無色透明な人生から冒険者になります〜色が全ての世界で無色透明なボクも最強になりたい〜

アヴィ丸

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1巻

18話 受け取った色

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「はぁ…!!」

 何分戦っているだろう。何度も切り合う中で、相手の大剣に集中し時間感覚は失われていく。
 まだ数度しか切りあっていないかもしれないし、たった数秒かもしれない。
 相手の動き、武器だけに意識をかたむける少年は中級のミノタウロスの動きにも引けを取らない。

「ブモァッ!」
「ふっ…!」

 大剣の振り下ろしをよけ、地面に刃が刺さる瞬間に前を出て細かく攻撃を入れていく。
 致命打にはならなくとも血を流させて体力を削れば、相手の筋力を支える黒が混ざった茶色の色素が弱まり、動きでも有利が取れる。

「まずは削る…」

 ミノタウロスは一撃一撃が即必殺で、ボクとは正反対の攻撃だった。ボクを格下と侮っているからこそ、当たれば一撃で倒せる攻撃を繰り返すのだろう。

 生き物としての慢心がボクに勝てる可能性を生んでいる。

 ミノタウロスが一撃にこだわらずボクの攻撃を防ぐという、守りの姿勢を見せられたらボクに勝ち目はなかった。

 だからこそあえて、ミノタウロスの大ぶりを誘いやすいように動く。

 振り下ろしや切り上げが来やすいようにあえてミノタウロスの正面を位置取り続ける。
 ミノタウロスの背中はその巨躯を釣っているだけあって肉厚でダメージになりづらく、背中に回っての攻撃は横なぎが誘発される。

「致命打にならないなら…大剣の外側に…!」

 振り下ろされた大剣の外側によけ伸びた腕に短剣を添わせる。
 力が入った丸太のような腕は大きな傷こそつかないが少しづつ出血していく。

「ブモッ…ブモァァァァァ!!」

 ミノタウロスも出血の増えてきた腕で大剣を支えるのが辛くなってきたらしく、両手でにぎりこんで叩きつけてくる。

 両手で振られた大剣は今までよりも鋭さが増したが、それでもゼインさんの太刀筋には程遠い。

 刃のない木刀が怖かったのに、今では鋼鉄の大きな刃が怖いと思わない。

 だからこそ少年は恐怖するべき対象に勇敢に立ち向かえた。
 ラヴァの赤が体の中で燃えている。
 真っ赤な血に乗ってラヴァの力が巡るのがわかる。

 少年は無色だったからこそ、今まで自分の体には流れていなかった力を感じ取るのが上手かった。

 今まで無色だったからこそ、強力な力を使えたが、無色だったからこそ色を感じる力だけは磨けなかった。

 ミノタウロスの体がブレる。

 今まで右腕だけに込めていた茶色を全身に流す。その巨躯が誇っていた自信を捨ててまで目の前の少年を殺しにくる。

 腕や胴に刻んだ切り傷は膨張した筋肉で強引に止血される。
 少しづつ抜けた血がミノタウロスを冷静にさせたのかもしれない。

 本来の戦闘用に産まれた猛牛へと戻ったミノタウロスに少年の勝ち目は無くなった。

 地面が爆ぜる。爆ぜる。爆ぜる。

 色を込めた脚力は蹄で地面を叩き割りながらボクの周りを動く。ボクの目線が一瞬ミノタウロスを追えなくなった瞬間。

 ボクは体を運任せに横に転がす。

 この周囲の移動がボクの視線を外すためなら外した瞬間にボクに切りかかることは読めていた。

 振り下ろし、横なぎどちらも避けれるように体を低く、横に投げる。

 ミノタウロスはボクの一瞬の死角を見逃さず、その瞬間に攻撃を叩き込んできた。初撃は左から右への横なぎ、周る力を強引に踏み込んで振り抜く。

 振り抜いた姿勢から体を回し、手を持ち替えて右斜めからの振り下ろし。
ゼインさんが稽古中に大剣の隙を埋めるためによくやる動きだった。

 ボクは転がった方向に逆らわずさらに一回転大きく逃げる。

「早いっ…! 見てからじゃ避けれな…!」

 回転方向を逆らわずに回って避けたボクはミノタウロス相手にミスをした。

 避けるのが精一杯だったのだが、大剣を二度避けた時にミノタウロスの正面に隙を晒してしまう。

 攻撃のタイミングを図るための正面ではなく、避けた直後の隙だらけの正面。ミノタウロスは空いた左手を、右手で振り抜いた大剣の遠心力を使いながらボクに叩き込む。

「がっは!!」

 僕の二倍程もある大きな手は咄嗟に挟んだ腕を簡単に折る。

 殴られた衝撃で浮いた体は軽々と飛び、また家を一軒破壊する。

「っ…!! 治れ治れ…!」

 動かねば死ぬ。殴られた瞬間から回復を始めたボクは家にぶつかった衝撃で息ができない体を無視して腕を治して、無理やり瓦礫から体を脱出させる。

「うわぁっ!」

 その瓦礫の山がさらに粉砕される。ミノタウロスが猛牛らしくら頭から突っ込んでくる。
 衝撃で巻き上がる砂煙に目を覆う。

 相手の動きの想像だけで避けるのがいつまで当たるか分からない。

「ボクが動けなくなる方が早いか…。」

 今までよりも強くなったミノタウロスに削るなんて選択肢はとれない。

 ボクが一人でミノタウロスを倒すために取れる選択肢なんでひとつしかない。

「すみませんラヴァさん…」

 ミノタウロスがガラガラと瓦礫から顔を上げる。

「護る約束できないかもです。」

 ボクが逃げた方向を振り向き、大剣を引きずって距離を詰めようとする。

「でもボクも…貴方みたいに誰かを護れるかも知れません。」

「ブモァァァァァ!!!!」

 ミノタウロスが吠える。俺の獲物だと。狩りをして生きる彼は、自身の勝ちを悟り、堂々とした咆哮の後、ボク目掛けて大剣を振り抜かんと突進してくる。

 本来ミノタウロスの本気の色を込めた攻撃なんてものは目で追えない。一般人や下級の色では蹂躙されるだけだろう。

 だが、今の少年にはバーミリオンの血が流れている。

「燃やせるものなんてこれくらいだ。命を…燃やす…。」

 ラヴァさんですら自身を炎に変換したら生身にはダメージが入る。
 ならば貰い物のボクが炎を強めたらなんて想像しなくたって分かるだろう。

 体の内側から燃える熱が勢いを増し、少年の命を燃やし尽くそうとする。

 強引に回復を挟み、切れそうな命を無理やり繋ぐ。

 一瞬、自身の炎に焼かれ激しい激痛を伴ったが、感覚が燃やし尽くされた少年はただそこに立っている自覚と握った武器の感覚以外感じ無くなった。

「ラヴァさんも…こんな風に炎になるのかな…」

 熱に犯され脅威の目の前にも関わらず、ぼおっとした頭で赤の力を分けてくれた人を思い出す。

 少年の心の中で浮かび上がった少女の赤い要素が炎の勢いを加速させる。

 綺麗にたなびく赤い髪が

 ボクを見つめた赤い瞳が

 彼女が纏った赤い炎が

 嬉しそうな彼女の赤い頬が

「ラヴァさんを護るんだ…」

 熱がこもる頭はフラフラとして、思い出した彼女の少し赤い頬の笑顔を護ろうと、より一層炎の勢いが増す。

 ミノタウロスも変化は感じたが、必殺の一撃を止めることはしなかった。

 肉薄し豪腕から一閃、猛牛の踏み込みで加速した体から放たれる横なぎは、少年の短剣で腕を切り裂かれる。

「ブモァッ!?」

 激しくも優しく包み込むように燃える少年。
 命をくべた炎はそれに見合う対価を払い、ほんのひととき少年に勝ちをくれる。

 ミノタウロスの腕から血が吹き出す。
 通らなかったはずの短剣には燃えるような赤い色素が溜まっている。

「たとえ…命が燃え尽きても、護る」

 命を燃やし尽くす覚悟を決めた少年の炎が上がると同じ時にラヴァが自身を燃やして放った炎を感じた。
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