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しおりを挟む美香が思わず告白してしまった事で、拓真が美香に覆い被さる様に、顔を近付けて来ていた。
しかし、美香は咄嗟に拓真を押し戻す。
「ま、待って下さい………は、話は………まだ……」
「……………ちぇっ……そうだったな………」
あからさまに残念そうな顔を拓真にされたが、美香にはまだ話さなければならない事がある。
拓真もまだ聞き出したい事でもあるから、キスを仕掛けるのを止めてくれた。抱き締める腕はそのままで、拓真の温もりが美香に滲み渡って来て、いつの間にか美香は震えが止まっていた。
「…………私は………兄が建てた家に住まわされています」
「1人暮らしだろ?」
「…………今は………ですが………実家は会社への通勤が不便で、兄が建てたんです………一緒に住む為に」
「……………何でそんな事迄」
「……………私と結婚する為、て言ってました………」
「兄妹だろ!」
「……………はい……私は兄だと思ってます………兄妹になったあの日から今でも………」
兄と言うのも烏滸がましいぐらいだが、戸籍上では兄であるし、その呼称しか思い付かない。兄にしたくないが、兄と呼ぶのは克也を名前で呼びたくないからだ。
美香はポツリポツリと、克也の意図を拓真に話し、義父の克也への仕打ちや改善策で今の美香がある、と話した。
「…………悪いが、お前の親父さん間違ってる」
「…………だと思います………でも、両親が離婚して、それぞれ別に暮らしていても、兄なら私を追い掛けて来るでしょう………ストーカー規制法では今でこそ厳しくなりましたが、当時は厳しい物では無かった………まだ弟も産まれてなくて、義父の会社を兄に任せたい、と思ってたんだと思います」
「だとしてもだな………間違ってる」
美香も拓真が言いたい事は分かっている。それでは美香を完全に守れてはいない。
「義父は………私を母の籍から完全に抜きました」
「ん?どういう事だ」
「除籍された私の戸籍は、義父の養女となってます…………なので、兄が私と結婚するには、両親が離婚すればそれで良い、とはならないんです。義父の承認も法的措置も複雑にした事で、兄の目論んだ事…………私との結婚は簡単には出来ないという事………そして、義父は兄が大学卒業後、義父の会社の海外事業部に配属させ、日本への帰国は年に数回しかさせない事で、私を守ってくれています」
「じゃあ、兄さんは今も海外か………」
「……………多分………」
「多分?」
これからが、一番美香が恐れている事だ。
再び口が重くなる美香は、拓真に抱き締められていても、唇を噛み締め、手に汗をかいていた。
「私が…………兄の家に帰っているのは理由がまだあるんです」
「うん………教えてくれ」
この際だから聞ける事は聞いておこう、と真剣な目で美香は拓真に見つめられていた。
「海外に居ても、私が兄に監視されている、という事です」
「は?…………セキュリティチェックでもしなきゃ行動なんて………」
「してるんです………会う度に、私の持ち物にGPSを仕込み、スマホにもGPS機能でチェックされているんです…………だから、外泊なんてしたら…………兄は帰って来る………」
「なんて執着心なんだ………」
「…………以前、私は大学在学中、マンションで1人暮らししてました。勿論、兄には内緒で………実家には帰らずにいたので、確認の為だけに帰国してくる人なんです。マンションのロビーで大喧嘩し、住民に通報されてもこういう時は兄妹喧嘩で済まされてしまいます。何度も繰り返されては、義父にも迷惑が掛かるので、義父も私を監視させていて………兄がもし帰国してきたら、直ぐに保護出来る様に、と」
その時その時で、義父は対処してきてくれていた。本当の娘でもない美香を、連れ子ではなく娘にして迄、大学迄進学させてくれたし、生活には困らない様に、援助も惜しまない人なのだ。
「…………そういう事か……だが、やはり間違ってると思う………」
性的虐待は犯罪で、それを隠している。
「義父の立場を優先したに過ぎません。兄が警察に関わってしまったら、義父の顔に泥を塗るでしょうし」
「兄さんは、美香がもし今夜俺の家に泊まったら来ると思うが、そうなった場合兄さんが美香にする行動は何だ?」
「っ!…………そ、それは………」
美香は吃る。最悪な事を考えてしまうからだ。
「言ってくれ………俺に美香の事を関わらせてくれ」
「だ、駄目です!そ、それは拓真さんに迷惑が………」
「好きな女が、恋人にしたい女が悩んでて苦しんでるのが分かるのに、俺は何も出来ないってのか?俺は冗談で言ってるんじゃないんだ………お前は親父さんを頼るだろうが、それは間違ってるって分かってるだろ!俺を使え!知恵だって避難場所だってあるんだ!」
「…………うっ………助けて……下さい……拓真さ………」
「あぁ、助けてやる。だから教えろ、兄さんの行動パターンを」
美香は箍が再び外れ、気が付けば拓真にぶち撒けていた。
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