秘密の花園で会いましょう【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 会社内にある売店には飲食出来るスペースがあり、美香は広報部の先輩と食事を取っていた。
 騒がしいスペースには、テレビモニターもあり、ワイドショーはいつも東條の話題が日常になってしまった。

「もう、聞き飽きたわ。東條実のニュース」
「もう、2週間ぐらいですもんね………」

 弁当を摘み、テレビを見上げる美香だが、拡散の協力をした美香でも、ウンザリする程のニュースだった。相変わらず、東條の身柄は確保されておらず、ホテルを転々としているらしい。勿論、国会にも顔を出さないので、総裁選出馬は断念せざる得なく、別の候補者になるだろうと予想されていた。棚からぼた餅となった候補者達は、ひっきりなしに東條批判をし、東條降ろしに躍起になっているが、掲げる公約はどれもパッとしない、と政治評論家達は論争している。

「捕まるのかしらね………ニュースを見れば見る程、捕まって欲しいって思うの私だけじゃなさそう………私の住む選挙区、あの東條だったから、後援会が擁護してて家の周辺も煩くて」
「信じてる人も居るんでしょうね………ニュースを全部鵜呑みにするつもりもないですけど、火の無い所に煙は立たない、て言いますし」
「そうなのよね………白黒はっきりして欲しいわ…………克也氏の様に……あ、お兄さんだったよね……」
「兄の事とは規模が違いますよ」
「部長から聞いたんだけど、他の会社で働いてたのに、お兄さんの逮捕で、貴女が後継者になるんだって?」
「え?………まさか………私が社長の後継者になれる訳ないじゃないですか」

 一般的に考えれば、世襲制であったこの会社は、克也が引き継ぐ予定だった筈で、その克也が逮捕され今は刑務所に居るのだから、引き継ぐ事は許されはしないだろう。逮捕理由が性的暴行事件なのだから、社員や取引先、株主達が許す訳は無い。
 第一、義父は落ち着いたら社長を辞任する決意を固めていて、役員から社長就任させる候補も選抜中で、其方が揉めているらしい。此方も此方で親族達が推す者で、骨肉の争い真っ只中だ。

「でもさ………彼氏も一緒に転職して来た、て事で、笹島さんは婿養子に入るんじゃないか、てちょっとした噂出てたよ」
「え!…………ま、まだ私達、結婚のけの字も出てませんし、拓真さんは拓真さんで事情があって転職したので………私の転職理由とは違ってますし」
「如何して転職したの?笹島さんは」
「……………元々、出版社の記者をしていたんですよ………見切りを付けたい、と言って違う業種に、と………で、採用されたのが此処でして」

 かなり端折った言い方だが、強ち違ってはいない。
 拓真は美香の義父に、転職先の話をした際、応募してみたら良い、と言われ、美香とは違い、面接して採用されている。勿論、美香との関係を隠した上で、面接官から採用決定されたのだ。
 美香は完全なコネだが、コネ採用と言われたくないので、社員達に認めて貰う努力は怠ってはいない。

「コネじゃないんだ」
「コネじゃないですよ………私は、兄の代わりにはならないけど、義父の手助けをしたい、と転職を決めましたし、兄の事で精神的に参ってしまった私を傍で見守りたい、と義父からも言われて………私がコネです」
「纐纈さん、それでも頑張ってるから、コネだとしても、広報部の皆は悪い事は言ってないわよ…………まぁ、就職活動を必死にしてきて、やっと就職した人からすれば、羨ましいとボヤく人も居るだろうけど、この会社実力主義だから、仕事出来ない人はドンドン辞めちゃうんで、言ってられないのよ………コネ採用者への嫌味………コネの纐纈さんが仕事の覚え早いんだもん、文句言えないわよ」
「…………やっかみはあるとは思ってましたけど、言われないように早く1人前になります」
「頼むわね」
「はい」

 テレビのモニターから流れる音声を聞き流し、先輩と話に夢中になっていた美香だが、東條のニュースに動きがあった。

「え!…………嘘……」
「如何したの?」
「テレビ………東條の息子のニュース……大学裏口入学、て所迄出て来ましたよ……」

 東條の正妻の息子、大哉は私立大学の学生で、最近落第が決まった、と美香も知っている。出来が悪いから、出来の良い拓真を認知する動きになっていた直前に、東條のスクープネタをリークした拓真は、東條の地盤を継ぐ事を頓挫させた。
 それには、拓真も認知されずに、良かったと言っていた事だったが、裏口入学問題迄出てくるとは思わなかった美香は驚いていた。

「…………あぁ……それ、東條の選挙区では有名な話よ………かなり、ボンクラらしいわ……坊ちゃまは………娘も浪費家らしくて、いつもブランド品で身を包んでんだって」
「そ、そうなんですか…………甘やかされてたんですね………」
「そうみたい………愛妻家、家族思い、て言われてたし、履き違えてたんだな、と愛人問題出た時に思った………博愛主義掲げてるだけで、単にヤリチンなだけじゃん、て………愛人と何人も子供を作って、まともな子供居るのかしらね」
「居ますよ…………居ますよ、きっと………」

 美香は東條の血を引く子供は、拓真と史人しか知らない。そして、もう1人の息子大哉は、この時点でクズ認定してしまった。
 拓真が居るので、全員がクズ認定でなない。

「だと良いけどねぇ………ん?……そういえば、似てない?東條って………笹島さんに」
「っ!…………そう………ですか?似てないと思います」
「そう?目元似てる気するんだけど………」
「世の中に似た人は3人は居る、て言うじゃないですか!それですよ、それ!」

 今、拓真が東條の息子だと知られたら、また大騒ぎになるだろう。
 息子が東條をリークした、と知られてしまう。拓真が東條を売ったのだ、と言われるのだ。

「そうかなぁ………あ、もう休憩おわっちゃうわ!仕事に戻るよ」
「は、はい………」

 美香は仕事の為に、テレビから離れたが、気になるニュースになったので、後ろ髪引かれながら、休憩スペースを後にした。
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