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二の罪状

完了

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「罪状、高瀬 重造。女性患者への診察と称した性的暴行、全て含めて1023件。医療ミスによる患者への意図的な死亡件数17件。全て把握」


『雫』が自分以外知り得ない行状を述べた瞬間、男の目が更に恐怖で見開かれた。


“殺される”


何故そんな事を知っているのか、今は考えてる暇も無い。少なくとも目の前の人物が、自分を殺しに来たであろう事は状況からして明らかだ。


この期に及んで逃れようと必死にもがく男を、『雫』は冷めた眼で見下ろしながら。


「よってこれより……“消去”を開始する」


『雫』の掲げられた右手に煌めく、蒼白くも冷たい輝き。


「フグォォッ! フグォォォォ!!」


口にした“消去”がどういう意味か馬鹿でも分かる。迫りくる絶対的な死に呻くしかない。


しかし無駄、無力、無意味。それは“人”の力で抗える訳がなかった。


『雫』の蒼白い右手が男の胸に押し付けられる。戒める様にゆっくりと。


「フグォォォォォッ!!!!!!」


その右手が触れた瞬間、言葉にならない呻きが上げられた。


刹那、蒼白い煌めきが更に輝きを増す。


“ドクン”


「――っ!?」


まるで胎内に不純物が入り込んだ様な感覚。


『雫』は塞いでいた左手を口元から離し、押し付けていた右手も戻す。


「ななっ……何をしたっ!?」


男はようやく口を訊ける様になったが、全ては後の祭。手を離したのは“消去”が滞りなく終了した事を意味していたからだ。


“ドクン”


「むっ……胸が!?」


突如何かが締め付けられる様な感覚に、男は胸を押さえて苦しみ出す。


「ぐっ……ぐるじいぃぃっ!!」


その押し寄せる止めどない激痛の波に、男はソファー型の椅子から転げ落ち、芋虫の様に床を這いずり回っている。


『雫』はその哀れな姿を、冷ややかな表情で見下ろしていた。


「お前の心臓は徐々に凍結していき、やがて完全にその動きを止める」


這いずり回る男に背を向けた『雫』は、これから起こる事の顛末を、無関心に告げる。


「その間の苦しみの中で、己の愚かさを噛み締め続けるがいい」


それは緩やかな時限式凍結。一瞬で絶命させない処がミソだろう。


“罪を憎んで人を憎まず”


そんな綺麗事等、偽善が産んだ只のまやかしに過ぎない。


“罪には罰を”


高瀬のこれまでの行状を垣間見れば、死に至る僅かな時間の苦しみ等、至極当然の応報なのかも知れない。


「ぞ……ぞんな! だ……だずげでくでぇ……」


苦しみに堪えかねた男の必死の懇願。どれ程の苦しみだろうか、男の目は飛び出さんばかりに血走り、歪みきったそれは、この世の者とは思えない表情だ。


「お前の断罪への消去は終了した……」


そんな懇願等、聞く耳持たず。終焉を告げた『雫』の姿は、それと同時に室内から完全に消える。


ドアも窓も無い。まるで煙の様に闇へと。


一人室内へと取り残された男は、震える手で胸ポケットにある携帯を取り出し、緊急番号を順に押していく。


“――死にたくない! 俺はまだ死にたくない!!”


この間、ほんの僅かな時間の行為だが、まるで途方も無い重作業。だが生への渇望がその指を動かす。


“――もっと金を……もっと女を!!”


「――ゥグッ!!」


ようやく通話ボタンを押した頃には、凍結は完全にその心臓を浸透しきっていた。
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