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第9章 絶対零度の死闘

二話 絶体絶命

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「ほう? 瞬時に刀と鞘を間に挟み、間一髪首が飛ぶのを防いだか……良い判断力だ」


その見えない何かによって動けないユキに、アザミは感心した様に呟く。


「くっ……」


不可視の強烈な力によって締め上げられ、ユキは呻き声を漏らすしかない。


このままでは力尽き、刀と鞘ごと巻き込まれ、首が飛ぶのは時間の問題だった。


「お前が力尽きるのを待ってもいいが、それは俺の趣味では無い」


アザミは左手をユキに翳したまま、右手で懐から何かを取り出す。


「これで楽にしてやる」


アザミが懐から取り出したのは、人の頭程有る巨大な手裏剣だった。通常の手裏剣の五倍以上有るだろう、その形状と重量感。


喰らえば即死は必至ーー


「じゃあな」


アザミはその言葉と同時に、その巨大な手裏剣を正確に頭部へと狙いを定め、ユキへ投げたのだった。


“……これは?”


自身を締め付ける、目に見えぬ力の正体。その周りに朧気に光る一筋の線が見えた。


とはいえ、それに気付いた頃には時、既に遅し。


アザミの投げた手裏剣は、既に目前にまで迫っていたのだから。


「ーーしまっ!!」


顔面に直撃する刹那、金属音が鳴り響く。直撃する筈だった手裏剣は、別の力に依って軌道が逸れていた。


ユキの前に割り込んだアミが、小太刀を振り翳した結果、手裏剣の軌道を逸らす事に成功したからだ。


「ユキ! 大丈夫!? うっ……」


突如アミは右肩を抑え、その場に踞る。


それもその筈。その大きさと重量を持つ手裏剣を、超スピードで投げられたのを弾いたのだ。その衝撃は並では無い。その為、アミは肩の筋を傷めていた。もしかしたら脱臼をしているかも知れない。


「ちっ、寸前の処で邪魔が入ったか」


手裏剣を弾かれた事で、アザミに僅かながら動揺が走る。


知るよしも無かった。その為、左手の力が無意識に緩んでいた事を。


締めつける力が一瞬緩んだのを見逃さず、ユキは刀を横にし、刃の部分で一気に振り降ろす。ブチンと何か切れた様な音と共に、彼を縛り付けていたその拘束は解かれた。


「アミ!!」


ユキは自分の眼前で踞るアミを抱え後ろに飛び、アザミから大幅に距離を取った。


「どうして来たんですか!?」


少しだけ責めた様な口調でアミの肩に、再生再光による治癒を施しながら訴えかける。


「ご、ごめんなさい……」


その暖かい光によって、肩の痛みが退いていくのを実感しながら、アミはユキの身体中を見て呟く。


ユキは全身に裂傷を負っていた。


“足手まといになるのは分かっていた……。それでも一人で闘うユキの力に、少しでもなりたかったけど……”


「ユキ……」


アミはそんな痛々しい彼の傷口を、そっと擦る。


歯痒かった。自分の傷も顧みず、傷を治してくれている。


力になる処か、足を引っ張っているだけでしかない自分が。


せめて、この傷だけでも治せる力が欲しいと、アミは切実にそう思わざぜるを得なかった。


「でも……」


ユキは手を肩から離し、アミに笑顔を向ける。


「おかげで助かりました。ありがとうアミ」


本当に美しい笑顔だった。此処が闘いの場でなかったら、思わず抱きしめたくなる程に。


「ユキ……ごめんね」


感傷も束の間ユキは立ち上がり、アミに背を向けて呟く。


「でも……ここから先は、どうか下がっていてください」


ユキはアザミを見据え、歩を進める。


アミの目にも、アザミの強さと殺気は恐ろしい程に感じ取れる。


“この闘いに於いて、私は足手まとい以外の何者でもないから……”


だからせめてーー


「ユキ……」


“勝利を祈らせてください……”


「大丈夫ですよ。絶対に勝ちますから」


そんなアミの心を見透かしたかの様に。穏やかな声と共に歩を進める。


アミが見守る中、ユキはアザミと再び対峙するのであった。
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