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しおりを挟む美香が案内された更衣室は、ロッカーもあり其処に自分が着ていた服と貴重品を預け、鍵は指紋認証という徹底した管理方法だった。
スマートフォンや撮影に使える物は持ち込む事も出来ない様で、天音の企みは成就する事は出来ないかもしれない、と美香は思えた。
---隠し撮りも出来ない様じゃ、スクープ記事撮れないかもしれないわね
着替え前に、美香用にと衣装を選ばされたのは、パーティー用のフォーマルドレスだった。しかも、身体のラインを強調した色っぽいドレスで、美香もそんなドレスを着る機会は滅多に無い。寧ろ初めてと言って良い。
「こ、これ………下着のライン出ちゃいますが……流石に無理がある様な………」
「此処では、下着を着用される淑女様は居られません」
「え!」
「一夜の出会いに掛けたお嬢様や淑女様が大半で、下着等邪魔なだけ、と思われた方々ばかりなので………もし、それでも下着を望まれるなら、紙使用の下着のもございますが、此方をご着用されますか?」
「か、紙………め、面積が殆ど無い……」
拙い下着だが、美香も無いよりはマシな為、それを着用する事にした。
「衛生上、下着は紙仕様でございます。直ぐに脱着する事を予期した物ですので、激しく動かれますと、破損致しますのでご注意を」
「…………でしょうね」
着心地は決して良い訳ではない、
まるで、秘部に生理用品を当てている以上に不快だったりするのだ。肌に当たる感触も、例え生理用品の質が良くなろうとも、違和感はやはりある。それと相違はなかった。
---生理用品当ててるみたい………
紙の下着の着用も美香は初めてで、下着のラインをドレスから分かるより脱いだ方を、着用しないより着用と選んだ末の事だが、それならばティーバッグの下着を着用していた方が良かった、と思える。
「準備も出来ましたので、仮面をお選び下さい」
「……………じゃ、じゃあコレを………」
どれも一緒に思える仮面だった。色は違えど、形は一緒でドレスの色に合わせた仮面を美香は選ぶ。
入って来た扉とは違う扉から廊下へ出ると、また別の扉の前に案内され、スタッフから声が掛けられた。
「此処より先は、会員様方の憩いの場でございます。ごゆっくりお寛ぎとお楽しみ下さいませ」
「…………は、はい……」
拓真が準備出来て、その先に居るとは限らないが、とりあえず入室する美香を待ち受けていたのは別世界だった。
きらびやかなシャンデリアに、天井から吊るされたカーテンに仕切られ、視界を所狭しと遮り、甘い女達の声や息遣いが聞こえ、もう既に営みの空間へと誘われた。
「ようこそ、お嬢様………お飲み物は如何でしょう………ワインやスパークリングワイン、カクテル、ビール、ウィスキー、ブランデーございます」
「ス、スパークリングを………」
「畏まりました」
入室すると、控えていたスタッフが飲み物を薦めた。
美香は酒が強い訳ではないが、嗜む程度ならば飲める。深酔いせず、量をそんなに飲む前に、満足出来る飲み物を選んだ。
「何処に行けば………あ………」
「……………よう……」
美香が少し歩くと、壁伝いに美香に近付く仮面の男が見える。背格好で直ぐに拓真だと分かった。
「課長………」
「……………此処では、上司部下の関係はタブーにしよう………秘密厳守の場だし、何があるか分からない」
「そ、そうですね………では名で呼びますね」
「あぁ…………美香と俺も呼ぶ」
「っ!」
拓真に名前呼び等された事はない美香は、ドキリと胸が踊った。
「座るとするか………立って話すって感じでもないしな」
「はい、そうですね」
空いている席に座ると、其処もカーテンに仕切られた空間で、まるで個室だが近くの席からは声がダダ漏れだった。
「あちらこちらで盛ってやがるな」
「……………気にならないんですかね……」
「俺には目線や気配を感じながらヤる趣味は無いな」
性的嗜好をとやかく言うつもりも無いが、拓真の言葉に同意する意向だ。
「目線や気配って気になりますからね」
「…………これじゃ、目的どころじゃないしな」
「天音もこういうのを想像していたかも疑問です」
一夜限りの出会いの場で、1人で居る異性も少ない様に感じた。
それは開店時間から大分過ぎてしまってから美香と拓真が来たからかもしれない。
「失礼致します」
席に座ってから直ぐ、スタッフがカーテン越しにメニューを持参した。
「メニューでございます………お食事、お飲み物、そしてお楽しみの道具、ご用意可能でございます。此方は手始めにお使い下さい」
「あ、あぁ………ありがとう………何か食べるか?」
「つ、つまみ程度の物で良いです」
メニューと共に持って来られたアダルトグッズをテーブルに置かれ如何しろというのだろうか。
始めてくれと言わんばかりの演出に、拓真も引いている。
美香も食べ物のメニューと一緒にアダルトグッズを置かれると、何方がメインかもさえ分からなくなっていた。
「ご注文の際は、其方のベルでお呼び下さい」
「…………了解した」
とりあえず、直ぐには決められそうになく、メニューを開く拓真の横で、アダルトグッズ達には目線を向けぬまま、拓真の横で美香もメニューを見るのだった。
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