
  
 ルールウは暫く私の手を勝手に使っていたがある程度満足したら解放してくれた。私は思わずズボンで手を拭いていた。
  
 「あ~、カーソン酷いな。私の胸は汚いのか?」
  
 いや、断じて違う。ただ、汗が噴き出したので拭いただけだ。私はルールウの機嫌を損ねないように丁寧に丁寧に説明した。私の必死の言い訳でかろうじて臍を曲げることは避けられた。
  
 「実は服をつくって欲しいのだが、出張採寸をしてもらうことになるとどれくらい取る?」
  
 私の問いにルールウは考え込んでいた。
  
 「・・・・・・もしかして、アラクネの服?」
  
 私は黙って頷いた。ルールウはちょっと待って欲しいと言って見世の裏へ引っ込んだ。暫くすると大きくはない布の束を持って出てきた。
  
 「あのさ、アラクネって何でも着れるの?」
  
 ルールウが言いたいのはアラクネに服を作るのは良いが材質で身体に変化を起こさないかということのようだ。確かに人間でも物によっては皮膚に変化が起きて大変なことになる者もいる。私もこれに関しては完全に頭の中から抜け落ちていた。
  
 「あー、それは分からないなぁ・・・・・・。そしたらそれも込みだったら?」
  
 私は採寸と出張に加えて体質の検査もお願いした。ルールウは色々と質問をして紙に書いている。
  
 「う~ん、カーソンはお得意先だからなぁ。全部で一晩プラス金貨5枚でどうかな?それと仕立屋と素材はこちらで用意して別途請求で・・・・・・」
  
 ルールウはにやにや笑いながら条件を出してきた。
正直おいしいのだが、おいしいのだが最初の条件がなぁ。
しかし今からはお金がかかる。人も雇ったし、養わないといけない労働者達もいる。ここは仕方がない。条件をのもう。
  
 「・・・・・・分かった。それでいい。それで最初のはいつが良い?」
  
 私は条件についての予定を聞いた。ルールウは予想外の答えに顔を真っ赤にしていた。人をからかうからこういうことになる。
  
 「あ~、ん~、まぁ、なんだ。それに関しては・・・・・・、また連絡する」
  
 年上のルールウでもこうなると可愛いものだ。久しぶりにすっきりとした気分になった。そのまま買い物もしよう。
  
 「そうだ、竜の牙は今どれくらいある?それと魂の石」
  
 私が突然別の話題を振ったのであたふたとしている。ちょっと見てくると言ってもう一度店の奥に引っ込んだ。大きな音が立て続けに何度も起きる。相当混乱しているようだ。私はにやにや笑いながらルールウの戻ってくるのを待った。暫くして小さな箱を2つ抱えて戻ってくる。
  
 「あ、今はこれだけかな? 全部で50個くらい・・・・・・。古竜のが5つ入っているよ。魂の石は30個くらい」
  
 なんかしおらしくなっているぞ、ルールウ。これは新鮮で面白い。私はわざとルールウの身体に顔を近づけるようにして箱の中を覗き込んだ。状態はかなり良い。しかも古竜の牙があるのは非常においしい。知識のあるゴーレムを作れるからだ。
  
 「いくら?」
  
 私はルールウの眼をじっと見つめて尋ねた。ルールウは必死で目をそらそうとしている。なにか空中で計算をしているようにも見えるが本当に計算しているか怪しいものだ。

 「・・・・・・金貨100枚」
  
 値引きしすぎだろ・・・・・・。
 ってか、やっぱりまともに計算ができていないらしい。まあ今回はこのままもらっておこう。日頃の仕返しも兼ねて・・・・・・。
私は支払いをミスリル貨で良いかを確認し、生返事を返されたのでミスリル貨を取り出した。ルールウは黙って受け取り、水晶球で売り上げ処理をしている。私はあと何かなかったかなぁと考えていた。
 
 「・・・・・・たよ。終わったよ」
  
 ルールウから声がかかる。私はルールウから商品を受け取ると最後に一言付け加えた。
  
 「そういえば以前、私が古本を買いたいと言っていた件だけど、見に行った時に一晩ってのはどう?」
  
 今日は最後までルールウをいじめると決めていた。ルールウも再度顔を真っ赤にしたが、意外なことに黙って頷いた。はにかんだ顔がかわいい。
 いやいや。ってか頷くのか? ありゃ、まずい。からかっただけだったのに。
とりあえず気まずくなったのでアラクネの件をまた連絡すると言ってルールウの店を後にした。


 私はそのまま自分の見世に寄って、現在の売れ行きを見ることにした。見世の前には15~16くらいの女の子が数人立って商品を見ている。見世の中からユーリカが接客をしていた。客に着けさせてみたり、効果を説明したりしている。回数限定の商品はさすがに着けさせてなく、青銅の盾を上手く使い当てた状態を映し出して見せていた。
 私は[なるほど]と感心してみていた。アクセサリーが急に売れ出したのはこのやり方だったのかと思い、同時に私ではできないやり方だと思う。やったら訴えられかねない。
 結構高い物なのだがこれだけ売れると良いものだ。もっとも私が無駄遣いして売り上げを相殺しているので少ししか儲けてはいないのだが・・・・・・。
 客が引きユーリカ1人になった時を見計らって私は店に入った。中に入ると商品がかなり品薄になっていることに気がついた。私は今のうちと思い明日からの予定を説明することにした。
  
 「・・・・・・ということで明日から7日ほど見世は休業にするから」
  
 私がそう言うとユーリカはその間の仕事を聞いてきた。鉄鉱石を届ける仕事があるのだがユーリカには少しキツいかも知れない。もしトラブルになったとき、ユーリカには身を守る術がないのだ。確かに魔法の知識や能力はあることを前提に買ったのだが忙しくて教えている暇が無かった。護身術も教えていない。
  
 「そうだなぁ、ユーリカはどこか行きたいところとかある?」
  
 ユーリカは戦争奴隷で奴隷商で生まれた。だから私に買われるまで外の世界を直接目で見ることは無かったのだ。奴隷商でも娯楽などは学んでいないはずで、学んでいたとしても夜の作法ぐらいだろう。
 私の想像通り、ユーリカは特に行きたいところはないと答えた。正直今回の件が落ち着いたらミルトに店を任せ、定食屋ハズキのルーミィかバスティの妹のフォルテに女の子として何度か遊びに連れて行ってもらおう。
私は頭の中でその事を考えながら、明日からは私についてくるようということと、次に見世を開けるときに必要な在庫を数えてくるように言って見世を後にした。

 その後、私は自宅を改装してくれた業者のもとを尋ねた。業者には旧宅の場所を教え、見取り図を見せながらこのように改装して欲しいと頼んだ。業者は一度現物を見て見積もりを出したいと行ったので、明日の朝なら私の家にバスティという者がいるから一緒に見に行って欲しいと伝え改装業者を後にして家路についた。 


-----自宅-----

 家に帰った私は物置部屋へ向かった。そこで先程ルールウの店で買った物が送られているかを確認し、明日から必要な物を袋に分けてゆく。容量が大きく魔力がめいいっぱい詰まった魔石を10個用意する。それと古竜の牙を一つ、魂の石を25個。正直リザードマンの骨格のゴーレム化はここでやっても良いのだが、御者が一般人なので骨が勝手に荷馬車に乗り込むところを見せたらどのような反応をするか分かったものではないので現地でやることにした。
 因みに竜の牙は現場監督のゴーレムのためのものだ。後は先日採掘したときのゴーレムを復活させそれを使おうと思う。採掘用のゴーレムを増やしても良い。
 正直準備と言ってもそれだけなのだが・・・・・・。あとは、馬車の中で読む本くらいだがこれはバスティから買った物を持っていくことにしよう。ミュールの住んでいた洞窟で手に入れた本の文字解読は一切進んでいない。言語が1つではなく3つほどで書かれているので正直難しすぎるのだ。

 私はとりあえずの準備を終わらせると作業場の様子を見に行った。リザードマンの骨格がすでに玄関付近に整列し並んでいるのは愛嬌というものだろう。
 作業場ではミュールとサンダーゴーレムがロングソードを次々と作成している。すでに50本程度の正規のロングソードは出来上がっていた。作業は順調のようだ。明日には青銅がかなりの量届く。
 私は作業場と素材置き場を見て突然思い立ち物置部屋へと戻った。魔石を1個と普通の竜の牙を一つ用意して素材置き場へ走った。作業をしているミュールを呼び200kg程の鉄鉱石を別に取り分けてもらい、また作業に戻らせた。
魔石を握り、分けてもらった鉄鉱石に魔力を注ぎ込む。鉄鉱石は私のイメージを受け徐々に変化してゆく(ちなみに今回はヘカトンケイルというモンスターを女性化したイメージで作ってみた)
 ある程度形成されたら竜の牙を核になる場所へ埋め込む。埋め込みが終わると最終的な形成に入る。魔石が尽きる頃にゴーレムは完成した。
 完成したゴーレムの魔力の流れを探る。今回の竜の牙は黒竜だった。やはり軽い筆談ができる程度のようだ。
新しいゴーレムをサンダーゴーレムとミュールの元へ連れて行く。

 「ゴシュジンサマハオンナノコスキデスネェ」
  
 ミュールはそれだけ言って作業を続けた。サンダーゴーレムがヘカトンゴーレム(こう呼ぶことにした)を呼んで作業を教えている。夕方馬車が来るまではこのまま作業を憶えてもらい、馬車が来たらリザードマンを積み込む作業をしてもらう。
   
 私はする事が無くなったのでリビングに行き、夕方まで眠ることにした。
 どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、誰かに揺り動かされて私は目を覚ました。そこには肉の塊がある。それがミュールの乳房であることに気づくまで暫くかかった。思いっきり起き上がろうとしたが更に突っ込んで谷間に埋もれてしまう。元に戻ったミュールの身体に思いっきり触れたのは初めてだった。中々柔らかい。
いやいや。
 私はミュールに何事かと聞くと、馬車が到着したことを知らせてくれた。慌てて外に出る。
・・・・・・案の定、御者達は腰を抜かしていた。巨大なスキュラに対応され、2体のゴーレムが馬車に骨を積み込んでゆくのだ。何も知らない普通の人が見たら卒倒するだろう。まだ卒倒しなかっただけましな人をよこしてくれたようだ。あのおじさんいい人だ。

 「あ~、すみません。驚かれたでしょう。うちの従業員達です。今後とも色々お頼みすると思いますのでどうぞよろしくお願い致します」
  
 私の挨拶に御者の3人はコクコクと頷くことしかできなかった。私は出発まで暫くかかることを説明して銀貨を1枚渡し食事でもして来るように言って3人に街へ行ってもらう。
積み込み作業は驚くほど短時間で終わった。ミュールには食事の用意に家に入ってもらったが、新しいヘカトンゴーレムが意外と活躍してくれた。何しろ手が多数ついているのだ。一気に数体の骨格を運び入れている。リザードマンの積み込みが終わると今度は玉鋼のあまりを各馬車に平均して積み込ませた。これは現場監督用のゴーレムの材料だ。
 そうこうしているうちに引っ越しをしていたミルトとバスティが戻ってきた。少し遅れてユーリカも戻ってくる。引っ越しは順調に進んでいるということだった。私たちは全員で食事を取り、それから今夜の段取りを話した。
  
  「ミルトとバスティは今夜遅くにヒートゴーレムをここへ連れてきて欲しい。その時騎士団に寄って数名に付き添ってくれるように頼んでくれ。前回頼んでいるので大丈夫だと思う。それとユーリカは今から直ぐに旅支度を初めてくれ。今回は私についてきてもらう」
  
 私がそう言うとミルトとバスティが露骨に嫌そうな顔をする。ミュールは黙ってお菓子を食べていた。
  
 「なんで今回はユーリカなんですか?」
  
 ユーリカも驚いた顔をしている。
 私はユーリカを連れて行く理由を2人に説明した。正直、今することがないということを・・・・・・。
ユーリカが申し訳なさそうに自室に戻ってゆく。
すぐに私はユーリカの前では言わなかったことを2人に告げた。

 「ユーリカは戦争奴隷だったんだ。だから彼女は外の世界を見たことがないんだ。正直ユーリカの奴隷契約を解除しようとしたんだけどね、彼女に断られていまだに奴隷として動いてもらっているんだよ」
  
 私はそこで一度話を切った。2人は黙って聞いている。
  
 「私はユーリカを奴隷としては見ていない。だけど彼女は店番の報酬さえ受け取ろうとはしない。だから時間のあるときにいろいろなところを連れて周りたい。もし2人が良かったら奴隷としてではなく友人として付き合ってはもらえないだろうか?」
  
 2人はそういうことなら分かりましたと言って笑ってくれた。私は上手く行けば良いなと思いながらユーリカの支度を待った。ほどなくユーリカは少しの荷物を持って出てきた。
私たちが外に出ると御者達が戻ってきており、荷馬車の足回りを点検していた。

 「じゃあ、明日・明後日には戻るのでヒートゴーレムの件を頼む。それとミルトは今日から引っ越し先に泊るように。バスティ、明日の朝、改装業者がここに来るので旧宅へ一緒に連れて行って欲しい。では頼んだよ。行ってきます」
  
 私はそれだけ言うと、御者達とユーリカと共に荷馬車に乗り込んで自宅前を後にした。
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