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二の罪状
猫の朝食
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「まっ、これにてめでたしめでたしだな。あの屑が最期まで屑だったのは、まあそんなもんだろ」
ジュウベエが昨夜の事を思い返し、その末路に耽る。
あの場に姿こそ見えなかったが、近くで確実に見届けていたのだろう。
「……て事で、安心したら腹減っちまったよ。朝飯まだ?」
早速朝食の催促だ。猫の朝は早い。しかし昨夜の事で遅くなったのか、既に日は昇っている。
「分かった分かった」
テレビの電源を落とした幸人は立ち上がり、簡易食器棚へ向かう。
もうすぐ開院の時間だ。朝食はさっさと済ませた方がいいのだろう。
食器棚にはペットフードの袋が置かれている。U社が開発した猫用総合栄養食、金のスプーン。袋にはドライフードをバックに、可愛い猫の姿絵がチャームポイントだ。
猫に大人気の金のスプーン。ペットフードとしては少々、いやかなり値は張るが、食い付きの良さは他の追随を許さない。
例に洩れず、ジュウベエもこの金のスプーンしか口にしない。猫まんま等、論外である。
「あっ……」
「なんだ、あっ……て?」
袋を手に取った幸人が言葉を濁したのを、ジュウベエは見逃さなかった。
お待ちかねのジュウベエの下へ、幸人は無言でジュウベエ専用容器に、金のスプーンの袋を逆さに翳す。
“早く早く”と片眼が催促しているのが、痛い程に伝わって来るのが分かる。
“カラカラ”
そんな期待を裏切る間の抜けた軽い音が、容器へと小さく音を発てた。
「えっ!?」
流石に信じられない、といった表情だ。ジュウベエは容器の前で、馬鹿みたいに目を丸くさせている。
何故なら目の前の容器には、金のスプーンと思わしき小さな固形物が、目視で数えられる程(五粒)しかなかったからだ。
「済まん……。買い置きするのを忘れてた……」
幸人はばつの悪そうにしている。悪気は無いのだろう。とどのつまり、朝はこれで我慢してくれとの、無言のお達しである。
「ふっ……ざけんな! 何だこれ? おやつか? いやおやつより酷いぞ!!」
しかしジュウベエは収まらない。余程空腹なのか、ヒステリックに叫び声を上げる。
「お、落ち着けジュウベエ……」
「これが落ち着いていられるか! 可愛いオレが飢え死にしちまったらどうすんだ!?」
朝食を抜いた位で死にはしないだろう。猫も人も。
だが“食べ物の恨みは七代先まで祟る”とは正にこの事か?
これの何処が可愛いんだかと、幸人の表情は困惑と茫然の入り交じりだ。
「大体な! お前はいつも食というものを――」
もはや止まらない。ここで反論、もしくは猫まんま等で誤魔化せば、もれなく猫パンチの洗礼を受けるだろう。
ジュウベエとの付き合いを長く知り尽くしているのは、幸人自身が一番良く知っている。
ここで選択肢。
“ひたすら謝る”
これはNGだ。何より時間の無駄だし、謝った処でジュウベエの腹は満たされない。
「分かった分かった、買いに行きます」
「当たり前だ!」
根負けしたかの様に、もう一つの選択肢を選ぶ。
“速やかに買いに行く”
というより、これ以外最善の選択肢は無いのだから、選択という名の選べない強制である。
掛け時計の時刻は午前九時前を指している。一般的なスーパーやドラッグストアは、まだ開店するには少々早い。
コンビニという手段もあるが、金のスプーンは何故かコンビニには置いてない。流石は高級ペットフードたる、金のスプーンの崇高さ。
幸人はこの時ばかりはコンビニの不便さと、ジュウベエの高級嗜好を恨んだ。
だが世の中には、まだまだ絶対数こそ少ないが“二四時間営業スーパー”なるものが存在する。
如月動物病院の近くに所在し、徒歩でおよそ十分少々。
開院まで何とか間に合いそうだなと、幸人は白衣を羽織って出入口のドアへと向かう。
如月動物病院は九時半開院と、一応定めてある(勿論緊急時は何時でも対応している)
「よっしゃ、とっとと行くぜ!」
ジュウベエは幸人の左肩に飛び乗り、急かす様に促す。
当然の様に着いてくる気満々のジュウベエ。勿論その場で即、食べる為だ。
「お前……本当にいい性格してるよ……」
幸人は溜め息を漏らしながら、金のスプーンを買いに部屋を出る。
無人となった部屋内。ジュウベエ専用容器の五粒の金のスプーンは、おやつ以下として処理されていた。
「まっ、これにてめでたしめでたしだな。あの屑が最期まで屑だったのは、まあそんなもんだろ」
ジュウベエが昨夜の事を思い返し、その末路に耽る。
あの場に姿こそ見えなかったが、近くで確実に見届けていたのだろう。
「……て事で、安心したら腹減っちまったよ。朝飯まだ?」
早速朝食の催促だ。猫の朝は早い。しかし昨夜の事で遅くなったのか、既に日は昇っている。
「分かった分かった」
テレビの電源を落とした幸人は立ち上がり、簡易食器棚へ向かう。
もうすぐ開院の時間だ。朝食はさっさと済ませた方がいいのだろう。
食器棚にはペットフードの袋が置かれている。U社が開発した猫用総合栄養食、金のスプーン。袋にはドライフードをバックに、可愛い猫の姿絵がチャームポイントだ。
猫に大人気の金のスプーン。ペットフードとしては少々、いやかなり値は張るが、食い付きの良さは他の追随を許さない。
例に洩れず、ジュウベエもこの金のスプーンしか口にしない。猫まんま等、論外である。
「あっ……」
「なんだ、あっ……て?」
袋を手に取った幸人が言葉を濁したのを、ジュウベエは見逃さなかった。
お待ちかねのジュウベエの下へ、幸人は無言でジュウベエ専用容器に、金のスプーンの袋を逆さに翳す。
“早く早く”と片眼が催促しているのが、痛い程に伝わって来るのが分かる。
“カラカラ”
そんな期待を裏切る間の抜けた軽い音が、容器へと小さく音を発てた。
「えっ!?」
流石に信じられない、といった表情だ。ジュウベエは容器の前で、馬鹿みたいに目を丸くさせている。
何故なら目の前の容器には、金のスプーンと思わしき小さな固形物が、目視で数えられる程(五粒)しかなかったからだ。
「済まん……。買い置きするのを忘れてた……」
幸人はばつの悪そうにしている。悪気は無いのだろう。とどのつまり、朝はこれで我慢してくれとの、無言のお達しである。
「ふっ……ざけんな! 何だこれ? おやつか? いやおやつより酷いぞ!!」
しかしジュウベエは収まらない。余程空腹なのか、ヒステリックに叫び声を上げる。
「お、落ち着けジュウベエ……」
「これが落ち着いていられるか! 可愛いオレが飢え死にしちまったらどうすんだ!?」
朝食を抜いた位で死にはしないだろう。猫も人も。
だが“食べ物の恨みは七代先まで祟る”とは正にこの事か?
これの何処が可愛いんだかと、幸人の表情は困惑と茫然の入り交じりだ。
「大体な! お前はいつも食というものを――」
もはや止まらない。ここで反論、もしくは猫まんま等で誤魔化せば、もれなく猫パンチの洗礼を受けるだろう。
ジュウベエとの付き合いを長く知り尽くしているのは、幸人自身が一番良く知っている。
ここで選択肢。
“ひたすら謝る”
これはNGだ。何より時間の無駄だし、謝った処でジュウベエの腹は満たされない。
「分かった分かった、買いに行きます」
「当たり前だ!」
根負けしたかの様に、もう一つの選択肢を選ぶ。
“速やかに買いに行く”
というより、これ以外最善の選択肢は無いのだから、選択という名の選べない強制である。
掛け時計の時刻は午前九時前を指している。一般的なスーパーやドラッグストアは、まだ開店するには少々早い。
コンビニという手段もあるが、金のスプーンは何故かコンビニには置いてない。流石は高級ペットフードたる、金のスプーンの崇高さ。
幸人はこの時ばかりはコンビニの不便さと、ジュウベエの高級嗜好を恨んだ。
だが世の中には、まだまだ絶対数こそ少ないが“二四時間営業スーパー”なるものが存在する。
如月動物病院の近くに所在し、徒歩でおよそ十分少々。
開院まで何とか間に合いそうだなと、幸人は白衣を羽織って出入口のドアへと向かう。
如月動物病院は九時半開院と、一応定めてある(勿論緊急時は何時でも対応している)
「よっしゃ、とっとと行くぜ!」
ジュウベエは幸人の左肩に飛び乗り、急かす様に促す。
当然の様に着いてくる気満々のジュウベエ。勿論その場で即、食べる為だ。
「お前……本当にいい性格してるよ……」
幸人は溜め息を漏らしながら、金のスプーンを買いに部屋を出る。
無人となった部屋内。ジュウベエ専用容器の五粒の金のスプーンは、おやつ以下として処理されていた。
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