約束の君-Five bonds-

霜月秋穂

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1章《始まりの音》

1話:神社

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あれは、小学1年の夏休みの事だった。
私は田舎のお婆ちゃんの家に家族で帰っていた。

「羽月(はづき)ちゃんよう来たねぇ?学校は楽しいかい?」

お婆ちゃんの家に来たのは1年ぶりだった為か、私が両親と共にお婆ちゃんの家に着くと直ぐにそんな事を聞かれた。
私はかなりの人見知りで友達が作れずに居たので楽しいとは思えず小さく首を振った。

「あら?学校楽しくないのかい?」

その言葉には小さく頷いた。

「羽月のお友達は学校には居ないもん。」

その返事を聞いた途端、お婆ちゃんは優しく微笑んでくれた。

「そう……急がなくてもいずれ羽月ちゃんと仲良くなりたいってお友達も現れるから大丈夫よ。」

お婆ちゃんはそう言って優しく頭を撫でてくれた。
お爺ちゃんはまだ私が赤ちゃんだった頃に亡くなりお婆ちゃんは田舎の小さなお家で一人で暮らしていた。

そして、その日の夜、私は家族で夕飯すませ空いた時間に婆ちゃんと色々なお話しをした。

「お婆ちゃんは一人で此処に住んでいて寂しくないの?」

「お婆ちゃんは寂しくないのよ。此処にはお爺さんも居るしご近所の皆さんもいい人ばかりだからね?」

「え?でも、お爺ちゃんはもう居ないよ?」

「ふふっ、そうね?お爺さんは居ないけど、この家にはお爺さんと一緒に生活していた思い出がたくさんあるからね?離れたくないのよ。だからお婆ちゃんのわがままね。」

私の問い掛けにお婆ちゃんはくすくすと笑いながら楽しげに話してくれた。

「羽月ちゃんは?お友達居なくて寂しかったりはしないの?」

「え?羽月は……学校には居なくてもお友達がいるもん……」

「学校以外でお友達が居るの?」

「うん!そうだよ!この子達!」

友達の事を聞かれると私はいつも持ち歩いてる本をお婆ちゃんに見せた。
その本は“神様と天馬”と言うお話しの本だった。
神様の世界に迷い込んでしまったペガサスの子供が元の世界に帰る為に4匹の神様、四聖獣に道を聞いて回ると言う様なお話しだった。

「そう、この絵本に出てくる動物さん達が羽月ちゃんのお友達なの?」

「うん!みんな大好きなんだ!いつか羽月この子達と絶対にお友達になるの!」

「ふふっ、素敵な夢ね?羽月ちゃんの夢が叶うようにお婆ちゃんも応援してあげるわね?」

お婆ちゃんは優しかったから私に話しを合わせてくれていたんだと思う。
現実に考えれば本当に夢みたいな話しなのに。
だけど、その時の私は本気でお友達になりたいと思って居たから応援してくれると言うお婆ちゃんの言葉がとても嬉しかった事を覚えている。

だが……

次の日の事だった。
私はお爺ちゃんのお墓参りの為、両親とお婆ちゃんと一緒にお寺に来ていた。
お墓参りも終え、お婆ちゃん達はお寺の人とお話しをしていた。

私はお寺の敷地内にあるベンチで昨夜話しをしていた大好きな本を読んでいた。
するとそこに一人の男の子が通り掛かり私に声を掛けてきた。

「お前、何読んでんの?」

「え⁉…………………本……」

私はいきなり声を掛けられ驚きと緊張からか小さな声で呟く様に返事を返した。

「本?どんな本?」

その男の子は私が緊張して話せないで居るのにお構いなく声を掛け続けてきた。
私は話したくなかったが小声で返事を返した。

「神様と天馬…………」

「ふ~ん?楽しいの?」

「た…………楽しいよ………」

「本なんか見てないでもっと楽しい事すれば良いのに。」

その男の子はそう言うといきなり私から本を取り上げ走り出した。

「羽月の本!!返して!!」

「返して欲しかったら追い付いてみろよ!」

大切な本を取られた私は泣きながら大声を出すも男の子は走っていってしまった。
私は本を取られてしまい悲しかったし怖かったが、返してもらわないとと言う気持ちが勝つとその子を追い掛けていた。

「待って!!返して!!羽月の大事な絵本!!」

「こっちこっち~!」

男の子は暫く走ると正面に現れたかなり急な階段を駆け上がり始めた。
私も無我夢中でその子を追いかける為に階段を駆け上がった。
駆け上がった先には古びた鳥居が立っていた、鳥居を見た途端私は立ち止まった。
今までお婆ちゃんのお家に何度も来ていたが見たことのない場所だったからだ、私は一気に恐怖に襲われてしまった。

「ここ……なに?さっきの男の子は?………」

目の前にある神社の中は薄暗く、私は足が竦んで歩けずにいた。気付けば瞳には涙を浮かべ今にも泣きそうな顔になっていた。

「ねえ!!……羽月の……本………返してよ………ねえ………誰か居ないの…………」

「泣くなっ!!」

泣きそうになって居た私に向かって怒るような声が神社の中から聞こえた。

「泣いても誰も助けてくれないからな!!返して欲しかったら自分で取りに来いよ!!」

「え⁉………」

声のする方を見るとそこにはさっきの男の子が居た。
男の子は神社の本堂の石段に座って私の方を見ていた。
私は今にも泣きそうな気持を堪えながらその男の子の方へ歩いて行った。
男の子のそばまで来るとその子は私にあっさりと本を返してくれた。
私は何処か拍子抜けしてしまい、本を受け取ると真っ直ぐにその子の姿を見た、その男の子は黒い短髪の髪をしていてちょっとヤンチャそうな感じに見えた。
年齢は私と同じぐらいだろうか。

「もう絶対に泣くなよ?」

色々考えながらその子を見ていたが、いきなりそんな言葉を言われると抑えられない気持ちが湧き上がってくるのを感じ、気付いたら言葉に出していた。知らない男の子に大声で怒鳴るなんて普段の私では考えられない光景だった。

「貴方が悪いんでしょ!!私の大切な本だったのに!!」

「なっ、そんなに怒んなくても良いだろ!お前、ここ好きだろうと思って連れてきてやったのに!」

「好きな訳ないじゃんか!こんな………………………」

その時、私は初めてその神社の境内を見渡した。
神社の境内は思ったよりも広く本堂の前には大きな広場が広がっていて、4つの石像が置かれていた。
その石像は私が友達になりたいと言っていた四聖獣の青龍、朱雀、白虎、玄武の4体だったのだ。
その四聖獣の石像は広場を囲むように四方に置かれていた。
東を司る神の青龍は東、南を司る神の朱雀は南、西を司る神の白虎は西、北を司る神の玄武は北に置かれていた。
私は感激で言葉を失った。

「お前、四聖獣好きなんだろ?こんな本見てるって事は。」

「え?」

言葉を失い周りを見回していた私は男の子の声を聞くと我に還った。

「うん!大好き!」

私は満面の笑みで男の子に返事を返した、その男の子は私の笑顔を見た途端恥ずかしそうに目を逸した。

「笑えんじゃん……お前。」

「え?なに?」

目を逸した男の子の声は小さく聞き取れなかった為、私はその男の子に聞き直したが男の子は“なんでもねえ!”と言って話しを流してしまった。
そんな会話をして居ると本堂の奥から宮司さんらしきお爺さんが現れた。

「これは珍しいねぇ。」

私は声を掛けられると再び人見知りが出てしまい言葉が出ず小さくお辞儀をした。

「お嬢ちゃんは翔馬(しょうま)の友達かい?」

「翔馬?」

私はその時初めてその男の子の名前を知った。

「爺ちゃん!別に友達とかじゃないし!たまたま知り合ったやつ。」

「たまたま?じゃあ、なんで此処で話しをしていたんじゃい?遊んでたんじゃろ?」

「そ、それは………」

流石に本を取ったなんて言えなかったらしく翔馬くんは黙り込んでしまった。
それを見ると何かに気付いたらしくお爺さんは私の方へ歩いてきた。

「やれやれ、すまなかったね?私の孫がお嬢ちゃんに何か迷惑を掛けてしまったみたいだね?お詫びになるか分からないけどコレを……」

お爺さんは私に小さなお守りを渡してくれた。
桃色の布で作られたお守りには“伝承神社”と書かれていた。
それを見ていた翔馬くんは納得行かないと言う様子で声を上げた。

「爺ちゃん!俺は別に何もしてないからな!」

「翔馬は黙ってなさい。」

お爺さんは翔馬の反論など聞く耳持たずと言う様に翔馬くんの話しを一言で切り捨てていた。
私はお守りを貰うと小さな声でお礼を言った。

「あ……ありがとうございます………」

「良いんじゃよ。何があったかは分からないけど此処に来たのも何かの縁だからね。また何時でも遊びにおいで?ただし、此処の事は他の人に話したりしてはいけませんよ?話しても此処の事を知ってる人は数少ないからね。」

「え?そうなの?此処の神社は知らない人が多いの?」


「そうだね。此処の神社は信じないと来る事が出来ないからね?人は実際に見た事が無いものは信じないんじゃよ……だからお嬢ちゃんのお父さんやお母さんにも話しちゃいけないよ?約束だからね?」

「そうなんだ……うん!分かった!羽月誰にも言わないよ!このお守りも大切にする!」

私は幼いながらも宮司さんらしきお爺さんの話しを聞くと満面の笑みを浮かべ大きく頷いた。
その様子を見るとお爺さんは安心した様に本堂の奥へと入って行ってしまった。
宮司さんが居なくなると翔馬くんは私の方に歩いてきた。

「爺ちゃんには本取った話しは内緒だからな!それと、明日もまた来いよな?」

「え?今の人は翔馬くんのお爺ちゃんなの?」

「爺ちゃんの話しはどうでもいい!とにかく明日も来いよ!約束だからな!」

「え?約束って羽月この場所分かんないし来れるか………」

その時だった、階段の下の方からお父さんとお母さんの呼ぶ声が聞こえたのだった。

「羽月なら来れる!来れなきゃ俺が迎えに行く!今日は親が心配してるから帰れ!また明日!約束だからな!」

話の途中だったが翔馬くんはそれだけ言い残すと神社の奥へと走っていってしまった。
私は追いかけようかと思ったが私の名前を呼ぶ両親の声を無視する事も出来ずさっき登った階段を下へと駆け下りて行った。
階段を降り暫くすると私は両親の姿を見付け直ぐに駆け寄った、私は両親に何処に行っていたのかと聞かれたが神社の話しはせず少しお散歩してたと言って誤魔化した。
両親と共にお寺に戻る途中私は後ろを振り返ってみたがそこにはいつも見慣れている道が広がっているだけだった……



    
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