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しおりを挟む翌日、更なる悲劇が美香を襲った。
出勤すると、美香のデスクの上に書類が散乱し、ゴミも置かれている。これではまるで虐めだ。
「おはよう…………あれ?如何したんだ、纐纈さん………うわぁ、酷ぇ……」
「…………おはようございます……ひ、酷い事する人居るんですね………学校の虐めみたい………ははは………」
美香の仕事の書類だけでなく、他の資料も散乱していて、仕事を始める前に選別し、ゴミも片付けなければならない。
---っ!………な、何でゴム………此処で誰かシたの?
コンビニエンスストアのビニール袋の中に避妊具もあった。使用済みではなかったが、個包装が開封された嫌がらせだ。
「お似合いね、纐纈さん」
「それ纐纈さんの私物?使用済みじゃなくて良かったわね」
「……………先輩方ですか?この嫌がらせ………」
「私達がやった、て証拠あるの?知らないわよ」
「笹島課長を寝取って、レイプを他の男にされてちゃ、こんな妬みを受けても仕方ないんじゃない?」
「…………うわぁ……女って怖ぇ……」
同部署では無い女性社員2人。以前から、彼女等は拓真に猛アピールしていた社員だ。後腐れ無く付き合える女を相手していた拓真だが、彼女等の様な女々しい性格な女は拓真は相手にはしなかった。だから特定の女を拓真が作り、それが部下である美香であったのが許せないのだろう。
「事件と、笹島課長と何の関係があるんですか?それに、それこそ私が笹島課長を寝取った証拠だって信憑性ありませんよ」
社内でイチャイチャした事は昨日の非常階段での僅かな時間だけだ。それを見られたのなら兎も角、と美香は考えを過ぎらせると、まさかとポーカーフェイスが崩れていく。
「親切な人、て何処でも居るのよ………纐纈さん」
「笹島課長のファンクラブあるの知らないのかしら…………出回るの早いのよね」
そう言った女はスマートフォンを美香に見せ、美香と拓真のキス場面を写真に保存させていた。
「っ!」
「覚えあるみたい」
「私達は証拠あるわよ?でも、私達がこの貴女のデスクにこんな事した証拠なんて無いわよね?」
人の妬みというのは、如何して醜く見えるのだろうか。しかも、社会人として学生時代じゃあるまいし、これは大人気無い。
「証拠なんてありませんが、これでは私が仕事出来ませんので、お気付きになられた先輩方、片付け手伝って貰えますか?個包装を開封していないコンドームは先輩達に差し上げます。私は間に合ってますので」
誰の行動だろうと、人が触った避妊具等、触りたくはない。もし目の前の女2人の仕業ならば返すだけだ。
「い、要らないわよ!ゴムなんて!」
朝から卑猥な言葉が飛ぶ、美香の職場。
もう始業時間が始まろうと言うのに、片付けも出来なかった。
「騒がしいが一体何してる!」
「さ、笹島課長!………おはようございます……えっと………その………彼処を……」
時間差で出勤している美香と拓真。
美香の事件の事もあるので、美香は別で出勤したい、と拓真にお願いしていた。良い噂ではないのに、拓真との交際が明るみに出ると、面倒な事になりかねないからだ。
「笹島課長!聞いて下さい!纐纈さんが朝から不謹慎なんです!」
「このデスクで使用済みのコンドーム散策させて、昨日帰ったんですよ!」
「……………は?んな訳あるかよ………君達、何でそう断言出来るんだ?」
何と言う、浅はかな言い訳の女性社員2人。
美香に自分達が美香のデスクを荒らした証拠を見せろ、と言っておきながら、退勤時間を調べれば、美香が残業せずに退勤した事も分かるのに、美香のデスクで美香がセックスしたという証明にもならないのは、広告部の社員は知っている。ならば、他の社員が美香のデスクでセックスした、と思うので、他の社員はシラケていた。
流石に、同部署の女性社員達も、ヤリ過ぎたこの騒ぎに冷ややかな目を向けている。
「しかも、ゴム?………そういや、この数日、俺等ゴム使ってないよな?美香」
「え?…………あ、あの………」
「俺のスマホに今朝こんな写真送られてきてな…………まぁ、バレたんなら隠す必要は無いし、出勤してどんな噂が立とうにも、俺は俺だし、美香を守ってやるつもりだったから良いんだが…………コレじゃ、俺の入らんな……それに、俺等は会社でセックスなんてする非常識さは持ち合わせてないんだよ………帰ってからセックスしたしな」
しれっと、爆弾発言する拓真に、フロア内に居た社員達は固まった。
「笹島課長!もうちょっと発言をオブラートに包んで下さい!………て、何で課長にそんな写真が……」
聞きたくなかったんだろう、女性社員の1人。
元々、拓真は女と後腐れ無い付き合いをする男で、性的な事も割と平気で言えるので、軽く皆は受け止めていられた。また言ってる、と。
だが、関係を持った女の名誉を傷付ける事は一切言わないので、過去の女とどういうセックスをしてきたかは誰も知らない。
「昨日、纐纈さんとシたんだ…………」
「ちょっと!そういう事は思っても口に出すんじゃないのよ!」
「あ…………」
いつセックスしたとか、公言する事も無いではないか、と美香も思うので、思わず顔を手で隠してしまった。
「何で俺のスマホにあるか、だって?社内の過去セフレだった女が、親切に送ってきたんだよ………本当なのか?とな」
という事は、拓真に送った女も拓真のファンクラブの一員なのだろう。
「誰よ!課長に送ったのは!」
「私は違うわよ!怒られるの分かるもの!」
「……………怒られ序でに、君達………片付けしていけ」
「っ!」
「ゔっ………」
美香が、やっと仕事が出来る様になったのは、始業時間を過ぎてからだった。
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