無色透明な人生から冒険者になります〜色が全ての世界で無色透明なボクも最強になりたい〜

アヴィ丸

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1巻

24話 先の色

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「ラヴァさん!…っつー…」

 目が覚めて飛び起きると体の激痛に情けない声を漏らす。体には至る所に固定具が装着されていて、痛みに倒れ込んでからは動きづらい。

「あ、起きた」

 隣で座っているラヴァさんがほっとした顔でボクをみる。あれから付きっきりだったのか目元には薄くクマができており、白い肌にとても目立つ。

「よかった…。無事だったんですね」
「覚えてないの?」

 目が覚めて目の前に憧れの女性の無事を確認し、安堵する。
 ラヴァさんはまた小さな頭を傾げている。

「吹き飛ばされたあたりから強く打ったのか、記憶が曖昧で…ベットに寝てるってことは、また助けられちゃったんですね…」
「吹き飛ばされたあたりからだと…あの会話も覚えてない?」
「すみません、何か大事な話しましたか」

 赤の少女を真っ赤にさせたあの告白は無意識だったらしい。それはそれで照れるものがあるが、覚えていないことにはどうしようも無い。

「なんでもないよ」

 ラヴァは少しだけ不機嫌そうにそっぽを向く。
 少年は寝そべっているのにも関わらず肩を落として、凹んでしまう。
 
 サラマンダーの炎をかき消して、ワタシの前に立っていたあの背中と同一人物とは思えない。
 起きて第一に心配してくれる、頼りなくても優しい少年にラヴァはまた頬が火照ってしまう。

 しかし、あの戦闘が記憶にないのならどこまでを伝えてあげるべきなのだろう。

 本当はキミが勝ったんだよと伝えてあげたい。未知の色の力を把握できていれば、ラヴァは少年に真実を伝えていただろう。
 しかし、サラマンダーの業火すらも消せる透明に、今自信をつけさせて何かの機会に暴走させる訳にはいかない。

 それでもラヴァは全てを隠すことができず、少年に感謝を伝えずにはいられなかった。

「キミが…ネスが来てくれたおかげで、サラマンダーを抑え込めた。ありがとう」

 優しく微笑みながら少年に気持ちだけは伝える。
 本当のことを全ては伝えられないけど、この気持ちだけは伝えてあげたい。助けられた時から感じている恋心も隠しているが、それを伝えるのはラヴァにすらいつになるかは分からない。

 ラヴァが二人きりの空間に恥ずかしそうにしているとネスが口を開く。

「ラヴァさんがまた回復して助けてくれたんですよね…?倒れた時顔の辺りに温かさを感じたので。ありがとうございます」

 ラヴァはあの時のことを思い出して、今度は顔を真っ赤にする。たしかに座っている間に少しだけ溜まった赤を回復には使ったが、それは体にだ。
 少年が感じた温かさは恐らくあれの事だろう。

 ラヴァは幼い頃以来の慌てっぷりを披露した。そして自分の膝の上から両手で大きめのトカゲのような生き物を掴んでネスの顔の前に突き出す。

「こ、この子!この子が顔の辺にいたから…多分温かかったんじゃないかな…」
「この子なんですか…?」
「サラマンダー…だと思う、多分」
「えぇ!あの大きさのサラマンダーが…こんなに小さく…?」

 上手く話題をそらせたラヴァは掴んでいるサラマンダーの話を続ける。
 あのまま話していたらボロを出すかもしれない。この子を連れてきておいてよかった。
 ラヴァはほっとした顔でサラマンダーを紹介する。

「サラマンダーは炎の塊みたいな生き物だから、小さくなろうと思えば出来るみたい。だから炎を扱う家系だし飼ってみることにした」
「サラマンダーを従えるなんて…さすがラヴァさんです」

 目をキラキラと輝かせる少年に罪悪感が止まらない。早く自分の色を使いこなして欲しい。この気持ちから開放されたいと、ラヴァは複雑そうな顔をしてしまう。
 
 ネスは小さなサラマンダーに夢中のようで固定具でつんつんと遊ぼうとしたが、小さな口から炎を吹かれて固定具が燃えている。
 叩いて炎が消せないネスは体が激しく動かせないので、顔だけは大暴れしていた。

 そんなネスを見て笑いながら固定具に着いた炎を吸い上げてサラマンダーに返す。

「あ、ありがとうございます…まさか燃やされるとは、固定具だと消せなくて」
「ふふふ、やっぱりネスはまだまだだね」

 ネスが色を発現してから、透明の力に引っ張られて人が変わらなくてよかったと。ラヴァは久しぶりに心の底から笑った。

 少年は憧れの女性の、赤い花が咲いたような心からの笑みに見とれてしまう。

(今度こそ、この人を護るんだ。そのためには強くならなくちゃ)

 ボクは口に出すわけでもなく、心の底でまた強く決意を新たにした。

コンコン
「入ります」

 ドアを開けてゼインさんが入ってくる。

「話し声が聞こえたので、おきられたかと思い朝食をお持ちしました。
…最近のお嬢は表情が豊かになられましたね」

 笑って血色のいい顔を見てゼインは優しく微笑む。赤使いとして感情の起伏を抑えていた彼女が楽しそうにしているのを見られるのが嬉しいのだろう。
 ゼインはネスとラヴァを交互に見たあと、朝食の粥を置いて直ぐに立ち去ろうとする。

「それでは、また少しお時間が経ったら様子を見に来ます。ゆっくりしていてください」

 ラヴァにはネスが気を利かせたのが伝わって、恥ずかしさが込上げる。時間は浅いが、ネスといるとどうも感情が揺れ動く。
 それを察されたのがどことなく恥ずかしい。

 ぐるるるるる

 ネスのお腹からモンスターのような鳴き声が響く。

「お粥見たら…お腹が」

 目の前にあるお粥にお預けされているネスはまるで犬みたいだ。
 両手両足に固定具がされているネスはスプーンを持つことができない。本来ゼインが食べさせる気だったのだろうが、彼は気を効かせて出ていってしまった。

「はぁ…はい」
「えぇ!?」

 ゼインの変な気の使い方に溜息をつきながらラヴァがネスの口元にお粥を運ぶ。

 そんな淡い綺麗な色を作り出している二人を遠い都市の壁上部から眺める影がひとつ。

「無理やり起こしたサラマンダーも連れてかれましたし、黒を埋め込んだミノタウロスも倒されましたしねぇ。
それにしても『透明』の彼、いいですねぇ。他人の色を行使、格上も消せる力。実に素晴らしいです」

 影はウンウンと頷きながら噛み締めている。そこに存在しているのかも怪しい影が頷くというのもおかしな話だが。

「決めました!彼を貰いましょう…。黒の席には彼こそが似合う。純粋な三原色から生まれた黒に合わせるなら彼しかいない!」

 影はよほど興奮しているのか大袈裟なリアクションを取る。体を抱きしめながら影がゆらゆらと蠢く。

「はぁ…そのためにはバーミリオンをどうにかしないといけないんですよね…『雷獣』とも交流がありますし、有利色で押すだけじゃ無理だと思ってサラマンダーを起こしたんですがねぇ…」

 盛大なため息とともに今回の反省を始める。『雷獣』がいるからこそ、バーミリオンに青の上級を当てられない影は、バーミリオンを越す赤で『雷獣』を封じつつ、バーミリオンを処分するはずだった。

 その作戦を壊したのはどれも少年の透明だ。逃げ惑っていた時よりも強化されたミノタウロスを倒し、サラマンダーの炎すらも消す色を発現させてしまった。
 
 影は少年を優秀な器としてみていたが、実は優秀な下地であるのだと認識を改めていた。

「まぁ、今回は彼の力を見れただけ良しとしますか…。ただの器よりも黒を塗り重ねられる方が何倍も価値がありますしねぇ」

 トプリと陽の光を雲がおおってできた一瞬できた影に溶けて消える。都市の壁の上には何もいなくなった。

 少年は憧れの人を護るために
 少女は全ての人を護るために

 少年少女は世界に自分の色を鮮やかに描いていく
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