上 下
45 / 69
三の罪状

水装師団射手陣

しおりを挟む
ジュウベエは片眼である己が目を疑った。


“臨界突破レベル『200%』超え……だと?”


だが何度眼を凝らしても、液晶に表示された数値に間違いは無い。


ジュウベエは蒼く靡く時雨の後ろ姿に眼を向ける。


その200超という数値が、どういう事を意味したのか――


“アイツ……幸人と同等、いやそれ以上か?”


ただ一つだけ分かるのは、彼は紛れもなくSS級――人の姿をした怪物なのだと。


「さあ“キリング タイム”のお時間がやってまいりました」


完全に一人だけ浮いてる感のある時雨は、胸ポケットからメンソールの煙草を一本取り出し――


「閲覧御代は出演者の命となっておりま~す」


ふざけながら煙草に火を付け、余裕の一服だ。その振る舞いは心臓に毛が生えてるとしか思えない。


“一体どれ程の力が……”


ジュウベエがそう思った瞬間――


「えっ!?」


それは異変。先程まで余裕だったはずの時雨が、身体を痙攣させながらくわえた煙草を落としていくのを。


その口からは吐血の跡。


そして黒服の一人が持つ銃口からは硝煙の跡が。


何時の間にか撃たれていたのだ。恐らくはお喋りの最中。


発砲音が聞こえなかったのは、サイレンサー付き拳銃だったからか。


「そ……んな……馬鹿な!」


まさかいきなり撃たれるとは思っていなかったのか、驚愕と疑問、そして苦痛の表情で、時雨は撃たれたと思わしき血の溢れる腹部を押さえながら、ぐらつき崩れ落ちようとする。


「なっ!!」


だがそれは許されなかった。


一人の行動を皮切りに、次々と時雨へ向けて一斉掃射。


“プシュプシュ”と乾いた音と共に、まるで虚無のダンスを踊る時雨。


その度に血飛沫が夜空へと舞う。


四方から撃ち込まれる弾丸によって、倒れる事が出来ないのだ。


やがて――原型も残らない程、時雨だった五体は血溜まりの海へと沈む事となった。


「ちょっ! アイツいきなり殺られちまいやがったぜ!!」


突然の事態にジュウベエが声を上げるのも無理は無い。


確かに多勢に無勢。だがSS級ともあろう者が、こうまであっさり殺られる等と――


「おっと……原型は残すんだったな」


「もう一匹を生け捕りにすれば問題は無かろう」


大勢の黒服達は躊躇する事も無く、幸人へとその矛先を向ける。


正に全員が殺しのプロなのだ。


「やべぇぞ幸人! アイツが殺られちまった以上……」


ジュウベエからすれば、此処は撤退したい処だが、幸人が介添え役である以上、引き継ぎ完遂せねばならない。


「相変わらず……」


「おっ……オイ幸人!?」


迫り来るdivaの尖兵達を前に、ジュウベエの焦りに対し幸人は腕組みしたまま、それでも動く気配すら見せない。


「性悪な奴……」


そう意味深に呟いた瞬間――


“ブラッディ・アバター”


何処から途もなく聞こえた声。


『何だ!?』


誰もがその声の発生源と思わしき、血溜まりの遺骸へ視線を向ける。


そして見た――


「ひぃあぁぁぁ!!」


「ばっ……化け物!!」


余りの事態に叫ぶ者も多数。


「嘘だろオイ!?」


その血溜まりからは死んだはずの、しかも幾多もの時雨と思わしきモノが形成されていくのを――


“レギオナリスト・サジタリアス ~水装師団射手陣”


数十人もの時雨その者が、何事も無かったかの様に佇む。


「そんな馬鹿なぁぁぁ……なんちゃって」


唖然としている者達を前に、その全てが同じ様に――笑っていた。
しおりを挟む

処理中です...