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しおりを挟む美香は再び拓真に抱かれた。
先週のセックスの様な無作為にガッツかれたセックスではなく、探索されるかの様に、味わられた。
一回で縄は解かれ、終わると汚れた身体を拭き取ってくれた優しさに、美香は心を打たれる。
好きになってはいけない相手だろうとも、気持ちは止られる訳はない。
「痕が付くから、縄は俺は嫌だな………緊縛って言うんだよな、これ」
「そ、そうです………結び方が下手な人だと痛いとか言いますね」
「…………よく知ってるな………SMプレイに俺は詳しくないから、教えてくれ」
「っ!…………わ、私もそんなに詳しい訳じゃ………」
詳しい訳ではないが、そういうセックスを強要されていれば、知る事でもある。
拓真に知られた以上、隠せなくなってしまった。
「出るぞ」
「は、はい」
「この後、話がある」
「……………は、はい………」
帰り支度し、部屋を出て客席のあるホールへと出た美香と拓真。
スタッフに声を掛けられ、再び次回の予約をさせられてしまったが、引き止められる事は無かった。
「少し、歩こうか」
そう、拓真が告げると何を話す訳でもなく、何処に向かっているのかも教えてもくれず、美香は逸れない様に、隣で歩くだけだ。
都心の形相の中で、冬のイルミネーションが輝く街路樹のデートスポット迄連れて来られた美香は、恋人が出来たら一緒に歩いてみたかった場所だった事に気が付いた。
魅入っている美香を、拓真は見つめている。
「あ………す、すいません………此処に人と歩いたのが初めてで………」
「そうかのか?………過去の………あ、いや……友達とかと来たりはしただろ
「そういうのも余り………何処に行こうにも、自分で決めた場所に行ける様になったのは、実家を出てからなので」
「…………行きたい所があったら、俺が連れてってやる」
「仕事でですか?…………私、そんなに社畜じゃないんですけど………フフッ…………寒っ………はぁ……」
風が吹き、手袋をしていなかった美香は手を磨り合わせ、息を吹き掛けて暖め様とした。
だが、その手は拓真が取り、自身のコートに突っ込ませる。
「っ!」
「仕事じゃない………仕事で連れてったらお前はいつまでも俺の気持ちは伝わらないだろうからな…………」
「か、課長?」
「っ!…………本当に寒いな、今日………」
「きゃっ………っ!」
折角、拓真と手を繋ぎ、拓真のコートの中に手を入れられたのに、その手は抜き取られ、美香は拓真のコートに埋もれさせられた。
「…………俺達………付き合わないか?」
「…………え?」
「…………あんな店に行かなきゃ、こんな風に告げる事も無かったと思う………ちゃんとした形で、恋人になってくれと言えたら良かったが、上司と部下という関係は、1つ間違えればパワハラになるから言い出せなかった………お前が入社してから気になる女だと、部下としても女としても惹き付けられてきて、我慢の箍が外れちまった………お前を抱いて、もう気持ちに蓋なんて出来ない」
「っ!」
美香は嬉しかったが、飛び付いて良いのだろうか、と固まる。
どうやって、美香の闇を拓真に話せば良いか分からない。
「……………駄目か?………今日、確信もした……お前も俺を嫌いじゃない、とな」
「き、嫌う訳ないじゃないですか!…………課長は私の憧れる人なんです…………でも………駄目なんです………私には………恋人を作れません……」
「美香………」
「っ!…………ゔっ……うっ………」
「何故泣く………」
「……………不思議だと………思いませんでした?」
「不思議?何をだ」
拓真が気持ちに蓋が出来ない、と言ったのを聞き、美香もその気持ちに蓋が出来なくなっていたのを思っていた。
だからこそ、涙が溢れるのだろう。拓真のスーツの襟を掴み溢れる涙を隠す美香だが、泣いている事は拓真も分かっている。
背中に回された拓真の手は美香を擦り、落ち着けと伝えてくれていた。
「私が…………処女じゃなかった、て事です」
「……………あぁ……」
「恋人も居た事も無い私が、経験済みだなんて………おかしいですよね………」
「まぁな………だが、セフレが居た、と考える男も居るだろ。現に俺もそう思ってたし」
「っ!…………それだったらどんなに良かったか………」
「…………美香、その話………場所を変えて聞かせろ」
セフレではないのならば、考えつく事は限られる。
それを察した拓真は美香の手を取り、再び歩き出した。通りに出て、何とかタクシーを拾い、拓真の住むマンションだろうか、その前で停まる。その間、美香は拓真に手を握られたまま、無言を貫いていた。
その無言が、美香にとって、吉に出るとは思えない。
「降りるぞ」
「は、はい…………」
美香は涙は止まったが、拓真の真意が分からないこの状況ではどうしたら良いか分からなかった。
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