お客様の言いなり!?

みちる

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☆出会い☆

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  私、小山 奈々。憧れの20歳になり、毎日お弁当屋さんで頑張ってます。 家族が多いので、少しでもお父さんとお母さんが楽になればいいな。と、高校生の頃からバイトはいくつかしてきた。

 初バイトは確か・・・パン屋さん。パンを補充して並べたり、お店の掃除やら少しだけ調理を手伝わせて貰ったり、やっぱり一番は接客。レジ打ち・・・

私は大の接客嫌い。嫌いというか、苦手なの。元々の人見知りの性格からか苦手。でも、この人見知りを改善する為、あえて接客してるの。

効果はどうか分からないけどね。バイトの話だけど、他にも食品工場やコンビニ、ファミレスのキッチンやホール・・・などなど。

たくさん色んな所で社会勉強してるけど、やっぱり仕事って大変だよね。

でも、頑張んなきゃだから、気合い入れて頑張る。奈々は1人気合いを入れて、仕事に出掛けた。

 私の勤めているお弁当屋さんは、和さんという無口だけど、本当は優しい旦那様と、ほんわか優しい雰囲気の凛さんという奥様のご夫婦で営んでいるお店なんです。

 最近出来たばかりのお店だけど、人気が有り、かなりバタバタ忙しいのです。

『おはようございます!』 

挨拶をすると、皆ニコニコして答えてくれる。

『奈々ちゃん、おはよ! 外寒かったでしょ。』

11月の寒い朝。確かに寒い・・・奥さんはいつも気遣って優しい言葉を掛けてくれる。

『おぅ!奈々。今日も宜しく頼むな。』

ぶっきらぼうに言い、すぐに何処かへ行ってしまう和さん。

『奈々ちゃん、ごめんねー。あの人恥ずかしがりなだけで、悪気ないからね。あれでも、すこぶる愛想良くしてる方なのよ。』

奥さんは申し訳なさそうに話す。

『いえ。大丈夫ですよ。ちゃんと分かってますから。』

私の言葉に安心したように笑った奥さん。 凛さんは本当に可愛い人なの。優しくて、よく気が着き、テキパキ動ける完璧な女子。しかも、スラッと背が高くて、小顔でモデルさんみたいなんだ。本当に憧れちゃう。

けど、私は背が小さくて童顔で・・ちんちくりん。正反対なの。神様は本当平等じゃないんだからー。

さて、仕事しなきゃ。

『いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?』

お客様は80歳位のおばあちゃん。

『えーっと、目が悪くて字が見えないだけど・・これは何弁当?』

おばあちゃんは写真を指差し聞いてきた。

『これはシャケから弁当です。』

『あー、鮭とからあげなんだねぇ。うーん・・じゃあこれは?』

また指差すおばあちゃん。

『えーっと、これは幕の内弁当です。揚げ物は天ぷらで、煮物やお魚など、色んな種類のおかずが入ってますよ。』

なかなか決まらない、おばあちゃん。1人の男性のお客様が待っている。焦る私とマイペースなおばあちゃん。
おばあちゃんがしばし悩み、やっと決まったようだ。

おばあちゃんは幕の内弁当。うん。おばあちゃんにはこれが一番合ってそうだ。

そして、次のお客様。

『お待たせして申し訳ございません。ご注文はお決まりでしょうか?』

『あー。大丈夫、大丈夫。別に急いでないから気にしないで。』

男性は優しく微笑み、メニューを見ていた。決めるのに時間が掛かってしまったおばあちゃん。このような時、仕事の休憩の時に来られるお客様はやはり、時間がないからイライラし始める。酷い時は思いっきり怒鳴られる。

泣きそうになる事もしばしば。でも、このお客様は優しい方で良かった。あれ?この人何処かで見た事あるような・・・でも、思い出せない。

その男性はあまりにも容姿が整っていた。年はうーん・・私よりも大分上だろうな。30歳位かな?落ち着いた大人の男の人という感じだ。背は180センチは超えてるかな?体型も細いけど、ガッシリしていて本当惚れ惚れしちゃう。

うっとり見惚れていた私にその人はフッと笑い、優しく言った。

『えーっと、チキン南蛮弁当を一つ下さい。』

・・・と。あー声まで格好いい。ドキドキしちゃう。

『はい。かしこまりました。』

そして、その時、さっきのおばあちゃんが突然、『ないーないー。』とお財布を探し始めた。うちのお店は、お弁当が出来上がってから会計をする仕組みです。

もうすぐお弁当が出来上がる。そして、会計。でも、おばあちゃんのお財布はなかなか出てこない。放っておけない性格の私は一緒に探す。でも、ない。

『あー困った、困った。取りに帰りたいけどねぇ、私足が悪くてねぇ。』

困り果てたおばあちゃん。私と和さん、凛さんもどうしたものかとソワソワ。男性客も心配そうにしている。

『お客様、お腹も空いているでしょうし・・お財布を取りに帰り、またここまで来るのは大変でしょう。今日の所は私が立て替えときますので、いいですよ。』

笑顔で言った私。

『いいのかい?お姉ちゃん。悪いねぇ。明日同じ時間にまた来るから、その時に返すからね。』

おばあちゃんは申し訳なさそうに言った。そして、何度も謝りながら帰って行った。

『奈々ちゃん。代金を頂けなかったら、提供しなくてもいいのよ。奈々ちゃんは優しすぎるのよ。』

凛さんが困ったような顔で言う。

『どうしても・・・放っておけなくて。すみません。』

シュンとする私。

『怒ってるんじゃないわよ。ただ、奈々ちゃんがいい子過ぎて心配なの。』

と、凛さん。和さんも心配そうに見ている。あー、私のお節介のせいでまた周りの人に迷惑掛けちゃったかな。

その後、次のお客様のお弁当が出来上がり、お会計をする。

『チキン南蛮弁当お待たせしました。620円になります。』

男性客は『ありがとう。』とニッコリと笑って帰って行った。

それから、ほぼ毎日同じ時間にその男性のお客様は来てくれた。本当にいつ見掛けても素敵な人。私は知らないうちに彼に会えるのを楽しみにしている自分に気付いた。

あのおばあちゃんはあの日言った通り、次の日の同じ時間に来てくれて、ちゃんと返金してくれた。そして、それ以来私を奈々ちゃん。と呼び、可愛がってくれた。

 お弁当屋さんは小さいお子さんからお年寄りまで、幅広いお客様が来る。やっぱり色々な事がある。何か困っていたりすると、やはり助けてしまう私の性格。

正直、しんどいなって我ながら思ってしまう時もある。でも、ダメなの。体が勝手に動いちゃうの。

そして、またあの素敵なお客様が来た。ドキドキと高鳴る私の胸。あのお客様が来ると緊張してしまう。声が裏返っちゃわないかな。ドキドキは止まらない。

『い・・いらっしゃいましぇ・・・』

チーン・・・噛んだ。やはりテンパってしまった。

『あはは・・今日も可愛いね。えーっと、今日は何にしようかな。』

優しく笑ってそう言った彼。沸騰しそうな程、真っ赤な私の顔。恥ずかしい・・でも、サラッと言ってくれた可愛いね。がとても嬉しい。例えお世辞でも嬉しいよ。

私の顔を見て優しく笑い、彼は言った。

『今日は何時までなの? もし、都合良ければでいいんだけど、ちょっと話せないかな?』

え?ど・・どうしよう。でも、私きっとこの人に・・・。

『は・・はいっ!全く一つも予定はないですし、大丈夫です。今日は14時までです。』

良かった。と呟やき、彼は私に小さいメモを渡した。

『これ、俺の連絡先。14時頃に店の前にいるね。じゃ、弁当ありがとう。』

そう言い、爽やかに手を振り去って行く彼。呆然と見つめる私。14時まで後30分程か・・どうしよう。

『奈々ちゃん。さっきのお客様の事好きなんだね。』

と、凛さん。

『え?え?違いますよー。だって、私よりも随分年上で大人ですし、私なんて・・』

と言い掛けた時、凛さんは企んだ目で言った。

『あらー?私と和くんは12歳離れてるわよ。年の差なんて関係ないよ。いいじゃないの!素敵に人じゃない。』

凛さんと和さんがそんなに年が離れてたなんて・・・。

『和さんが12歳も上なんて・・知らなかったです。同じ年のご夫婦かと勝手に思ってました。』

私の言葉に凛さんは苦笑い。

『この人、無愛想だけど、顔だけは可愛いのよ。ほら、童顔でしょ。だから、若く見えるのよ。全く愛想は無いけど、顔だけはね。』

凛さんの言葉に気まずそうに咳払いをする和さん。この夫婦面白いの。

『だから、奈々ちゃんも年の差なんて気にしないで!好きならそれでいいの。頑張ってね。今日はもうお客様も落ち着いてるし、少し早いけど上がっていいわよ。見出しなみ整えないと。』

と、笑顔の凛さん。和さんもうなづいている。

2人に早く行きなさい。と急かされ、少し早く店を出た私。

あのメモには彼の電話番号とメールアドレスが書いてあった。メモの下の方に彼の名前も。えーっと・・・中川 仁。
うーん。何処かで聞いた事ある名前だな。

なんて思いながら、ソワソワ店の周辺をウロウロしていた。私、今日仕事だけだと思っていたから、白のセーターにジーパン。その上にコートを着ているという、本当に可愛気もない服装。あー地味子だと思われるかな・・なんて、ブツブツ言っていると背中をポンッと叩かれた。
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