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第1章 邂逅

十一話 会敵

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「私には……出来ません」


それは、はっきりとした拒否の顕れ。即ち掟に背くと同義。


「何を馬鹿な事を!」


当然の如く批難の声が上がった。


「私にはどうしてもこの子が狂座とも、此処に害成す者とも思えません! どうか今暫くの時間を頂けませんか?」


だがアミはしっかりと周りを見据えて、そう言い放つ。その決意は堅い。


ただ、この少年がユキヤという名である事は、敢えて言わなかった。


彼女はどうしても、この少年を助けたかったのだ。


可哀想でも、ましてや自分の手を汚したくなかったからでも無い。


どんな理由が有ろうとも、命とは尊いものである事。それを簡単に投げ出す様な考えが有って良いはずがないと。


「じゃが掟は掟じゃぞ。狂座の者では無いという証拠もあるまい」


「しかもあの刀といい、あの落ち着き具合といい、どう見ても普通じゃない」


しかし皆、鉄の戒めに縛られている。長老に続き、周りに居る男の一人もそう言い放つのは、疑っているのは勿論、狂座に関係無く外敵排除の一点、それのみか?


「結局どうするんです? 殺らないならそれも構いません。借りは別の形という事で……」


言い争いでは無いが、少年は面倒臭そうに口を挟む。


当事者にも関わらず、上の空なのか話を聞いていないのか、その口振りから心底どちらでも良いのだろう。


「貴様! 何を勝手な事を!」


少年の憮然とした態度に、周りから怒号の声が上がるが、そんな事は彼にとって知った事ではない。


「狂座の者を、というより外敵排除というアナタ方の方針は分かりました。とはいえ……」


周りの声等、まるで無視。


これにて審議は終了、とばかりに話を進めていく。このままでは埒があかない。


少年は思うーー


“それに、いい加減退屈していた処です。この茶番劇に――”


「先程から其処に居るんですが……。無関係という訳でも無さそうですし、折角ですので御登場して貰いましょう」


彼が向けた視線の先。


「突然何を!?」


在るのは木造の壁だけだ。


誰もが皆、“何を馬鹿な”と怪訝の表情を浮かべ、其処に視線を集めるが、やはり何も無い。


だが少年の視線は確かに、何も無い壁へと向けられている。


“何をいい加減な事を!”と口に出そうとした刹那――


「……気配は消していたのだがな」


確かに壁から聞こえた、突然の第一声。


「なっ!?」


「誰だ!?」


壁からの突然の声に、次々と威嚇の怒声が上がる。


そして確かに見た。


まるで木造をすり抜ける様に、壁が壁として機能していないかの様な、自然と違和感無く姿を現した者を。
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