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しおりを挟む史人が犯した事件の真相は、大哉と腹違いの兄弟だと、翌日には報道された。
勿論、この報道の情報元は拓真。その事で、ワイドショーでは東條実の遺産相続に巻き込まれた怨恨ではないか、と位置付されたが、美香も拓真も史人から聞いた訳でないので、それが本当なのかは分からない。
大哉の死は、東條にも知らされて、後日拓真にもその様子は知らされた。東條は悲しむ訳で無く、間抜けめ、と漏らしたと刑事から聞いた。
事件は暴かれ続け、葬られた闇の多さに、国中の人間は、政治家に不信感しか与えず、内閣支持率も下がっていった。
裁判も開かれた史人の口から語られたのは、大哉には東條の子は自分と妹だけだ、と言われ、腹違いの兄等居ない。遺産目当ての詐欺師、東條の資産は全て自分の物で、東條が史人を息子と認めていない以上、1円たりとも渡さない、と言い換えされ、事件現場で馬鹿にされ続けられた。
1度だけ史人が大哉を殴った後、大哉と一緒に居た友人達に囲まれ殴り返された史人は、友人の1人が持っていたナイフを拾い、大哉に刺さったのだという。ナイフの指紋はその友人と史人の物しか付いておらず、ナイフの所有者は史人で無い事も判明。殺意が史人にあったのか如何かは、史人は認めてはいなかった。
しかし、人1人を殺害したのは紛れもない事実で罪は重い。
大哉の母の東條の正妻と妹は、終始政治家の東條の息子を殺害した事は極刑に値する、とボヤいていたが、地位も地に落ちた男の息子だろうと、君臨していた男の息子だろうと、加害者も同じ息子なのだし、もしかしたら大哉がナイフを拾っていたら、逆になっていたかもしれず、正当防衛も含まれる事件でもあるので、その点は考慮されながらも、史人には実刑判決となった。執行猶予付きの禁固刑。暫く自由の身は与えられない。
「如何でしたか?史人さんの裁判」
美香は裁判所で良い思い出が無いので行かなかったが、拓真は史人の裁判を傍聴して来た。
「窶れてたな、て………大哉の母親と妹を見たが、裁判の傍聴席に座って騒いだから追い出された…………見苦しいもんだったよ。退廷する時に目があったが、誰かも覚えても無さそうだった………当然だよな……愛人の息子なんて、邪魔なだけだし、覚えてたくも無いさ」
東條の裁判も拓真は傍聴希望を出していて、休みが合えば、行くつもりらしい。その時、東條は拓真を見てどう思うのだろうか。
捨てた息子に蹴落とされて、恨みを募らせるのだろうか。
「今日、拓真さんの好物を作りますから、元気出して下さい」
「……………飯食うより、美香食った方が元気になるぞ?今から如何だ?」
「っ!…………夕食後、デザートにして下さい………」
「……………それも食う!」
「え?…………た、拓真さ………お鍋火を掛けっぱなし~!」
夕食前に美香を食べ、腹が減ったら食事し、デザートにまた美香は食べられた。担ぎ込まれた寝室には、アダルトグッズが少しずつ増えていて、拓真も美香の性癖に付き合う事も増えていた。
「うぅ…………今日、腰痛いです……」
「ゴチ…………昨日も可愛かったぞ」
翌朝、艶のある肌の美香と拓真を見れば激しかったのだろう。
「仕事のある平日は、ちょっとだけ控え目にして貰えると…………」
「何だよ、今迄そういう話をして来なかったじゃないか、何故今になって」
「え…………自分で気付いてないんですか?温泉旅行の時は、仕事に関係無かったですから置いといて、最近あのペースで終わらないんですよ?休憩………してくれなくなったじゃないですか…………ずっと……私の中……眠る迄居ますよ……ね」
そう、付き合い始めた頃は、休憩を挟んではセックスして、美香の疲労を回復しながらだったのだが、最近は拓真の欲が優先し過ぎて、美香に休憩を与える事無く、満足する迄終わらない。
独りよがりのセックスになりつつあるのだ。
「……………え……ほ、本当だ……確かに………す、すまん……」
身に覚えあり過ぎて、拓真の表情は固くなった。
「き、気をつける………最近、止められなくなってきた」
「や、休みの前日や休みだったら良いんで………あ、あの………求められて嬉しいですから………鬱が酷かった時、私もありましたし、拓真さんは東條の事で色々溜め込んでますから、仕方ないのでしょうけど………すいません、私の体力不足で………」
美香は心が荒んだ時、性欲に走ってしまった。拓真に縋り、求めて癒やしを欲した。その状況が今の拓真にもある気がしていたのだ。
美香を抱きながら、何処か考え事をしていた拓真。求められて嬉しい反面、心配してしまう。体力さえ続けば幾らでも付き合ってあげたいが、心と身体は一心同体にならない。
「親父の裁判が始まるし、もう落ち着く筈なんだ…………考えたくない事に頭を使うのは、もう充分なのに………」
「1人で戦わなくても良いじゃないですか………私の時、支えてくれたので、今度は私が支えたいです」
「……………ありがとう、美香」
拓真はこの時、1つの決心をしたのだが、それはまだ美香に言う時期では無い、と思い直し、感謝だけ述べた。
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