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第2章 対峙

二話 侍レベル

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夜摩一族の徹底した外敵排除。秘密保守。


それは、この鍵となる光界玉を漏らさない事にあった。


「狂座の情報網を甘く見ない事ですね」


しかし狂座側には既に知られてしまっている。


「さあどうしますか? おとなしく差し出せば、そうですね……」


シオンの提案する取引。


「御礼と言ってはなんですが、今此処では殺さないであげます」


「なん……だと?」


それは余りに馬鹿げた取引だった。しかしシオンは本気で持ち掛けている。


「さあ選んでください。後で死ぬか……それとも今死ぬか」


“どっちにしろ死ぬ事に変わりは無いじゃないか!?”


勿論そんな取引等、呑める訳が無い。


しかしシオンから発せられる、得体の知れぬ殺気に近い有無を言わせぬ圧力に、気圧される様に動く事を躊躇う。


シオンのこの余裕と自信。先程の侍レベルとやらに、何か関係が有るのか?


「んっ?」


その刹那、空気が引き裂かれる様な風切り音と共に、甲高い金属音が鳴り響いた。


「――くっ!!」


シオンは唐突な瞬間に、戸惑いの呻きを漏らす。


腰に差した剣を半分だけ露にし、間一髪直撃を防いでいた。


“――速いっ!!”


そこには懐剣を手にし、疾風の如く斬り掛かっていたアミの姿があった。


その一撃こそ止められたが、その速さにはシオンのみならず、誰もが舌を巻いていた。


シオンは後方へ飛び退く事で、アミから大幅に距離を取る。


「これは意外ですね。貴女の様なお嬢さんが、これ程のスピードで……。もう少し反応が遅かったら、私の胴体は二つに別れてましたよ」


それは彼女に対する賞賛とも言える台詞だが、余裕の顕れなのか、シオンはまだ剣を抜ききってはいない。


「狂座であるアナタを、このままにしておけない」


小太刀に近い懐剣を構え、シオンと対峙するアミ。


「覚悟してください……」


それは、はっきりとした敵対視。


誰もが固唾を呑んで、この闘いの序曲を見守っている。


彼女は退魔を生業とする夜摩一族、その中でも特に精霊の加護を受けた巫女のみならず、当代随一の遣い手でもあった。


人を見かけで判断してはならないとは、正に彼女の為にある。


その疾風の如き天才的な剣捌きは、常人が見切れるものでは無い。


「これは勇ましい……」


だが狂座であるシオンもまた、常人の武とは大きく異なるのも確かだ。


あの不意の一撃を防ぐ等、常人に反応出来る訳が無い。


十人が十人、あの一撃で終わっていた事だろう。


シオンは剣を抜く代わりに、またもや左手首の装置を操作している。


先程は女子供と思って除外していた。


その本当の力を。


何やら電子的な機械音が断続的に鳴り――


「ほう? これは……」


思わず漏らした感嘆の吐息と共に、シオンはその装置の液晶画面を凝視する。



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※通常コード~class 剣豪
※モード:アドバンシード


 対象level 68.59%


※危険度判定 B

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