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第1ステージ①
しおりを挟む「あれ…」
(またこのパターンか…)
俺は思わず、ため息をつきながらも周りを見渡した。
一瞬で模様替えされた場所は、見覚えがあるものだった。
吹き抜けになっているフロア、ディスプレイにある衣服。
見るからに大型のショッピングモールだ。
ただ俺を除いて周りには誰もいなかった。
「ったく、どうなってんだよ…」
【皆さんに参加していただくのは『人生ゲーム』。それでは心ゆくまでお楽しみください】
微笑みながら暗闇へと消えていったピエロの言葉を思い出す。
(人生ゲームって、あの人生ゲームのことなのか?)
そして俺はふと顔を上げるとー
ピエロの顔
が目の前にあった。
「うわああああ」
俺は驚きのあまり、後ろに飛び退いた。
その拍子に足が床につまずいたのか、盛大に尻餅をついた。
擦った手足からはヒリヒリとした痛みが伝わってくる。
でも、目の前の光景はそれを打ち消すかのように現実感のないものだった。
ピエロの顔だけが、そこに在る。
ぷかぷかと宙に浮いているんだ。
呆けた俺を見て、ピエロはゲラゲラと笑いだした。
「ドッキリ大成功~☆」
すると顔だけではなく上半身、下半身も現れ始めた。
全身くまなくピエロになると、ニヤニヤしながら俺に近づいてきた。
「ビックリしました?ビックリしました?」
ピエロのふざけた態度に、怒りが込み上げてきた。
俺は静かに立ち上がり、一歩前に出た。
「お前!どういうつもりだ!」
ピエロは首を傾げて不思議そうな顔をする。
「どういうつもり、というと?」
俺は今までの出来事に怒りが頂点に達していて、募り募った思いをぶちまけた。
「いきなり変なとこに連れてこられてゲームしろ?」
「クリアしないと、ここから出れない?」
「ふざけんなよ!何がドッキリだ!!」
「どんな手品か知らねえけど、早くここから出せよ!」
思いついた言葉を口に出してから、自分で気づく事ってたまにある。
今がまさしくそれだ。
(そうだ、俺は手品でも見せられてるんだ)
(そうに決まっている)
黙って聞いていたピエロは腕を組んで悩み始める。
「困ったな~、出たいって言われても出られないんですよ」
「これはあなたの人生を賭けたゲームなんですから♪」
「だから、それが意味不明だって言ってんだよ!」
ピエロは再び唸り始める。
「う~ん、どうしたら信じてもらえるのか」
ピエロはその場で円を描きながら走り回る。
「困った~困った~」
(コイツ…!)
俺はピエロの変わらない態度に手を震わせる。
するとピエロの動きが突然止まる。
「あ、そうだ!」
ピエロは何か閃いたのか、俺に駆け寄ってきた。
目の前で立ち止まると、そのまま静止する。
「な、なんだよ…」
ピエロの奇妙な顔に狼狽えたながらも、俺は強気で睨み返す。
ーズブっ
「え…」
何か身体の中に違和感を感じる。
俺は恐る恐る下を見ると、ピエロの腕が俺の身体を貫いていた。
「カハッ…」
俺が血を吐き出すとピエロはゆっくりと腕を抜く。
遅れてきた激痛に、身体から力が抜けていく。
俺は膝から崩れ落ちると、そのまま倒れ込んだ。
(息……が……)
「肺を貫いたので、ちょっと息苦しいかもしれないですね~☆」
(目が…霞んで…)
(…し……ぬ…)
「おっと、ホントに死んじゃいますね」
薄れゆく意識の中でピエロの声が遠くで聞こえる。
「ONE、TWO、THREE…!」
パチンと指が鳴った音を微かに聞きながら俺は眼を閉じた。
(ん…)
重たい瞼をゆっくりと開けると、俺の顔をピエロが覗き見ていた。
「起きました?」
驚いて俺は飛び起きる。
「うわああああ」
「あ、起きましたね♪」
(あれ…?)
俺はさっきまでの痛みが引いていたことに気づく。
「穴が塞がってる」
身体に空いていた穴はきれいに無くなっていた。
半信半疑で胸をさすってみても何も違和感はなかった。
ードクン、ドクン、ドクン
心臓はいつも通り脈打っている。
(…何が起こったんだ?)
ピエロは何故か上半身を横に傾けながら俺を見つめる。
「今、私が治したんですよ」
「これで信じてもらえました?」
「これが手品《ウソ》じゃなくて現実《ホント》のことだって☆」
ーゾクッ
ピエロの見えない威圧感に俺は血の気が引くのが分かった。
息苦しさ、血の味、死の恐怖、あれは確かに本物だった。
そして床に染み付いた血が、アレは事実だったということを物語っていた。
額から汗が滲み出る。
(ほんと…なんだ)
(本当にクリアしないと俺は死ぬんだ…)
俺の表情を確認すると、ピエロは話を進める。
「さあ、気を取り直してゲームの説明をしましょう!」
「ルールは、あなたもご存知の人生ゲームとほとんど一緒です♪」
「サイコロの目に従って進んでいきゴールまで行けばゲームクリア!お望み通りここから出れますよ☆」
「ただし止まったマスで、それぞれステージゲームをしていただき、それをクリアしたら次のマスに行くためのサイコロを振れます!」
「ここまでで何かご質問は?」
俺はふと湧いた疑問を投げかける。
「そのステージゲームってのをクリアできなかったら、どうなるんだ?」
「はい、その場合も死んでもらいます☆」
(な…)
(さらっと言いやがって!)
込み上げる怒りを抑えながら、状況を整理する。
(つまり、ここから出るにはステージごとのゲームを全部クリアしないとゴールできないってことか)
「時間も押してきてますので、他にご質問がなければ、ここのステージゲームの説明を始めます!」
ピエロは矢継ぎ早に説明を続ける。
(一体どんなゲームをさせようって言うんだ)
俺は固唾を飲んで、ピエロの言葉を待った。
「今回のステージゲームは借り物競争で~す☆」
「か、借り物競争?」
俺は思わず声が裏返る。
「そのとぉーり!!」
「お題に合ったものを持って来ればクリアになります!」
(なんだ…意外に簡単そうだな…)
(もっととんでもないゲームをさせられるかと思ってた)
俺はホッと胸をなで下ろした。
「制限時間は2時間!時間内にお題の紙と物を1階の広場に持ってきてください!」
ピエロは俺にボックスを差し出す。
「では、ここからお題を引いてください♪」
俺はボックスの中に手を入れると、1枚の紙を抜き出し、開いてみる。
そこに書かれていた文字に、普通の借り物競争ではないことを改めて思い知らされる。
『左手』
それを見たピエロは、冷や汗をかく俺の耳元で囁く。
「面白いものを引きましたね~♪」
「では最後に、この借り物競争で一緒に参加する他の方々をご紹介しましょう!」
ピエロが指し示した手の先に顔写真が投影される。
そこには俺の写真も映っていた。
(俺以外にもここのゲームの参加者が…)
(全員で…8いや、9人か)
参加者の中にピエロに異議を唱えた男も含まれていた。
(あ、さっきピエロに文句つけてた奴だ)
(男は俺の他に4人、女がさ…いや1人婆さんと犬が混じってるじゃないか!)
婆さんはとうに還暦は迎えている容貌だった。
その上、一緒に柴犬の姿も映されていた。
(こんな婆さんまで参加してるなんて…)
(しかも犬まで連れて…)
(一応…婆さん入れたら女は4人か)
婆さん以外は、みんな俺と同年代か歳下くらいのようだ。
「お題の物はどう手に入れてもらっても構いません!」
「例えば他の参加者の左手でも、ご自分の…左手でも☆」
俺は自分の左手を見つめる。
(自分のって…いやいやいや、さすがに無理だろ!)
(かといって、他の参加者の左手を奪ったりなんて…)
俺はポケットに入っているナイフの存在が頭をよぎる。
「ちなみに、お題の物が手に入らないと思ったら、他の参加者とお題の紙を交換したり奪ったりしてもOKですよ♪」
(そうか、他の誰かとお題の紙を交換すればいいってことか!)
(いや、これと交換してくれる奴なんて…)
(ということは、このゲームをクリアするには、誰かのお題を奪うしかないんじゃ…)
「何かご質問はありますか?」
「え…あ、いや…」
考え事をしていたせいか、質問は何も浮かんでこなかった。
「なさそうですね♪」
「では、他の参加者もお待ちかねのようですし、そろそろゲームを始めましょう!」
ピエロはピストルを取り出すと上に向ける。
「借り物競争!よーい、ドン♪」
ポンッという音ともに銃口からは紙吹雪や万国旗が飛び出し、ピエロは音や煙ともに再び姿を消した。
考えがまとまらないままステージゲームが始まってしまった。
ー残り01:59:57
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