前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee

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「いやーそれにしても、ユウジが事故ってるの見たときは、俺どうしようかって、すげー怖かったんだぜ」 

 とりあえず肋骨のヒビに全身打撲ということで検査入院の間、佐藤は俺の病室に入り浸って、なんどもその話をした。 

 式の間中、様子がおかしいし、ワケわかんない感じで会場を飛び出しちゃうしでほっとくワケにもいかず、佐藤はすぐに車で追いかけて来たそうだ。 

 でも俺の車のほうがスピードが速くて追いつけず、やっと捕まえたと思ったら、街路樹に激突してたって。 

 あんなにスピード出す俺を見たのは初めてで、これはかなりヤバいと思ったらしい。 
 でも人や他の車にぶつからずあそこまで行ったのは奇跡で、損害が街路樹だけで済んで本当によかったと、しみじみ言っていた。 

 それは俺もマジでそう思う。 

 俺も時間が経つにつれ、だんだんと思い出してきたけど、俺たぶん死ぬつもりだった。 
 なんでもいいから無茶苦茶やって、死ぬ。そんな感じだった。 

 ――今更ながら、それでもし人身事故でも起こしていたらと思うと……。全身から冷や汗が出てくる。 

『もう、死のうなんか思うなよ!』 

 黒木の最後の言葉が蘇る。 

 もしかして、俺のこと助けてくれたのかなーって。都合のいい解釈かもしれないけど。 
 大事故になる前に、俺をあっちに連れて行って、悟らせてくれたんだろうか。 


「なあ、佐藤。退院したらさ、山にキャンプ行かないか? 近くにいい感じの山があっただろ。キャンプ道具せっかく買ったんだし、使い方とか教えろよ」 
「なんだ! やっとヤル気になったのか? よしよしいいぞ! 俺がひとりキャンプの楽しさってのを教えてやろう!」 

 佐藤が嬉しそうに大声を出した。他の患者からの視線に気づき、佐藤がしまったと小さくなるのを見て、俺が笑う。 


 黒木が登っていた山。 

 あいつがそこでどんな景色を見たのか。――さすがに標高の高い山に行くとかは無理だけど、少しだけ体感したい気分になった。 




 ――あれから20年。 

 黒木みたいなやつとは、まだ出会っていない。 
 俺も50歳手前でもういい年だし、もしここで若い黒木と出会っても恋愛に発展するとは思えない。 

 恋愛したいと意気込んでいた俺も、結局長続きできるような相手と知り合うことはできず、今に至る。 
 まだ若かったあの頃とは違い、俺もそろそろ性欲ってのも薄れてくる年齢か。 

(いや、でも佐藤はまだ現役だよな。この前も浮気がバレて、嫁さんと大モメしてたもんな。まだまだこれからか) 

 そんなことをぼんやりと考えていると、キャンキャンという声が耳に入った。散歩に行きたいのだろう、我が愛犬のロッシュが、白い尻尾をパタパタと振りながら、足にすがってきた。 

「おーロッシュ! 散歩いくか~!」 

 顔を両手でくりくりと揉んで擦ると、ロッシュは嬉しそうにハフハフと舌を出した。 

 散歩用のバッグを出して、ロッシュにリードをつける。でも小型犬のロッシュは、お散歩でもちょっとしか歩かない。だから目的地までは抱っこして歩く。 

 道行く人に「かわいー抱っこされてるー」と注目を浴びながら歩き、すぐ近くの河川敷に着くとロッシュを地面におろした。 

 嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねるロッシュに、俺の顔も自然と緩む。 
 可愛い。この上なく可愛い。 

(ロッシュがいれば、恋人なんかいらないよな~) 

 草の匂いを嗅いでは、いろんな場所を散策するロッシュ。フンフンとしばらく地面を嗅ぎながら移動していると、誰かの靴に行き当たった。 

「かわいい犬ですね! すげー小さいな~。なんて犬種なんですか?」 

 その男性はかがむと、ロッシュの頭をグリグリと撫で回した。それが嫌だったのか、ロッシュが撫でられながら、不服そうに小さく唸る。 

 そんなロッシュをなだめようと、俺もかがんで手を伸ばした。 

「ごめんね。人見知りする子でね。この子はマルチーズとチワワのミックスで……」 
「へー!」 

 俺の説明に感心したような声を出し、その男性は顔を上げた。 

「黒木……?」 

 色黒で人好きのする笑顔。――その人は、顔の造作は全然違うのに、どことなく黒木を思い出させた。 
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