こちら付与魔術師でございます

文字の大きさ
45 / 45
こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編

こちら付与魔術師でございます Ⅸ 中央平原攻防戦 Ⅶ

しおりを挟む
「どうやらたどり着いたみたいですね。
と、移動も開始しましたか」

 私の言葉にマルキ・ロワは唖然とした表情を浮かべる。
どう考えても絶望的だった救出をあっという間にやってのけたのだ。

「さて、フォルミード。 道を作ってやってくれ。」

「ヒトヅカイノアライゴシュジンダナ」

金属の擦れるような声で金属でできた小竜フォルミードが城壁の下へと降りてゆく。

「元帥、少し城壁が削れてもいいですか?」

 私の言葉にマルキ・ロワは頷く。

「まあ、削れるものならなぁ。これは花崗岩を魔法で強化してあるからな、遠慮なくやれ」

「了解」

 私が返事をすると同時に私の頭上に影が差す。
どうやら師匠が降りてきたようだ。
城塞都市の各所から悲鳴が上がる。
それはそうだ、視認できる距離に竜が降りてきているのだ。
亜竜や幼竜ではない。
年季の入った成龍だ。
おっと年季なんて本人の前で言ったら何をされるか分からない。

「元帥、あれ、私の知り合いなので攻撃しないように伝達をお願いします」

 私の言葉にマルキ・ロワはあきれた表情を浮かべる。

「あんなのまで知り合いなのか……。カサンドラ公爵もまた……」

 首を横に振りながらマルキ・ロワは近くにいた将軍に全軍へ攻撃不可の伝達を出す。
また市中にも伝令を出した。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

ドッツンンンンンン!!

鈍い音が城壁を揺らす。
どうやらフォルミードが音速突撃をかけたらしい。
私は若干不安になって城壁の下を覗く。
フォルミードも少しは頭を使ったらしく城壁から離れたところが抉れていた。
しかし衝撃波はやはり城壁を少なからず抉っていた。
ガラガラと崩れる城壁の表面。
それをみた魔術師たちが真っ青になり修復を試みてる。
ちなみに城壁近くに生き残っていたモンスターや亡者たちは、そのほとんどが壁に叩きつけられたり逆側に吹き飛ばされていた。

「本当に削りよったわ」

マルキ・ロワが城壁の下を覗きこみながらあきれたように呟いた。

「カサンドラ公爵の配下の方たちはこれで大丈夫として、問題はですね」

私は亡者たちが向かってくる奥の霧を見つめる。
そこには巨大な人影がある。
問題はその後ろ。

霧よりも更に濃い何かがあるのだ。
どうもそこから亡者たちが発生しているような気がする。

「ん? あの黒いところか?
巨人は最初から気づいていたがあれはいつ発生した?」

マルキ・ロワは近くにいた魔術師に問いかける。

「いえ、あれはいつの間に……?」

魔術師も首をかしげる。
その濃い何かを見つめているとその中から巨大な存在が飛び出した。
それも一体ではなく数十、数百という数が次々と飛び出してくる。
 ワイバーンゾンビ、飛竜ゾンビ、グリフォンゾンビ、ペガサスゾンビ、ありとあらゆる飛行生物のゾンビが体液や肉片をまき散らしながら飛び立ってきた。
その情景に攻撃をしていた城壁の上の兵や魔術師たちが浮足立つ。

「飛行系ゾンビだと……」

慌てて空中へと向かい弓を構える兵達。
どう考えてもまだ届かない距離なのだが動揺した兵たちは気にも留めない。
次々と無駄な矢が空を飛んでゆく。

「ええぃ、やめんか! 敵はまだ遠くだ、まずは近づいてくる地上を叩けっ!」

 地上はというと更に霧の中から出て城壁に近づいてくる亡者たちは増えている。
それも最初の数万という単位ではない、川から河口、海へという風に列を作り、広がり押し寄せてきていた。

「なんですか、これは!」

突然横から響く声。
そこには下から戻ったバスティ達の姿があった。

「無事に戻れたようだね」

私の言葉にバスティは「えぇ」とだけ小さく答えた。

「で、あれは何? 下からだとここまで多いとは分からなかったわ」

そう、それほどの数の亡者達が押し寄せてきているのだ。
そしてそれは空も同様だった。

「うん、なんとなく予想は付いているんだけれども……」

私は確信がなかったため言葉を濁す。

「こんなのどうしようもないじゃない」

バスティは亡者の海を見ながら呟いた。

「ちょっとまずいかなぁ。一掃しようにもまだなぁ」

向こうで今だに眠っているミュールを横目に私は空を見上げた。
空から降りてくる竜の影はかなり巨大なものになっている。

「あれに頼るしか無いかなぁ」

私とバスティの会話にマルキ・ロワも黙って空を見つめていた。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

「やあ、カーソン。 元気だったかね」

城壁から百メートル以上上空で突然竜は上昇した。
その竜の背中から一つの球体が城壁の上へ降り立つ。
私は何故か直立不動になっていた。

かつかつと踵を鳴らしながら近づいてくる師匠。
私と師匠の間に立ちふさがるバスティ。
そして……。

「ゴチッ」

いつの間にか目の前にいた・・・・・・師匠からの拳骨。

「あんたねぇ。あれ程あの魔法は使うなと言ったでしょう」

目の前に立ちふさがっていたバスティも唖然として振り返っていた。
当然マルキ・ロワも。

「どうも。
わたくしの不詳の弟子がご迷惑をおかけしておりませんか」

私に拳骨を落とした師匠は横にいたマルキ・ロワへと挨拶をする。
マルキ・ロワも丁寧に挨拶を返していた。
なんて自由なひとだ。

「で、師匠。 どうしてここに?」

私は拳骨を喰らった頭を押さえながら師匠に話しかける。
師匠は私を睨みつけ、そして視線をあの霧の中の濃いところに向けた。

「あれよあれ。 なんであれ黄泉比良坂が開いているのよ」

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

黄泉比良坂よもつひらさか

現世とあの世の境界線。
死の国への入り口。

「ああ、やっぱり。 あれがそうなのですね」

私は師匠の言葉にうなずいた。
確信がなかったので言葉には出さなかったが……。
私と師匠以外は何のことだかわからないという表情を浮かべている。

「ちょっと、私たちにもわかるように説明してくれない?」

バスティが私と所使用の間に割り込んでくる。
マルキ・ロワも同じく頷いていた。

「ああ、あれは死の国と現世を結ぶ回廊です。
これでどんどん亡者の数が増えている理由が分かりました」

私の言葉に二人とも何が起こっているかはっきりとしない表情だ。

「まあ、簡単に言えばこの世界で死んだすべての生き物が溢れ出しているといえば……」

そう言った途端、バスティが私の首に掴みかかってくる。

「この世界で死んだすべての生き物ですって?
それってどれだけの数だと……」

「さぁ?
数億で足りるかなぁ……」

私の言葉に私たちの会話が聞こえていたすべての者達の顔色が土気色に変化する。

「阿保。
聞こえるように言うやつがあるか。 士気を下げてどうする」

本日二度目の拳骨を受ける私であった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

鴨川 京介
2017.01.03 鴨川 京介

魔術師番鍛冶屋のばんって版じゃない?

2017.01.10

返信が遅くなりまして申し訳ございません。

その通りでございます。

二箇所修正しておきました。

ご指摘ありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。