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第1章 はじまりは突然に
Do you have any questions ?
しおりを挟む「成れの果て、ですかぁ…」
怯える女の子みたいな声が出てしまったが仕方ないと思う。
だってあれ確実にSANチェック入るヤツだもん…ホラー映画並に心臓に悪いやつだもん!
「クロガネさん気分が悪そうじゃのう。まあ今でさえ平然としていられるが我らも最初はそうであった。もう三年も前のことになるが…」
三年前と言うとさっきの話にもあったな…
「さっきの、他人を傷つけるモノが出たっていうのと何か関係があるんですね。」
ヨルダさんがこちらを向く。その目は何かを諦めている様な、そんな暗さを抱える目だった。
「これで見てごらん。」
渡されたのは茶色い木の棒、ではなく使いこまれた小さな望遠鏡だった。
え、あのキモイやつを見ろって…?マジかよ!
震える手で望遠鏡を山に向ける。
俺の中には未知のものに対する恐怖と、確かに好奇心があった。
アレは、液体ではなかった。靄のようなものが山の側面を滑るように移動しているのだ。色は赤。靄とかだったら水蒸気だよな?少なくとも白く見えるはず…
まぁ現実世界とはまるっきり違うみたいだ。
そしてもう一つ現実世界と違う事。
靄は広がって移動しているのではなく、靄が固まって様々な形をとっているのだ。色の違いを除けば、まるで…
様々な種族の者達がこちらに歩いて来ているような。
ここからは遠すぎてわからなかったが望遠鏡で見ると、確かに靄は生き物の形をとっていた。
「あれは、魔物…?」
「我々は個々を魔物、全体は《赤い霧》と呼んでおる。もっと近くに来れば分かるじゃろうがアレらは実体とは呼べるようなものではない。手を触れればすり抜け、魔法すらあまり効かない。生き物であるはずがないのじゃ。
しかし《赤い霧》は意思を持っているように動き、仲間を…攫っていく…」
ヨルダさんの顔が歪む。
そこには強い怒りが滲んでいた。
《赤い霧》に対する、否仲間を助けられなかった自分への怒りもあるだろう。
何だか大変な世界に来た…
もっとほのぼのした生活、魔法とか現実世界の知識とか使ってハーレム作るとかそんなのを想像してた俺が馬鹿だったのか…
というか異世界2日目、そろそろ3日目っぽいけど、にしてこんなに重い話を聞かされるとは。
流石に疲れた…寝たい…
と、
「…って!アレ!霧はこっちに向かってきてるんですよね?!にに逃げなくていいんですか?!」
今更気が付く。
今なら距離があるし、逃げられる!
「無駄じゃよ。我らも最初は逃げた。じゃが、アレは何処までも追い掛けてきた。
頑丈な部屋に入ったとしても、隙間はある。野を移動するという手もあるが、老体や子供を見捨てることになるだけじゃ…」
ことごとく希望を打ち砕くパターン
「…ならどうしようと?」
「《赤い霧》に剣は効かぬ。だが、魔法は少しだけ効く。あの霧はだいたい二、三日で自然に消えるため、それまで霧を魔法で牽制し、里に入れない。我々はそうやって生き延びてきた。」
「つまり防衛一択ってことか…
あの霧に触れるとやばい…いや、大変なんですか?」
疲れからか素になってきてるし…
ヨルダさん質問攻めにしてしまって申し訳ない。
「そこが問題なのじゃ。
触れた者がことごとく霧になるならば分かる。じゃが違うのだ。触れて霧となり、人を傷つけるモノ、魔物になってしまう者達と、霧に触れても何も起こらない者達がいるのじゃ。
最初は何か能力がある者とない者の違いかと思い、研究をしたのだが、一度目は何も起こらなかったのに次に触れた途端魔物になってしまった者もいたのじゃ…」
魔物になる者とならない者
運が良かったかそうでないかの違い?
というより病気に近い気がする。
感染度は低いけれども、感染したらバッドエンド
今の話の通りなら、病原菌やウイルスに剣や魔法で戦っているようなものだ。
「クロガネさん。」
「っはい?」
顔を上げヨルダさんを見ると後光が差していた。
「すまないの。長話のせいで夜が明けてしまった…」
俺は初めての異世界での完徹をまさかの3日目にしてやってしまった…
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