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しおりを挟む週明けの月曜日。
美香は、拓真の弁当も作り出勤する。いつ渡そうかとか、同僚達の目線の中で渡すのは、非ぬ噂も流れると思い、【秘密の花園】の広告の打ち合わせを、と拓真をミーティングルームに来てもらう様に伝えた。
「あ、あの…………お弁当も……あります……ので……」
「あ、あぁ………マジで作ってくれたんだ……」
「え?まさか冗談だったんですか!」
「い、いや………一か八かで頼んだから、期待してなかったんだ………お前はいつも弁当だったし、美味そうだなと思ってたから……」
休みの日、美香は弁当箱を買いに出掛けた。
家には美香用の弁当箱しか無く、拓真の体型では少なかろう、と思ったので買いに出たが、思いの外楽しい買い物だった。
今迄、誰かの為に何かを買う等、美香は母や義父、弟にしかしてこなかった。それが異性で憧れる拓真用に、と思うと、弁当作りも楽しみになる。
「お金を受け取って頂けませんし、これからご迷惑でなければ、毎日作ってきます………た、ただどうやってお渡ししようか、と思ったらこんな形でお渡す事になるとは……」
皮肉なもので、忌々しい店の仕事を口実に2人きりになるのを望んで渡す等、悔しくて堪らない。ウキウキドキドキした気分が台無しなのだ。
「どんな理由でさえ、食えればいい………サンキュな………昼飯の楽しみが出来た。いつもはコンビニ弁当だったしな」
「料理作れないんですか?」
「1人暮らしだから作りはするが、弁当迄はな…………で?何か案が出たか?」
「い、いえ………まだ全く……見れた所が少な過ぎてイメージが湧きません。課長の仕事の負担にならない様に私で考えますから」
「俺も関わってるんだ、俺も案を出すさ」
週末迄、時間は少ない。他にも仕事を抱えている2人にとっては、余計な仕事になってしまった。
「あの………本当に週末………」
「行くしかないだろ………サッサとこんな仕事、終わらせるぞ」
「はい」
そんな週明けから始まった仕事だが、拓真が手作り弁当を持って来た、という噂は月曜日の午後には広まった。
「自分で作ってきたんだよ!何で俺の飯に騒がれなきゃならない!」
今迄も、拓真に弁当を作って来た女性社員も居たのは知っているが、拓真は受け取らなかった記憶が美香にあった。
---そういえば、誰からも受け取らなかった様な………何故、私のお弁当は受け取ってくれたんだろ………作って欲しい、と言われたから作って来たってのもあるけど………
「それなら、私が作って来ます!笹島課長!」
「いや、私だって!」
「お前達の弁当は要らん!作って来ても食わんからな!」
こんな光景が暫く続くかもしれない、と美香は予感し、人に見られない様に、渡す工夫をする手間も増えた。
しかし、それは拓真が上手い事立ち回り、出勤前であったり、拓真のデスクの中に置いておいて、と連絡が入ったりで、コッソリ渡せる時間を作ってくれていて、何とか1週間乗り切る事が出来た。
「大変だったろ、毎日5日間の弁当」
「楽しかったです。ドキドキしながら渡すの………課長、残さず食べてくれて嬉しかったですし、食べ終わったお弁当箱もいつも洗って返してくれてましたし」
「美味かった礼に過ぎん………でも、これを隠れて毎日は流石に難しいだろうな………残念だが、弁当は無理しなくて良いぞ」
「私は好きで作ってるんですが………」
「うん………だから、無理だったら持って来なくても良い日も作れ、と言っている。朝、寝坊した時とかは無理だろ?」
「…………はい……」
拓真なりの気遣いだろう。美香は全く苦でも無いが、息抜きもしろ、という事だろう。
金曜日の仕事を終わらせ、打ち合わせという名目で店に向かっている美香と拓真。仕事なので、2人で会社を出るのを見られても、誰も咎める事は無いだろう。
美香が作った弁当の空の箱は拓真がまだ持っている。まだ拓真が毎日作って持参した弁当という事になっているからだ。カラカラと箸ケースの中の箸が揺れる音が小さく聞こえ、今日も全部食べた、と美香に知らせた。
「結婚願望は無かった俺だが、飯作ってくれる女はやっぱり癒されるな」
「…………え?」
「まぁ、勘違いさせちまうから、理由が無きゃ食わないけどな」
美香に作る理由はあるから拓真は食べてくれるのだ、と美香を納得させる。
---勘違いしちゃ駄目だよね……課長へのお礼なのよ、このお弁当は……今日もお金が必要だったら、先週の分迄私が今夜払わなきゃ………絶対に課長より先に………
奢られなれていない美香は甘える方法が分からない。意気込んで、拓真に見えない様に小さなガッツポーズを作ったのだった。
店に着くと、何となく深い深呼吸が同時に行った。
「…………」
「…………」
余りにもタイミングが会い過ぎて、お互い見つめ合ってしまう。
「フッ…………行くか」
「は、はい………」
ちょっとした、息の合った瞬間は、照れながら笑顔を見せ合ったのだった。
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