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1章《始まりの音》
2話:あの日の約束
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翔馬くんと出会った次の日だった、私は約束通りあの不思議な神社を探す事にした。
探すと言っても誰かに聞ける訳もなく私は一先ずお婆ちゃんのお家の周りを探していた。
「約束って言われたけど何処にもないじゃん!翔馬くんも迎えに来るって言ってたくせに!」
私は探し回ったが見付からずお婆ちゃんの家の縁側で座り込み不満そうな顔でお気に入りの本を眺めていた。
するとそこへお婆ちゃんが来るといつもと様子が違う私を見付け声を掛けてきた。
「羽月ちゃん?どうしたの?大好きな本をそんな顔で見つめて。」
「お婆ちゃん!あ、えっと……な、なんでもない!」
私は宮司さんとの約束を破る訳にも行かず何でもないと笑って誤魔化した。
お婆ちゃんは私のその様子を見ると何も聞かず私の手を取ると手の中へ何かを乗せ握らせた。
「そう、何でもないなら良いけど。これは羽月ちゃんのものでしょ?お守りさんは肌身離さず大切に持ち歩いておかないとだめよ?」
「お守り…はっ!これは!」
お婆ちゃんが私に握らせた物は昨日宮司さんが私にくれた小さなお守りだった。
私はお守りを見られてしまった事に動揺を隠せず黙り込んでしまった。
「大切な物なんでしょう?こういう物は大切に持ってないとだめよ?」
お婆ちゃんはそれだけ言うと何も聞かず台所の方へ歩いて行ってしまった。
私はお守りの事を聞かれてしまうのではないかとドキドキしていたが拍子抜けだった。
お婆ちゃんの後ろ姿を見送ると私は握って居るお守りに目を向けた。
「お婆ちゃん何も聞かなかった……」
私はお婆ちゃんが気を使って何も聞かなかったのかな…と不思議に思いつつも立ち上がるともう一度だけ神社を探してみようと思い、本とお守りを手にして歩き出した。
暫く探すと先程までは分からなかった道が目の前に現れた……
「え?……さっきは無かったのに……でもこの道…」
私はその道を見ると昨日通った道だと直ぐに分かり迷う事なく歩きだした。
暫く歩くと昨日と同じ急な階段が見えてきた。
「あそこだ!やっと見付けた!」
私は階段を見ると宝物でも見つけたかの様な笑顔になり走り出した、無我夢中でその階段を駆け上がると鳥居が見えた。
鳥居をくぐると四神の置かれている広場で声を張り上げた。
「翔馬くん!!約束通り遊びに来たよ!!どこ~!!」
名前を呼ぶと境内に有る1番大きな木の上から男の子が飛び降りて来た。
「遅え!!待ちくたびれただろ。」
翔馬くんは不機嫌そうに返事を返すと私の方に歩いてきた。
「遅いって、羽月だって朝からたくさん探し回って大変だったんだからね!翔馬くんこそなんで迎えに来てくれなかったの!」
「なっ、だって俺も羽月の家知らなかったし。」
「知らないのに迎えに行くとか言わないでよ!それに、羽月の家は遠くだもん。羽月は今、お父さんとお母さんと一緒にお婆ちゃんの家にお泊りに来てるだけだから……明後日にはお家に帰らないとだから……」
私は少し俯きつつ翔馬くんに話しをした、明後日には大好きな四神の石像がある神社に来れなくなるんだと思うと寂しさが込み上げてきてしまったのだ。
「……そっか……じゃあ明日!明日までは来いよ!その次は羽月がまた婆ちゃんの家に来たら!来た時は必ず来いよ!お守り、絶対に忘れんなよ!」
翔馬くんは話しを聞くと一瞬寂しそうな顔を見せたが直ぐに大きな声で返事を返してきた。
私はその言葉を聞き驚くも、顔を上げれば笑顔で約束!と返した。
それから私は毎年お婆ちゃんの家に来る度に神社で翔馬くんと一緒に遊んだ。
神社の事は両親には内緒にして知り合いになったお友達と遊んでるとだけ話していた。
そんな日々を繰り返しをしていたある日………
私は小学4年生になっていた。
その日はとても寒く雪の降る夜だった。
「お母さんが入院!?」
私がテレビを見ていると両親の話しが耳に飛び込んできた。
「お婆ちゃん?………」
私は両親の話しが気になり二人の所に行き話しを聞いた。
お婆ちゃんが病気になり入院したとの話しだった。
お父さんにはお兄さんが居てお婆ちゃんは田舎の病院では無くお兄さんの住んで居る所にある大きな病院に入院したとの話しだった。
その後は、私がお婆ちゃんに会う場所と言ったら田舎のお婆ちゃんの家ではなく病院になってしまった。
「……来年も遊ぶって翔馬くんと約束したのに……」
私はお婆ちゃんの家に行く機会が無くなり翔馬くんとの約束も果たせなくなると、持っていたお守りを無くさないように宝物入れにしていた小さな箱の中にしまった。
それから1年が過ぎ入院していたお婆ちゃんが亡くなったとの知らせが入った。
田舎のお婆ちゃんの家は建物の老朽化も有り、取り壊すと言う話になったらしい。
難しい話など私には分かる訳もなく、お葬式はお兄さんの家で行われ、お墓もお兄さんの住んでいる所にある墓地へと移された。
そんな日々が続き私は神社の存在すらも忘れてしまっていた。
月日は流れ私は高校に入学した。
「羽月!クラス何組?」
肩より下まで伸びた茶色がかった髪を2つに結び元気な顔で私に駆け寄ってきたのは友人の美希(みき)だった。
相変わらず私は人見知りが激しかったがそれなりに友達は出来ていた。
私は一番仲の良かった美希と同じ高校に入学した。
今日は入学式で体育館にはクラス表が張り出されていた。
「おはよ美希!え?えっとね3組かな?」
「え?マジ?私と一緒じゃん!やったね!」
「そうだね、良かったかも。」
私は美希と一緒にクラスに向かった。
その日は式だけだったので気楽なものだったのだが……
私は人見知りで中々クラスの子と進んで話しは出来ず社交的な美希のおかげで今までもそれなりに友達を作る事が出来ていた。
もちろん今日も私は知らない人ばかりで緊張してしまい、クラスの子とはほとんど話すことなく学校を後にした。
入学式はなんとか無事に終わり私は美希と一緒に下校していた。
「あ!そういえば羽月って部活どうすんの?私はテニス部!中学の頃からやってたしテニス好きだからさ!」
「え?部活?そっか、美希は運動神経良いもんね?私は……やっぱり吹奏楽かな?将来は音楽プロデューサーとかやりたいし。音楽に関する部活が良いかな?」
「なるほどなるほど?音プロの夢は変わらないか~…羽月、高校卒業したら音大で本格的に音楽の勉強したいとか言ってたもんね~?」
私は中学の頃、伝えたい気持を歌やメロディーに乗せて世の中に送り出すと言う音楽の世界に興味を持ち自分もそんな世界で働けたら良いなと夢を持った。
気持ちはあれど作詞作曲の才能もなく、なんとか音楽の世界に関われる仕事は無いかと目指し始め、音楽プロデューサーに興味を持った。
演奏する人、聞く人の架け橋となる様な仕事に私は夢を膨らませていた。
美希とそんな話しをしながら帰宅し、初めての高校生活に疲れた私はその日の夜は直ぐに眠りについてしまった……
「みんな羽月のお友達だよ!ずっと!」
私はその日の夜、何故か翔馬くんと神社で遊んでいる頃の夢を見ていた。
夢の中で目覚ましの音が‘ピピピピッ’と響き渡り私は目を覚ました。
「んっ…………」
目覚ましを止めると夢の中での出来事が頭を過ぎった……
「久しぶりかも……なんであの頃の夢なんて見たんだろ……」
私はそんな事を呟くと再び目を閉じてしまった。
それから何分過ぎたのだろうか……
部屋の外から母さんの声が聞こえ再び目を覚ました。
「高校?……あっ!そうだった!電車乗らなきゃいけないんだった!」
中学とは違い電車で通学しなくてはならない事を思い出すと私は飛び起き支度を始めた、赤茶色で緩くウェーブの掛かった背中まである長い髪にクシを通し、高校の制服へ腕を通すと部屋を出てリビングに向かった。
時間がなく朝食もゆっくり食べている暇はなかったので食べかけのパンを咥え家を飛び出した。
「ごめん美希!」
私は走って最寄り駅に向かい、駅の前で待つ美希の姿を見付けると慌てて声を掛けた。
「羽月遅い!五分遅刻だよ!……なんて、大丈夫だって、ちゃんと余裕持って時間決めたんだから。ほら、早く行こ!」
私は美希と共に急いで電車に乗った。そんなバタバタ始まった登校初日だったが、学校ではもっと驚く様な出来事が待ち受けて居ると言う事を私はまだ知りもしなかった。
その日は昨日の帰り道で美希と話していた部活の希望を決めるというとこから話しが始まった。
私は迷う事なく吹奏楽部を選んだ。
1時限目は部活の希望を出したり今後の学校生活の話などを先生に聞くだけで時間が過ぎてしまった。
そして、休み時間になると私は廊下が騒がしい事に気付いた。
「なんだろ?」
「羽月知らないの?原因は1組だよ!昨日はなんか家の都合で来れてなかった男子が居たらしくてさ!その男子がすっごいイケメンだって話題なんだよ?」
「イケメン……そうなんだ……」
私は男子にはあまり興味も無かったので真剣には聞かなかった。
美希は私とは逆でイケメンや話題の物などの情報網は手堅く美希に聞けば今の流行りが直ぐに分ってしまうぐらいだった。
「なにその反応…羽月は相変わらず男子には興味無いよね~?」
「え?まあ…男の子とか良くわかんないし…本読んでるか音楽聞いてる方が好きだし。あ……でも……」
美希との話の中で私は今朝の夢の事を思い出した。
「え!なになに?でも?ひょっとして羽月、男の子絡みで何か有るの!?」
美希は私の言葉に興味深々な様子だった。
私は美希に問われると苦笑いしつつも子供の頃の事を少しだけ話した。
「え!?何それ初耳!じゃあ、その男の子には小学4年の時から1度も会ってないの?」
「まあ、お婆ちゃんの家の近くに住んでる男の子だったからね。お婆ちゃんの家に行かなくなってからは会ってないかな……来年も遊ぶって約束してたから申し訳ない気持ちも有るけど……」
「へ~?でも羽月も男子との付き合いが昔は有ったんだね~?」
「え?もう、私の話しは終わり!」
私はどこか楽しげに話しをする美希の様子に少し恥ずかしくなるとその話しを強制的に終わらせた。
そして、次の時間は校内の観覧だった。
音楽室や理科室など色々な教室を見て回るという入学後には必ずある行事だ。
もちろん私は音楽の道に進むのが夢だったので音楽室には興味深々だった。
中学の時よりも楽器の数が多く私は音楽室を見た途端に部活をするのが楽しみになった。
広い校内を一通り観覧して戻った時にはちょうど休み時間の5分前ぐらいだった。
残りの5分は担任の先生の話しを聞いて終わった。
次の時間は待ちに待った部活紹介の時間で自分の希望した部活の教室へ行き先輩や顧問の先生に部活動の説明等を受けると言うものである。
「羽月は吹奏楽でしょ?音楽室に移動だっけ?先輩や先生にちゃんと挨拶しなさいよ?」
「挨拶って、いくら人見知りとはいえそれくらいは出来るよ!」
休み時間になりそんな事を話していると再び廊下が賑やかになった。
私は何かと思い廊下に目を向けると私のクラスの横を取り巻きの様な女子に囲まれた男子が歩いて行った。
「あ!イケメン1号!」
その男子の姿を見た途端、美希がそんな事を言い出したので私は驚き問い掛けた。
「イケメン1号?なにそれ?」
「さっき話したじゃん!1組のイケメン!確か名前は……神峡翔馬(しんかいしょうま)!」
「へ~?翔馬か……」
私は美希に名前を聞くと神社で会った男の子を思い出してしまい心の中では少しドキッとしていた。
苗字などは知らなかったが同じ名前を聞いただけでもどこか懐かしさを感じてしまったのだ。
「ん?どうした~?羽月~?」
「え?ううん、何でもないよ。でも美希、イケメン1号って……イケメンはあの男子だけじゃないの?」
「ちっちっち~、違うんだな~?実は今年の1年はイケメン揃いって話し知らないの~?」
「そうなの?知らない……」
「流石は羽月……本当、男子に興味ないんだね~?では教えてしんぜよう!」
「あ、ごめん、私そろそろ音楽室に移動するから!その話しはまた時間ある時にでも教えて!」
「え?ちょっと?羽月~!」
美希はイケメンや流行の話しになると長くなると言う事が分かって居たので私は捕まる前に部活の教室に移動しないとと思い教室を飛び出した。
「はぁ……危なかった……美希の長話しに捕まるかと思ったよ~……」
私がそんな事を呟きながら音楽室に向っていると途中にある教室の前に女の子達が集まっていた。
「え?なにアレ……さっきの取り巻きの……?確かあの教室では天文部が集まるはずだけど……」
人だかりが出来ていたのは天文部が使っている教室の前だった、私は特に興味もなかったのでその人だかりを横目に足早に音楽室に向かった。
「あそこまで集まる必要有るのかな……私には分かんないや……」
音楽室に着くと私は緊張しつつも先輩達に挨拶をして席に着いた。
3時限目が始まると顧問の先生や先輩達から吹奏楽部の活動内容等の話しなどを聞かされた。
私は聞けば聞く程に部活動が楽しみになって行った。
将来音楽の道に進みたい私には興味深い話ばかりで聞いているだけでワクワクした。
楽し時間というのはあっという間に過ぎてしまうもので部活説明の時間は直ぐに終わってしまった。
「はぁ……吹奏楽部……楽しみだな~……」
私はワクワクとした気持ちのまま自分の教室まで歩いて行った。
そして先程人だかりの出来ていた天文部の教室の前に差し掛かった時だった。
(ドンッ)
「え!あ、ごめんなさい!」
私がその教室の扉の前を歩いていると、たまたまタイミングよく中からから人かが出て来たのだった。
私は急な事だったので避ける事が出来ずにぶつかってしまった、私は慌てて頭を下げ謝った。
しかし……その人からは思いもよらぬ様な返答が返ってきた……
「お前……やっと見付けた。」
「へ?」
私は予想外の返答を返されてしまい返す言葉に困るとそっと顔を上げた。
「羽月だろ?」
私が顔を上げると休み時間に美希と話しをしていた1組のイケメンと言われる男子が不機嫌そうな顔で目の前に立っていた。
「え?何で私の名前知ってるんですか?」
その男子は焦げ茶色でウェーブ掛かったショートの髪型をしていた。
私は見た事の無い男子が自分の名前を知っている事に驚きと動揺が隠せなかった。
「お前、ボケてんの?約束…何年待ってもお前がこねぇから……俺が迎えに来た。忘れたとは言わせねぇからな。」
私はその言葉を聞き幼い頃の記憶が蘇ると全てが頭の中で繋がった「来年も絶対に来いよ!約束だからな!来なきゃ俺が迎えに行くからな!」そう……今、私の前に居るのは………
「翔馬………くん……?」
探すと言っても誰かに聞ける訳もなく私は一先ずお婆ちゃんのお家の周りを探していた。
「約束って言われたけど何処にもないじゃん!翔馬くんも迎えに来るって言ってたくせに!」
私は探し回ったが見付からずお婆ちゃんの家の縁側で座り込み不満そうな顔でお気に入りの本を眺めていた。
するとそこへお婆ちゃんが来るといつもと様子が違う私を見付け声を掛けてきた。
「羽月ちゃん?どうしたの?大好きな本をそんな顔で見つめて。」
「お婆ちゃん!あ、えっと……な、なんでもない!」
私は宮司さんとの約束を破る訳にも行かず何でもないと笑って誤魔化した。
お婆ちゃんは私のその様子を見ると何も聞かず私の手を取ると手の中へ何かを乗せ握らせた。
「そう、何でもないなら良いけど。これは羽月ちゃんのものでしょ?お守りさんは肌身離さず大切に持ち歩いておかないとだめよ?」
「お守り…はっ!これは!」
お婆ちゃんが私に握らせた物は昨日宮司さんが私にくれた小さなお守りだった。
私はお守りを見られてしまった事に動揺を隠せず黙り込んでしまった。
「大切な物なんでしょう?こういう物は大切に持ってないとだめよ?」
お婆ちゃんはそれだけ言うと何も聞かず台所の方へ歩いて行ってしまった。
私はお守りの事を聞かれてしまうのではないかとドキドキしていたが拍子抜けだった。
お婆ちゃんの後ろ姿を見送ると私は握って居るお守りに目を向けた。
「お婆ちゃん何も聞かなかった……」
私はお婆ちゃんが気を使って何も聞かなかったのかな…と不思議に思いつつも立ち上がるともう一度だけ神社を探してみようと思い、本とお守りを手にして歩き出した。
暫く探すと先程までは分からなかった道が目の前に現れた……
「え?……さっきは無かったのに……でもこの道…」
私はその道を見ると昨日通った道だと直ぐに分かり迷う事なく歩きだした。
暫く歩くと昨日と同じ急な階段が見えてきた。
「あそこだ!やっと見付けた!」
私は階段を見ると宝物でも見つけたかの様な笑顔になり走り出した、無我夢中でその階段を駆け上がると鳥居が見えた。
鳥居をくぐると四神の置かれている広場で声を張り上げた。
「翔馬くん!!約束通り遊びに来たよ!!どこ~!!」
名前を呼ぶと境内に有る1番大きな木の上から男の子が飛び降りて来た。
「遅え!!待ちくたびれただろ。」
翔馬くんは不機嫌そうに返事を返すと私の方に歩いてきた。
「遅いって、羽月だって朝からたくさん探し回って大変だったんだからね!翔馬くんこそなんで迎えに来てくれなかったの!」
「なっ、だって俺も羽月の家知らなかったし。」
「知らないのに迎えに行くとか言わないでよ!それに、羽月の家は遠くだもん。羽月は今、お父さんとお母さんと一緒にお婆ちゃんの家にお泊りに来てるだけだから……明後日にはお家に帰らないとだから……」
私は少し俯きつつ翔馬くんに話しをした、明後日には大好きな四神の石像がある神社に来れなくなるんだと思うと寂しさが込み上げてきてしまったのだ。
「……そっか……じゃあ明日!明日までは来いよ!その次は羽月がまた婆ちゃんの家に来たら!来た時は必ず来いよ!お守り、絶対に忘れんなよ!」
翔馬くんは話しを聞くと一瞬寂しそうな顔を見せたが直ぐに大きな声で返事を返してきた。
私はその言葉を聞き驚くも、顔を上げれば笑顔で約束!と返した。
それから私は毎年お婆ちゃんの家に来る度に神社で翔馬くんと一緒に遊んだ。
神社の事は両親には内緒にして知り合いになったお友達と遊んでるとだけ話していた。
そんな日々を繰り返しをしていたある日………
私は小学4年生になっていた。
その日はとても寒く雪の降る夜だった。
「お母さんが入院!?」
私がテレビを見ていると両親の話しが耳に飛び込んできた。
「お婆ちゃん?………」
私は両親の話しが気になり二人の所に行き話しを聞いた。
お婆ちゃんが病気になり入院したとの話しだった。
お父さんにはお兄さんが居てお婆ちゃんは田舎の病院では無くお兄さんの住んで居る所にある大きな病院に入院したとの話しだった。
その後は、私がお婆ちゃんに会う場所と言ったら田舎のお婆ちゃんの家ではなく病院になってしまった。
「……来年も遊ぶって翔馬くんと約束したのに……」
私はお婆ちゃんの家に行く機会が無くなり翔馬くんとの約束も果たせなくなると、持っていたお守りを無くさないように宝物入れにしていた小さな箱の中にしまった。
それから1年が過ぎ入院していたお婆ちゃんが亡くなったとの知らせが入った。
田舎のお婆ちゃんの家は建物の老朽化も有り、取り壊すと言う話になったらしい。
難しい話など私には分かる訳もなく、お葬式はお兄さんの家で行われ、お墓もお兄さんの住んでいる所にある墓地へと移された。
そんな日々が続き私は神社の存在すらも忘れてしまっていた。
月日は流れ私は高校に入学した。
「羽月!クラス何組?」
肩より下まで伸びた茶色がかった髪を2つに結び元気な顔で私に駆け寄ってきたのは友人の美希(みき)だった。
相変わらず私は人見知りが激しかったがそれなりに友達は出来ていた。
私は一番仲の良かった美希と同じ高校に入学した。
今日は入学式で体育館にはクラス表が張り出されていた。
「おはよ美希!え?えっとね3組かな?」
「え?マジ?私と一緒じゃん!やったね!」
「そうだね、良かったかも。」
私は美希と一緒にクラスに向かった。
その日は式だけだったので気楽なものだったのだが……
私は人見知りで中々クラスの子と進んで話しは出来ず社交的な美希のおかげで今までもそれなりに友達を作る事が出来ていた。
もちろん今日も私は知らない人ばかりで緊張してしまい、クラスの子とはほとんど話すことなく学校を後にした。
入学式はなんとか無事に終わり私は美希と一緒に下校していた。
「あ!そういえば羽月って部活どうすんの?私はテニス部!中学の頃からやってたしテニス好きだからさ!」
「え?部活?そっか、美希は運動神経良いもんね?私は……やっぱり吹奏楽かな?将来は音楽プロデューサーとかやりたいし。音楽に関する部活が良いかな?」
「なるほどなるほど?音プロの夢は変わらないか~…羽月、高校卒業したら音大で本格的に音楽の勉強したいとか言ってたもんね~?」
私は中学の頃、伝えたい気持を歌やメロディーに乗せて世の中に送り出すと言う音楽の世界に興味を持ち自分もそんな世界で働けたら良いなと夢を持った。
気持ちはあれど作詞作曲の才能もなく、なんとか音楽の世界に関われる仕事は無いかと目指し始め、音楽プロデューサーに興味を持った。
演奏する人、聞く人の架け橋となる様な仕事に私は夢を膨らませていた。
美希とそんな話しをしながら帰宅し、初めての高校生活に疲れた私はその日の夜は直ぐに眠りについてしまった……
「みんな羽月のお友達だよ!ずっと!」
私はその日の夜、何故か翔馬くんと神社で遊んでいる頃の夢を見ていた。
夢の中で目覚ましの音が‘ピピピピッ’と響き渡り私は目を覚ました。
「んっ…………」
目覚ましを止めると夢の中での出来事が頭を過ぎった……
「久しぶりかも……なんであの頃の夢なんて見たんだろ……」
私はそんな事を呟くと再び目を閉じてしまった。
それから何分過ぎたのだろうか……
部屋の外から母さんの声が聞こえ再び目を覚ました。
「高校?……あっ!そうだった!電車乗らなきゃいけないんだった!」
中学とは違い電車で通学しなくてはならない事を思い出すと私は飛び起き支度を始めた、赤茶色で緩くウェーブの掛かった背中まである長い髪にクシを通し、高校の制服へ腕を通すと部屋を出てリビングに向かった。
時間がなく朝食もゆっくり食べている暇はなかったので食べかけのパンを咥え家を飛び出した。
「ごめん美希!」
私は走って最寄り駅に向かい、駅の前で待つ美希の姿を見付けると慌てて声を掛けた。
「羽月遅い!五分遅刻だよ!……なんて、大丈夫だって、ちゃんと余裕持って時間決めたんだから。ほら、早く行こ!」
私は美希と共に急いで電車に乗った。そんなバタバタ始まった登校初日だったが、学校ではもっと驚く様な出来事が待ち受けて居ると言う事を私はまだ知りもしなかった。
その日は昨日の帰り道で美希と話していた部活の希望を決めるというとこから話しが始まった。
私は迷う事なく吹奏楽部を選んだ。
1時限目は部活の希望を出したり今後の学校生活の話などを先生に聞くだけで時間が過ぎてしまった。
そして、休み時間になると私は廊下が騒がしい事に気付いた。
「なんだろ?」
「羽月知らないの?原因は1組だよ!昨日はなんか家の都合で来れてなかった男子が居たらしくてさ!その男子がすっごいイケメンだって話題なんだよ?」
「イケメン……そうなんだ……」
私は男子にはあまり興味も無かったので真剣には聞かなかった。
美希は私とは逆でイケメンや話題の物などの情報網は手堅く美希に聞けば今の流行りが直ぐに分ってしまうぐらいだった。
「なにその反応…羽月は相変わらず男子には興味無いよね~?」
「え?まあ…男の子とか良くわかんないし…本読んでるか音楽聞いてる方が好きだし。あ……でも……」
美希との話の中で私は今朝の夢の事を思い出した。
「え!なになに?でも?ひょっとして羽月、男の子絡みで何か有るの!?」
美希は私の言葉に興味深々な様子だった。
私は美希に問われると苦笑いしつつも子供の頃の事を少しだけ話した。
「え!?何それ初耳!じゃあ、その男の子には小学4年の時から1度も会ってないの?」
「まあ、お婆ちゃんの家の近くに住んでる男の子だったからね。お婆ちゃんの家に行かなくなってからは会ってないかな……来年も遊ぶって約束してたから申し訳ない気持ちも有るけど……」
「へ~?でも羽月も男子との付き合いが昔は有ったんだね~?」
「え?もう、私の話しは終わり!」
私はどこか楽しげに話しをする美希の様子に少し恥ずかしくなるとその話しを強制的に終わらせた。
そして、次の時間は校内の観覧だった。
音楽室や理科室など色々な教室を見て回るという入学後には必ずある行事だ。
もちろん私は音楽の道に進むのが夢だったので音楽室には興味深々だった。
中学の時よりも楽器の数が多く私は音楽室を見た途端に部活をするのが楽しみになった。
広い校内を一通り観覧して戻った時にはちょうど休み時間の5分前ぐらいだった。
残りの5分は担任の先生の話しを聞いて終わった。
次の時間は待ちに待った部活紹介の時間で自分の希望した部活の教室へ行き先輩や顧問の先生に部活動の説明等を受けると言うものである。
「羽月は吹奏楽でしょ?音楽室に移動だっけ?先輩や先生にちゃんと挨拶しなさいよ?」
「挨拶って、いくら人見知りとはいえそれくらいは出来るよ!」
休み時間になりそんな事を話していると再び廊下が賑やかになった。
私は何かと思い廊下に目を向けると私のクラスの横を取り巻きの様な女子に囲まれた男子が歩いて行った。
「あ!イケメン1号!」
その男子の姿を見た途端、美希がそんな事を言い出したので私は驚き問い掛けた。
「イケメン1号?なにそれ?」
「さっき話したじゃん!1組のイケメン!確か名前は……神峡翔馬(しんかいしょうま)!」
「へ~?翔馬か……」
私は美希に名前を聞くと神社で会った男の子を思い出してしまい心の中では少しドキッとしていた。
苗字などは知らなかったが同じ名前を聞いただけでもどこか懐かしさを感じてしまったのだ。
「ん?どうした~?羽月~?」
「え?ううん、何でもないよ。でも美希、イケメン1号って……イケメンはあの男子だけじゃないの?」
「ちっちっち~、違うんだな~?実は今年の1年はイケメン揃いって話し知らないの~?」
「そうなの?知らない……」
「流石は羽月……本当、男子に興味ないんだね~?では教えてしんぜよう!」
「あ、ごめん、私そろそろ音楽室に移動するから!その話しはまた時間ある時にでも教えて!」
「え?ちょっと?羽月~!」
美希はイケメンや流行の話しになると長くなると言う事が分かって居たので私は捕まる前に部活の教室に移動しないとと思い教室を飛び出した。
「はぁ……危なかった……美希の長話しに捕まるかと思ったよ~……」
私がそんな事を呟きながら音楽室に向っていると途中にある教室の前に女の子達が集まっていた。
「え?なにアレ……さっきの取り巻きの……?確かあの教室では天文部が集まるはずだけど……」
人だかりが出来ていたのは天文部が使っている教室の前だった、私は特に興味もなかったのでその人だかりを横目に足早に音楽室に向かった。
「あそこまで集まる必要有るのかな……私には分かんないや……」
音楽室に着くと私は緊張しつつも先輩達に挨拶をして席に着いた。
3時限目が始まると顧問の先生や先輩達から吹奏楽部の活動内容等の話しなどを聞かされた。
私は聞けば聞く程に部活動が楽しみになって行った。
将来音楽の道に進みたい私には興味深い話ばかりで聞いているだけでワクワクした。
楽し時間というのはあっという間に過ぎてしまうもので部活説明の時間は直ぐに終わってしまった。
「はぁ……吹奏楽部……楽しみだな~……」
私はワクワクとした気持ちのまま自分の教室まで歩いて行った。
そして先程人だかりの出来ていた天文部の教室の前に差し掛かった時だった。
(ドンッ)
「え!あ、ごめんなさい!」
私がその教室の扉の前を歩いていると、たまたまタイミングよく中からから人かが出て来たのだった。
私は急な事だったので避ける事が出来ずにぶつかってしまった、私は慌てて頭を下げ謝った。
しかし……その人からは思いもよらぬ様な返答が返ってきた……
「お前……やっと見付けた。」
「へ?」
私は予想外の返答を返されてしまい返す言葉に困るとそっと顔を上げた。
「羽月だろ?」
私が顔を上げると休み時間に美希と話しをしていた1組のイケメンと言われる男子が不機嫌そうな顔で目の前に立っていた。
「え?何で私の名前知ってるんですか?」
その男子は焦げ茶色でウェーブ掛かったショートの髪型をしていた。
私は見た事の無い男子が自分の名前を知っている事に驚きと動揺が隠せなかった。
「お前、ボケてんの?約束…何年待ってもお前がこねぇから……俺が迎えに来た。忘れたとは言わせねぇからな。」
私はその言葉を聞き幼い頃の記憶が蘇ると全てが頭の中で繋がった「来年も絶対に来いよ!約束だからな!来なきゃ俺が迎えに行くからな!」そう……今、私の前に居るのは………
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