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第6章 溶ける氷

十五話 存在理由

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「アミ!!」


ユキは不意に気付いた。


アミの手は無氷によって凍りつき、凍傷を起こしていた事を。


ユキは急ぎ、再生再光による治療を彼女へ施す。


もし、この力が無かったら、アミの手は壊死していたであろう。


アミの手は瞬時に痛みも消え、感覚も戻っていく。


“本当に不思議な力……”


そして彼女が何より嬉しかったのがーー


「初めて、名前で呼んでくれたねユキ」


「ごめん……なさい……」


ユキはただ俯いて、謝り続ける。


名前で呼びたくなかった訳では無い。


ただ、名前で呼ぶと自分が自分では無くなってしまう気がしていたから。


彼に唯一欠けていたーー“情”


それは人との関わりを持たない、持つ資格が無いとも云える彼の枷でもあった。


アミは俯いて謝り続けるユキを、再び抱きしめる。今度は優しく。


「身体の傷は時と共に治っていくけど、心の傷は簡単には癒せないの。でも大丈夫だからね、ユキは……」


“ユキはもう一人じゃないから”


“この痛みは何時かきっと、優しさに生まれ変わるよ”


ユキはアミに抱かれ、幼子の様に泣き続けた。


そして一つの決心が生まれる。


もう二度と彼女を傷付けない。


“私の命が続く限り、守り続ける事を”


“ここは私が、死ぬまで生き抜くべき処としてーー誓います”


“アミを守り抜く事が私の存在価値”


存在理由そのものなのだからーー


*************


その夜、二人は身を寄せ合う小動物の様に眠りについた。


ユキは泣き疲れたのか、すやすやと寝息をたてて眠っている。


本当に穏やかな寝顔だった。


きっと生まれて初めて、心から安心して眠れたのだろう。


アミは自分の胸の中に収まる、そんな小さなユキの穏やかなまでに安心した寝顔を見て、また涙が零れそうになる。


“何時までも、こんな穏やかな時が続いて欲しい……”


“でも近い内にまた、ユキは狂座との闘いに赴いていくのだろう……”


それは絶対に避けらない運命。


“闘いなど無くなって欲しいのに”


きっと近い内に、狂座との大きな闘いを迎えるだろう。


“だからせめて今だけは……”


全てを忘れてーー


「おやすみなさい」
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