前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee

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前世の君と今の君

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「ダイチ。そこに座ってていいよ」 

 マンションに戻ってリビングに入るなり、二人がけのソファを指さした。俺しか座る人がいなかったそこは、今ではダイチの定位置。 

「……すみません、ロッシュの散歩途中やめにしてしまって」 

 ソファに座るダイチの足元では、ロッシュがまるで河川敷まで辿りつくことができなかったことを抗議するかのように、キャンキャンと吠えている。それをダイチがなだめるために頭を撫でようとするが、ロッシュはくるくると体の向きを変え、抵抗していた。 

 いつもならロッシュを優先する俺も、さすがに道端で修羅場を演じる気はなく、結局お散歩は途中やめにして、ダイチを連れて帰ってきた。 

 一応帰りながらロッシュも道路をお散歩したけど、いつもの河川敷からの道路じゃないからロッシュは気に入らなかったみたいだ。 

 お詫びのおやつで機嫌をとらなきゃと思いながら、先にダイチに出すコーヒーを用意する。 

「謝らなくていいよ。それより、ご機嫌ななめなロッシュの相手していてくれると嬉しいな」 
「……はい」 

 2人分のコーヒーを淹れて、ついでにロッシュのおやつを持ってダイチのところに戻ると、まだロッシュが抗議中だった。 

「ロッシュ、おまたせ。はいはい、お散歩できなくてごめんね」 

 犬用の野菜ビスケットを見せると、ロッシュはすぐに機嫌を直して、尻尾を振りながら俺の元に走り寄る。 

「よしよし、ごめんねロッシュ、ほら、いい子だね。ダイチもコーヒーどうぞ」 

 ビスケットを入れた小さなお皿に、ロッシュが飛びつくようにして顔を突っ込むのを見ながら、俺はコーヒーをダイチに勧めた。 

 ダイチは黙ったまま、ペコッと頭を下げてからコーヒーを手に取る。 

 そしてしばしの沈黙。 

 引き止めたものの、どう切り出そうか。 
 ダイチの座るソファの斜向いにある木製の椅子に座り、コーヒーをすすりながらずっと考えていた。 

『好きになってほしくないけど、嫌われたくもないって、そりゃ虫のい話だって』 

 佐藤の言葉が頭を巡る。 
 そんなことは俺だって分かってる。 

 でもこんないい子、あとにも先にももう出会えないだろう。 

 そして何より、もういいおじさんで干からびた生活をしていた俺に、ダイチは久々に俺にそういう潤った気持ちを与えてくれた貴重な存在なのであって。 

(でも黒木のこともあるし、それに年齢的なことを考えるとなぁ) 

 俺が断れば、すべては万事丸くおさまる話だ。 

 そもそも50手前のおっさんと20歳そこそこの若者とじゃ、完全に釣り合わないわけだし。 

 ……でもなんて言えばいいだろう。 

 俺がそんなふうに悶々として悩んでいる間に、ロッシュはおやつを食べ終わり、キャンキャンとご機嫌な自分をアピールしながら、俺の足にまとわりついてきた。 

「おやつ食べたのか。美味しかったか~。よかったなー。ん~はいはい、分かった、わかったから。ロッシュ、おすわり」 

 コーヒーをテーブルに置いてロッシュを抱き上げると、もうそれだけでロッシュは大はしゃぎで、俺の顔をベロベロと舐めてこようとするのを阻止しながら、なんとか膝の上で大人しくさせた。 

 温かいロッシュの体温が膝に伝わってくる。柔らかい毛を撫でていると、心が落ち着いてきて、ちょっとだけ緊張が解けて、話を切り出す勇気が出た。 

「ダイチ、さっきの話だけどさ」 

 声をかけると、手に持ったコーヒーをじっと眺めるダイチの体が、ピクリと動いた。 

「……はい」 
「ダイチが俺のこと好きだって言ってくれて、俺は嬉しかったよ」 

 ダイチが跳ねるように顔を起こして、俺を見た。 

「え、じゃあ……!」 
「あ、いや、ごめん、期待させるような言い方した」 
「……やっぱり、俺じゃだめってことですか」 
「だめというか……その……」 

 はっきり言え! 年下とは考えられないって。そう言えば話は早いんだから。 

「あの男の人――佐藤さんのことが好きなんですか」 
「え!? 佐藤!? 佐藤は本当に違う。マジで違うから。大学からの友達で、付き合い長いってだけの間柄。この前は佐藤が酔っ払ってて、調子にのってふざけてただけで……。佐藤とそんな関係とか、絶対に違うから」 

 やっぱりさすがにね。あいつとそういう仲だって、嘘でも人にそう思われるのはちょっと勘弁してほしい。 

 俺がきっぱりと否定すると、ダイチが少しホッとしたような顔をした。 

「……じゃあ、他に好きな人が」 
「今はいないよ」 
「それなら……!」 
「さすがに誰とでもいいってわけにはいかないよ」 
「……俺のこと、嫌いですか」 

 安堵の表情から一転して思い詰めた表情のダイチに、俺の心はグラッとくる。ただでさえ揺らいでいるというのに、こんな顔されて、嫌いだなんて言えるわけがない。 
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