人生ゲーム

アルマ

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第1ステージ⑤

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行き先を共有した俺たちは、出口があると予想される1階へ向かう。

(参加者は9人…俺を含めてここに3人。金髪たちが2人。残りの4人はどこにいるのかもわからないな)

エスカレーターの動力のもと階下へ下りつつ、周囲に目を向けてみるが、他の参加者の影は見当たらなかった。

目的の1階へと差しかかる。
すると、眩しく光る出口と思しき扉が徐々に視界を大きく占めていく。

「出口だ…」

進之介が呟いた一言をきっかけに、俺と進之介はエスカレーターを駆け下りた。

扉の前に立ってみると、若干の違和感を感じた。
触れた扉の感触としては、ガラスのようだった。照らされている光が強すぎるのか、ドアの向こう側は何も見えなかった。

「これはどういうことでしょう?」

「全く向こう側が見えないな」

「行ってみますか?」

「ああ、ここから脱出できるかもしれないんだからな」

扉は近づいても触れてもなんの反応もなかったが、軽く押すと力に比例した分だけ押し開かれた。
背後の今宮と進之介に呼びかけると、俺はそのまま扉を力強く前に押した。

「行くぞ!」

光に包まれた先へと足を踏み入れると、あまりの眩しさに目がくらんだ。

光の強さが緩やかになったことを瞼の裏で感じ取るとゆっくりと目を開ける。

すると、そこには似たような景観が広がっていた。
いや、違う。
目の前にあるエスカレーターも、周りにある服屋と見せかけた武器庫も見覚えがあった。
似たような、ではない。今の今まで自分が立っていた、まさしくその場所だった。

確認するかのように、後ろを振り返ると、目を丸くしている今宮と進之介、そしてついさっき開けたドアが当たり前のように存在していた。

(まさか…)

俺は予想したことを確かめるために、2人を置いて再度扉を開ける。
しかし、目の前にあるのは同じ光景だった。舞い戻った俺の姿を見ると、2人の表情には落胆の色が浮かんでいた。

「これは、外には出られなさそうですね」

「…そうだな。こんなの漫画の世界の話だけだと思ってたよ」

この扉を抜けた先も同じ場所に繋がっているのだ。
扉の形はしているが、その実、全く意味の無いものとなっていた。

少なからず予測していたことではあるが、外には出られない、という現実に思わず俺は目を伏せてしまう。

「やっぱり、このゲームをクリアするしかないようですね…」

重苦しくなった空気を振り払うかのように今宮が口を開く。
現実を受け入れたのか、今宮は俺たちにある提案をする。

「あの、とりあえずこのゲームをクリアするまでは、私たち協力しませんか?」

今宮の切り替えの早さに俺と進之介は目を見合わせる。だが、俺の中での答えは1つだった。
それは進之介も同じだったらしい。俺たちは同時に受け答える。

「ああ!」
「こちらこそよろしくお願いします!」

返答を聞き、笑みを浮かべる今宮。

「ありがとうございます!」
「それでは一旦、現状を整理しませんか?」

俺たちは通路にあるソファへと場所を移すと、今宮は要点よく話し始めた。

「まず、私たちの残りの時間は、この腕に刻まれた時計が示している時間ですね。あと1時間10分程度。それまでにゲームをクリアしないといけません」
「時間の限り、お互いの目的の物が見つかるまで協力して探しましょう」
「進之介くんのお題はライターでしたよね?」

「はい…。普通のショッピングモールであれば簡単に手に入りそうですが、ここに限っては難しそうです…」

目に入る店の形を成した場所は、どこも一緒だった。
武器と服、少しの治療道具が置いてあるのみだった。

「そうだな…。ここら辺を探しても、見つかる可能性は低そうだな。1番有力なのは、あの史也ってやつが持ってるライターだな」

「そうですね。あの様子だと素直に貸してはくれなさそうですよね」

「でも、あいつらは合わせても2人。3人いればライターをとる方法は何か考えれそうだな」

今宮と俺の言葉を聞いて、進之介は勢いよく立ち上がり頭を下げた。

「ありがとうございます!僕1人ではとてもじゃないけど敵わないので、お二人がいてくれるとありがたいです!」

「大袈裟だな。協力しようっていうんだから、当たり前だろ」

進之介は少し照れくさそうに頬を僅かに染める。

「ありがとうございます…。あ、今宮さんのお題は何だったんですか?」

今宮はスカートのポケットから紙を取り出すと、その内容を見えるように差し出した。

「私のは、ボールペンでした」

「ボールペン!?」

俺の過剰な反応に驚いた今宮は目を見開いていた。
今宮の表情に我に返った俺は、思わず目を逸らした。

「ど、どうかしたの?」

「あ、いや、何でもない…」

(進之介に続き、今宮までも普通のお題だったとは…いやいや、ここにおいては普通のお題も難しいか…)

自問自答をしていた俺の思考を遮るように今宮が話題を振る。

「じゃあ、櫻井くんのは…」

と言いかけるが、今宮は言葉を止める。
そのとき、耳に微かに叫び声が聞こえた気がした。
お互い察知したのか、何も言わず耳を澄ました。

「やめてぇぇぇぇ!!!」

3人は目を合わせる。
間違いなく女性の声だ。声の様子からして、ピエロが参加者一覧を見せた時にいた、あの老婆だろう。

「ばあさんの叫び声だよな?」

確認の一言を告げると、2人とも神妙な面持ちで頷く。

「行きましょう!」

俺たちは声の聞こえた方向へ足を向ける。
その間も悲鳴は続いていた。ボリュームからして、目の前の角を曲がると音源に辿り着くだろう。
曲がり角に近づくと、俺は一歩前に出て、2人を手で制す。

「俺が様子を伺ってみる」

俺は曲がり角の手前にある柱部分に背を預け、柱から慎重に3分の1程度顔を出す。

そこにあるものに俺は目を見開いた。

一見してわかるほどに、その光景は異様だった。
ドラマの撮影だと言われれば、納得したかもしれない。
だが、その先のシーンはいくらドラマだといえど決して見たいものではない。
うずくまる老婆に日本刀とも呼べるほどの長さの刃物を向けている男が立っていた。
そして、その切っ先を振り下ろそうとしていたのだから。

「おいっ!!!!」

その男は見知らぬ人物だが、見覚えのある男だった。
ピエロに意を唱えた例の男だ。
だが、それに気づいたのは思わず駆け出してから数秒経った後だった。

(声が出た、足が動いた、さっきの俺とは違う!)

自分の不甲斐なさに自分自身が失望していたが、今は違う。

(今宮のように、俺もなれるんだ…!)

俺の声に驚いたのか、2人から同時に視線を向けられた。

俺は走りながらポケットからナイフを取り出すと刃先を男に向ける。
あと2歩進めば、男に触れられるという間合いで足を止めた。

「何してんだよ!!」

俺は危機迫ったように大声をあげる。
男が刀を向けていた女性は遠目には土下座をしているように見えたが、近寄ってみると、その腕の中に静かに抱えられていた小さな犬の姿もあった。

「なに?ってなに?」
「見たら分かるだろ?」

落ち着いた声で受け答える男。
男のあまりに冷静な素振りに、自分の感情が驚愕から怒りへと変わっていくのがわかった。

「お前、頭おかしいのか?」
「ばあさんに刀向けて、なに普通に言ってんだよ」

「俺は目的のために手段を選ぶほど余裕がないんだよ」
「邪魔するならお前も命張れ」

力強い視線に気圧されるほど、男の眼には、なにか覚悟に満ちたものを感じた。
俺の後に続いてきた今宮と進之介も追いつくと、男は苛立ちをみせる。

「ちっ、次から次へと」

俺は今宮と進之介に、地に伏して震えていた老婆のことを端的に伝えた。

「今宮、進之介、ばあさんを!」

「え?」

戸惑っている進之介を先導するように、今宮は老婆と抱えていた犬に駆け寄る。老婆はどうにか立ち上がると、進之介の肩を借りながら、その場を離れる。

男は一瞬老婆に視線を向けるが、俺はその瞬間に足先をじりと動かし体重を前方に移動させる。

俺の動きを見ると、男はすかさず視線を俺へと戻す。

(とりあえず、ばあさんを逃がすだけの時間を…)

と参段を立てている間もなくーー
目の前に刃があった。

「え…」

左肩に走る痛みに、身体が反射的に反応し、咄嗟に右側へ身体を転がした。

「っ…!」

相手の出方は、注視しているはずだった。
それでも目の前に刃物が届く寸前まで、全く反応できなかった。

刃物は護身用に持っているのみで、実際に使用したことはもちろんなかった。
しかし、男の動きは俺とは違った。

(こいつ…慣れてやがる…)

左肩はジンジンと熱く唸りを上げていた。それに呼応するかのように激痛とその周囲を赤く染めあげた。

「今ので実力差が分かっただろ」
「お前に問うことは1つ」
「お前の持つ借り物の内容を教えろ。内容次第では、命は助けてやる」

男は膝をついた俺に刃物の先を向けながら言い放つ。

「!?」
「お前、本気でこんなゲームやってるのか!?」
「皆で脱出方法を探そうとは思わないのか!?」

「そこからお前とは違うんだよ」

小さく呟いた男の声は、はっきりと俺の耳には届かなかった。
しかし、次のセリフははっきりと俺に向け告げられる。

「質問に質問で返すな。お前のお題は何なんだよ。2度目はもうない」

答えることに少し迷ったが、自分に渡された指令の内容を明かした。

「…“左手”だよ」

「左手、ね。やっぱりあの婆さんのが早そうだな」

「え?」

俺の答えを聞くと、興味を無くしたかのように男はすぐさま後ろを振り返る。すると、老婆の逃げた方向へと走り出す。

「おい!」

俺も慌てて立ち上がると、男の背中を追い始める。

しかし、男の前を塞ぐ姿があった。
今宮はどこからか持ち出したのか、手には短刀を携え、強い視線を男に向けていた。
男は刀を振り上げると、身構える今宮に飛びかかる。

「どけ!女ァ!!」

ー残り01:03:29
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