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ノンケは男を好きになれるのか6
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コウさんの部屋、シャワー室と気になる部屋は全て確認し、居ないと分かるとやはり外かもしれないと、焦り階段を一気に駆け下りた。
玄関ドアに手をかけ、外へ飛び出そうとした時、台所から明かりが漏れているのに気がついた。
「コウさん!!」
台所の扉を勢いよく開けると、裸体に布を腰に巻いただけのコウさんが立っていた。
「——セイドリックさん?」
驚いたように目をパチパチとして、きょとんとしてこちらを見るコウさんに、俺は大きく安堵のため息を吐き、堪らず膝を抱えるようにして座り込んだ。
「————コウさんがいなくなったかと」
「——! あー、……勝手に下に降りてきてすまなかった。ちょっと茶が飲みたくなって」
顔を上げると、確かに小さな薬缶を火にかけている。
「——さっき、ちょっと下着とシーツを汚してしまったから、洗っている間この布を借りた」
そう言いながら、腰に巻いた布に手をやった。
「汚れた?」
俺の問いかけに、頭をポリポリと掻き、背中を向けて、言いにくそうに口を開く。
「あー……寝ている間に、その、さっきのが尻から流れ出てしまってな。シーツに付いてしまって。慌ててさっき自分で処理をしたんだが、奥からまた出てきてしまって、今度は下着をだな……」
「ああ……」
なるほど。そういうことだったか。
「すまない、許可もとらず中に出してしまった」
「出しても出しても中から流れてきて、往生した。……さて、茶が沸いた」
しゅんしゅんと音がし始めると、コウさんは火を消し、用意してあったポットに湯を入れた。少し間を空けてから茶を碗に注ぎ、机に置いた。
「セイドリックさんもいつまでも床に座っていないで、ここに座ったらどうだ」
コウさんが、俺が前に座ったのと同じ椅子の前に、茶の入った碗を置いてくれた。
「……俺も座っていいのか」
「当たり前だろ。まあ、ちょっと話もしたいしな」
俺が椅子に座ると、コウさんは少し斜めに座り、目線を反らしたまま茶をすすった。
コウさんはどこかぎこちない。
やはり男同士での行為は、コウさんには合わなかったのかもしれない。
「やっぱり無理だ」と、コウさんの口から聞くのが怖い。
だが、それも仕方がない。
「——コウさん、さっきの行為だが、その、乱暴にしてしまってすまなかった。はじめてのコウさん相手に、自分を抑えられなかった。中にまで出して、……迷惑をかけてすまない」
土下座する勢いで机スレスレまで頭を下げた。この程度で許される訳はないが。
「あー……、セイドリックさん、途中から意識がトんでたよな」
「……ああ」
だがそれは言い訳にならない。
「実は俺もだ」
俺は驚いて顔を上げた。
「な、え? 本当か!?」
俺だけではなく、コウさんまでそうだったのか!?
コウさんは顎に手をやり、そっぽを向いていたが、少し頬が赤い。
「本当だ。途中セイドリックさんに思いっきり突っ込まれてから、もう何がなんだか分からなくなった」
そ、そうなのか!?
「——たぶん、あの香油のせいじゃないか」
そ、そんなに効くとは聞いていなかったが、確かに恐ろしいくらい気持ちが良かった。
だが、
「コウさんが相手だったからだと、俺は思っていた」
コウさんが顔を両手で押さえ、突っ伏した。
「もう、本当にさ、真面目な顔でそういうこと言うのやめろ」
「す、すまない。気を悪くしたか」
謝る俺を、コウさんが突っ伏したまま、片手を上げて制した。
「——いや、ちがう。こちらこそ、変な態度をとってすまなかった。————ただ、単純に、恥ずかしかったんだ」
「え?」
「まあその、今もそうだが、行為が終わった後も、恥ずかしくてセイドリックさんの顔を見られなかった。触られると、また激しく感じてしまいそうで、怖かった」
「は、恥ずかしかったのか」
「自分がまさかあんたの前で、あんなに乱れるとは思わなかった」
「……俺との行為は、気持ちが良かった、そういうことか?」
「よすぎた」
「は、」
「悦すぎたんだよ!」
いきなり爆発したように怒鳴りながら、頭を上げたコウさんの顔は、真っ赤だった。
なんてことだ。
俺は夢を見ているのか。
あの、いつも余裕そうだったコウさんが、俺との行為が良すぎたと、顔を真っ赤にしているではないか——!
「ああ! そうだよ。男同士ってのを俺は見くびっていた! 体を合わせるのは、そりゃ好いた者同士であれば性別関係なく気持ちがいいものなんだろうが、まさか尻がこんなにイイとは思わなかった。排便しながら、実はここが気持ちいいなんて、そんなの考えたことあるか?」
「ま、まあそうだな。ははは」
そりゃそうだな。俺だって後ろは使ったことはないから、そんなに気持ちいいものなのかと実は半信半疑だ。内心、演技だったらどうしようかとも思っていた。
——そうか、気持ちいいのか。
「それにはじめてのときは痛いし、受ける側は耐えるのみだけと聞いていた。それなのに、俺は気が狂うかと思うくらいよがって、最後はセイドリックさんに……。それで余計に恥ずかしくなった」
んん?
「口ごもって聞こえなかったが、最後何だって?」
「…………った」
「え?」
「……最後、俺のをヌイてもらった」
あ、あ~~!! 気がついたらコウさんの握ってたのって、そういう流れだったのか!
コウさんが俺の、俺の手に自分のを……!!
覚えていないことがこれほど口惜しいとは……!! 考えただけでも下半身が疼く!!
そしてだ!
コウさんが俺との行為は気持ちが良かったと、俺と顔を合わせるのが恥ずかしくなるくらい良かったと、そう言ってくれた!
「コ、コウさん……! では、俺は合格か? 俺の告白を受けてくれるか」
「ああ。男でも平気だと自覚した。まあ口づけが平気だったんだから、尻さえ問題なければ俺も受けるつもりだったしな」
「本当か!?」
俺は小さな椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、向かいに座るコウさんの前に跪いた。
「コウさん、俺と正式に付き合ってくれるか」
コウさんの手を取り、顔を見つめる。
「……セイドリックさん、これから、よろしく頼む」
コウさんは、俺の目を真っ直ぐに見つめ、柔らかく微笑んでくれた。
これほどの歓喜はあるだろうか!
「——コウさん!!」
俺は思わずコウさんの顔に、しがみつくようにして抱きついた。
「セイドリッ……わわっと」
背もたれのない小さな椅子に座ったコウさんが、勢いで後ろに倒れそうになったが、そうはさせるかと体をガッシリと引き寄せる。
そしてそのままギュウッと抱きしめた。
「こんなに嬉しいことはない! コウさん! 好きだ! 幸せにする! 絶対につらい思いをさせないと誓う」
コウさんは俺の腕に体を預け、朗らかに笑う。
「俺は——うーん、そうだな、セイドリックさんが不安にならぬよう、良きパートナーでいることを誓おう」
「コウさん!!」
コウさんの首にしがみついたまま、俺は嬉しくて嬉しくて、むせび泣いた。
コウさんが、俺の良いパートナーになると、そう誓ってくれたのだ。
嬉し涙などはじめてだ。
俺は、今日この日のことを絶対に忘れないだろう。
だがしかし。
「セイドリックさん、ひとついいか」
感涙でむせぶ俺の肩を、コウさんがトントンと叩いた。
「ん?」
顔を離すと、嬉し涙を流す俺とは対照的に、やけに冷静なコウさんの顔。
「この前のロクさんのようなこと、あんなことが次もあれば、さっきの言葉はなかったことにする。やましいことはするな。いいな」
睨んでいるわけでもないのに、コウさんの目が怖い。
「ぜ、絶対にない! コウさんに勘違いされるような行動は、今後一切しないと誓う!!」
「よし。俺の期待を裏切るなよ、セイドリック」
そう嬉しげにニヤッと笑うと、顔を斜めにずらし俺に口づけた。
チュッと軽い音をたてて離れると「約束だ」と俺の耳元で囁いた。
コウさんはどうやら俺を悶絶死させたいらしい。
もう俺は首を何度も縦に振ることしかできなかった。
「なあ、セイドリックさん、明日の予定はどうなってる? 仕事か? 俺は休みを取っているが」
「お、俺も休みを取った! 明日はずっと一緒にいられるぞ」
「そうか、ならずっといちゃいちゃできるな」
俺の唇をコウさんがぺろりと舐めた。
俺はこの時、コウさんがもうやめろと怒っても、明日一日が終わるまで絶対に離すものかと心に誓った。
玄関ドアに手をかけ、外へ飛び出そうとした時、台所から明かりが漏れているのに気がついた。
「コウさん!!」
台所の扉を勢いよく開けると、裸体に布を腰に巻いただけのコウさんが立っていた。
「——セイドリックさん?」
驚いたように目をパチパチとして、きょとんとしてこちらを見るコウさんに、俺は大きく安堵のため息を吐き、堪らず膝を抱えるようにして座り込んだ。
「————コウさんがいなくなったかと」
「——! あー、……勝手に下に降りてきてすまなかった。ちょっと茶が飲みたくなって」
顔を上げると、確かに小さな薬缶を火にかけている。
「——さっき、ちょっと下着とシーツを汚してしまったから、洗っている間この布を借りた」
そう言いながら、腰に巻いた布に手をやった。
「汚れた?」
俺の問いかけに、頭をポリポリと掻き、背中を向けて、言いにくそうに口を開く。
「あー……寝ている間に、その、さっきのが尻から流れ出てしまってな。シーツに付いてしまって。慌ててさっき自分で処理をしたんだが、奥からまた出てきてしまって、今度は下着をだな……」
「ああ……」
なるほど。そういうことだったか。
「すまない、許可もとらず中に出してしまった」
「出しても出しても中から流れてきて、往生した。……さて、茶が沸いた」
しゅんしゅんと音がし始めると、コウさんは火を消し、用意してあったポットに湯を入れた。少し間を空けてから茶を碗に注ぎ、机に置いた。
「セイドリックさんもいつまでも床に座っていないで、ここに座ったらどうだ」
コウさんが、俺が前に座ったのと同じ椅子の前に、茶の入った碗を置いてくれた。
「……俺も座っていいのか」
「当たり前だろ。まあ、ちょっと話もしたいしな」
俺が椅子に座ると、コウさんは少し斜めに座り、目線を反らしたまま茶をすすった。
コウさんはどこかぎこちない。
やはり男同士での行為は、コウさんには合わなかったのかもしれない。
「やっぱり無理だ」と、コウさんの口から聞くのが怖い。
だが、それも仕方がない。
「——コウさん、さっきの行為だが、その、乱暴にしてしまってすまなかった。はじめてのコウさん相手に、自分を抑えられなかった。中にまで出して、……迷惑をかけてすまない」
土下座する勢いで机スレスレまで頭を下げた。この程度で許される訳はないが。
「あー……、セイドリックさん、途中から意識がトんでたよな」
「……ああ」
だがそれは言い訳にならない。
「実は俺もだ」
俺は驚いて顔を上げた。
「な、え? 本当か!?」
俺だけではなく、コウさんまでそうだったのか!?
コウさんは顎に手をやり、そっぽを向いていたが、少し頬が赤い。
「本当だ。途中セイドリックさんに思いっきり突っ込まれてから、もう何がなんだか分からなくなった」
そ、そうなのか!?
「——たぶん、あの香油のせいじゃないか」
そ、そんなに効くとは聞いていなかったが、確かに恐ろしいくらい気持ちが良かった。
だが、
「コウさんが相手だったからだと、俺は思っていた」
コウさんが顔を両手で押さえ、突っ伏した。
「もう、本当にさ、真面目な顔でそういうこと言うのやめろ」
「す、すまない。気を悪くしたか」
謝る俺を、コウさんが突っ伏したまま、片手を上げて制した。
「——いや、ちがう。こちらこそ、変な態度をとってすまなかった。————ただ、単純に、恥ずかしかったんだ」
「え?」
「まあその、今もそうだが、行為が終わった後も、恥ずかしくてセイドリックさんの顔を見られなかった。触られると、また激しく感じてしまいそうで、怖かった」
「は、恥ずかしかったのか」
「自分がまさかあんたの前で、あんなに乱れるとは思わなかった」
「……俺との行為は、気持ちが良かった、そういうことか?」
「よすぎた」
「は、」
「悦すぎたんだよ!」
いきなり爆発したように怒鳴りながら、頭を上げたコウさんの顔は、真っ赤だった。
なんてことだ。
俺は夢を見ているのか。
あの、いつも余裕そうだったコウさんが、俺との行為が良すぎたと、顔を真っ赤にしているではないか——!
「ああ! そうだよ。男同士ってのを俺は見くびっていた! 体を合わせるのは、そりゃ好いた者同士であれば性別関係なく気持ちがいいものなんだろうが、まさか尻がこんなにイイとは思わなかった。排便しながら、実はここが気持ちいいなんて、そんなの考えたことあるか?」
「ま、まあそうだな。ははは」
そりゃそうだな。俺だって後ろは使ったことはないから、そんなに気持ちいいものなのかと実は半信半疑だ。内心、演技だったらどうしようかとも思っていた。
——そうか、気持ちいいのか。
「それにはじめてのときは痛いし、受ける側は耐えるのみだけと聞いていた。それなのに、俺は気が狂うかと思うくらいよがって、最後はセイドリックさんに……。それで余計に恥ずかしくなった」
んん?
「口ごもって聞こえなかったが、最後何だって?」
「…………った」
「え?」
「……最後、俺のをヌイてもらった」
あ、あ~~!! 気がついたらコウさんの握ってたのって、そういう流れだったのか!
コウさんが俺の、俺の手に自分のを……!!
覚えていないことがこれほど口惜しいとは……!! 考えただけでも下半身が疼く!!
そしてだ!
コウさんが俺との行為は気持ちが良かったと、俺と顔を合わせるのが恥ずかしくなるくらい良かったと、そう言ってくれた!
「コ、コウさん……! では、俺は合格か? 俺の告白を受けてくれるか」
「ああ。男でも平気だと自覚した。まあ口づけが平気だったんだから、尻さえ問題なければ俺も受けるつもりだったしな」
「本当か!?」
俺は小さな椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、向かいに座るコウさんの前に跪いた。
「コウさん、俺と正式に付き合ってくれるか」
コウさんの手を取り、顔を見つめる。
「……セイドリックさん、これから、よろしく頼む」
コウさんは、俺の目を真っ直ぐに見つめ、柔らかく微笑んでくれた。
これほどの歓喜はあるだろうか!
「——コウさん!!」
俺は思わずコウさんの顔に、しがみつくようにして抱きついた。
「セイドリッ……わわっと」
背もたれのない小さな椅子に座ったコウさんが、勢いで後ろに倒れそうになったが、そうはさせるかと体をガッシリと引き寄せる。
そしてそのままギュウッと抱きしめた。
「こんなに嬉しいことはない! コウさん! 好きだ! 幸せにする! 絶対につらい思いをさせないと誓う」
コウさんは俺の腕に体を預け、朗らかに笑う。
「俺は——うーん、そうだな、セイドリックさんが不安にならぬよう、良きパートナーでいることを誓おう」
「コウさん!!」
コウさんの首にしがみついたまま、俺は嬉しくて嬉しくて、むせび泣いた。
コウさんが、俺の良いパートナーになると、そう誓ってくれたのだ。
嬉し涙などはじめてだ。
俺は、今日この日のことを絶対に忘れないだろう。
だがしかし。
「セイドリックさん、ひとついいか」
感涙でむせぶ俺の肩を、コウさんがトントンと叩いた。
「ん?」
顔を離すと、嬉し涙を流す俺とは対照的に、やけに冷静なコウさんの顔。
「この前のロクさんのようなこと、あんなことが次もあれば、さっきの言葉はなかったことにする。やましいことはするな。いいな」
睨んでいるわけでもないのに、コウさんの目が怖い。
「ぜ、絶対にない! コウさんに勘違いされるような行動は、今後一切しないと誓う!!」
「よし。俺の期待を裏切るなよ、セイドリック」
そう嬉しげにニヤッと笑うと、顔を斜めにずらし俺に口づけた。
チュッと軽い音をたてて離れると「約束だ」と俺の耳元で囁いた。
コウさんはどうやら俺を悶絶死させたいらしい。
もう俺は首を何度も縦に振ることしかできなかった。
「なあ、セイドリックさん、明日の予定はどうなってる? 仕事か? 俺は休みを取っているが」
「お、俺も休みを取った! 明日はずっと一緒にいられるぞ」
「そうか、ならずっといちゃいちゃできるな」
俺の唇をコウさんがぺろりと舐めた。
俺はこの時、コウさんがもうやめろと怒っても、明日一日が終わるまで絶対に離すものかと心に誓った。
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