こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます ⅩⅩⅢ ユーリカに魔法を教える段取りと商品に嫌がらせの魔法を仕掛けましょう

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古代竜の牙って凄いですね。

まさか喋るとは思いませんでした。

しかもゴーレムにしてるのに自分の意思で動き回っているし。

ああいうのはゴーレムと言うべきなのだろうか?

ん~、悩みますね。こんど師匠にでも相談してみましょう。

研究論文でも出しますかね。

それよりも私はユーリカがやりたいことを見つけてくれたことが嬉しいな。

自分からやりたいなんて・・・・・・おじさん感慨深いですよ。

あれだけの笑顔が見れるのならば知っていることは何でも教えよう。

これで奴隷という意識が消えてくれればもっと御の字なんだけどな~。

とりあえずうちで魔法を使える人間総動員で教えていこう。

急がずゆっくりね。

これからお金稼ぎに入るけど・・・・・・、あの乱入者は困ったものだ。

しかもチュウまでしていきやがった。

あれでも領主なんだからなぁ。

軽すぎだろ。

しかしさすがは領主、決断は早いね。

金貨10000枚でOKだって。

問題は魔石をどれだけ消費してしまうかなんだけど・・・・・・、魔力の補充が追いつくかな?

魔術師ギルドには関わり合いたくないし・・・・・・。

またルールウに頼るしかないのかなぁ。

でも、この間からかいまくったばかりだし。

ちょっと行きづらい。

ま、なんとかなるか。

それでわ!



 カサンドラ公爵が帰った後、私は工房に戻った。工房ではゴーレム達とミュールが金槌を振るっている。その横で熱さに顔をしかめながらユーリカが作業を見つめていた。

 「ユーリカ、興味があるかい?」
  
 私はユーリカの隣に並び作業風景を見つめる。ユーリカから返事がないので視線を移すと、彼女はこちらをジッと見つめていた。心なしか視線が痛い。ミュールも私に気づいたようで声を掛けようとして立ち上がり、私を見つめていた。
ミュールが溜息?をつきながら私の口元を布で拭う。

 「ゴシュジン~、クチビルニベニガツイテマスヨ。ナニシテタンデスカ~」
  
 んげ。公爵、紅つけてたんだ。全然気がつかなかった。ミュールはユーリカの頭を良い子良い子している。
  
  「ユーリカチャン、ゴシュジンのコトスキダモンネ~。ゴシュジンオンナズキダカラ、オコッテチャァモタナイヨ。ワタシナンカモウキニモシテナイモンネ~」
  
 なにかとんでもない爆弾発言が聞こえた気がする。ユーリカは顔を真っ赤にして私とミュールの顔を見比べていた。私も同じくミュールとユーリカの両方を見る。その視線に気がついたユーリカが少し休みますと言ってダッシュで家の中に飛び込んでいった。
  
 「ミュール、あまりからかってやるなよ。純粋なんだから・・・・・・」
  
 私は他人事のように家の方を見ながら呟いた。
  
 「ゴシュジン、ホントウニキヅイテナイカッタノ。コノドンカン~」
  
 ミュールは突然私を抱え上げた。というより抱きしめられたようだ。ミュールの力強くしなやかな腕に抱きしめられる。今まで金床で青銅を叩いていたせいか身体が普段よりも温かい。
  
 「ワタシモゴシュジンノコトダイスキダヨ。イツカコドモホシイ」
  
 ん~、また何か聞こえたような気が・・・・・・。
耳元で熱い吐息が吹きかけられる。そんなことされると反応してしまうわ。
私はとりあえず降ろしてくれとお願いした。ミュールはゆっくりと降ろしてくれる。足下の白狼達から好奇の目を向けられた。
  
 (頼む。そんな目で俺を見ないでくれ)
  
 私は気を紛らわすために工房の奥へと入る。そこには青銅のロングソードがかなりの数出来ていた。数本に目をやる。中々良い出来だ。私はその中から2本を取り出し、腕に抱えた。
  
 「あ、ミュール。そういえば魔法って使えるよな?」
  
 作業に戻ろうとしていたミュールはニパッと笑う。
  
 「ウン、イロイロツカエルヨ~」
  
 あっさりと返事が返ってくる。そう、ミュールの過去の住処で大層酷い目に遭った。足の白狼達も大概だが、ミュールが使った魔法は未知のものだった。
  
 「あのな、ユーリカと仲良いんだよな? ユーリカが魔法の勉強をしたいらしいから知っていることを教えてやってくれないかな? ついでにあの時使った奴、俺にも教えて欲しいんだけど・・・・・・」
  
 ミュールは少し複雑そうな顔をする。
  
 「ユーリカチャンニハオシエテアゲルカラマカセテ~。デモゴシュジンニハオシエラレナイカナ~?」
  
 は? ユーリカは良くて私は駄目なの? 何故? 
 私の困惑した顔を見たミュールが私の頭をなでなでする。
  
 「ゴシュジンノイッテルノハ・・・・・・ココデハツカエナイトオモウ。ワタシモアソコデシカツカエナイノ」
  
 ミュールは申し訳なさそうに私の頭をなで回していた。やはりあそこに大量にあった魔石が関係しているのだろう。あれだけの魔石から魔力を補充しないと使えない魔法。威力も凄まじかったから当然だ。
  
 「じゃあ、ことわりだけでも今度教えてくれるかな?」
 「ウン、ソレダケナライイヨ。ゴホウビチョウダイネ~」
  
 ミュールの唇がそっと頬に触れる。顔を上げたミュールはニパッと笑い作業に戻っていった。私も青銅のロングソードを抱え自宅の中に戻った。
  
  
 -----からくり-----
  
 夕方、ミュールが食事の支度に家の中に戻ってきた。あれからまだ出てこないユーリカを部屋からだそうとしている。そこにバスティとミルトが戻ってきた。
    
 「主さま、どうされたのですか?」
    
 バスティがミュールを見ながら声を掛けてくる。私はどうやって誤魔化すかを考えていた。
    
 「ゴシュジンガネ、オンナノヒトトイエノナカデナニカシテタノ~」
    
 ご丁寧にミュールが大声で説明をする。私の誤魔化し作戦は実ることはなかった。もっとも思いつく前に潰されたのだが・・・・・・。
その言葉が終わらないうちにバスティとミルトが詰め寄ってきた。
    
 「ルールウが来たんですか?」
 「何処の誰ですか?」
    
 2人の顔が近い。私はどう説明するか迷っていた。別にキスぐらいは問題ないだろう、きっと。
しかし、相手が問題だ。公爵とだなんて口が裂けても言えない。

 「いや、まぁその、・・・・・・えぇい、色々とあるの!」
  
 私はとりあえず逃げてみた。2人の視線が痛い。たまらず席を立つ。その時丁度ユーリカが部屋から出てきた。
  
 (あぁ、最悪かも・・・・・・)
  
 私は覚悟を決めることにした。そのまま先程座っていた席に戻る。ミュールはそのままキッチンへと入ってゆく。ユーリカは私の斜め後ろ、いつもの場所に陣取った。
  
 「ご主人さま、バスティさま、ミルトさま、いかがなされたのでしょうか?」
  
 ユーリカが緊迫した空気に一石を投じた。バスティとミルトがユーリカから誰が来たのかを聞き出そうとする。
  
 「ねぇ、ユーリカ何があったの? 誰が来たの? 私たちの知っている人?」
  
 2人の視線がユーリカに集まる。私も思わずユーリカに視線を送った。
  
 「ご心配いただきありがとうございます。私は大丈夫です。誰が来たかは申し訳ございませんがお教えできません♪」
  
 にこりと笑ったユーリカがあっさりと言い放った。
あ、助かったかも・・・・・・。私がバスティとミルトの方に視線を戻すと2人とも不機嫌そうにこちらを見ていた。まだ危険は去っていない。ユーリカが更に言葉を続けた。
  
 「私は奴隷ですのでお二方に意見するのは失礼かと存じますが、お二方ともご主人様のプライベートにそこまで踏み込むのはどうかと思いますが・・・・・・」

 う~ん、先日2人に宜しくと言ったけどこの言い方じゃあ悪化しそうだなぁ。私は自分の事よりユーリカの方が心配になった。2人とも険しい視線をユーリカに向けている。
仕方が無い、白状してしまおう。カサンドラ公爵が全て悪い。うん。

 「ユーリカ、ありがとう。私が話そうとしなかったのが悪い」
  
 私は何かを言おうとしたユーリカを手振りで制した。
  
 「2人ともユーリカを悪く思わないで欲しい。私のことを考えてくれたのだと思う。それに相手のことも。正直何があったわけでは無い。尋ねてきたのはカサンドラ・ルイス公爵。今後の事について話しただけだ。ただ、最初と最後にキスをされただけだ」
  
 私は起こったことを包み隠さず2人に話した。2人とも面白いように口を開けている。ユーリカは話さなくても良いのにという表情を投げかけていた。
  
 「・・・・・・、あのアマ~・・・・・・」
  
 バスティの口からかろうじて聞き取れるくらいの小さな声が聞こえる。いつもの丁寧な口調が消えていた。ふるふると全身が震えている。ミルトはポカンとした顔。公爵がここに来たことかキスの事、どちらかが受け入れられないようだ。
私たちは暫く誰も口をきかなかった。

 「ゴハンデキマシタヨ~」
  
 ミュールがリビングの机に次々と料理を並べてゆく。ユーリカはそれを手伝いにゆく。良い匂いが漂ってくる。
  
 ぐるるるるぅぅぅぅぅ
  
 誰かの腹がその匂いに反応した。3人は虚を突かれたように固まった笑いを浮かべる。
  
「と、とりあえず、食事にしないか? その後みんなに見てもらいたいものがある」
  
 私がとりあえず最初に言葉を発してみた。全員が食事に関して同意をする。全員で机を囲んで食事を始めた。
  
 「で、引っ越しは終わったの?」
  
 私の問いに口の中の肉を飲み込んだミルトが答えた。
  
 「はい。今日、夕方には何とか全ての荷物を運び終えました。整理は全く出来ていませんが寝る場所だけは確保しました」
  
 バスティも横で頷いている。2人ともその辺りは駄目っぽいからなぁ。きっと苦労するのだろう。私はシチューを飲みながら2人の様子を見ていた。空腹が満たされ始めたのか2人とも表情が柔らかくなってゆく。ミュールもユーリカも他愛のない話をしながら食事をしていた。
  
 「あぁ、そうだ。バスティとミルト、すまないが君たちの知っている魔法をユーリカに教えてあげて欲しいのだが・・・・・・」
  
 私の一言にミュール以外の食事の手が止まった。バスティとミルトはユーリカの方を見ている。ユーリカは黙って俯いていた。少しの間沈黙がリビングを支配した。
  
 「ユーリカ、ワタシモオシエテアゲルヨ。ガンバロウネ」
  
 ミュールがユーリカの頭を撫で回している。バスティとミルトは互いに顔を見合わせていた。
  
 「主様、魔法と言っても色々あります。主様は通常魔法、私は精霊魔法、ミルトは神聖魔法、ミュールは・・・・・・、そう言えばミュールの魔法って何に属しているの?」
  
 全てが出尽くして、バスティはミュールの魔法について聞いていた。ミュールと戦ったのは私とバスティだけだ。しかもとてつもない強力な魔法を放つ。私も興味があったのでミュールの言葉を待った。
  
 「ン~、ゾクッテナンデスカ?」
  
 全員が机に突っ伏した。そうか、そうなんだ。彼女たちにはそのような概念がないのかもしれない。使える物を使っている。それだけなのかも・・・・・・。

 「ど、どうやって魔法の勉強したの。この間の強烈なやつとか・・・・・・」
  
 バスティはあのときの恐怖が頭をよぎっているようだ。しかし同時に興味もあるみたいだ。真剣な顔をして聞こうとしている。ミルトとユーリカはただ黙って聞いていた。
  
 「ン~、アソコニアッタホンデベンキョウシタヨ。デモ、ゴシュジンニモイッタケド、サイゴノハココデハツカエナイヨ」
  
ミュールの言葉にバスティは嬉しいのか残念なのか分からない複雑な表情を見せた。
私は回収してきた本の中にそれがあるかどうかを今度聞くことに決めた。とりあえず回収していることはミュール以外には内緒にしておこう。

 「で、ユーリカに教えてくれるのでいいかな?基礎的な理論は知識にあるみたいだけど、もう一度私が全ての魔法の系統と属、それに分類については教える。あとは専門のをそれぞれ教えてくれたら良い。もちろん料金は私が払う」
  
 最後の一言はミルトには効果的だった。ミルトはお金が貰えるならと直ぐにOKの返事をした。バスティは少し迷っているようだ。たしかにバスティは精霊魔法を使えるようだが、私も何が使えるかは聞いていない。しかもバスティは謎の多い古代エルフ。精霊を使っているが一般的な精霊とは契約方法が違うかも知れない。そこまで考えて返事を返さないのか、単純に先程のユーリカの態度が気に入らないのか、どちらかはわからない。そのバスティが口を開いた。
  
 「教えるのは良いのですが、ここでは難しいかと思います。なにしろ精霊の力が弱すぎます」
  
 あ、なるほど。そういうことね。
確かに街の中では自然界の精霊達と契約するのは難しいかも知れない。特にこのような大きな街では精霊力も弱い。ただ、抜け道もあるはずだ。私はそれを指摘してみた。

 「なぁ、バスティ。精霊って四元素だけじゃあないよな。街の中で活性化する精霊なんかいないのか?」
  
 私の言葉にバスティは少し考え込んだ。そして直ぐに返事が返ってくる。
  
 「そうですね。普通は四元素からやるのですが、今回は別の系統からやってみましょうか。その分難易度は高くなるけどいい?」
  
 バスティは最後にユーリカの方を向いて問いかけていた。ユーリカは小さな声でよろしくお願いしますと呟く。
  
 「じゃあ、それで決まりだな」
  
 私が最後に一言締めくくり、後は雑談をしながらの食事となった。古代竜のゴーレムが意思を持って話たことなどを言うと2人共が会ってみたいと言い出した。ミュールも会いたいとごね出す。私はいずれ会わせるとだけ言って誤魔化した。
  
 食事が終わると全員にある物を2つ見せた。それは完全に出来上がったロングソードだった。バスティは2本を両手に握るとリビングで振り回し始める。全員がその場から退避した。
  
 (頼むから家を壊さないでくれ)
  
 私の願いが通じたのか部屋には一つの傷もつかなかった。バスティはにこりと笑ってロングソードを壁に立てかけた。あれ結構重いはずなんだけどなぁ・・・・・・。
バスティは汗一つかいてはいない。
  
 「2本とも良い出来ですね。重さも重いのか軽いのかというところですし、バランスも良いです。これを納品するのですか? 先日何か含みを持っておられるようでしたけれど・・・・・・」
  
 バスティは何が違うのか分からないようだった。ミルトやユーリカもしげしげと見ている。ミュールだけこっそりとお菓子を食べていた。
  
 「じゃあ、ミュール。外に出て左のロングソードを横に向けて握ってくれる?バスティは右のを持って」
  
 ミュールはロングソードを握って外に出た。バスティも後に続く。2人は庭で向かい合った。
  
 「じゃあ、構えたミュールのロングソードの刀身にバスティが斬りかかってみて。半分くらいの力でね」
  
 ミュールが構え、バスティが構える。他は家の中から見学している。
バスティが見えるか見えないかギリギリの速度で斬りつけた。2人のロングソードはぶつかった瞬間、大きな音を立てた。暗い庭に火花が飛び散る。

 そして・・・・・・ミュールの持つロングソードが半ばから落ちた。叩き折れたのではないし曲がったのでもない。斬れたのだ。ミュールはよく分かっていないようだがバスティは感触で分かったのだろう。自分の持つロングソードとミュールの持つロングソードを見比べていた。ミルトとユーリカも不思議そうな顔をしている。
私は斬れたロングソードの先端を持ち、ミュールから柄の方を受け取ると2人に部屋に入るように促した。

 「どう思う?」
  
 とりあえず私は全員の意見を聞いた。その時、ミュールに青銅のロングソードを工房から持ってくるように耳打ちする。ミュールは頷くとずるずると家から出ていった。
  
 「あ、と、使ったときは全く同じ物だと思っていたのですが打ち合ったときに物が違う事が分かりました」
  
 さすがはバスティ。剣に関しては鋭い。残りの2人はただ黙って話を聞いていた。2人とも知識はあっても鉱石の専門でもないし剣の専門でもない。分からないのは当然だ。
  
 「もしかして大量の青銅が関係していますか? でも、青銅ではなさそうでしたし・・・・・・」
 「重さは一緒だったわよ」
  
 ミルトが良いところをついたが、バスティが感触で否定する。そこへミュールが青銅のロングソードを1本持って来た。私はそれを受け取ると、そのままバスティに手渡す。
バスティは青銅のロングソードを少し振ってみて、机の上に置く。
  
 「斬れた方とは別物ですね。根本的に違います」
  
 これが剣の専門家のバスティの答えだった。私は黙って頷いた。
  
 「じゃあ、少しだけ見ていてくれ」
  
 私は青銅のロングソードに魔法を掛けはじめる。金色の青銅が徐々に鉄の色に変わってゆく。暫くすると完全に2人が使っていたロングソードと同じになった。
  
 「さあ、もう一度持ってごらん」
  
 私が差し出したロングソードをバスティが受け取った。表情が驚きに変わる。
  
 「そんな、なぜ? 主様、これはどういうことでしょうか? 青銅の時とは重さも感覚も微妙に違います。特に重さは・・・・・・」
  
 私は全員に種明かしをすることにした。絶対に他には漏らさないようにとキツく言って。
  
 「ま、話は簡単なんだけど。これは融合魔法なんだよ」
  
 私は袋を取り出し、中身を机の上に拡げた。それは銀色に近い金属の塊だった。全員がそれに見入っている。
  
 「本来、青銅というのは銅と錫という物の合金なんだよ。ちなみに目の前に在るのが錫。銅に大量の錫を合成させると段々と白銀色に変わる。あとは持続可能な魔法を掛けて色を誤魔化し、重さも近づけてやれば良い。たったそれだけのことをしただけだよ」
  
 全員が分かったような、分からなかったような微妙な表情をしていた。多分分からないだろうと私は思っていたので特に気にはしていない。
  
 「これを売りつけてやろうと思ってね。この武器で反乱するならさっきのようになるし、単純に武器を用意していると王国に報告されれば、式典用に見栄えの良い物を創っただけと言えば済むだろ」
  
 要するに鉄鉱石から造るロングソードを青銅で造り、混ぜ物をしてそっくりに仕上げるという方法をとることにしたということだ。この錫という金属は以外ととれるので安い。銅も鉱脈は多いので正直安い。鉄鉱石よりも安く、加工しやすいのでこの方法を選んだ。融合魔法は得意なので、青銅の製品が完成すれば後は魔法で合成するだけだ。時間は1つできるのに僅かな時間しかかからないし、魔力もそれほど使わない。
青銅や錫の支払いを終わらせて、最終的に収入となるのは金貨で8000枚くらいになると思っている。

 「あのぅ、それって詐欺ではないのでしょうか?」
  
 ユーリカが申し訳なさそうに手を上げている。
 ん~、そうとも言う。ただし、悪人相手にまっとうな商売をするつもりはない。ちなみに悪人とは私をからかった相手ということだ。
  
 「いいのだよ。詳しいことは言えないが公爵から聞いた話で、この話を持って来たドロワという奴はうちの敵ということになったからな・・・・・・。障害になる物は踏みつぶせ。これがうちの合い言葉だ」
  
 正直これは私の師匠の言葉だ。いつの間にか私もこの言葉に洗脳されていた。とりあえず種明かしが終わったので後は自由にするようにみんなに伝えた。
それでも全員その場を動かなかった。話題がユーリカの魔法習得に動いたからだ。3人がユーリカにどうしたいかを聞いている。私はそれを見て物置部屋へと足を運ぶ。確か魔力量を量る道具があったはずだ。暫く探すと奥の方から埃を被った状態で出てきた。

 (今のうちにユーリカにここの整理を頼んでおこう・・・・・・)
  
 私はそう決心して道具部屋を後にした。
  
  
 リビングへ戻ると全員が大人しくなっていた。ユ-リカが俯いている。
  
 「どうした? なにか問題でも?」
  
 私の少しキツめの問いにミュールがのんびりと答えた。
  
 「ゴシュジン~、ナニカラハジメルカデモメテイルノデス」
  
 あ~、そう。
よくよく考えれば全員に教えてやれと言ったのは不味かったか。私はユーリカの変化に嬉しすぎて色々な段取りを完全に忘れていた。全員が[私が私が]となったのだろう。ユーリカがそれに対応出来るはずはなかった。

 「よし、とりあえずここに面白いものがある。それで遊んでから予定を立てよう」
  
 私は埃を払った台座付きの水晶球を取り出した。魔術師ギルドなどに置いてある魔力測定器だ。ただし感度は数倍にあがっている。これは師匠の家からくすねてきた物だ。
 とりあえず全員の分を計ってみることにする。基準は普通の人、魔術が使えない人が100となっている。これは使えなくても身体中を魔力が駆け巡っているからだ。
  
 「さて、最初にやる人は?」
  
 私の問いにミュールが手を上げた。わくわくした瞳で水晶球を見つめている。私は水晶球を起動させるとミュールに水晶球の上に手をかざすように指示をした。
  
 「ピッ、ピッ、ピッ・・・・・・7800」
  
 水晶球の中に数字が浮かび上がる。
おいおい、なんだこの桁外れの数字は・・・・・・。私はミュールを見上げてしまった。全員が私の方を見て高いのだと認識したようだ。
それから次々と測定を始める。結果は次の通りだった。

 ミルト   2500
 バスティ   800
 私     5700
 ユーリカ 25000
  
 ん?
 全員が最後の数値に戸惑っていた。本人もおろおろしている。正直私も驚きを取り越していた。
  
 「あれ? 壊れたかな?」
  
 私は水晶球の台座にはめ込んである宝石を取り出し、中にある魔力回路を調べた。異常は無い。
とすると・・・・・・、化け物だ。
つまりユーリカは魔法を覚えたら覚えるだけ強力な魔法を長時間使えることになる。それに魔石で魔力を補充してやると・・・・・・、世界のパワーバランスが崩れかねないほどだ。
私は咳払いをして全員に一言告げた。

 「ゴホン。え~、このことは絶対に外に漏らさないように。正直さっきの剣の誤魔化しよりかなり重要です。ユーリカの命や安全に関わるのでよろしく」
  
 そういう私の声も少しだけ震えていた。私の秘術である高音言語魔法を全力でかけて27500が良いところだ。それで攻撃魔法を使って使用禁止にするほどの威力になる。
私はどうしたものかと考え出した。全員私の方へ注目している。1人だけ机に突っ伏して震えている者がいるが放っておこう。彼女もまた謎なのだから・・・・・・。

 「あ~、とりあえず。最初はミルトが神聖魔法を教えてくれ。それからバスティの精霊魔法かな?私とミュールは暫く教えない。といっても理論は最初に私が教える。それからの予定だと思ってくれ」
  
 私はこの水晶球を一度師匠のところへ送り返し、この数字の意味するところを尋ねるつもりだ。当然持ち出したのがばれて怒られるだろう。しかし、それくらいならどうって事は無い。
ユーリカの才能を開花させるべきかしないべきか?
管理せずに開花するより、管理して開花させた方が安全度は遙かに高い。

とりあえず、本日はこの辺りにして解散となった。
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