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訪れた平穏

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〔シュワルツside〕


柔らかい花の匂いが鼻を突き抜ける。
もう幾度となく足を運んだはずの城門への道も、今では
なんだか見知らぬ土地のように感じてしまう。
厄災カタストロフが終息してから、一ヶ月が経とうとしていた。
激戦の末壊滅状態だった城近辺や町は、少しずつ活気を取り戻しつつある。
ようやく訪れた、平和な生活。多くの犠牲を出した民衆も、今より悪くなる
ことはないと希望を持って生きるようになった。カタストロフは消えた。
俺が、この手で倒したのだ。ただその実感は今でも感じられない。
カタストロフ終息後になによりも先に国王が立てた慰霊碑。
厄災で命を落とした国民は数えきれない。それを何より悔やみ、
慈しんだカイゼルの計らいだ。今日はその慰霊碑に花を供えるついでで、
久々に城に足を踏み入れたのだ。
城門の側で槍を構える兵士に会釈をすると、すぐにこちらに気づいた様だった。

「ハーバー様」

「カイゼルに会いに来た。忙しそうか」

「特別な国務はしておりません。お通し致します」

「ありがとう」

勇者一行としてカタストロフ討伐に尽力したのもあってか、
俺はそこそこ名の知れた剣士になっていた。
深々とお辞儀をする兵士の横を通る。長い回廊を渡ると、
謁見の間に辿り着く。玉座には大柄の男が身を構えていた。
こちらをみて薄く笑みを浮かべている。

「シュワルツ。久々だな」

「元気にしてたか。すっかり王座に馴染んだようだ」

「この椅子古いから尻が痛くなるんだ」

わはは、と爽やかに笑ってみせる大男は数年前から変わっていない。
カイゼルは王国の第一王子で、子供の頃に小姓として俺をそばに置き出した。
カタストロフ討伐の際は、亡くなった国王の代わりに国を守った。
その際に俺を討伐軍の頭に立てたのもコイツだ。

「そっちはどうだ。落ち着いて生活出来てるか」

「全然。復興作業で毎日明け暮れてる」

「サーニャはどうだ。元気にやってるか?」

「よせって言ってるのにしょっちゅう食べもんを持ってくる」

「お前のことが好きなんだよ」

「旅の仲間のよしみだろ。余計な事を言うな」

「つれない奴め。アイツが気の毒だ。」

「うるさい。そっちこそどうなんだ」

「ああ。あれから城は忙しかった。そんで」

「そんで?」

「デリクが帰ってきた」

突如として目を見張る。

「あいつが、帰ってきた?」

「ああ」

デリクとは、カイゼルの弟で第二王子だ。けれどカイゼルとは違って
妾の子であるため、血は繋がっていない。そして、カタストロフを
招いた張本人でもあった。

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