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冒険者の街 リュカ

冒険者カードと出会い 後編

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「て、てめぇいきなりなんだ!」

 少女と一瞬目が合ったのち蹴り飛ばした男が起き上がった。

「さっきも言っただろうが、うるさいんだよこの野郎」

 めんどくさそうに後頭部を掻きながら男の方を見る。

「んだとてめぇ!俺が誰だかわかってんのか!」

「知らねぇよ、つか知りたくもない。女に手を上げるような奴の名前を覚えてなにか特するのかよ」

「お、お前、そいつが女だって?」

「女だろ、間違ってたら謝るけど?」

 その瞬間、酒場が笑いに包まれた。
 何か面白いこと言ったっけ?

「何がおかしい」

「お、お前wそいつが女だって?違うな!そいつはただの薄汚い獣風情にすぎねぇんだよ!」

「だからどうした」

 俺はそっと少女の方に近づいて後ろのポーチから布を取り出し優しく顔や髪を拭いてやる。
 少女はとても驚いた顔をしていたがどうしたらいいのかわからずあたふたしていた。

「薄汚い獣風情だろうと何だろうとお前は女を傷つけたんだ。その事実は変わらん!お前は男がやってはいけないことの一つをやったんだ、覚悟できてんだろうな」

 少女以外の奴らに向けて殺意を向ける。
 殺意を向けられた奴は時が止まったかのように固まっていた。

「こ、これは何の騒ぎですか!?」

 酒場の入り口の方から声がする。
 声のした方に顔を向けるとさっき俺の冒険者登録の対応をしてくれたお姉さんだった。

「誰か、状況説明をお願いします」

「こ、こいつがいきなり俺のことを蹴りやがった!!」


 お姉さんが情報提供を求めると男が俺のことを指さして訴え始めた。
 ふざけんじゃねぇ、てめぇが最初に・・・いや俺が一番最初に手出したんだった。

「そうなんですか!?ユーナさん、どういうことですか?」

「そこの奴が言ってることが半分正解だ。確かに奴を蹴ったが女に暴力を振るったからやった、ただそれだけだ」

「何をやってるんですか!例えどんな理由があっても冒険者同士の戦闘は禁止ですよ!」

「それに関してだが、俺はまだ正式に冒険者にはなってないぞ」

 その言葉にお姉さんは首を傾げる。
 おいおい、担当したのあんただろうが忘れんな。

「俺はまだ実技試験ってのをやってないから正式にはなってない」

 そういうとお姉さんはそのことを思い出したらしく冷や汗を垂らしながら

「も、申し訳ありません!」

「いや、別に大丈夫なんだが少し聞いてもらいたいことがある」

「は、はい何でしょうか」

「実技試験の試験官って冒険者ならだれでもいいんだよな」

 俺はそういって男の方を指さして

「だったらこいつとやる」

「な、なんだと!?てめぇ俺様が誰だかわかってんのか!」

「え、女に手を上げた男の風上にも置けないカス野郎じゃねぇの?」

「俺様はこの街で二番目に強い男!ライヅ様だ!」

 とめちゃくちゃ気持ち悪い顔で言っていきました。
 てかまず二番目でイキんな、調子に乗るなら一番になったらイキれや。

「ちょ、ちょっと待ってください!確かに試験官となる冒険者は誰でも構いませんがいきなりB級冒険者戦うなんて無茶です!」

「別に大丈夫だ、二番目に強いんですって言ってるイキってる痛いやつに負けるほど弱くはない」

「こ、このクソガキが!舐めた口聞きやがって!おい、受付!訓練場開けろ!」

「で、ですが!」

「うるせぇ!餓鬼に教育ってもんが必要なんだよ!この俺様が教えてやらないとな!」

 男は声を荒げながらお姉さんを突き飛ばした。
 突き飛ばした瞬間にお姉さんの背後に回って支えてやる。

「道を開けろ、雑魚ども!」

 野次馬を押し退けて訓練場に向かう奴を横目にお姉さんの背中から手を離して俺も訓練場に足を向ける。





 ???side

「てめぇのせいで!!依頼達成できなかったじゃねぇか!!」

 私のせいじゃないのにまた怒られる、でも言い返す気力がない。
 奴隷になって二年目の私の精神はボロボロになっていた。

「知能がねぇ獣風情が!人間様の命令も聞けねぇのか!」

「......も、申し訳ありません」

 また胸倉を掴まれて怒鳴り散らされている。
 これで何回目だろう、もう数えきれないや。

「それで済むと思ってんのか!」

 そんな言葉と共に蹴りがお腹に直撃する。
 気に入らないことがあればすぐに殴られたり蹴られたりしていたから最近、痛みをだんだん感じることができなくなった。
 ろくにご飯を与えられずやせ細った私の体が蹴りに耐えられるわけなく簡単に後ろに蹴り飛ばされる。
 後ろにあった机に激突して止まったけど頭上から皿などが落ちてきた。
 なんかもう疲れた、このまま死にたい。
 俯いてそんなことを考えていると私の目の前を誰かが通り過ぎた。

「さっきからうるせんだよ!!」

 その声が聞こえたと同時に顔を上げると深緑色のフードを被った人がご主人様を飛び蹴りを決めていた。
 あまりにも突然すぎる光景にびっくりして固まっているとフードの人と一瞬目が合った。
 その人の目はとてもきれいで優しい目をしていた。
 ぼー-っと見ているとフードの人がゆっくりと近づいてくる。
 なにかされると思い目をつぶると柔らかい布の感触が伝わり目を開けるとフードの人が優しく顔を拭いてくれた。
 優しい手つきに驚いてどうしたらいいのかわからずにあたふたしてしまったけど一つ言えることがあった。
 それは、この人の目と手は私の死んでしまったお父さんに似ていたことだ。
 一体、この人は何なんだろう。
 そんなことを考えながらフードの人のされるがままになった。






 ユーナside
 男の後について行くこと数分、訓練場と呼ばれる場所についた。

「おい、受付!てめぇが審判やれ!」

「は、はい!」

 男がそう叫ぶとさっき突き飛ばされたお姉さんがあたふたしながら審判の定位置につく。
 お姉さんすげぇな、さっき突き飛ばされて嫌な思いさせられたのによく指示聞けるな。
 俺だったら確実に叩きのめしてるわ

「ゴホン、では只今から実技試験を開始いたします。ルールは魔法なしで剣だけの戦闘になります!なにか質問はございますか?」

「なら一ついいか?」

「はい、なんでしょうか」

 俺は視線を男の方に向けて

「なぁお前、俺と賭けしようぜ」

「賭けだと?」

「あぁ、お前が勝ったら俺の持ってる魔導具と金貨10枚やる。でもお前が負けたらその子の所有権を渡せ」

「ガキごとに負けるかよ!いいぜその賭け受けてやるよ!」


 俺は腰に差してある刀を鞘ごと抜くと少女の方に歩いていく。
 少女に刀を差しだして

「つうわけで刀持ってて」

「・・・へっ?」

 少女が戸惑いながら差し出された刀を恐る恐るといった感じで受け取る。

「おい、餓鬼!どういうつもりだ!!!武器を持て武器を!!」

「お前ごときに使うほど俺の刀は安くねぇんだよ。それにお前じゃ俺には勝てんよ雑魚」

 中指を立てて挑発を仕掛ける。
 大体こういうタイプの人間はこの手の挑発に乗る確率は高い。
 さぁ乗ってこい、脳筋!てめぇのプライドというプライド粉々にしてやる!!

「クソガキガ舐めた口聞きやがってぶっ殺してやる!!」

 顔を茹でだこのように真っ赤にして背中に差してあった大剣を抜く。
 やっぱり乗ったな、相変わらずこのタイプは挑発しやすいわ。
 視線を男から再び少女の方に向けて優しく頭をなでてやる。

「すぐに終わるから待ってて」

 少女だけにボソッというと決闘者の定位置につく。

「あの、本当によろしいんですか?いくらなんでも武器なしでBランク冒険者と戦うなんて無茶だと思うのですが?」

「いや、あの程度に武器を使うなんて武器に失礼ですから」

「あ、あのあんまり挑発的なことは控えていただけたらありがたいんですが
 まぁあなたがいいのならいいでしょう。では改めまして試験を開始させていただきます!」

 その言葉と共に俺と相手はお互いの武器を構える。

「それでは、始め!!!」

 その声と同時に男が剣を構えたまま一気に俺の方に突っ込んでくる。

「死にやがれ!!!クソ餓鬼!!!」

 叫びながら剣を力任せに振り下ろしてくるがこの手のタイプは潰し方が簡単だ。
 右拳に魔力を集中させ振り下ろされてくる剣に向かって下から拳を打ち上げ剣を叩き折る。
 バキンっと鉄の折れる音が訓練場に鳴り響く。

「お、俺の剣が!!!」

「お前の剣の腕が未熟なんだよ!」

 剣が折れて動揺している隙を見逃さずに俺は顔面に蹴りを放つ。

「蹴術《しゅうじゅつ》 閃電脚《せんでんきゃく》!」

「バキュル!!」

 雷の如く、素早い蹴りが男の顔面にもろに直撃し意味不明な言語を口にしバタリと倒れた。

「・・・しょ、勝者ユーナ」

 お姉さんの声と同時に俺は乱れた服を整え一礼して少女の元に足を向ける。

「刀、ありがと」

 恐る恐るといった感じに少女から刀を差し出されたのでしっかりとお礼を言って刀を差す。
 怖がられてんな、なんかごめんね。

「んじゃ、手続きの続きお願いします」

 少女に心の中で謝罪し受付のお姉さんのほうに顔を向ける。

「は、はい!」

 慌てた様子でお姉さんはどこかに行ってしまった。
 走っていくお姉さんから再び少女に視線を向け

「よし、行こうか」

 優しく手を差し伸べるが少女は首を横に傾げた。
 何そのしぐさ可愛いんですけど!

「何首傾げてるの?君も一緒に行くよ!」

 少女の手を多少強引だが掴んで一緒に訓練場を後にする。
 なぜだがこの時俺は異様にワクワクしていた、その理由はまた今度。
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