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魔王の残影

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〔シュワルツside〕

思わず言葉が出てしまった。

「どのツラ下げて帰ってくるんだよ」

カイゼルは表情を変えない。ただ、突き刺すように床を見つめる。
デリクのせいで国はほぼ壊滅、民衆は数えきれないほど死んだ。
国民の怒りは全て彼に向けられているに等しかった。
けれど、国を滅亡に導いた張本人である前に、彼はカイゼルの弟なのだ。
カイゼルには到底責められるものではなかった。

「話を聞いてくれ」

「…ああ」

「あれから色々調べた。なぜ封印されたはずのカタストロフが
復活したのか。デリクが関わっていた理由。それは、デリクが封印を解いたんだ」

「一体なんのためにだよ」

「国王に、なるために」

「国王?そんなもののためだけにあんなのの封印を解いたのか?」

「カタストロフはデリクを口車に乗せた。自分を解放すれば絶大な力を
与えると言ったんだ。けれど実際は、デリクを器として乗っ取った。」

「つまり厄災はデリクのせいじゃないと?」

沸き上げてくる怒りは鋭い言葉となってカイゼルを突き刺す。
乗っ取られた?だからなんだ。封印を解いたのはデリク本人だ。

「なんでそこまで弟を擁護する?」

「……」

「デリクはお前を心底憎んでいた」

カイゼルの目が見開かれる。
少し言いすぎてしまっただろうか。
自分の記憶では、デリクはカイゼルを憎んでいた。理由はなんとなく察せた。
自分が妾の子であることに負い目を感じていた。第一王子でもなければ、正妻の子でもない。
そのやり場のない怒りと悲しみの矛先は全てを持つカイゼルに向けられた。
それがやがて妬みに変わり、憎しみへと変化していったのだろう。
当然、カイゼルもそれを分かっていたはずだ。
デリクは人に当たりが強く、我が儘で癇癪持ちというかなり難ありの
人間だが、カイゼルは何を思って彼を擁護するのか。それだけが疑問だった。
カイゼルの顔を見つめると、ふと後ろの仕切りが目に入った。
半透明の紙が貼られた仕切りに人影を見たのだ。

「後ろに誰かいるのか?」

カイゼルは突然こちらを見上げ、わかりやすく狼狽え、言葉をくぐもらせた。

「…使用人だろう。私の部屋で待機している」

「そうか」

どこか引っかかる。いくら信用していても、自分の家の者ではない。
金になるものがいくらでも置いてある自分の部屋に使用人を放置するだろうか。

「それじゃ、そろそろ行くよ」

「ああ、また来てくれ」

「少し城を探索してもいいか?」

「構わない。気が済むまで見て回るといい。」

「ありがとう」

普段こそこんなことしないのだが、カイゼルの部屋の後ろに回って
中を覗いてみたくなった。使用人が装飾品を盗んでたりでもすれば、
ついでに報告してやろう。そんな軽い気持ちで謁見の間を後にした。


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